キーラの弟子
キーラ:「ちょっと、カモフラージュの力を使ってみて。」
パインは、キーラの言う通りカモフラージュの力を使った。
キーラは、パインにローブを脱ぐように言うと、
カモフラージュの力を確認した。
キーラ:「やっぱりね。
インビジブルの魔法と違って衣服は、
消えないのね。
これを使って潜入するなら、
パインは全裸ということになるわね。」
パイン:「えっ、えーーーっ。」
キーラ:「冗談よ。
これは、なんとかしないとね。」
キーラは、少し考えると、何かを思いついたように言った。
キーラ:「ビックス坊やの店へ行ってみましょう。
まだあるといいけど。」
パイン:「ビックス?」
キーラ:「私の弟子だった子よ。」
パイン:「弟子がいたんですか?」
キーラ:「えぇ。
優秀だったんだけど、魔導具を作りたいって言って
私の元を去ったの。
結構変わり者でね。
面白い魔導具をいっぱい作ってたわね。
ずいぶん昔の話ね。
そうそう、私の着ている魅了のドレスも
ビックスの作よ。
効果が上がるからと言って、穴だらけなんだけどね。」
パインはキーラのドレスを思い出し、少し顔を赤くした。
キーラ:「ふーん。
坊やの言ってたことも、まんざら嘘でもないようね。」
パインは心の中で答えた。
パイン:(いや、それは整いすぎた容姿のせいです。)
キーラ:「ビックスは、すごいわよ。
もっとも素晴らしいのは、
基本魔法を生み出した事なんだけど。
その魔法がちょっと変わっているのよね。」
パイン:「どんなふうに変わってるんですか?」
キーラ:「まあ、その話はあった時にね。」
パインとキーラは、公国の繁華街へと向かっていた。
パイン:「あの?」
キーラ:「なに?」
パイン:「メルトニアについて知っておきたいんですが。」
キーラ:「そうね。
メルトニアは、昔は王制だったことは知ってるわね。」
パイン:「はい。」
キーラ:「メルトニアが王制だったころ、反乱が起こったのよ。
彼らは、小規模だったけれど、
魔法を駆使して宮殿を占拠したの。
王国軍と反乱軍の戦いは宮殿を中心に行われたわ。
反乱は直ぐに鎮圧されたけど、
宮殿は大きな被害を受けたの。
そこで、宮殿の再建が望まれたわ。
再建するに当たり、魔法防御の強化が叫ばれた。
そして多くの高名な魔導士が集められたの。
私もその中に入っていたわ。
そして最終的に私の案が採用されたのよ。
宮殿の建築は進んで行ったわ。
2本だった脱出経路は4本に増やされたんだけど、
この内の1本、ゲーノモス山脈に続く経路が
地下迷宮に繋がってしまったの。」
パイン:「地下迷宮ですか。
一体だれが作ったのですか?」
キーラ:「それは、分からないわ。
ただ、様々な魔法罠や残された文字などから、
古代文明であることは、間違いないわね。
地下迷宮の探索は直ぐに行われたわ。
そして、大発見がもたらされた。」
パイン:「大発見?」
キーラ:「発見されたのは、巨大な地底湖だったんだけど、
その湖底に大量の魔晶石が生えてたのよ。
今でこそメルトニアは、魔晶石の産出で有名だけど、
その時代はそうでもなかったのよ。」
パイン:「魔晶石が生えるってどういう意味ですか?」
キーラ:「魔晶石が水に溶けやすいというのは知ってるわね。」
パイン:「はい。」
キーラ:「実は魔晶石の元となる物は、何処にでも存在するの。
水は、もちろん。
空気、土、木、動物もよ。
まあ、動物は排泄行為があるから、
殆んど溜まらないけどね。
