遺跡
パインは、テントの発光が終わったのを確認した後、
松明を手にするとテントの中へと入って行った。
中へ入ると、右奥に置かれたベットの前に、
魔法の糸でグルグル巻きになった何かがクネクネと動きながら、
横たわっていた。
丁度その時、反対側の床が開き、ラキ(キーラ)が現れた。
ラキ:「案の定、効果があったようね。」
ゾル:「どういう意味ですか?」
ラキは、ラングに聞こえないように小声で言った。
ラキ:「貴方達。
遺跡で拘束の呪文で捕まってたでしょ。
あれを見て、襲撃者にも効果があると思っていたのよ。
只、発動呪文が長いので、気が付かれる恐れがあったの。
そこで、拘束の呪文を魔法陣にして、発動トリガーを
短いキーワードにしておいたのよ。
魔法陣にはその他の効果も追加しておいたけど、
まあ、それは大したことではないわ。」
ラキは、グルグル巻きになった襲撃者に近寄った。
ラキ:「さて、芋虫さんに色々と聞きたいことがあるわ。
まず、頭だけ自由にしないとね。」
そう言うと、頭部のある場所に手を当てて、呪文を唱えた。
直ぐに効果が現れ、頭部の魔法の糸は消え失せた。
襲撃者は動きを止め、大きく見開いた目でぎょろぎょろと
辺りを見回した。
そして声の主と思われる女性を見つけ睨み付けた。
その場にいた者達は、その目を見て狂人の目だと思った。
ラキ:「尋問を始めます。」
ラングは黙ってうなずいた。
ラキ:「さて、教えて頂戴。
メルキスで占領している人達との関係は?」
襲撃者:「・・・」
襲撃者は何も語らない。
ラキ:「話したくないようね。
まあ、当然よね。
答えるはず無いわよね。」
ラキは、そう言いながら襲撃者の頭に手を当て呪文を唱えた。
ゾルとパインは、その呪文が魅了の呪文だとわかった。
呪文を唱え終わると、襲撃者の目が変わった。
それはまるで寝起きの様な虚ろな目をしていた。
ラングは、少し離れたところで黙って聞いていた。
ラキ:「さて、もう一度聞くわね。
メルキスで占領している人達との関係は??」
襲撃者:「な・か・ま。」
ラキ:「仲間ね。
じゃあ、目的は何?」
襲撃者:「な・か・ま・み・つ・け・る。
た・ま・み・つ・け・る。」
ラキ:「ここには、何人できたの?」
襲撃者:「さ・ん・に・ん。」
ラキ:「なるほど。
あなたは、誰の指示で動いているの?」
襲撃者:「し・じ・な・い。
じ・ぶ・ん・の・い・し。」
ラキ:「なら、何故ここを襲おうと思ったの?」
襲撃者:「・・・」
その時、突然襲撃者の顔つきが変わった。
襲撃者:「こいつは、喋りすぎだ。」
ラキ:「やっとお出ましね。
さて、あなたは誰?」
襲撃者:「それに答えるつもりはない。」
ラキ:「そう。
貴方には魅了は効かないようね。」
魅了が効かない。
これはキーラにとって大きな問題だった。
魅了が効くならばキーラは、一人でも対処可能だと思っていた。
しかし、魅了が効かないとなれば話は別だ。
確かに魔法の糸で拘束は可能だが、この方法は奇策であり、
警戒すれば対処可能なのだ。
つまり直接戦闘で対処しなければならない。
キーラは身体的能力が高いわけでは無い。
不意打ちを食らえばひとたまりもないのだ。
その為に準備していたのが魅了の魔法を封じ込めた服装なのだ。
そして、魅了を解除するときに、敵か味方かを判別していた。
ラキ:「でも、これならどうかしら?」
ラキは、襲撃者の耳元に口を近づけると何か言った。
襲撃者は大きく目を見開き驚いた。
襲撃者:「何故、それを知っている。
お前は何者だ?」
ラキ:「私はラキ。
覚えておいてね。」
襲撃者:「そうか、なるほどな。
石板か。
まだ存在しているとはな。
ならば仕方がない。
一つだけ教えよう。
私は黒だ。」
ラキ:「そう、黒なのね。」
ラキは、ラングの方を向くとラングに行った。
ラキ:「ラング司令官。」
ラング:「なんだ?」
ラキ:「尋問は終わりました。」
ラング:「それで、知りたい事は得られたのか?」
ラキ:「えぇ、最低限の事はね。
襲撃者は、3人とも確保できています。
直ぐに3人共、王国へ転移します。」
ラング:「私も知りたいことがあるんだが、
尋問してもよいかな?」
ラキ:「彼等は、もう何も話さないでしょう。
それに、この件は極秘事項です。
これ以上知らない方が身のためですよ。」
ラング:「そっ、そうか、わかった。」
その後、転移の魔法を使って3人の襲撃者を王国へ転移した。
パイン:「それで、我々はどうするんですか?
