精霊の木
精霊の木が、そう呼ばれるようになったのは、
その容姿が原因である。
樹木のコブが人型をしていたのだ。
多くの人々が木から精霊が生まれてくるような印象を受けた。
そしていつしか人々は、その木の事を『精霊の木』と
呼ぶようになった。
そして、魔導祭と結び付け、祝うようになったのだった。
パイン、キーラ、ゾルの3人は、身支度を済ませると
ドリムの元へと向かった。
ドリムの部屋へ行くと、アリスがヒーリングの呪文を
唱えていた。
ドリムは一睡もしていないのだろう。
かなりの疲労が溜まっているようだった。
アリスの治療が終わると、少しだが顔色が良くなっていた。
ドリム:「ありがとう。」
ドリムはアリスに礼を言うと、こちらに近づいてきた。
ドリム:「朝早くから呼び出してすまない。
色々と事が起きて混乱しているのだ。
2つほど連絡がある。
良い話と悪い話だ。
どちらから聞きたいかね?」
キーラ:「そうですね。
良い話から聞かせてほしいわね。」
ドリム:「そうか。
メルキスを奪還した。」
キーラ:「流石はラング将軍ね。
それで、どうやって?」
ドリム:「実は、彼等は自ら撤退したようなんだ。」
キーラ:「撤退ですか。」
ドリム:「第八区画の詰め所に白い玉と
メッセージがあったそうだ。」
キーラ:「どんな?」
ドリム:「これだ。」
それは手書きのメモだった。
=====
我々は拠点を手に入れた。
その祝いの品として玉を贈ろう。
=====
キーラ:「なるほどね。
それで、悪い話というのは?」
ドリム:「留置していた3人の襲撃者が脱走した。」
キーラ:「魔法の糸を解除したわけではないですよね?」
ドリム:「あぁ。
どうやら内通者がいたようだ。
君達も会ったことがある。
ミンサだ。」
キーラ:「なるほどね。
私達はしてやられたようね。
彼等の本来の目的は、メルトニア宮殿の奪取であって
メルキスは単なる陽動だったってことね。
ミンサ*1がいつから内通者になったのかは、
判らないけれど、私が襲われたのも
ミンサの手引きでしょうね。
ところで、ミンサはどういう仕事をしていたの?」
ドリム:「彼は、冒険者協会の王都の理事をやっていた。」
キーラ:「だとすると、
色んな情報を仕入れていたんでしょうね。」
ドリム:「冒険者協会の情報は筒抜けだったと思ったほうが
いいかもしれない。」
キーラ:「なるほどね。
さて、問題はこれからどうするかね。」
ドリム:「それのことなんだが、
精霊の木に向かった者と連絡が取れないのだ。
最悪の事態になっているかもしれない。」
キーラ:「そうですか。
メルキスの白い玉は、今どこに?」
ドリム:「王国に回収された。」
キーラ:「では、王国経由で精霊の木へ向かいましょう。」
ドリム:「そうか、行ってくれるか。
アラインと妹のこと、よろしく頼む。」
パイン、キーラ、ゾルの3人は、王国で白い玉を触った後に
精霊の木へと向かった。
新しい力は、エクスプロア(探索)であった。
この力はより広い範囲で玉の存在を
知る事ができるというものである。
キーラの話では、わざわざ敵に提供する力では無い。
余程自身があるのか、あるいは何かしらの罠かもしれない
ということであった。
3人が転移した場所は、精霊の木から1Km程離れた場所にある
ログハウス*2だった。
部屋の中には、転送の魔法陣とともに、2段ベッドが2つ、
4人掛けのテーブルと椅子、そして簡易的な生活設備があった。
キーラ:「さて、どうしようかしら。」
パイン:「なにか問題でも?」
キーラ:「今は、魔導祭の最中。
精霊の木から半径1Kmは、魔法や魔導具が
使えないのよ。」
パイン:「それじゃあ、もし襲われたらまずいですね。」
キーラ:「私とゾルは、これ以上精霊の木に近づくと、
ただの足手まといにしかならないわ。
そこで、パイン。
貴方一人で見てきてほしいのよ。
敵に発見されるまでは、出来る限り能力は使わないで。
もし発見されたら、戦闘は出来る限り避けて、
ここまで逃げてきなさい。
あとは、我々が何とかするわ。」
パイン:「わかりました。
やってみます。」
パインは、1人でログハウスを出た。
見渡す限りの草原だった。
草は腰辺りまで伸びており、身を隠すには適していた。
南を見ると草原の中に1本だけ、
大きな木が生えているのが分かった。
パイン:(あれが精霊の木か。
しゃがんで行けば見つからずに行けそうだ。)
パインは中腰になって進んだ。
するとすぐに声が聞こえた。
グレイグ:(見つけた。)
その途端、目の前に十字の赤い線が現れた。
パイン:(まさか、この十字の方向に玉があるのか?)