水に溶けた魔晶石はある一定以上の濃さになると、
結晶化するのよ。
地底湖はまるで、魔晶石の栽培場みたいだったわ。
メルトニアは、魔晶石のおかげで急速に発展し、
多くの魔導士が移り住み、そして王宮に入り込んだ。
国の実権が国王から魔導士達に移るのに、
それほどの時間は要しなかったわ。
さて、あと少しね。
話はこの辺で終わり。」
ほとんどの店は、時間的に閉店していたが、
裏路地には酒場やいかがわしい店が昼間の様に営業していた。
そして裏路地のさらに奥に一軒の魔導具店を見つけた。
看板には、ビックス魔導具店と書かれていた。
中に入ると真っ先に目に入ったのは、
部屋の奥におかれた巨大な砂時計だった。
部屋の中には数多くのテーブルが置かれ、
その上には、魔法具が整然と並べられていた。
店の中に入ると、1人の老人が2人を出迎えた。
老人は2人を見ると、まくしたてるように話始めた。
老人:「惚れ薬は無いぞ。
規制品じゃからの。
お薦めは、この媚薬じゃ。
:
:」
キーラは、老人の言葉を無視してローブのフードを上げた。
老人は、キーラの顔を見るなり驚きの目で見つめた。
老人:「なっ、なんじゃと。
しっ、師匠。」
キーラは、ニッコリとほほ笑むと言った。
キーラ:「ビックス坊や、久しぶりね。」
ビックス:「・・・。
相変わらずお美しい。」
老人は、キーラの事をぼーっと見つめている。
キーラ:「それで、何か聞きたいことは無いの?」
ビックス:「おぉ、そうじゃった。
師匠が亡くなったと聞き及んだのじゃが?」
キーラは、ビックスに葬儀の件について嘘を交えて話した。
嘘は、死亡理由だ。
公には病死と公表されている。
それに対してキーラは、新たな人生を歩む為とした。
パインは、ビックスが信じるとは思えなかった。
ビックス:「どんな仕事を探しておられるのじゃ?
おぉ、そうじゃ。
接客の仕事など、どうですじゃ。
そうそう、お薦めの店がありますのじゃ。
師匠ならナンバーワン間違いなしですじゃ。
うちの店ならいい服もそろえて、、、。
そうじゃ、最初の客はこのビックスめに。」
ビックスは、そこまで言って、キーラを見つめた。
キーラ:「相変わらずね。
今日来たのは、幾つかあるんだけど、
まずは、貴方の作った基本魔法がどの程度進歩したか
見せてもらえる?」
ビックス:「おぉ、見ていただけますか。
それは、ありがたい。
ところで、そっちの小僧は誰ですじゃ?」
キーラ:「彼は、パイン。
弟子候補よ。」
ビックスは驚き、そして喜んだ。
ビックス:「なっ、なんと。
ついに見つけなすったか。
やっと肩の荷が下りた感じですじゃ。」
キーラ:「無駄話は、これでお終い。
早速、見せて頂戴。
あなたの作った魔法を。」
ビックス:「おぉ、そうじゃった。
しばらくお待ちを。」
ビックスは、そそくさと奥の部屋へと移動していった。
ビックスが戻るとビックスが作った魔法のお披露目が行われた。
:
:
そして、それが終わった後に、
キーラは本来の目的について話始めた。
キーラ:「さて、他にもほしい物があるんだけど。」
ビックス:「なんじゃ?」
キーラ:「インビジブルの魔法を付与した鎧よ。」
ビックス:「まさか、本当に接客業を?
ならば、最初の客にはわしを。」
キーラ:「ばかね。
着るのはパインよ。」
ビックスは、パインを繁々と眺めると呟いた。
ビックス:「そう言う関係じゃったか。」
ビックスの顔は少し寂しそうだった。
ビックス:「それで、発動はどうするんじゃ?
