大魔導士キーラ
===== 冒険者心得 =====
己の能力を敵対する相手に知られてはならない。
知られた場合、対策されることは目に見えている。
必殺技と言えども例外ではない。
相手の能力を知り、己の能力を隠し通せば、
勝利は手の届くところにある。
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パインとゾルは最後の桟道と思われる場所を
移動していた。
最後というのは桟道の終わりの地点に人工の柱と思われる
建造物が見え隠れしているからだ。
パイン:「あれ、やはり遺跡ですかね?」
ゾル:「どうだろうな。
ついてみなければ何とも言えないな。」
パイン:「ですよね。
ところで、気になる事があるんですが?」
ゾル:「なんです?」
パイン:「ハルピュイアと戦った人の事です。」
ゾル:「あぁ、あれのことですか。」
パイン:「どうしても気になってしまって。」
ゾル:「意見が聞きたいんですよね?」
パイン:「えぇ、そうです。
ヘマタイトチームじゃないかと思うんですが。」
ゾル:「うん。
私もそう思う。」
パイン:「戦闘になるんでしょうか?」
ゾル:「できる限り戦闘は避けたいけれど、
場合によっては戦わないといけないかもしれない。
そのつもりでいてほしい。」
パイン:「はい。」
桟道を抜け広場のような場所に到着した。
広場は惨憺たる状況だった。
至る所にハルピュイアと思われる死体が転がっている。
原型は留めているもの、原型をとどめていないもの、
様々であったが、ほとんどの死体は燃やされていた。
なかには、ハルピュイアの子供と思われる死体もあった。
死体は疫病の原因になる。
その為、死体を燃やす事は当然であった。
パイン:「なんなんだ、これは!!」
ゾル:「いくら襲われたとしても
これは酷いな。」
ほとんどの冒険者は、むやみな戦闘は、
予測不能な事態を引き起こすことを知っている。
その為、できる限り戦闘を避ける方法を模索する。
しかし、一部の冒険者は弱い魔物の場合虐殺を選択する。
多くの冒険者は、この行為に否定的ではあるが、
それを公言することはしない。
何故ならば、全ての冒険者が魔物を退治することを
生業としているからだ。
ゾルは、死体に近づくと調べ始めた。
ゾル:「どうやら炎の魔法で燃やされたようだ。」
魔法は、その痕跡を残す。
それは残留魔塵と呼ばれ、
時間と共に減少するが長期間そこに留まる。
ゾル:「死因は、ほとんどが剣による攻撃だな。
そして、後で燃やされた。
んっ?
酷いな、拘束の魔法も使われているようだ。」
パイン:「複数人ということですか?」
ゾル:「あぁ。
最低でも戦士等の前衛が一人、精霊魔導士が1人だな。」
パイン:「んー。
やっぱり、ヘマタイトチームですかね?」
ゾル:「考えても仕方がない。
とりあえず、警戒しながら進むとしよう。」
パイン:「わかりました。」
広場の1か所から道が続いていた。
幾本もの柱が奥へと並び立っている。
柱の表面は浸食され、所々にひび割れがあり、
作られてから長い年月を経ている事を感じさせた。
2人は、柱の間を進んだ。
そして道は、洞窟の入口へと続いていた。
洞窟はギリギリ2人で並んで通れるほどの幅があり、
魔法の光により明るかった。
洞窟の壁面はつるつるに磨き上げられており、
つなぎ目は見当たらなかった。
2人は長い洞窟の中を慎重に歩いて行った。
5分程進むと出口が見えた。
洞窟を抜けると、人工的に作られた四角い部屋だった。
中には何も無く、つるつるに磨かれた壁が異質な雰囲気を
醸し出していた。
反対側の壁には両開きの扉があった。
2人は意を決して扉の先に進んだ。
そこはヴォールト*1作りの通路だった。
通路は左右両方に内側に湾曲するように伸びていた。
多くのものは通路が円形ではないかと感じただろう。
正面には先に進む扉があった。
2人は扉を開けて先に進んだ。
そこは不思議な空間だった。
四角い部屋ではなく、左右の壁が大きく凸凹しているのだ。
良く調べて分かったことだが、
四方の壁に接続されていない事から、
壁ではなく柱だと思われた。
その時突然、2人は背筋を凍らせた。
つま先から頭に向かって、身体の中を何かが通り過ぎたのだ。
パインは、覗き見られたような感覚を覚えた。
続いて然声が聞こえた。
女性の声だ。
「警告します。
直ちに敷地内から退避してください。」
パイン:「キーラなのか?」
ゾル:「いや、そうは思えない。」
その時ゾルは何かに気が付いたように驚き、
そしてパインに向かって言った。
ゾル:「パイン。
直ぐにここから出るぞ。」
パイン:「えっ。」
ゾル:「急げ!!」
2人は来た道を戻り、洞窟の手前の小部屋まで移動した。
ゾル:「多分、ここまでくれば安心だろう。」
パイン:「どういうことですか?」
パインがゾルに問いかけた時、
謎の声によって会話は中断された。
「貴様らは何者だ?」
2人は声のする方向を見た。
そこには、プレートメイルを着込み、手に戦斧を持った
髭面の男が立っていた。
プレートメイルと戦斧が淡い光を放っている。
魔法のかかった武器防具だ。
どんな魔法具かは分からない。
しかし、かなり危険な存在であることは間違いなかった。
「んっ?
