メルトニア魔導国
メルトニア魔導国
メルトニア魔導国は、バーランド王国の東にそびえ立つ
ゲーノモス山脈より先に存在する国家であり、
魔晶石の産出地であるとともに魔導具の生産地でもある。
魔晶石は、魔力を蓄積する力をもっている為、
魔導具(武器、防具、アクセサリー)等に使用される。
魔晶石の産地であるため、多くの魔導士が住んでおり、
その多くがメルトニアに所属している。
魔導士の多さから小さい国でありながら
最強国家とまで呼ばれている。
メルトニアは元々は王国であったが、魔導士達の増加に伴って
君主制から共和制へと変化して行った。
国家元首は国に貢献した16人の魔導士の中から
国民投票で選ばれる。
現在元首になっているアラインは、
若いながらマスター称号を持つ天才と呼ばれる人物である。
公国へと戻った3人は驚いた。
転受の魔法陣の部屋から続く通路は、
多くの兵士で溢れかえっていた。
ある者は横になり、ある者はしゃがみ込んでいたが、
全ての兵士は傷ついていた。
パイン:「一体何が、奇襲されたのか?」
ゾル:「いや、彼等は公国の兵士ではない。」
パイン:「えっ?」
ゾル:「彼等の装備はメルトニア魔導国のものだ。」
パイン:「メルトニア?」
キーラ:「メルトニアというのは、
バートランド王国の東にあるゲーノモス山脈の
反対側にある魔導国家よ。
山脈があるおかげで船で回り込まないと行けないのよ。
でも、メルトニアの兵士が何故ここに?」
ゾル:「メルトニア宮殿には、宮殿内の兵士を脱出させるための
緊急脱出魔法があるんです。
きっとそれを発動したのだろう。」
パイン:「でも、王国ではなく、何故公国に?」
ゾル:「現メルトニア魔導国元首の奥方様は、
ドリム大公の妹君なんです。」
キーラ:「なるほど。
それは知らなかったわ。
聞きたいことは山ほどあるわ。
ドリム大公の元へ急ぎましょう。」
パインとキーラは、ゾルの案内でドリム大公の元へと向かった。
部屋に入るとドリム大公は頭を抱え座り込んでいた。
3人が部屋に入るとドリム大公はゆっくりと立ち上がり言った。
ドリム:「やっと戻ったか。
大変なことになってしまった。」
キーラ:「一体何が起こったのですか?」
ドリム:「バーランド宮殿が占拠された。」
キーラ:「なんですって!!
まずいわね。
魔導士達は何をしていたんですか?」
ドリム:「知らないのは無理はない。
今年から10年に一度の魔導祭*1の日が変わった。
共通歴から精霊歴*2に戻した為に日程がずれたんだ。
殆どの魔導士達は、精霊の木の元にいるだろう。」
キーラ:「そんな。
宮殿を拠点にされたら手の施しようがないわ。」
パイン:「えっ。」
キーラ:「宮殿は魔法に対する絶対防御があるのよ。
もし、それが発動されていたとしたら、
宮殿内では魔法を発動することができないの。」
パイン:「それじゃあ。
魔法は使えないということですか?」
キーラ:「そうね。
物理攻撃で挑むしかないわね。
助けに行くとしても、完全に戦力不足だわ。」
ドリム:「どうしたらよいのだ?」
キーラ:「まず、精霊の木にいる魔導士達と連絡をとって、
公国か王国に集めてください。
そして、作戦を考えましょう。」
ドリム:「そっ、そうだな。
ところで、アラインと妹は何とかならないか?」
キーラ:「宮殿以外が無事なら、居場所さえ分れば
何とかなるかもしれません。」
ドリム:「そうか、ならば冒険者協会経由で情報を得てみよう。」
キーラ:「そうですね。
ところで、駐屯軍はメルキスに入れましたか?」
ドリム:「あぁ、無事に到着した。
しかし今はまだ膠着状態だ。」
キーラ:「私の葬儀は?」
ドリム:「滞っている。
ゆるしてくれ。
この状況では如何ともしがたい。」
キーラ:「止むを得ないですね。
さて、私達は、これから負傷者の治療と
情報収集に専念します。」
ドリム:「分かった。
頼んだぞ。」
3人は負傷者の傷を治療して回った。
負傷兵:「司祭様、ありがとうございました。
痛みが取れました。」
パイン:「いえいえ。
お大事に。」
傷を癒された者達はパインの事を司祭だと思ったようだ。
パインは司祭と呼ばれるたびに照れた顔をしていた。
パインは少し先で献身的に治療を行う女性の事が気になった。
そしてその女性に近づいた。
パインはその女性がアリスだと分かると驚いた。
パイン:「アリス!」
その声にアリスが振り向く。
アリス:「パイン。」
パイン:「あっ、あの。」
アリス:「話は後。
まずは、手伝って。」
パイン:「あっ、はい。」
キーラは、ニヤニヤ笑いながら2人を見つめる。
ゾルはキーラを見て、あきれ果てていた。
キーラは兵士達と話す事によって、情報を得る事ができた。
=====
昨日の深夜、ほとんどの者達が深い眠りについている頃。
それは始まった。
警備の為の巡回兵が次々と倒されて行った。
それに最初に気が付いたのは警備隊長だった。
巡回兵の定時連絡がなかったのだ。
警備隊長は異常と判断して招集をかけた。
通常時であれば、魔導士達も参加する。
しかし、その日は精霊祭だった。
この日から10日間、魔導士達は宮殿にいない。
唯一の魔導士は、元首のアラインだけだった。
数百人にもおよぶ兵士達が招集に応じて宮殿へと集まった。
兵士達は賊の探索を始めた。
すぐに賊は発見されたが、兵士達はまるで歯が立たなかった。