他者のキーワードにするか、
着用者の意志にするのか?」
パイン:「えっ、他者?」
キーラ:「他者も面白そうだけど、
今回は、着用者の意志にして頂戴。」
パイン:「採寸は必要ですか?」
ビックス:「ここを何処だと思ってるんじゃ。
ビックス魔道具店じゃぞ。
伸縮の魔法ぐらい付与しておるわい。」
キーラ:「ごめんなさいね。
パインは、魔導具が買えるほど裕福じゃないのよ。」
ビックス:「そうじゃったか。
大抵の着用する魔導具には伸縮の魔法が
付与されているんじゃよ。
採寸してから作っていたら時間がいくらあっても
足りないじゃろ。」
キーラ:「それで、支払いだけど、
千年草の実*1でよいかしら?」
ビックス:「かまわんですじゃ。
そうじゃな。
5粒もいただければよいのじゃが。」
キーラ:「そう。
なら、これで。」
そう言うと、懐から小さな袋を取り出し、ビックスに渡した。
ビックスが確認すると、
袋の中には数十粒の千年草の実が入っていた。
ビックス:「こんなに?」
キーラ:「新基本魔法の成功の御祝儀も込めてよ。
それに、まだ沢山あるから大丈夫よ*2。」
2人は、商品を受け取り店を出ると、公宮へと向かった。
そして、公宮の入口で立ち尽くすゾルを発見した。
ゾルはこちらに気が付くと、慌てた様子で走り寄ってきた。
ゾル:「どこに行っていたんですか?」
キーラ:「何かあったの?」
ゾル:「どうやら王国軍の進軍が決定したようです。」
キーラ:「えっ、どういうこと?」
ゾル:「詳しい事はわかりません。
すぐに、ドリム大公の元へ。」
キーラ:「わかったわ。
パイン、行くわよ。」
3人はドリムの元へ向かうと、ドリムの私室へと案内された。
部屋の中には、アリスとアンナが居た。
アンナは、エレナの事を伝えに来たのだろう。
ドリムはベッドの上で3人を迎えた。
ドリムは、激務と心労により心身ともに衰弱していた。
アリスによるヒーリングの魔法も心労を改善する効果は無く
顔色は以前にもましてよくなかった。
キーラは、起きようとするドリムを止め、
横になった姿勢のまま話を聞いた。
ドリム:「無礼を許してほしい。」
キーラ:「全く問題ありませんよ。
それで、何が起きたんでしょうか?」
ドリム:「王国軍が進軍を開始することに決まった。
攻略目標は、人魚の涙の砦だ。」
パイン:「一体どうして?」
ドリムは、国王との会話を思い出しながら話始めた。
それは、パインとキーラが宮殿を後にした直後の事だった。
=====
ドリムが部屋に戻ろうとした時、シルカー魔導士長が
慌てた様子で現れた。
シルカー:「大公様、王国からの緊急招集です。」
ドリム:「緊急招集だと。
そうか、どうやら抑えきれないようだな。
分かった。
直ぐ向かおう。」
ドリムとシルカーは、転移の魔法陣で王国へと向かった。
軍議室には、多くの貴族とその配下将軍が集まっていた。
貴族達は席に座り、配下武将はその後ろに立っていた。
ドリムが部屋にはいると、国王の隣の席へと招かれた。
貴族達で席がほぼ埋め尽くされた頃、王国軍の総司令官である
ビッツが国王の指示を受けて話始めた。
それは、メルトニア魔導国が何者かの襲撃を受け、
宮殿を占拠されたことから始まった。
そして同盟国としての対応の話へと移った。
ビッツ:「王国は、同盟国としての行動を求められています。」
貴族:「そうか。
同盟国としては、進軍させるしかないだろう。
同盟としての役割を果たさなければ、
同盟という考え自体が破たんしてしまう。」
貴族:「しかしな。
転受の魔法陣は、すでに機能を停止していると聞いた。
メルトニアへ向かうには、海路しかないんだぞ。
進軍するにしても、人魚の涙の砦を攻略していかなければ
ならない。」
貴族:「そうだ、思い出してほしい。
先の進軍では、1000人の部隊が一方的に攻撃を受けて
撤退を余儀なくされた。」
貴族:「あれは、不思議な遠隔攻撃を受けたのが敗因だ。
対抗策も既に準備している。
次の戦いでは問題にはならん。」
貴族:「しかしな、あの時の戦士はどうするのだ。」
貴族:「最前線に現れ、百人近い兵士を倒したと言われる、
あの戦士か。
確かに脅威ではあるが、人であるからには、
疲れもするし、寝る事もあるだろう。
大軍で押し寄せ、波状攻撃をかければ、
いずれ静まるだろう。」
貴族:「大軍を進軍させるには、大量の戦費がかかる。
もし、それがうまくいかなかった場合はどうなる?
