経緯
パインが助けた女性はアンナと名乗った。
アンナは戦士であり、エレナの付き人兼護衛であることを
明かした。
アンナとしては、エレナを救出することが最優先だった。
自分を助けてくれたのがドリム大公の指示で来たことを知ると、
協力することを承諾してくれた。
キーラ:「すまないけど聞きたいことがあるの。
宮殿の防御魔法は発動したの?」
アンナ:「広範囲転移魔法が発動していますので、
防御魔法は解除されています。」
キーラ:「なるほど。
それで、エレナを拉致したのね。」
アンナ:「エレナ様はどうなるのでしょう?」
キーラ:「大丈夫よ。
占拠している者達が防御魔法を発動させたいのなら、
彼女は無事よ。」
アンナ:「本当ですか?」
キーラ:「宮殿の防御魔法は、私が作ったのよ。」
アンナ:「えっ。
あの魔法は、遥か昔に大魔導士キーラ様が
作られたと聞いています。
まさか?」
キーラ:「そう、私がキーラよ。」
アンナは、目の前の女性が大魔導士キーラだと知ると、
キーラに助けを求めた。
キーラは何が起こったのかを話すようにアンナに求めた。
そして、アンナは話始めた。
=====
突然の夜襲で宮殿内は混乱していた。
アンナは、アライン、エレナ、護衛達と共に
謁見の間に移動した。
謁見の間には、宮殿から脱出するための通路が存在している。
この事を知っているのは極わずかであった。
謁見の間の扉が勢いよく開いた。
勢いよく飛び込んできたのは守備兵であった。
守備兵:「守備隊は、ほぼ壊滅状態です。
もう、防ぎきれません。」
アライン:「そうか、仕方が無いな。
残念だが宮殿は放棄する。
皆、私から離れるように。」
エレナ:「いえ、私もお供します。」
アラインはエレナを見て、少し考えると言った。
アライン:「もし、私について来る覚悟のある者は、
私の側によりなさい。」
その場にいた護衛兵6人全てがアラインに近寄った。
そして、緊急脱出魔法*1が発動された。
アラインの側にいた者を除いた宮殿内の人々は侵入者を除いて
ことごとく公国へと飛ばされた。
魔法が発動すると、アライン達は直ぐに脱出路へと向かった。
螺旋階段を降りると、四角い部屋があり、
部屋の四方には先へと繋がる通路があった。
脱出経路は4つ存在していた。
1つ目は、魔導学院へと続く道。
2つ目は、冒険者協会へと続く道。
3つ目は、ゲーノモス山脈方面へと続く道。
4つ目は、精霊の木方面へと続く道。
アラインは、ここで悩んだ。
守備兵をいとも容易く倒す連中だ。
ここに居る6人では直ぐに倒されるだろう。
全員が同じ方向へと逃げるのはリスクが高すぎる。
そして、4つの方向へ別々に逃げることを指示した。
魔導学院と冒険者協会へは、宮殿外へ襲撃を知らせる
目的もあった。
最初エレナは、それを拒否した。
しかし、それが最も安全な方法だと説得され、
しぶしぶそれに同意した。
アラインは、ゲーノモス山脈方面へと向かった。
エリスとアンナは、精霊の木方面へと向かった。
エリスとアンナは、想像以上に長い地下道を進んだ。
途中にある扉を何か所も通ってきた。
幸いなことに追手の気配は感じられなかった。
そして、出口と思われる階段を上った先は、古墳だった。
既に陽は明けており、陽の光が眩しかった。
エリス:「こんなところに繋がっていたのね。」
アンナ:「私も存じ上げませんでした。」
エリス:「そう、アンナも知らなかったのね。
皆も無事逃げ出せたかしら?」
アンナ:「アライン様の向かったゲーノモス山脈への通路は、
地下迷宮に繋がっています。
迷宮内に入りさえすれば、追手に追いつかれることは
限りなく低いと思われます。
魔導学院と冒険者協会への通路は、距離も短く、
既に到着していると思われます。
エレナ様の通ってきた通路は、
途中の扉で足止めされるはずです。
あとは、魔導祭の人混みに紛れ込んでしまえば、
追手を振り切る事ができるでしょう。」
エリス:「わかったわ。
直ぐに精霊の木に向かいましょう。」
その時、アンナは見た。
エリスが驚いた顔をしたのだ。
アンナは、辺りを見回し、その原因となるものを探した。
しかし、原因となるものを見つける事はできなかった。
アンナが再びエリスを見ると驚きの顔は消え、
