王都アルタナ
王都アルタナは、バーランド王国の首都である。
人口は50万人にも達し、王国最大の都市である。
もっとも盛んな産業は農耕と牧畜であり、首都の城壁の外側に
広大な農地と放牧地を有する。
王国の兵士は、実に全体の8割が民兵であり、
正規兵は2割程度しか存在しない。
民兵は通常は他の職業に就き、必要に応じて招集される。
正規兵はおよそ2万、その3割が警備兵である。
パイン、キーラ、ドリム、ゾルの4人は、転移の魔法陣を使い、
バーランド王国の首都アルタナに転移した。
ドリムは、出迎えた王国の者と共に一人国王の元へと向かった。
謁見の時間までは、まだ時間があった。
残された3人は、出迎えの王国高官の案内で王宮内を散策した。
王宮高官は、ミンサと名乗った。
彼の着る紫色のローブは、ゾルとパインの目には眩しかった。
ミンサ:「大魔導士キーラ様。
少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
キーラ:「はい。」
ミンサ:「キーラ様は、不老不死の霊薬を完成させたのですか?」
キーラ:「不老不死の霊薬?
なんですか、それは?」
ミンサ:「キーラ様は、200年以上も生きておられます。
そしてその年数を感じさせない肌の色艶。
不老不死ではないのでしょうか?」
キーラ:「貴方は精霊魔導士でしょ?」
ミンサ:「はい。」
キーラ:「ならば、私の書いた魔導書を読み解きなさい。
そこに全て書き記してあります。」
ミンサ:「最終章は、あまりにも高度すぎて、
手に負えませんでした。」
キーラ:「高度すぎるか。
ならば、資格が無いと思って、諦めることですね。」
ミンサ:「・・・」
キーラ:「あの魔導書は、全ての魔導士の為に
書いたものでは無いの。
運によって埋もれてしまうかもしれない、
才ある者の為に作ったものなのよ。」
ミンサ:「ならば、私を弟子にして頂けないでしょうか?」
キーラはミンサの求めに即答した。
キーラ:「残念ながら、弟子は取っていないわ。」
パイン:「!!!」
見習い魔導士の自分を弟子に迎えると発言していたキーラが、
マスターと呼ばれる魔導士の弟子入りを断った。
キーラのなかで資質というものが、
それほどまでに重要視されるということに、
パインは驚きを隠せなかった。
ミンサ:「それは、残念です。」
4人は気まずい雰囲気の漂う中、無言のまま庭園を歩いていた。
作られた自然ではあったものの、
緑の多い空間は居心地がよかった。
そんな気分をグレイグは打ち破った。
グレイグ:(気をつけろ!!
右上だ。)
パインはとっさに右上を見た。
何本か生えている木の上に人影を確認した。
突然、全ての景色がゆっくりと動き始める。
グレイグの力が発動したのだ。
パインはハッキリと分かった。
奴は襲撃者だ。
その時、襲撃者の手から何かが放たれた。
パイン:(速い!!)
投げ放たれた物は、公国で行われた反射速度の試験よりも
遥かに速い速度で近づいてくる。
パインがそれを短剣だと識別できたときには、
それは間近まで迫っていた。
標的はキーラだ。
パイン:(間に合うのか?)