そっちの魔導士はカッパータグか。
冒険者なのか?
いや、冒険者なら赤のローブなど着るはずがない*2。
冒険者協会?
いや、冒険者協会ならこんな回りくどいことはしない。
王国?
いや、ちがうな、王国には奴がいる。
なるほど、そう言う事か。
貴様ら、公国の者だな。
我々をつけてきたんだな。」
この者の思考は分からなかった。
しかし、的を得ている事を考えると
かなり頭の回る者であることは間違いなかった。
パイン、ゾル:「・・・」
その時、魔法詠唱が聞こえた。
ゾル:「しまった。」
そう思った時には既に遅かった。
2人を魔法の糸でグルグル巻きにされ、
そのまま崩れ落ちるように倒れた。
ゾルは、すぐに魔法を唱えたが、何も起こらなかった。
パインは、力を込めて糸を引きちぎろうとした。
しかし、糸はびくともしなかった。
ゾル:「パイン、無駄だ。
拘束の魔法*3だ。
キャンセルマジック*4でないと解除できない。
それにどうやら私よりも経験を積んだ魔導士のようだ。」
「ほぅ。
いい評価をありがとよ。」
そう言いながら一人の男の魔導士が現れた。
パイン達は、魔法の糸によって全身を覆いつくされようと
していた。
「いつみてもいい眺めだ。」
「リーダー。
例の物が見つかったようです。
「そうか、見つかったか。
早速向かうとしよう。」
ゾル:「おい、警告を無視するのか?」
「警告?
我々を誰だと思っているんだ?
泣く子も黙る。
ヘマタイトチームだぞ。
お前らの処分は後で決める。
それまで静かにしていることだな。」
自信の表れかそれとも魔法具の力を信じてなのかは
分からなかった。
しかし彼等は躊躇することなく扉の先へと進んで行った。
ゾルは思った。
奴等は、自分たちの正体を晒した。
戻ってきたら我々を殺すだろう。
しかし、、、。
しばらくの間、無言の時間が続いた。
どのぐらいの時間が経ったのだろうか?
静寂を破ったのはパインだった。
パイン:「あいつら、処分は後で決めるって、
まさか殺すつもりじゃないだろうな。」
ゾル:「いや、大丈夫だ。
彼等は、もう戻ってこないだろう。」
パイン:「どうしてそう言えるんだ?」
ゾル:「さっきの警告を思い出せ。
そしてこの遺跡の構造だ。」
パイン:「遺跡の構造?」
突然、扉が音も無く閉まった。
そして扉の側の壁が光を帯び始めた。
ゾル:「どうやら、始まったようだ。」
壁の光はどんどん強くなる。
そして、眩しいぐらいに明るくなった後、
突然光は消え失せた。
パイン:「今のは何だったんだ?」
ゾル:「魔法が発動したんだ。
何の魔法かは分からないがな。」
パイン:「魔法だって。」
ゾル:「この遺跡は魔法陣なんだ。
あのへんな形の壁。
あれは、きっと魔法文字だ。
上からみれば魔法陣になっているんだろう。」
その時、扉の先の通路から足音が聞こえた。
コツン、コツン、コツン。
ゾル:「まずいな。
まだ生きているのかよ。」
コツン、コツン、コツン。
足音は次第に大きくなっていった。
そしてついに扉が開いた。
現れた1人の人物に2人の目は釘付けになった。
2人は、頭の上からつま先まで電撃が走ったように感じた。
ゾル、パイン:「美しい。」
ボソッと呟いた。
2人の第一印象はそれだった。
『美しい』、それ以外の言葉が思いつかなかった。
小さめの顔から伸びた黒い髪、胴からすらっと伸びた白い
両腕と両足。
何よりも目を引いたのは、服装だった。
なめし皮で作られた、身体にフィットする黒いドレス。
その所々が魔法文字の形状にくり抜かれており、
そこから見える白い肌が艶めかしかった。
「どうやら貴方達は、盗掘ではないようね。」
まるで天使が発する様な美しい声だった。
女性が何やら呪文を唱えると、パイン達の拘束が解けた。
直ぐにゾルは跪き、頭を垂れた。
パインは立ち上がると女性に対峙した。
パイン:「助けていただいて感謝します。
貴方は何者なんですか?」
「へぇーっ。
私の魅了をレジストするんだ。
貴方、名前は?」
パイン:「私はパイン。
隣にいるのがゾルです。」
「パインとゾル。
良い名ね。
私は、キーラ。
魔導士キーラよ。」
パインは、驚いた。