国力は著しく低下し、回復には何年もかかるだろう。」
貴族達の話は、尽きる事を知らなかった。
ドリムは、話の内容にあきれ果てていた。
ドリム:(結論は出ている。
同盟国として援軍を出さない訳にはいかない。
約束を守れない国など、誰が信用するだろうか。
もし援軍を出さなければ、国家間の約束も守れない
国として二度と他国との同盟を結ぶことは
叶わないだろう。
そればかりか危険と判断されて排除対象になる
可能性もある。
援軍は出さなければならないのだ。)
:
ある程度話が進んだところで国王が割って入った。
国王:「時は満ちた。
採決することとする。」
王国の採決は、先端を青(賛成)と赤(反対)に塗られた棒を
小さな穴の開いた採決箱と呼ばれる箱の中に投入する事により
行われる。
採決箱の周りはたれ布で覆われており、どちらを投入したかが
分からないようになっている。
残された棒は、もう一つの破棄箱に入れる事により、
対処している。
そして採決結果の発表がビッツ将軍によって行われた。
ビッツ:「青14、赤2。
採決の結果、進軍することを決定します。」
=====
ドリム:「知っての通り、公国と王国はメルトニア魔導国と
同盟を結んでいる。
そして、メルトニア宮殿が占拠されたことは、
既に各国民が知る所となってしまった。
もう、引くに引けないところまで来てしまったのだ。
我が国も軍を派遣することに決まった。」
キーラ:「それで、進軍開始はいつです?」
ドリム:「半月後だ。
集合場所は、要塞都市メルキス。
我が国から5千。
王国から1万。
メルキスから5千。
総勢2万の軍で砦を攻略する。
既に、マッカス将軍とシルカー魔導士長には、
指示を出している。
君達にも遊撃隊として参加してもらいたい。」
キーラ:「分かりました。
しかし、その前にやらなければ
ならないことがあります。」
ドリム:「なんだ?」
キーラ:「アラインとエレナの救出です。」
ドリム:「そうか、やってくれるか。」
キーラ:「作戦はこうです。」
キーラはドリムの耳元に近づくと小声で話始めた。
ドリム:「分かった。
個別に指示を与えよう。」
キーラ:「ゾル。
このなかで、フライの魔法が使えるのは、
私と貴方だけ。
貴方は、私と共にアラインの救出に向かいます。」
ゾル:「はい。」
キーラ:「パイン。
貴方は、アンナに剣術を習いなさい。
但し、力を使わないように。」
パイン:「はい。」
キーラ:「アンナ。
それでいいかしら?」
アンナ:「はい。
エレナ様の為になるなら。」
キーラは、アンナに近づくと小声で指示を与えた。
アンナ:「わかりました。」
キーラ:「アリス。
引き続きつなぎ役をお願い。
あと、神聖魔法の勉強も忘れないようにね。」
アリス:「はい。」
一通り指示を出し終わった後、ドリムの疲労のこともあり、
解散となった。
*1:千年草の実
マンドラゴラの亜種であり、
魔法薬の材料として利用されるため高値で取引されている。
千年に一度、数十個程度の小さな実をつけると
言われているが、実際には定かではない。
ただ単に、人の一生のうちに実をつけることは無かったため、
そう呼ばれているにすぎない。
その期間が故に、実の為に栽培を考える者はいなかったし、
それを成し遂げられた者も存在しない。
自然界には千年草の群生地が存在しており、
実の収穫は運に大きく左右される事となる。
*2:まだ沢山あるから大丈夫よ
ビックスは、キーラが千年草の栽培実験を行っていたのを
知っていた。
それ故にビックスはこの時に栽培実験が成功したことを
暗に理解した。




