石板
3人は淡く光る壁を見ていた。
キーラ:「どうやら、始まったようね。」
壁は急激に光を帯び、そして消え失せた。
その時、パインは声を聞いた。
グレイグ:(見つけた。
新たなる玉だ。)
消え失せた壁の先には短い通路があった。
短い通路を進むと、その先に半球状の部屋があった。
部屋の中心には台座があり、何かが安置されていた。
3人は台座に近づいた。
台座の上には、2枚の石板と白い玉があった。
キーラ:「これが石板よ。」
パインとゾルは石板を見た。
石板には文字らしき模様が彫り込まれていた。
しかし、それを読むことは出来なかった。
ゾル:「何と書かれているんですか?」
キーラ:「2枚の内、1枚は全く解らないわ。
解読にはまだ時間が必要ね。
1枚は、古代文字に似ているの。
正確には解らないけど、
分かっている部分だけでも読み上げるわね。」
=====
グレイグ。
人、神、生む。
神、僕、力、与える。
僕、肉体、限界、超える。
終焉、始まる。
白、黒、分ける。
僕、従う。
神、戦い、始まる。
世界、戦い、始まる。
白、黒、消える。
世界、終わる。
神、分ける、天、送る。
=====
パインは呟いた。
パイン:「グレイグ。」
キーラ:「たぶん、人が造りし神の名前ね。
これを記録としてみるならば、
人は神を造り、
僕は肉体の限界を超えた力を得た。
しかし、神は白黒2つに分かれ争いを始めた。
僕は神に従い世界を巻き込む戦いに変わった。
2つの神は消え失せ、同時に文明も終わった。
神は複数に分けられ天へと送られた。
というところかしらね。」
キーラはパインを見て言った。
キーラ:「ところで、パインのグレイグは白かしら?」
パインには、何故かグレイグが白であることが判った。
パイン:「たぶん。」
キーラ:「そう。
もし、これが予言ならば、戦いはさけられないわね。」
パイン:「どうして。
何故、何のために戦うんですか?」
キーラ:「戦う理由は私には解らないわ。
人間ならば、戦いを始める理由の多くは、
何かを手に入れる為か何かを守る為かしらね。
特に守る側は、巻き込まれる形で戦いに突入するわ。」
パイン:「そんな。」
キーラ:「さて、今までの出来事で何か気になる事は無い?」
ゾル:「急に言われてもすぐには。」
キーラ:「まあ、そうよね。
パイン。
今までで神の啓示を受けた者を何人知ってる?」
パイン:「私。ノリス。監視塔での襲撃者。
そして、野営地での襲撃者3人。
あと、包帯を巻いた者。
監視塔と野営地の襲撃者が同じかもしれないので、
全部で、5~7人です。」
キーラ:「そうね。
多すぎると思わない?」
パイン:「確かにそうですね。
力を得るには、白い玉に触れなければならない。
そんなに多くの者が、白い玉に触れたとは思えません。
それに、白い玉を回収していないことも気になります。」
キーラ:「野営地の襲撃者は言っていたわ。
仲間を探していると。
そして、行方不明になっている人々。
どうやって仲間と判断するのでしょうね。」
パインには、思い当たる節があった。
それは、他人に触れた時、『同じ』という感覚があったのだ。
それが、僕にできると言う意味であるならば、
正に仲間とも言えるのではないだろうか。
パイン:「もしかして、接触して判断しているのでは?」
キーラ:「なんでそう思ったの?」
パイン:「なんとなく同じと感じるんです。」
キーラ:「なるほどね。
どうやら、パインには分かるようね。
ところで同じと感じた人は居た?」
パイン:「はい。」
キーラ:「それは、誰?」
パイン:「えっ。
いや、それは。」
キーラ:「言いたくない気持ちは分かるわ。
巻き込みたくないのよね。
でも、パインのことが敵に知られれば、
嫌でも巻き込まれることになるのよ。
力を与えられるならば、与えてしまわないと、
自分の身を守る事すらできないのよ。
そして悲惨な運命をたどる事になるわよ。」
パイン:「しかし、そうならないかもしれない。」
キーラ:「それって、そうなるかもしれないという事の
裏返しよね。
安全とはね。
常に最悪の事態を想定して検討するものなのよ。
その時になって後悔しないためにね。」
パインはしばらく黙っていたが、
意を決したかのように言った。
パイン:「わかりました。」
キーラ:「それで、誰なの?」
パイン:「同じと感じたのは2人います。
1人目はアリスです。」
キーラ:「そうなの。
辛いわね。
それで、2人目は?」
パインは、ゾルをちらっと見ると言った。
パイン:「ゾルです。」
ゾルは驚いた。
ゾル:「えっ。
本当なのか?」
パイン:「あぁ。」
ゾル:「よっしゃーーー!!!」
パイン:「えっ。」
パインはゾルの反応に驚いた。
ゾルは、まくしたてるように言った。
ゾル:「まっ、まさか選ばれるとは思ってもいませんでした。
大魔導士キーラ、そして神に選ばれし者パイン。
お二人に同行していながら、何もできない自分が
歯がゆくてたまりませんでした。
これで自分も役に立てると思うと感無量です。」
