表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイグ  作者: 夢之中
14/52

襲撃


パイン、キーラ、ゾルが王都から旅立った日の昼すぎ。

駐屯軍は、野営の準備にはいっていた。

あまりにも早い行軍中止、そして大規模な野営準備。

多くの兵士達は戸惑いながらも、

多くのテントを設営していた。

兵士達が設営を勤しむ中、見慣れぬ多くの魔導士が、

テントの中を頻繁に出入りしているのが目撃されていた。

2人の兵士が宿泊用のテントの設営を行っていた。


兵士1:「おい。

    あの魔導士達は、何をやっているんだ?」

兵士2:「なんでも国王直属の部隊らしいぞ。」

兵士1:「国王直属!!」

兵士2:「しっ。

    もっと小さな声でしゃべれ。」

兵士1:「あっ、すまない。

    それで、国王直属部隊が、

    なんでメルキス駐屯軍なんかに来てるんだ?」

兵士2:「さぁな。

    今回の大規模な設営準備とかを考えると、

    なにかが起こるんじゃないかと思っている。」

兵士1:「なにかってなんだよ。

    怖い事言うなよ。」


通常の野営の場合、その殆どが宿泊用テントと防御柵の設置だ。

しかし、今回の野営は通常とは違った。

宿泊用テント以外に、儀式用のテントの設営、通常より強固な

防御柵の設置だった。

そして、最も違うのは王国から派遣された魔導士達だった。

彼らが何のために派遣されたのかは分からない。

しかし、ほぼ全ての兵士達が、

何かが起きるのではないかと感じていた。


パイン、キーラ、ゾルの3人が転移の魔法陣で飛んだ先は、

テントの中だった。

テントから外にでると、目の前には兵士が立っていた。


兵士:「マスターラキ様でしょうか?」

パイン:「???」

パインは、一瞬人違いかとも思ったが、

偽名であると判断し、何事も無かったかのように装った。

キーラ:「えぇ、ラキよ。」

兵士:「総司令がお待ちです。

   こちらへ。」

そう言って兵士は3人を軍議を行うテントへと誘導した。

キーラは、国王直属魔導士隊長ラキという立場で

派遣されたことになっていた。

その立場は本作戦に限り総司令と同等であった。

3人が軍議用テントに近づいた時、怒鳴り声が聞こえた。


 「なんだと!!

 ラキは小娘だというのか?

 まったく、国王は軍というものを分かっておらん。」

 

ラキはその言葉を聞いてムッとした顔をした。

ラキの顔を見た兵士は、近寄り、取り繕うように小声で言った。

兵士:「申し訳ありません、ラキ様。

   あの声の主こそ、ラング総司令です。

   別に悪い方ではないのですが、

   少々口がわるいのです。」

ラキ:「別に気にしていないわ。

   確かに小娘ですものね。」

兵士は困った顔をすると、

それ以上何も言わずにラキをテントへ案内した。

ラングは、いかにも将軍といった巨体と風貌をしていた。

顔についた切り傷が歴戦の勇士であることを物語っている。

3人は何も言わずに会釈した。


ラキが目の前に立つと、ラングは皮肉っぽく言った。

ラング:「これはこれは、ラキ殿。

    そして、お供の方々。

    我が軍へようこそ。

    まさか、ラキ殿がこれほどお若い女性であるとは

    思ってもいませんでした。」

キーラも負けじと応戦する。

ラキ:「いえいえ。

   見た目や生きて来た長さと知識や能力は関係しません。

   若くても才ある者は数多く存在します。

   ただ単に優秀な上役や運に恵まれなかったことが、

   妨げになっているだけです。

   私は、優秀な上役や運に恵まれた。

   だだ、それだけですよ。」


パインは思った。

若者が今の発言をしたら単に傲りと思っただろう*1。

しかし、何百年も生きて来たキーラが言うと話は違う。

ラングは、ただ単にそれを知らないだけなのだ。


ラング:「むぅ。

    しかし、肉体的なものについては違うだろ。

    その体で私と張り合えるとでも言うのか?」

3人を見て明らかに勝機があると判断した反論だった。

ラキ:「私は魔導士ですので肉体に代わる力を持っています。

   しかし、異なる力で争っても意味がありませんよね。

   どうでしょう。

   この者と腕相撲でもしてみませんか?

   勿論魔法など使いませんよ。」

キーラは、そう言ってパインを指さした。

ラングは一目見るなりニヤリと笑った。

ラング:(この貧弱な若者が、

    私相手に腕相撲で勝てると思っているのか?)