パインはそれを掴もうと手を伸ばした。
しかし、無情にも伸ばした指先の先を短剣は通過して行き、
キーラの胸へと吸い込まれていった。
ゆっくりと進んでいた時間が普通に戻った。
同時にキーラが崩れ落ちた。
その光景を目にしたパインは、頭が真っ白になった。
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パインは、ふかふかのベッドの上で目を覚ました。
豪華な部屋だった。
公国の部屋も豪華であったが、それ以上だと感じた。
パインは、ハッとした。
パイン:「キーラ。」
パインは確かに見た。
キーラに胸に短剣が吸い込まれるのを。
パインはベッドから降りると扉へ向かおうとした。
そのとき突然扉が開き、ゾルが入ってきた。
パイン:「ゾル。」
ゾル:「パイン、大丈夫か?」
パイン:「えぇ、大丈夫です。
ところでキーラはどうなったんですか?」
ゾル:「その事だが、一緒に来てくれないか。」
2人は廊下にでると長い通路を進んで行った。
メイド達が慌ただしく移動している。
中には真っ黒いドレスにベールをかけている者もいる。
葬儀用の服装だ。
パインの頭の中には、嫌な想像が渦巻いていた。
ゾルはパインを引き連れると、玉座の間へと移動した。
玉座の間には、誰もいなかった。
ゾルは玉座を越え、その先にある真っ赤なたれ布の前まで
行くと、それをめくりあげた。
パインは、玉座の後ろのたれ布の先には、
国王の私室があるということを聞いた事があった。
パイン:「国王の私室?」
ゾル:「よく知っていたな。
まあ、大抵の者が知っているのはその程度だがな。」
パインとゾルはたれ布をくぐると、先にある通路へとでた。
そこは王宮には似つかわしくない質素な通路だった。
入って正面に両開きの扉、右には上へと向かう階段、
左には扉があった。
パインがキョロキョロとしているのを見てゾルが言った。
ゾル:「気になるようだな。
正面の扉は、国王が密会する為の部屋だ。
上の階は、国王の私室がある。
左の扉は、脱出用通路へと繋がっている。」
パイン:「公国の人間なのに、ずいぶん詳しいんですね。」
ゾル:「一蓮托生なんだよ。
王国も公国もどちらが滅びた時は、
自分も滅びると思っている。
だからお互い助け合っているし、
秘密も存在していないんだ。
分かったかな?」
パイン:「はい。」
ゾル:「ならば、入るとしよう。」
ゾルはそう言うと密談室の扉を開けて中へと入った。
5m四方の小さな部屋だった。
床には大きな魔法陣が描かれている。
パインは、その魔法陣は密談用の魔法陣ではないかと考えた。
部屋の中央には、ラウンドテーブル*1が置かれ、
国王と大公が座っていた。
パインはラウンドテーブルを見て、この部屋の意味を理解した。
国王:「うむ。
そなたが啓示を受けし者パインか?」
パインは、跪いた。
パインは王国で生まれ、王国で育った。
両親は王国に忠誠を誓っており、
パインも同様に忠誠を誓っていた。
忠誠を誓った者以外には跪かないという習慣がある為、
大公には跪かなかったのだ。
国王:「儀礼は無用じゃ。
立ちなさい。」
パインは立ち上がると答えた。
パイン:「私がパインです。」
国王:「そうか、そうか。
そなたを呼んだのは他でもない。
今回の騒動に対して手を貸してほしいのだ。」
パイン:「はい、喜んで。」
国王:「そうか、そうか。」
パイン:「国王様にお尋ねしたいことがあります。」
国王:「なんじゃ?」
パイン:「大魔導士キーラの事です。
まさか彼女は亡くなったのですか?」
そう言った途端、目の前の何もない空間に人が出現した。
インビジブルの魔法だろう。
パインは、その人物を見て驚きを隠せなかった。
同時に目頭が熱くなるのを感じていた。
その人物は、大魔導士キーラだった。
キーラ:「パイン、私を勝手に殺さないでほしいわね。」
パイン:「キーラ!!
よかった、生きていたんですね。」
キーラ:「えぇ、なんとかね。
この件は、警戒を怠っていた、私の落ち度だわ。」
パイン:「でもどうして、短剣はあなたの胸に吸い込まれた。」
そう言ってパインはキーラの胸を見た。
キラーは、笑顔を見せるとローブから何かを取り出した。
キーラ:「これの事?」
そう言って、短剣をパインに見せた。
短剣の刀身は、元々存在しなかったかのように無かった。
パイン:「えっ!?」
キーラ:「命は助かったけど、その代償として、
私の大切な指輪の一つを失ってしまったわ*2。」
パイン:「魔法具ですか?」
キーラ:「そう、完全物理防御魔法を封じ込めた指輪よ。」
パイン:「完全物理防御魔法?」
パインは、訝し気な顔をした。
パインは、物理防御の魔法は知っていた。
しかし、完全と呼ばれる魔法は知らなかったし、
一般的に攻撃は威力に依存する為、それを全て防ぐことは
不可能と考えられていた。
キーラ:「信じられないという顔をしているわね。
完全物理防御魔法は、強化系魔法ではないわ。
部分転移魔法*3の応用よ。」
パイン:「!!」
パインが驚くのも無理はなかった。
部分転移魔法を防御に使うなど考えもしなかった。
キーラ:「攻撃を受けて守るのではなく、
攻撃武器そのものを消し去る魔法。
それが、完全物理防御魔法*4よ。」
パインは思った。
見習い魔導士の自分でも対策を見つける事ができる。
しかし、普段から所持する武器に転移魔法を無効にする
魔法を付与した場合、通常移動時や緊急時に支障を来す。
たった一つの対策の為にそこまでする者が存在するだろうか?