グレイグ:(そうだ。
その方向に進めばよい。
これは、エクスプロアの力だ。)
しばらく進んで行ったとき、
草の中に転がる何かを発見して驚いた。
茶色のローブを羽織った人だった。
魔導士だろう。
全く動かないその人に近づく。
背中には肩から斜めに切られたあとがあった。
いわゆる袈裟斬りである。
既に血は乾ききっていた。
パインは恐る恐る、露出している手を触った。
冷たかった。
パインはしばらく黙祷すると、辺りを調べて回った。
そして同様の遺体を何体か発見した。
パインは懐から魔法の地図*3とマーカーピン*4を取り出すと、
遺体の側にそれを突き刺した。
しばらく黙祷すると先へと進んだ。
パインは遺体を発見するたびにマーカーピンを刺していった。
精霊の木の近くまで進むと、茂みの終わりに気が付いた。
パインは、草の間から精霊の木を覗き込んだ。
そして、その光景に驚いた。
精霊の木の周りには数多くの魔導士と思われる人々が
倒れていたのだ。
パインは冒険者であるが故、何度も死に遭遇してきた。
しかし、これほどの数は初めてであった。
パインは、しばし呆然とそれを眺めていた。
そして心が落ち着くと辺りを見回し動く者の気配を探った。
それが居ない事を確認すると立ち上がり、
生存者がいないか見て回った。
しかし、残念ながら生きている者はいなかった。
パイン:(惨い。
止めなければ。
同じ力を持つ自分しかこの状況を止める事はできない。
早く力を手に入れるんだ。
自分が止めなければ。)
パインはしばらく立ち止まっていた。
しかし、何かを決心すると祭壇に目を移した。
精霊の木の前には祭壇が設置され、
供物台と思しき場所に白い玉が置かれていた。
パインは祭壇近づくと、白い玉にそっと手を置いた。
グレイグ:(力を手に入れた。
カモフラージュの力だ。
短時間だが誰からも
視認されることは無くなるだろう。)
パイン:(くそっ。
何故、力を与える能力が手に入らないんだ。)
そう考えた時、パインは冷たい何かに足首を掴まれた。
同時に『同じ』という感覚を得た。
咄嗟に足元を見る。
そこには、血だらけのローブを着た者が倒れていた。
その者の手は、明らかにパインの足首を掴んでいた。
パイン:「おい、大丈夫か?」
「・・・」
その者は何も答えなかった。
パイン:「まずいな。」
そう言いながらパインは剣を取り出し、ローブを切り裂いた。
ローブの下は軽量化皮鎧*5だった。
鎧の隙間から見える肌の色は青白かった。
剣で突き刺されたのであろう患部に手を当て、
ドクターの力を発動する。
パイン:(冷たい。)
明らかに体温が下がっている。
パインは医学的知識を持ち合わせていなかった。
しかし、数多くの人の生き死にを見て来た。
体温が下がるのは危険な証拠でもあった。
パインは両手を患部に当てると祈った。
パイン:(死ぬな。
生きてくれ。)
パインにはそう祈るしかなかった。
どれだけの時間がたっただろうか。
肌の色に赤みがさし、体温も上昇してきている。
パイン:(助かるかもしれない。)
パインは少し安心した。
そう思った時、ある事に気づき驚いた。
皮鎧の胸部の膨らみだった。
パイン:(女性!!)
そう、治療を受けている者は女性だった。
パインは一瞬手を引っ込めそうになったが、
思いとどまった。
そして、何も考えるなと念じながら治療を続けた。
陽が傾き始めた頃、彼女の身体は安定していた。
傷も癒え、呼吸も通常に戻っていた。
パイン:(もう、大丈夫だ。
しばらくすれば意識も回復するだろう。)
何故かそう思えた。
パインは治療をやめて立ち上がると、彼女を抱きかかえ、
キーラとゾルの元へと戻った。
パインがログハウスの扉を開けると、
キーラとゾルが立っていた。
キーラはパインの顔をみるなり、
状況が最悪であることを察した。
キーラ:「おかえり。
どうやら、良くない状況のようね。」
パイン:「彼女以外、
生き残りを見つける事は出来ませんでした。」
キーラ:「そう。
まずは、彼女をベッドに。
私は、ドリム大公に応援を要請するわ。
遺体を放置しておくわけにもいかないしね。」
パイン:「お願いします。」
パインは彼女をベッドに横たえると、
キーラの元へと移動し、椅子に座った。
キーラとゾルもテーブルに着いた。
キーラ:「ところで彼女は大丈夫なの?」
パイン:「はい。
一通りの治療は行いました。
あとは意識が戻るのを待つだけです。」
キーラ:「わかったわ。
ところで、アラインとエレナは見つけた?」
パイン:「いえ。
判りませんでした。」
その時、突然大声がした。
「エレナ様!!」
声の主は、パインが助けた女性だった。
*1:ミンサ
ミンサ⇒サンミ⇒酸味⇒すっぱい⇒スパイ
気が付いた人は、すごいです。
*2:ログハウス
ログ(丸太)または角材を構造材として水平方向に
井桁のように重ねて積み上げ、交差部にはノッチを使って
組み上げた家屋・建築物。(wikipedia)
*3:魔法の地図
魔法具の一つである。
発動位置を中心とした上空から見た地図を生成する。
地図上には現在の地図の位置が表示される。
*4:マーカーピン
魔法の地図とセットで販売されている。
マーカーピンを地面に差しすと、
地図上に設置位置が記録される。
*5:軽量化皮鎧
厚い皮をワックスで煮込んで硬化処理したもので、
より軽量化するために、致命傷となる部位のみを残し、
その他の部分をくり抜くことにより実現している。