元首のアラインがこの事を知った時には、兵士の大半が
戦闘不能状態に陥っていた。
アラインは決断した。
兵士を外に出すと広範囲転移魔法*3を発動した。
=====
一通りの治療が終わった後、4人は部屋でくつろいでいた。
キーラ:「パイン、紹介してもらえるかな。」
パイン:「あっ、そうでした。
彼女はアリス。
バジール村出身で神聖魔導士見習いです。」
アリス:「アリスです。
王国魔導学院の学生です。
神聖魔導士を目指しています。」
パイン:「彼女がキ、いや、マスターラキ。
国王直属部隊の魔導士長だ。」
アリス:「えっ、そんなえらい方とは知らずに失礼しました。」
ラキ:「私も気にしないから、気にしなくてもいいわよ。」
パイン:「そして彼がゾル。
公国の、えっと。」
パインはゾルの役職を知らなかったことに気が付いた。
ゾル:「大公直属の魔導士です。
以後お見知りおきを。」
そう言って、公国流の礼法に則ったお辞儀をした。
突然の事にアリスは驚いたが、
バジール村の司祭様に教わった礼法で返した。
ゾル:「完璧ですね。
その礼法を誰から?」
アリス:「ペリエル司祭様からです。」
ゾル:「そうですか、ペリエル司祭様でしたか。
今は巡礼*4中でしたね。」
アリス:「えっ。
べリエル司祭様は他の村に移られたのでは?」
ゾル:「君は魔導学院の学生だったね。」
アリス:「はい。」
ゾル:「進路決定の時に知る事になるんだが、
他の村に移動というのは、巡礼のことなんだ。」
アリス:「そうだったんですか。」
ラキ:「アリス。
この状況を見て、何か聞きたいことは無いの?」
アリス:「あぁ、その事ですか。
何があったのかとか、そう言う事ですよね。
気にはなります。
でも、傷を癒すのが私の仕事なので、
それ以外の事は、考えないようにしているんです。
心が乱れると治療に差し障りますので。」
ラキ:(この子の精神は強いわ。
立派な司祭になりそうね。)
ラキ:「パイン。
アリスに全て話してもいいかしら?」
パインは、一瞬ためらいながらも答えた。
パイン:「はい。」
ラキは、アリスに真実を話した。
アリスは話の随所で驚きの表情を示したものの、
最後まで黙って聞いていた。
ラキ:「どう?
信じられるかしら?」
アリス:「えぇ。
信じます。」
アリスは、パインの人間離れした回復力、
魔導士でありながらオーガを素手で追い返した事を
思い出していた。
ラキ:「もう一つ話さなければならないことがあるの。」
アリス:「もう、驚きませんよ。」
ラキ:「私はラキではないの。
魔導士キーラなのよ。」
アリス:「えっ。
えーーーっ。
でも、大魔導士キーラ様は亡くなったと。
いま、葬儀の準備をやってるじゃないですか?
まっ、まさか、幽霊?」
キーラ:「私は生きているわ。
葬儀は敵を欺く策略よ。」
アリス:「あっ、そうだったんですか。」
キーラ:「これを知っているのは、国王、大公、
そしてここにいる者だけなの。
親族、友人にも、決して漏らさないようにね。」
アリス:「えっ、どうしよう。
そんな大事なこと。」
キーラ:「アリスなら、大丈夫よ。
考えないようにすればいいだけよ。」
アリス:「あっ、そうですね。」
キーラは、何回も頷きながら笑顔を見せている。
アリス:「私はどうすればいいですか?」
キーラ:「そうね。
今は特にないわ。
とりあえず、ドリム大公を紹介するので、
連絡係になって頂戴。
連絡用に指輪を渡しておくわ。」
キーラはローブの中から黄色い宝石のついた指輪を
4つ取り出して3人に渡した。
キーラ:「これは、離れていても会話ができる指輪よ。
ただし、1日1回だし、長時間話す事はできないわ。
なので、緊急連絡用ね。」
アリス:「分かりました。
連絡があったら、大公様に知らせれば良いんですね?」
キーラ:「その通りよ。」
アリスをドリムに引き合わせた後、4人は眠りについた。
次の日の早朝、パインは扉をドンドンと叩く音で目をさました。
窓を見ると、まだ外は暗かった。
眠い目を擦りながら扉を開けると、
そこに立っていたのはゾルだった。
ゾル:「すぐに大公の元に来てくれ。」
*1:魔導祭
初めて人間が精霊と契約した日であり、
その日から人間は魔法を使えるようになった。
それを祝うための日。
そのため、最終日まで魔法の使用が禁止される。
つまり、全体の10日の内9日間は魔法が使用できない。
*2:精霊歴
人間は1年を一つの単位として共通歴を作った。
精霊は人間とは違った時間を生きている。
そのため精霊を呼び出して日を合わせる行為が行われている。
およそ人間の10日が精霊の1日といわれている。
*3:広範囲転移魔法
転移魔法の上位魔法であり、転移の効果範囲を極限まで広げた
魔法であるり、効果範囲が術者を中心としてドーナツ状に
展開される。
つまり術者は転移されない。
その範囲はメルトニア宮殿を内包するほどである。
*4:巡礼
神聖魔導士の司祭は60歳を超えると巡礼の旅に
出なければならなかった。
それは神聖魔導士の義務でもあり務めでもあった。
巡礼地は大陸の各所にあり、
それを徒歩で回らなければならない。
全て回るには数年の歳月を必要とすると言われている。
巡礼から戻った司祭は、2つの選択を迫られる。
軍の医療部隊に所属するか、あるいは予備役となるかである。