パインの結論は、『存在しない。』だった。
パイン:「そんな魔法聞いた事がありません。
オリジナルなのですか?」
キーラ:「えぇ、そうよ。
魔法は発想力でいくらでも進化するのよ。
魔法の可能性は無限なの。」
パイン:「でも、公開してしまってもよかったのですか?
万が一、対策をする刺客が現れたら、、、。」
キーラ:「問題ないわ。
ほかにも対策しているしね。」
そう言って、キーラはニコッと笑った。
パインは、その笑顔にドッキとした。
ドリムがイライラしながら話を遮った。
ドリム:「キーラ。
すまないが、話を先に進めてもらえないか?」
キーラ:「あっ、そうね。
今回、国王、大公と話した結果、
私の葬儀を行う事になりました。」
パイン:「えっ、どういうことですか?」
キーラ:「私は死んだことにするという意味よ。
王国へ来ている事をどうやって知ったのかは
分からないけれど、何者かが私の命を狙っている事は
間違いないでしょう。」
国王:「まさか、内通者がいるのというのか?」
キーラ:「その可能性は否定できないでしょうね。」
国王:「分かった、調べさせよう。」
キーラ:「お願いします。
そこで、私は死んだことにして、
自由に行動できるようにする。
私、パイン、ゾルが隠密行動をとり、
情報を集めようってわけ。」
パイン:「なるほど。」
国王:「キーラよ。
メルキスの駐屯軍だが、援護部隊は到着している。」
キーラ:「それで、準備は整ったのですか?」
国王:「メルキスの北東20Kmの地点で、
野営の準備に入っている。
日が暮れるまでには準備は完了するだろう。」
キーラ:「よかったわ。
何も起こらなければいいのだけど、無理な話よね。
今夜あたりが、もっとも危ないわ。
早速、見物にでもいきましょう。
パインとゾルは連れて行くわね。」
国王:「うむ、わかった。
計画通りの名前を使ってくれ。
総司令と同等の権限を与えておいた。
ほかに必要な物や人はないか?」
キーラ:「そうね。」
キーラは国王に近づくと耳打ちした。
国王:「わかった。
善処しよう。」
キーラ:「さて、あまり悠長な事はしていられないわね。
さっさと見物に行きましょう。」
そしてパイン、キーラ、ゾルの3人は、王国を後にした。
*1:ラウンドテーブル
いわゆる円卓のこと。
上座下座が存在しない為、卓を囲む者すべてが
対等であるとの考えからである。
*2:指輪を失ってしまったわ
魔法具には使用回数が存在する。
回数は魔法具に蓄積できる魔力量に異存する。
大抵の魔法具は、再度魔力を充填することにより、
回数を戻す事が可能だが、魔法具によっては魔法の発動に
耐えきれずに壊れてしまう物もある。
特に高位の魔法を封じ込めた魔法具は
1回のみというものが多い。
*3:部分転移魔法
部分転移魔法は転移魔法の基礎魔法である。
部分転移魔法は、魔法の効果範囲内という制限がある。
しかし、これでは不要な物も転移してしまったり、
身体の一部を転移できなかったりと、多くの問題が発生する。
このため、今の転移魔法は、条件を付加することにより
対処している。
*4:完全物理防御魔法
完全物理防御魔法は、文字通り物理攻撃を完全に
無効化する魔法である。
威力に関係なく一秒のみ物理攻撃を無効化できる。
発動者に傷を与えようとする物質を
消滅することによって防御する。
詠唱時間が極めて長いため、
通常は魔法具に封じ込めて使用する。
しかし、要求される媒体がダイヤモンドの為、
希少であると同時に超高値で取引される。