そして、その提案を承諾した。

キーラは、パインに近づくと小声で指示を与えた。

パインは、キーラの意図が分からなかった。

パインのラングへの第一印象は傲慢だ。

しかし、仲間でもある。

仲間同士いがみ合ってもしかたがない。

張り合う必要があるのだろうか?

確かにグレイグの力がある限り負ける気はしなかった。

それに手を動かすなという指示。

パインの頭の中に様々な疑問が沸き上がった。

そしてパインが考えている間に、

腕相撲用のテーブルが運ばれた。

腕相撲は、王国軍の中では大会が開かれるほどメジャーであり、

ラングは大会でも3本の指に入るほどの強者(つわもの)だった。

そして、準備が整った。


ラングの大きな手とパインの小さな手が組み合った。

キーラの手が2人の手の上に軽く乗せられる。

そして、開始の合図を待った。


ラング:(小さな手だ。

    組み合えば分かる。

    こいつは弱い。

    ならば、一気に決着をつけよう。)

    

ラングがそう考えた時、開始の合図が発せられた。

ラングの上腕筋が一気に膨れ上がった。

次の瞬間、ラングは驚きの表情を見せた。

二人の腕は、まるで固定されているかのように

ピクリとも動かないのだ。

ラング:(なんだこれは、城壁を押しているようではないか。)

さらに力が込められる。

ラングの上腕に血管が浮き出した。

ラングの額に汗がながれる。

しかし、ビクともしない。

ラングは顔を上げ、パインの顔を睨み付けた。

パインは何事もなかったように平然としている。

ラングは、怒りが込み上げてきた。

ラング:(こんな貧弱な男に、私があしらわれるというのか。)

ラングの顔が赤鬼の様に真っ赤に変わった。

ラングの腕がプルプルと振るえる。

同時にテーブルがミシミシと音を立てた。

しかし、パインの手は微動だにしなかった。

試合は、『バキバキッ。』という音と共に終了した。

テーブルが壊れたのだ。

ラキ:「試合終了。

   勝者なし。」

その合図でラングは、我に返った。

そして過去の記憶から一つの答えが導き出された。

ラング:(ノリス。

    そうノリスだ。

    この若者、ノリスと同じだ。

    神の啓示を受けた者なのか?

    そうだ。

    国王の直属なのだ。

    そうに違いない。

    それ以外に考えられない。)

ラング:「この若者、ノ、、、。

    いや、なんでもない。」

ラングは、ノリスの名前を出そうとして思いとどまった。

ノリスの事は国王の指示で極秘として扱われていたからだ。

その発言で、キーラはニヤリと笑った。

ラング:「ラキ殿。

    それで、私にどうしろと?」

ラキ:「この若者と同等の力を持つ者が敵として現れています。

   それも複数確認されています。」

ラングは、驚いた。

キーラは、ラングに近づき耳打ちする。

ラングは、目を見開いて驚いた。

ラキ:「そこで、我々に協力してほしいのです。

   成功すれば、国王の貴方への信頼がさらに上がります。

   仮に失敗したとしても、極秘作戦なので処罰の対象には

   なりません。」

ラング:「わっ、わかった。

    協力しよう。

    それで、どうすればいいんだ。」


パインはこの時、キーラの考えが理解できたと思った。

ラングは自信の固まりだ。

敵の襲撃を教えたとしても安易に考えただろう。

特に少人数の襲撃ならば、なおさらだ。

いくら同等の権限を持つラキの発言とはいえ、

その自信故に聞く耳を持たないだろう。

腕相撲をしたのはノリスを思い出させるため、

そしてノリスと同等の力を持つ者が

敵として多数存在することをほのめかし、

警戒心を煽ろうとしたのだ。

たとえ思い出さなかったとしても、自分を超える力を持つ者が

奇襲をかけてくるとすれば、警戒するだろう。

そして、最後に飴をちらつかせる。

パインは感心していた。


ラキ:「既に準備は整っています。

   あとは。」

キーラは、ラングに近寄ると再度耳打ちする。

ラング:「了解した。

    直ぐに各将軍に通達する。」

ラングは、直接赴く必要があると判断し、

すぐにテントを出て行った。

パインはキーラを見ると疑問を投げかけた。

パイン:「腕相撲は、計画だったのですか?」

キーラ:「本当にそう思う?