キーラ:「そんなふうに思っていたの。
何故私が同行させたか、考えなかったのね。
それは貴方に可能性を感じたからなのよ。
もっと自信を持ちなさい。」
ゾルは、キーラの言葉に満面の笑みを浮かべて答えた。
ゾル:「はい。」
キーラ:「さて、最後に私自身も確認しないとね。」
そう言うとパインに右手を差し出した。
パインは、キーラの手を取った。
そして言った。
パイン:「同じではありません。」
キーラは残念そうな顔をした。
キーラ:「そう。
仲間にできる人、つまり僕にできる人は、
誰でもよいという訳ではないようね。
ということは、私は知恵と魔法でサポートするしか
なさそうね。
ここからが最も重要なこと。
これは、私の想像だけど。
僕に力を与える能力をパインも持てる。
僕にできる人を選び出し、
そして力を与えることができるのよ。
ノリスはそれをやらなかったのか、
それとも出来なかったのかは分からないから、
パインが今できるとは言わないわ。
もし、その力を得る事ができるのならば、、
我々にも勝機があるということになるわ。」
パイン:「しかし、どうやって。」
キーラ:「あなたは、白い玉を探していたのよね。」
パイン:「はい。」
キーラ:「きっと、そこに答えがあるのよ。」
パイン:「白い玉を探せば、答えが得られると?」
キーラ:「私はそう思うわ。」
パイン:「ひとつ気になる事が。」
キーラ:「なにかしら?」
パイン:「何故彼等は白い玉を回収しないのでしょう?」
キーラ:「そのことね。
もし、全ての玉を1か所に集めた場合、
何が起こると思う。」
パイン:「力を与えられる者がもっと増えると思います。
それに敵に力を与えられなくなります。」
キーラ:「自分と同等の力を持つ者が自分に従うと言い切れる?」
パイン:「うーん。
言い切れません。」
キーラ:「それに1か所に集めた場合、
1度の失敗で同等の力を得る者が現れることもあるわ。
玉を分散しておけば、力を得るには時間がかかるし、
場合によっては力を集めている者を知る事も
不可能ではないのよ。」
パイン:「では、何故隠さないのですか?」
キーラ:「あなたはどうやって玉を見つけているの?」
パイン:「近づくと分かるんです。」
キーラ:「でしょう。
たとえ隠したとしても、隠す労力に見合う効果を
得る事はできないのよ。」
パイン:「なるほど。」
キーラ:「まあいいわ。
先ずはこの玉に触れてみましょう。」
パインは恐る恐る手を伸ばすと玉に触れた。
グレイグ:(ドクターの力を手に入れた。
これは、他者を治療する力だ。)
キーラ:「どう?
何か変わった?」
パイン:「えぇ。
ドクターという力を手に入れたらしいです。」
キーラ:「ドクター?
どんな力なのかしら?」
パイン:「なんでも、他者を治療する力だそうです。」
キーラ:「へぇーっ。
なるほどね。
だとすると、黒の神は他者を治療できないという事ね。」
パイン:「えっ。
どうしてそうなるんですか?」
キーラ:「私の知る限り、同じ力を宿した玉は存在していない。
つまり、黒の神がここへ来ない限り手に入れられない。
私に知られずに、
この場所へ侵入することは不可能なのよ。
それに襲撃者は言っていたわ。
『石板か。
まだ存在しているとはな。』ってね。
つまり、石板の在処を知らないってことね。」
2人の話を聞いていたゾルは、改めてキーラの洞察力に驚いた。
自分なら聞き流していただろう。
言葉の一つ一つがキーラの情報源なのだ。
ゾルはキーラが味方であることの安心感と同時に
恐ろしさも感じていた。
キーラ:「さて、長居は無用ね。
一度公国へ戻りましょう。
パイン。
久しぶりにアリスに会えるわよ。」
パインはその言葉に驚きと戸惑いの表情を見せた。
パイン:「えっ、どうして?」
キーラ:「図星のようね。
公国で能力を知っている者を聞いた時に、
真っ先にアリスの名を出したでしょ。
この場合、もっとも近しい者から名前をあげるのよ。
そして名前から異性と判断し、
そして今鎌をかけたのよ。」
パイン:「鎌をかけたんですか。」
キーラ:「悪かったわ。
でも勉強の為よ。
情報は一度に得るものではないわ。
常に会話の中で、得られる情報を吟味しておくのよ。
意味の無い情報というのは存在しないのよ。
例えば単なる雑談にしても、
何故その話題を出したのか?
その話題に興味があるのだろうか?
そう考えるのよ。
人は興味の無い事や気にならない事を話題にしないわ。
そして、別の会話の中でさりげなく聞き出す。
よく覚えておきなさい。
情報は、こんなやり取りの中からでも得られるのよ。」
パインは思った。
パイン:(自分には無理だな。)
キーラ:「いま、自分には無理だと思ったでしょ。
無理じゃなわよ。
常に意識していれば、いつか普通になるわよ。」
パイン:「そんなものなんですかね。」
キーラ:「そんなものよ。
さて、公国へ戻りましょう。」
公国へと戻った3人は驚いた。
転受の魔法陣の部屋から続く通路は、
多くの兵士で溢れかえっていた。