いつものエリスの顔がそこにあった。
エリスは何か思い出したように言った。
エリス:「あっ、そうだ。」
エリスは、自分の指から1つの指輪を外し、
そしてアンナに手渡した。
エリス:「これを身に着けておいて。
必ずあなたの助けになるわ。
それと、これからはもう『様』はつけないようにね。」
アンナ:「はい、エリス様。」
エリス:「・・・」
2人は精霊の木へと向かった。
そして、やっとのことで精霊の木の側までやってきた。
精霊の木の周りには多くの魔導士が集まっていた。
アンナの思惑通りだった。
人混みに紛れれば我々を見失うはず。
エリス:「アンナ。
あれを見て。
精霊の木よ。」
そう言うと、エリスは人混みをかき分け精霊の木へと向かった。
それを追う様にアンナも続いた。
それは、悲鳴と共に始まった。
「ギャーッ!!!」
アンナの後方から悲鳴のような叫び声が聞こえた。
アンナが悲鳴のする方向を見ると、
まるで蜘蛛の子を散らすように人々が逃げていく。
しかしその行為は秒を稼ぐ程度の時間稼ぎにしかならなかった。
まるで波紋が広がるように、次々に人々が倒れていく。
何者かに襲われていることは間違いなかった。
エリスが危ない。
そう考え、エリスの方を振り向いた時、その光景に驚いた。
エリスが包帯を巻いた男に両腕を掴まれていたのだ。
アンナ:「エリス!!」
アンナが叫んだ時、背中に何かがぶつかった。
アンナ:「!!!」
異様な感覚を背中と腹部に感じた。
強い圧迫感はあったが、不思議と痛みは感じなかった。
視線を下におろすと、自分の腹部から剣先が突き出していた。
アンナは後ろから忍び寄った敵の気配が感じられなかったことに
驚きを隠せなかった。
次の瞬間、内蔵を引きずり出される感覚と共に、
剣先が視線から消えた。
身体中の筋肉から力が抜け、
自分の身体が前のめりに倒れ込むのを感じた。
次第に意識が薄れて行く。
しかし辛うじてまだ意識はあった。
首を曲げてエリスの方を見ると、誰かの声が聞こえる。
「その女は、砦に連れて行け。
私は、宮殿に戻る。」
エリスを担いだ者が離れて行く。
薄れゆく意識の中で右手を伸ばしそれを掴もうとした。
その時、エリスにもらった指輪が淡く光っているのが分かった。
そして、アンナは意識を失った。
=====
キーラ:「そう、彼女は捕まったのね。」
アンナ:「はい。
直ぐに助けに行かなければ。」
キーラ:「まずは、その指輪を見せて頂戴。」
キーラはアンナから指輪を受け取ると繁々と眺めた。
そして、呪文を2回唱えた。
ゾルは、その呪文を知っていた。
1つ目は、アプレイザル。
魔法具の鑑定を行う魔法だ。
魔法具に付与されている魔法を知る事ができる。
ただし、付与された魔法を知っている必要がある。
2つ目は、コネクション。
魔法具に繋がりを持たせたり、
繋がった魔法具の位置を知る魔法だ。
キーラ:「なるほどね。
どうやら彼女は、貴方に全てを
託したようね。
もしかして、彼女は予知者*2なのかしら?」
アンナ:「エリス様は予知者だとは名乗ってはいませんが、
おそらく予知者だと思います。
私も何度かそれで助けられています。」
キーラ:「そう。
やっぱりね。」
アンナ:「ところで、エリス様が私に託したとは
どういう意味でしょうか?」
キーラ:「あぁ。
この指輪に2つの力が込められていたからよ。
1つ目は、冬眠の魔法ね。
別名は延命の魔法よ。
2つ目は、連繋の魔法ね。
これは、複数の指輪を繋げる魔法。
意志疎通は出来ないけれど、
他の指輪の場所が分かる指輪よ。
まあ、方向だけだけどね。
もう一つは、アラインが持っているのでしょうね。」
この時、アンナは指輪を渡されたときの事を思い出した。
エリスは、何かに驚いていた。
エリスは何かを予知したのだろう。
そして指輪を託した。
キーラ:「彼女は、貴方にアラインを
助けてほしいと言っているのよ。」
アンナは、今の言葉が真実ではないかと思った。
パイン:「ところで、エリスは何処に連れて行かれたのでしょう。
砦というのは、ゲイルの砦なのか?」
ゾル:「私もそう思う。
話の流れから推測すると、海賊ゲイルの砦でしょう。」
キーラ:「多分そうね。
