地下迷宮
話はアラインが迷宮に入った時まで遡る。
アラインとジェイクは、真直ぐな通路を速足で進んでいた。
途中いくつかの魔法の扉を抜け、
そして迷宮の入口にたどり着いた。
ジェイク:「アライン様。
この先が迷宮のようです。」
ジェイクは、アラインの親衛隊長であり、
残った親衛隊の中でも最も腕の立つ人物だ。
アライン:「迷宮の中に入れば、振り切れる可能性は高い。
ジェイク、私から離れないようにな。」
そう言うと、ライトの呪文を2人の持つ剣につかうと、
しっかりとした足取りで迷宮へと侵入した。
ライトの呪文を受けた剣は、松明以上の灯りで辺りを照らした。
ジェイクは不思議に思っていた。
それは少し進んで分かった事だった。
その通路は迷宮と呼ぶにはふさわしくない。
この迷宮は迷路のようなものではなく、格子状に通路が
繋がっているだけなのだ。
ジェイク:「これが、迷宮なのですか?
迷宮というともっと、そう、迷路のような。」
アライン:「普通ならそう思うだろうな。
これもまた立派な迷路なんだ。
確かに通路は格子状に繋がっているのだが、
通路には至る所に魔法罠が仕掛けられている。
そして正しい順路を進まなければ魔法罠が
発動するという仕掛けだ。
これも、立派な迷路だと思わないか?」
ジェイク:「なるほど、確かにそうですね。
ところで、どんな罠が仕掛けられているのですか?」
アライン:「ここの罠は多彩だ。
慈悲深い物もあれば、凶悪極まりの無い物もある。
いずれにせよどれか一つでも発動させれば、
我々は窮地に立たされることは間違いないだろう。」
ジェイク:「罠を止めることは出来ないのですか?」
アライン:「この地下迷宮は、古代の遺物なんだ。
調査は長年にも及んだ。
罠の解除も何度となく試された。
しかしそれを成し遂げることはできなかった。」
ジェイク:「遺跡なのですか。
何のための迷宮なのです?」
アライン:「発見当時、罠を避けるように調査が進められた。
そして分かったことは、地底湖を守るように
迷宮が存在していることだった。」
ジェイク:「地底湖?
そこには、一体何があるんですか?」
アライン:「これは、ごく少数の者しか知らないことだが、
まあいいだろう。
古代人は魔晶石を作っていたんだ。」
ジェイク:「魔晶石を作る?」
アライン:「ゲーノモス山脈から流れ来る地下水は
多くの魔晶石の素を含んでいるらしい。
そして、その水の多くは地底湖に流れ込んでいる。
その水が、魔晶石を成長させているんだ。
まさに魔晶石を生産しているのだよ。
古代人はそれを自ら生み出したのか、
あるいは偶然知ったのかは分からないが、
それを守るために、
この迷宮を造ったと考えられている。」
ジェイク:「そんな秘密が。」
アライン:「この事は、内密に頼むよ。」
ジェイク:「仰せのままに。」
迷路は想像以上に複雑だった。
別の場所に転移されたり、同じ通路を何度も通過しないと
進めない場所もあった。
しかし、アラインは迷うことなく通路を進んで行った。
しばらく進んだ後、通路の中ほどまでくると、
アラインは立ち止まった。
壁にはよく見ないと分からない程の印があった。
アラインは、壁に手を当て、呪文を唱えた。
すると壁が左右に割れ、奥へと続く通路が現れた。
アラインは躊躇する事も無く中へと入った。
ジェイクもそれに続く。
通路の先にあったのは、小さな部屋だった。
ジェイク:「ここは?」
アライン:「この迷宮には脱出時の為に、いくつかの隠し部屋が
配置されている。
ここは、その一つというわけだ。
本当はもっと手前にもいくつかあったのだが、
そこは無視して先へと進んだ。」
ジェイク:「そうでしたか。」
アライン:「この部屋は安全だ。
今日はもう疲れただろう。
横になって休むといい。」
ジェイク:「いえ。
私は護衛ですので。」
アライン:「いや、だめだ。
休みなさい。
これは、命令だ。」
ジェイク:「仰せのままに。」
アラインは、部屋に複数設置されている1つのベッドに
横になると、すぐに深い眠りについた。
一体どれぐらい眠っていたのだろう。
地下では、陽の光が入らない。
今の時間さえも分からないのだ。
アラインは、起き上がるとベッドに座り込んだ。
ジェイクは既に起きており忙しく働いていた。
ジェイク:「お目覚めですか。
この場所は素晴らしい。
奥の部屋には水も食料も十分にあります。
調理場も設置されていて1月でも滞在可能ですよ。」
アライン:「それは、喜ばしい事だ。
どうやら追加の効果は正常に機能したようだな。」
ジェイク:「追加の効果ですか?」
アライン:「あぁ。
緊急脱出魔法には、転移の魔法陣の破壊と
隠し部屋への水や食料等の備品の転移魔法が
発動されるようになっているんだ。」
ジェイク:「なるほど。
それで新鮮な食料が転移されたのですね。」
ジェイクは、一度奥の部屋に行くと、食事を持って現れた。
食事は、サンドイッチだった。
パンにハムが挟まっただけの簡素なものであったが、
アラインは食事が取れる事に感謝した。
ジェイク:「それと、こんなものを見つけたのですが、
もしかして、何かの魔法具でしょうか?」
ジェイクが差し出した物は、鏡だった。
裏には、魔法陣が描かれている。
アラインはそれを受け取ると、鑑定の呪文を唱えた。
アライン:「これは、遠見の鏡だな。」
ジェイク:「遠見の鏡とは何でしょうか?」
アライン:「うん。
遠見の鏡は、対になった魔法陣の近くを
鏡に映す魔法の鏡だ。」
ジェイク:「つまり、他の場所が見えるのですか?」
アライン:「そう言う事になるな。
これは、何処にあった?」
ジェイクは、アラインをその場所に案内した。
それは、人の顔の高さの石壁に開けられた穴であった。
アラインは、指先に光を灯すと、その穴を念入りに調べ始めた。
良く調べると、穴の奥に小さな箱を発見した。
箱を開けた時、アラインは全てを理解した。
箱の中には、1つの指輪が入っていた。
アライン:「なるほど。
そう言う事か。」
ジェイク:「何か分かったのですか?」
アライン:「この鏡は大魔導士キーラが設置したものだ。」
ジェイク:「キーラ様が?」
アライン:「この箱には宮殿を建築する際に、当時の国王が
大魔導士キーラに授けたグロキシニア*1の紋章が
描かれている。
キーラは、この箱に記憶の魔法を施していたようだ。」
記憶の魔法は、様々な情報を魔法具に閉じ込める魔法である。
条件を満たせば、その記憶を知る事ができる。
ジェイク:「そうでしたか。」
アライン:「あぁ、早速鏡を使ってみよう。」
アラインが指輪をはめると、鏡に別の場所が映し出された。
鏡には、ローブを羽織った3人の人間が映っていた。
3人共顔を晒しており、その1人にアラインは見覚えがあった。
アライン:「これは、迷宮の入口か?