それに石板というのと黒というのは何なんですか?」
キーラ:「そうね。
もう、知ってもいい頃かも知れないわね。
仮眠した後に、もう一度遺跡に行きましょう。」
キーラ、パイン、ゾルの3人は、駐屯軍の出発を確認したあと、
転移の魔法で遺跡へと向かった。
3人は、遺跡の中を歩いていた。
キーラ:「この遺跡は、ある物を守っているのよ。」
パイン:「ある物?」
キーラ:「石板よ。」
パイン:「石板?」
ゾル:「その石板には、何が書かれているんですか?」
キーラ:「予言あるいは記録かしらね。」
ゾル:「古すぎて、今となっては予言か記録か分からないという
意味ですか?」
キーラ:「そう。
私の予想では、今の文明よりも、
遥かに前の文明かしらね。」
パイン:「それって、文明が滅んだってことですか?」
キーラ:「そうよ。
長い時をかけて、文明が生まれ、発展し、滅びる。
そして、また生まれ、発展し、滅びる。
人間の一生と同じで、この繰り返しなのよ。」
パイン:「今の文明もいずれ滅びるということですか?」
キーラ:「その通りよ。
永久に続く文明など存在しないわ。
それが、百年なのか、千年なのか、1万年なのか、
あるいはもっと先なのか、
それは判らないけど、いつかは滅びるでしょうね。」
パイン:「どうして滅びるのでしょう?」
キーラ:「それは難し質問ね。
ただ、過去の記録を見た限りでは、
そのほとんどが戦争か大きな過ちね。」
パイン:「大きな過ち?」
キーラ:「そうね。
例えば、私達魔導士は魔導を追求している。
精霊や悪魔を召喚することもあるわよね。」
パイン:「そうですね。」
キーラ:「もし、大魔王を召喚できる方法を見つけたとしたら、
試してみたい?」
パイン:「えっ?
いや、その時になって見ないと分からないですが、
召喚してみたい気持ちもあります。」
キーラ:「普通そう思うわよね。
でも、ちょっと待って。
私達が知っている召喚魔法陣は、低級な精霊や悪魔を
召喚して従わせることができるけど、
大魔王が素直に従うかしら?」
パイン:「まさか、従わないんですか?」
キーラ:「いえ、実際に召喚した者が存在しないので、
それは判らないわ。
やったことが無いから当然ね。
愚かなことに、過去の経験や知識から大丈夫と
決断する者がいるの。
安全よりも好奇心や利を優先するのよ。
そしてパンドラの箱を開いてしまう。
それが文明を終わらせるとも知らずにね。」
パイン:「そんな。」
キーラ:「脅かすつもりは無かったけれど、
これだけは、覚えておいてね。
魔導の追究は、表裏一体だということをね。」
パイン:「わかりました。」
ゾル:「あの、よろしいでしょうか?