しかし、アリスも分かっていると思うけど、
敵は我々より遥かに強いわ。」
アンナは、その言葉に同意するしかなかった。
キーラ:「一旦公国に戻りましょう。」
アンナ:「しかし。」
キーラ:「犯人は、殺さずに連れて行ったのでしょう。」
アンナ:「はい。」
キーラ:「なら、大丈夫。
価値があると判断したのよ。
たぶん、アラインとの交渉材料に
使おうと思っているのでしょうね。」
アンナ:「まさか、宮殿の魔法防御ですか?」
キーラ:「おそらくね。
あの魔法を発動できるのは元首である
アラインのみだしね。
危害は加えられないわ。
それに、アラインはまだ捕まっていないみたいだしね。」
パイン:「何故わかるんですか?」
キーラ:「指輪に付与されたコネクションの魔法を使ったのよ。
指輪は生きている者にしか効果がないのよ。
だからアラインは生きている。
そして、指輪の指し示す場所は地下迷宮の辺り。」
パイン:「ならばすぐ救出に。」
キーラ:「いえ、迂闊に動けないわ。」
パイン:「どうしてですか?」
キーラ:「どうやらアラインは、地下迷宮にいるのよ。」
アンナ:「聞いた事があります。
山脈側からは、入れないって。」
キーラ:「そう。
あの地下迷宮は、宮殿の建造時に偶然に発見されたの。
そして脱出用経路として使用することを決め、
山脈側から侵入できないように対策を施したのよ。
出口で待っていたら、奴らも気が付くはずよ。
かえってアラインを危険に晒してしまう。
迷宮内には多くの隠し部屋が設置されているのよ。
そのどれかに隠れていれば、しばらくは安心よ。
でも、猶予はないわよ。」
パイン:「どういうことです。」
キーラ:「万が一にも、アラインが捕まって、
防御魔法を発動するのを承諾すれば、
2人とも宮殿に連れて行かれてしまう。
そうなれば、救出はさらに困難になるわ。」
パイン:「何故そんなに詳しいのです?」
キーラ:「私も宮殿の建造にも関わったからよ。」
パイン:「えっ、そうなんですか。
なら、防御魔法の解除方法も知ってるんですか?」
キーラ:「えぇ、知ってるわよ。
それには、玉座までたどり着かなければならないの。」
パイン:「やっぱりそうですか。」
キーラ:「まずは、公国に戻って作戦を立てましょう。」
アンナは納得がいかないものの、他に方法が思いつかなかった。
そして、渋々だがキーラの提案を承諾した。
4人は公国へと移動し、ドリムの元へと向かった。
そして、ドリムを交えて、計画を練り始めるのだった。
ドリム:「大軍で攻めれば、エリス様の身に危険にさらす。
やはり、ここは潜入奪還作戦でいくしかないのでは?」
キーラ:「パインの力から想像すると、
夜目の利く者がいてもおかしくないわ。
発見された場合どう対処しますか?」
パイン:「発見されない方法を考えるでは?」
キーラ:「ダメね。
失敗した場合の対処を決めておかなければ
作戦とは呼べないわよ。
そして失敗した場合、最小限のリスクになるように
しなければならない。」
全員:「んーーーっ。」
キーラ:「この場で考えていても時間の無駄になるわ。
各自作戦を考えるという事で、
一旦休憩にしましょう。」
ドリム:「そうだな。
明日の早朝から続きを行おう。」
全員が部屋へと戻る途中、キーラがパインを呼び止めた。
キーラ:「パイン、ちょっと付き合ってちょうだい。」
パイン:「えっ、あっ、はい。」
*1:緊急脱出魔法
連動魔法陣内で、術者を除いた者を転移する魔法である。
恩恵を受ける為には専用の魔導具を持たなければならない。
術者が除かれるのはその力を増幅するためである。
またこの魔法には様々な追加効果を付与することが多い。
元々は、大型の船に付与された魔法であり、
船長は船員を守るために、この魔法を行使した。
*2:予知者
予言者と呼ばれる者は数多く存在するが、
予言と呼ばれるものの多くが予言ではなく予測である。
しかし、中には予測ではなく予知としか思えない事もある。
それは第六感とも呼ばれる。
第六感を感じる者は多く存在するが、
実際に体現できる事は少ない。
その第六感の体現率が極めて高い者の事を予知者と呼ぶ。
そして、その予知を多くの者に知らしめる者を予言者とよぶ。