それに、この男は見覚えがある。
そうだ、こいつは、王国のミンサだ。」
ジェイク:「何故、王国の人間が?
まさか、王国が裏切ったのか?」
アライン:「いや、それは無いだろう。
もしそうならば、ミンサ以外の魔導士も
動員されるだろう。
それに今のバーランドの国王は、
そこまでの野心は持っていないだろうしな。
可能性があるとすれば、ゲイルだろう。
やつが建国を宣言してから色々と起きすぎる。
それよりも今の問題はミンサだ。」
ジェイク:「どういう事でしょうか?」
アライン:「優秀な魔導士がいる事が問題なのだ。
ミンサは、マスターの称号を持つ優秀な魔導士だ。
魔法の罠を看破して、ここまでたどり着くのは
時間の問題かもしれない。」
ジェイク:「そんな短時間で?
先ほど調査に何年もかかったと。」
アライン:「それは、罠の種類や解除を試したからだ。
回避するだけなら、数日もあれば可能だろう。
現に我々は、数時間でここまで来れたではないか。」
ジェイク:「ならば、すぐにでも逃げなければ。」
アライン:「いや、もう少し引き寄せてからの方が良いだろう。」
ジェイク:「どうしてですか?」
アライン:「この迷宮の仕掛けによるものだ。
正しい通路を進むと通った通路に罠が仕掛けられる。
つまり、この迷路は後戻りが出来ない。
まるで一筆書きのように先に進むしかない。
魔法で探索をするならば、
いずれその事に気付くだろう。
そして、転移の魔法で呪いが発動することを
知るはずだ。」
ジェイク:「なるほど、先に進むしか道が無いという訳ですね。」
アライン:「そう言う事になるな。
我々は、ミンサが迷宮に入った後に行動を開始する。」
ジェイク:「分かりました。」
アライン:「さて、この先だが、
この先は途中で通路が枝分かれしている。
大半は行き止まりで、正解は3本しかない。
ゲーノモス山脈の北側、西側、南側だ。
さて、どの道を進むかだ。」
ジェイク:「南へ抜けて南下し、村や町で救援を求めるのが
よろしいのではないでしょうか?」
アライン:「確かにその通りだが、村や町は敵の手中にあると
考えても良いだろう。
次に北だが、北にはドラゴンの聖域が広がっている。」
ジェイク:「ドラゴンの聖域ですか。」
アライン:「上位ドラゴンならば、会話も成り立つだろう。
しかし、外側にいるのは会話の通じない
ワイバーン等の亜種やレッサードラゴン等だ。」
ジェイク:「それは危険極まりない。
2人だけでは、到底不可能と言ってもいいでしょう。
迂回するのはどうでしょうか?」
アライン:「それもダメだな。
迂回しようにも聖域が入り組んでおり困難だろう。」
ジェイク:「では、西ですか?」
アライン:「もっとも安全と思えるのが西だな。」
ジェイク:「安全と思えるとは?」
アライン:「西には、ドワーフ族の国があるのだ。」
ジェイク:「ドワーフですか。
メルトニアにもドワーフの鍛冶屋がありますが、
国交が無いのですか?」
アライン:「その通り。
王国時代は、確かに国交は有った。
しかし、その後は不可侵条約のみで、
国交は途絶えている。
この件に関しては、私も気にはなっていたのだが、
残念ながら手が回らなかった。」
ジェイク:「当然です。」
アライン:「いや、これは完全に私の不手際だ。
我ながら残念で仕方がない。」
ジェイク:「アライン様。
今は悩むよりも次の手を考えましょう。」
アライン:「あぁ、そうだな。
話を続けよう。
ドワーフ族が友好的に接してくれるか、
あるいは敵対的なのかは現状では分からない。」
ジェイク:「他の道が無い以上、
賭けるしかないのではないでしょうか?」
アライン:「そうだな。
私もそう思う。
どうやら意見が一致したようだな。」
ジェイクはこの時思った。
アラインは最初から西の道を選択していたのだろう。
しかし、それを押し付けず、
選択の余地を自分にも与えてくれたことに、
改めてアラインの気持ちをうれしく思った。
アライン:「よし。
入口の敵の状況を見ながら、明日にでも西に向けて
出発しよう。」
ジェイク:「分かりました。」
*1:グロキシニア
イワタバコ科の常緑または宿根多年草。
花言葉は、「華やかな日々」「艶麗」。