パイン:「えっ。
あなたが大魔導士キーラ様。
私達は、貴方に会いに来たのです。」
パインは、キーラを老婆のような女性と思っていた。
その驚きは当然ともいえるだろう。
キーラ:「んーと。
先ず言っておくわね、敬称は不要よ。
キーラでいいわ。
それで、私にどんな用事があるのかしら?」
パインは、メダルを見せると、ここに来ることになった
経緯を話した。
キーラ:「なるほどね。
それで、パインも啓示を受けたの?」
パイン:「はい。」
キーラ:「さて、まずは、その人の魅了を解かないとね。」
そう言うと、ゾルの頭の上に手を当てる。
直ぐにゾルは正気を取り戻した。
キーラ:「さて、ゾルさん。」
ゾル:「はっ。」
ゾルは、恥ずかしいのか、
キーラの顔をまともに見る事ができない。
キーラ:「貴方は、1人で大公の元へ戻ってください。
私とパインは、夕方に屋敷に向かうから。」
ゾル:「畏まりました。」
そう言うとゾルは少し離れた位置へ移動すると、
帰還の魔法で公国へと戻って行った。
キーラ:「さて。
いくつか教えて頂戴。」
パイン:「なんでしょうか?」
キーラ:「グレイグと言う名に聞き覚えは?」
パイン:「えっ。
何故その名前を。」
キーラ:「なるほどね。
分かったわ。
もう話す必要はないようね。」
パイン:「何か知っているのですか?」
キーラ:「いや、まだその時じゃない。
この話はここで終わりにしましょう。」
パイン:「そうですか。」
パインは、残念だった。
しかし、キーラは言っていた。
「まだその時じゃない」と。
いずれグレイグの事を知る日が来るということだ。
パインは、グレイグを知っている者がいることに感謝した。
キーラ:「さて、次の話ね。
貴方は精霊魔導士を極めたいと
考えているのでしょう?」
パイン:「はい。」
キーラ:「なら、私の弟子にならない?」
パイン:「えっ。
光栄なことですが、何故私なのですか?」
キーラ:「貴方は私の魅了をレジストした。
魅了に対抗するにはいくつかの方法があるの。
一つ目は、対魅了用の魔法陣を身体に彫り込むこと。
これは、もっとも効果的な方法ね。
二つ目は、対魅了用の魔法を掛けておくこと。
でも、これには欠点があるのよ。
上位者の魅了に対しての効果が著しく低いのよ。
三つ目は、生まれながらに持つ耐性ね。
一つ目、二つ目は、本人の努力によりいくらでも
変える事ができるけど、三つ目は別なの。
耐性を強化する方法はないから、これは素質なの。
この服は初めて会った者を魅了するんだけど、
貴方は、魅了をレジストした。
対魅了用魔法陣や対魅了用魔法ではなく、
己の耐性のみでレジストしたのよ。
この意味は大きい。
耐性の高い者は、魔法に対する受容性が高いと
言われているしね。
つまり、貴方は魔導の深淵を覗き見る資格を
持っているということ。」
パインは、驚いた。
いきなり資格を持っていると言われても。
パイン:「えっ、いや、どうしたら、、、。」
キーラ:「直ぐに決めろとは言わないわ。
そうね。
今の問題が解決するまで考える時間を与えましょう。
私は貴方と共に行動し、魔法の応用と組み合わせ*5を
教示しましょう。
それでどうかな?」
パインは、しばらく考えそして決心した。
パイン:「はい。
よろしくお願いします。」
キーラ:「うむ。
よろしい。
さて、それでは初めての教えね。
これから公国へ転移したいとします。
しかし、私は公国の転受の魔法陣を知らない。
つまり、公国へと転移することが出来ない。
もちろん、帰還の巻物を使うとか、
知っている者に便乗するなどは、論外だから。
どうすればいいと思う?」
パイン:「それじゃあ、無理じゃないですか?」
キーラ:「アナライシズマジックを知っている?」
パイン:「はい。
残留魔塵を分析して、魔法の種類や威力を
知る魔法ですよね。」
キーラ:「そうよ。」
パイン:「でも、学院では使用頻度の少ない魔法だと言う理由で、
詳細には教えてもらえませんでした。」
キーラ:「なるほどね。
転移の魔法の残留魔塵に使うと、
どこに飛んだかが分かると言ったら?」
パイン:「えっ、そうなんですか?