    ただ単に小娘ってバカにされたからよ。」

そう言ってキーラは笑顔を見せた。

果たしてその発言が本当なのか、パインには分からなかった。



その日の夜。

仮設砦の柵の外側を複数の黒い影が移動していた。

その影は闇に紛れ、仮設砦の内側へと侵入した。

空には満天の星々が輝き、

そよ風がかがり火の炎を揺らめかしていた。

かがり火は普段よりも多くなく、所々暗闇が存在していた。

彼は歩哨(ほしょう)だった。

警備する場所に武装して立ち、不審者を取り締まるのが仕事だ。

彼はラングのテントの入口を警備するのが仕事だった。

歩哨と巡回兵を除き、殆んどの兵は眠りについている。

影は、歩哨の位置に注意しつつ、

ゆっくりとだが確実に目的の場所へと移動していった。

彼は暗闇の中、動く物体を視界の端に捉えた。

通常ならば、笛を鳴らし緊急事態を知らせる。

しかし、彼は何事もなかったように立ち続けていた。

突然、叱責の声が聞こえた。

テント前の歩哨が怒られているようだった。

影は、チャンスと思ったのだろう。

歩哨の立つテントの後ろへと回り込んだ。

短刀を取り出すとテントの一部を切り裂き、

開いた穴からテント内部へと侵入した。

入口付近では、まだ叱責が続いている。

テントの中は暗かった。

外に置かれたかがり火の明かりがテントの布を通して

射し込んでいるだけであった。

わずかな明かりであったが、ラングが寝ている簡易寝台の位置を

確認するのには十分だ。

影は寝台に近づくと、懐から短剣を取り出し、振りかぶった。

そして、何のためらいも無く振り下ろした。

その瞬間、辺りが光に包まれた。



半時程前。

パインは歩哨の服装を着て、ラングのテントの前に立っていた。

暗闇にも関わらず、ナイトビジョンのおかげで、

まるで昼間の様に視界は良好だった。

パイン:(よく見える。

    でも、色が分からないのは違和感でしかないな。)

パインには景色が白黒でしか見て取れなかった。

パイン:(本当に敵は来るんだろうか?)

パインはキーラの事を疑っているわけでは無かったが、

今夜襲撃が来るかは半信半疑でもあった。

キーラの説明では、敵から見て最も効果的なのは、

援軍が直前まで迫った時の撤退であり、

安堵から絶望へと変わるとき、人の心は折れるという。


しばらくの間は何事も起こらなかった。

パインの緊張がゆるんだ時、背筋に寒気が走った。

そして、全身の毛穴という毛穴が逆立つのを感じた。

パイン:(何か嫌な予感がする。)

その時パインは何かを見たのかもしれない。

しかし、パインはそれに気が付かなかった。


パインは気を引き締めて辺りを見回した。

その時、視界の端に、視界から逃れるように移動する

何かを捕らえた。

パイン:(来たか。)

パインは、キーラの指示通り行動した。

大きく背伸びすると、大きなあくびをした。

 「おい、貴様。」

そう言いながら近づいてくるのは警備隊長だった。

警備隊長:「まったく、たるんどる。

     貴様は、新兵だな。

        :

        :」

パインは警備隊長の叱責を黙って聞いていた。

これもキーラの作戦の一つだった。

隙を作る事、それとキーラ達にそれを知らせる合図でもあった。



パインの合図が発せられる前、

キーラ、ゾル、ラングの3人は、穴の中にいた。

穴と言っても、天井は木の板でふさがれている。


ラングは、地面に腰を下ろし、窮屈そうに小声で言った。

ラング:「まさか、こんなものが作られていたとは。」

ラキ:「しっ。」

ラキは、口の前に人差し指を立て、

静かにしろという仕草をした。

ラングは、それを見て口を閉ざした。

穴は、ラングのテントの真下に作られた穴だった。

ゾルは、少し離れた位置で待機していた。

それは、テントの入口辺りだった。


黙って待つ事数分。

ゾルは、上から叱責の声を聞いた。

そしてラキに合図する。

ラキは所定の位置を確認し、そして時を待った。

天井に描かれた魔法陣が薄っすらと光を帯びた。

その時、ラキは何かを言った。

魔法陣が強く光り、そしてテントの中を包み込んだ。



*1:若者が今の発言をしたら単に傲りと思っただろう

 パインの思考は次のようなものだった。

 同じ時間に生きる人間にとって得られる知識は限られている。

 その時間をどのように振り分けるかなのだ。

 広く浅く、あるいは狭く深く。

 魔導士等の専門職は、狭く深くなのだ。

 特に1人籠って追究する魔導士は。

 魔導に関するより深い知識を得ているが、

 その逆に時世には疎くなる。

 そのために高名な魔導士でも、それを知らずに接した者は、

 時世知らず、常識知らず扱いする者が多いのだ。

 時世に疎かったとしても己よりも遥かな高みの

 存在かもしれないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