キーラ:「何かしら?」
ゾル:「前の文明とは、どんな文明なんでしょう?」
キーラ:「そうね。
はっきりと言えることは、
今の文明とは大きく違う文明だということね。」
ゾル:「大きく違うとは?」
キーラ:「魔法が存在しないこと。
だけど、今より高度な文明。」
ゾル:「そんな文明が存在するのですか?」
キーラ:「証拠は無いわ。
ただ、そう考えないと辻褄が合わないのよね。
まあ、とりあえず、石板まで行きましょう。」
少し歩いたところで、キーラは、何かを思い出したかのように
立ち止まるとローブの中から2つの腕輪を取り出し、
2人に与えた。
キーラ:「これを着けておいて。」
パイン:「これは、なんですか?」
キーラ:「遺跡の魔法陣を発動させないためのものよ。
これを着けていれば魔法陣は発動しないし、
その効果も受けないわ。」
パイン:「なるほど。
これを身に着けていたから、
あの時飛ばされなかったんですね。」
キーラ:「そう。
この腕輪はこの遺跡に在った物よ。」
ゾル:「ひとつ教えてください。」
キーラ:「なにかしら?」
ゾル:「さっき、前の文明は魔法が存在しないと言いましたよね。
なのに、この遺跡は魔法が存在する。
矛盾していませんか?」
キーラ:「あぁ、その事ね。
何も矛盾はないわよ。
石板を作った文明は魔法が存在しない文明。
この遺跡を作ったのはその後の文明ってことよ。
遺跡を作った文明は、石板が重要なものであると
判断したのね。
そしてこの遺跡を作って保管した。
そういう訳よ。」
ゾルは、歩いている場所に違和感を感じた。
記憶に間違いが無ければ、さっき通った場所だった。
ゾル:「ところで、ここはさっき通った場所のように
思えるんですが。」
パイン:「えっ、そうなのか?」
キーラ:「よく気が付いたわね。
いい観察力よ。
別に迷子になっているわけではないわよ。
この遺跡は複雑なのよ。
進む道が一筆書きの様に決まっていて、
その通りに進まないと、
石板の部屋まで、たどり着けないのよ。」
パイン:「そんな仕掛けが。」
そして、しばらく歩いたのち、通路の突き当りにたどり着いた。
キーラ:「到着したわ。
この場でしばらく待つわよ。」
ゾルは、歩いた経路を頭の中に描いた。
そして、この場所が遺跡の中心ではないかと思えた。
ゾルは、それが正しいかをキーラに尋ねた。
ゾル:「ここは、遺跡の中心ですか?」
キーラ:「へぇーっ。
あなた記憶力、空間認識能力が高いのね。
その通りよ。
ここは、遺跡の中心。
そして石板の安置されている場所への入口よ。」
ゾル:「しかし、どうやって一筆書きの経路を知ったのですか?」
キーラ:「この遺跡の様々な場所には一筆書きの部分地図が
存在するのよ。
それに気が付き、根気よく繰り返せば、
いずれ全てが揃うのよ。」
キーラはさらっと言ったが、それには膨大な時間が必要だった。
ゾル:「一体どれだけの時間がかかったのですか?」
キーラ:「そうねぇ。
よく覚えていないわね。
ただ、年単位ということは確かね。」
ゾル:「そんなに。」
キーラ:「ここの魔法陣は、悪質だからね。
制限魔法*1も同時に発動するのよ。」
パイン:「制限魔法って、1つの魔法のみですよね。
それほど問題にはならないのでは?」
キーラ:「転移魔法を制限した上で転移魔法を発動するのよ。
それに、一筆書き経路を外れると
一定時間で発動するようになっているから、
必然的に繰り返し挑戦する必要があるのよ。」
ゾル:「なるほど。
殺傷するのではなく、諦めさせるという防御方法ですか。」
キーラ:「そうね。
どうちらかというと、石板に辿り着く資格があるかを
見極める試練ね。」
パイン:「試練ですか。」
パインがそう言った時、突き当りの壁が光り始めた。
*1:制限魔法
特定の魔法を期限付きで使用制限する。
レジストした量に応じて、数時間から数ヶ月に渡り
特定の魔法の効果が制限される。
スクロールや他者に掛けられた魔法も発動しない。
邪神魔法あり、呪いに分類される。