いや、しかし、場所が分かったとしても飛ぶことは
出来ないんじゃないですか?」
キーラ:「別々に使えばね。
アナライシズマジックとテレポーテーションを
組み合わせればどうなるかな?」
パイン:「なるほど!!」
キーラ:「これが、魔法の応用と組み合わせよ。
貴方は、学院で詳細を教えられなかったからと言って、
それを受け入れ、自分で調べる事を怠ったのよ。
学院では、最低限のことしか教えてくれない。
たかが数年で教えられる事等、限られているの。
魔導は生涯をかけて学ぶものだと知りなさい。」
パインは、目から鱗が落ちたように感じた。
そして、今までになく輝いていた。
パイン:「はい。
わかりました。」
キーラ:「では、早速ゾルの残した残留魔塵から公国へ
転移するとしましょう。」
パイン:「あっ、その前に質問が。
キーラ:「なんですか?」
パイン:「遺跡の魔法陣は、あなたが作ったのですか?」
キーラ:「へぇー。
あの立体魔法陣に気が付いたの。
あれを作ったのは私じゃないわ。
この遺跡を建てた者よ。
ところで、立体魔法陣に気付いたのは貴方なの?」
パイン:「いえ、私ではありません。
ゾルです。」
キーラ:「なるほど、あの若者か。
おもしろいわね。」
パイン:「ところで、
ヘマタイトチームはどうなったのでしょう?」
キーラ:「ヘマタイトチーム?
あぁ、盗掘の事か。
やつらは、何処かに飛ばされたわよ。
たぶん、ここより遥か南の地でしょうね。」
*1:ヴォールト
アーチを平行に押し出した形状(かまぼこ型)を特徴とする
天井様式および建築構造の総称。
日本語では穹窿と訳される。
*2:冒険者なら赤のローブなど着るはずがない
冒険者同士の戦いは情報戦でもある。
相手の能力を知り、自分の能力を悟らせない。
能力を知っていれば事前の対策も可能だ。
そのため王国や公国の人間や能力に自信がある場合を除いて、
茶色のローブを着る者がほとんどである。
*3:拘束の魔法
魔法の糸を出現させ対象を絡めとり動きを封じる。
永続魔法との組み合わせにより長期間拘束可能となる。
発動直後は、両手両足程度だが、時間が経つにつれ、
拘束は大きくなり、最終的には頭だけを残して、
繭のような状態になる。
*4:キャンセルマジック
永続魔法を解除する為の魔法。
自分と同等以下の魔導士の発動した永続魔法を
解除することができる。
*5:魔法の応用と組み合わせ
魔導士と呼ばれる者は、たとえ見習いだとしても
対象系統魔法の基礎(LV0)を修得している。
LV0では、効果を現さない魔法もあるが、
魔法の組み合わせによって効果を得る事もできる。
たとえば、マジックアローは、魔法の矢を作り出す魔法だ。
これに炎や氷の魔法を組み合わせる事により、
ファイアアローやフリーズアロー等を生み出す事ができる。
2つ、3つと組み合わせる事により、様々な効果を
生み出す事ができるのだ。
しかし、応用と組み合わせはそれほど単純ではない。
魔法と魔法を繋ぐ魔法語を見出さなければならない。
場合によっては、魔法語を生み出さなければならないのだ。




