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グレイグ  作者: 夢之中
11/52

大魔導士キーラ


===== 冒険者心得 =====

己の能力を敵対する相手に知られてはならない。

知られた場合、対策されることは目に見えている。

必殺技と言えども例外ではない。

相手の能力を知り、己の能力を隠し通せば、

勝利は手の届くところにある。

======================


パインとゾルは最後の桟道(さんどう)と思われる場所を

移動していた。

最後というのは桟道の終わりの地点に人工の柱と思われる

建造物が見え隠れしているからだ。


パイン:「あれ、やはり遺跡ですかね?」

ゾル:「どうだろうな。

   ついてみなければ何とも言えないな。」

パイン:「ですよね。

    ところで、気になる事があるんですが?」

ゾル:「なんです?」

パイン:「ハルピュイアと戦った人の事です。」

ゾル:「あぁ、あれのことですか。」

パイン:「どうしても気になってしまって。」

ゾル:「意見が聞きたいんですよね?」

パイン:「えぇ、そうです。

    ヘマタイトチームじゃないかと思うんですが。」

ゾル:「うん。

   私もそう思う。」

パイン:「戦闘になるんでしょうか?」

ゾル:「できる限り戦闘は避けたいけれど、

   場合によっては戦わないといけないかもしれない。

   そのつもりでいてほしい。」

パイン:「はい。」


桟道を抜け広場のような場所に到着した。

広場は惨憺(さんたん)たる状況だった。

至る所にハルピュイアと思われる死体が転がっている。

原型は留めているもの、原型をとどめていないもの、

様々であったが、ほとんどの死体は燃やされていた。

なかには、ハルピュイアの子供と思われる死体もあった。

死体は疫病の原因になる。

その為、死体を燃やす事は当然であった。


パイン:「なんなんだ、これは!!」

ゾル:「いくら襲われたとしても

   これは酷いな。」

ほとんどの冒険者は、むやみな戦闘は、

予測不能な事態を引き起こすことを知っている。

その為、できる限り戦闘を避ける方法を模索する。

しかし、一部の冒険者は弱い魔物の場合虐殺を選択する。

多くの冒険者は、この行為に否定的ではあるが、

それを公言することはしない。

何故ならば、全ての冒険者が魔物を退治することを

生業(なりわい)としているからだ。


ゾルは、死体に近づくと調べ始めた。

ゾル:「どうやら炎の魔法で燃やされたようだ。」

魔法は、その痕跡を残す。

それは残留魔塵(ざんりゅうまじん)と呼ばれ、

時間と共に減少するが長期間そこに留まる。

ゾル:「死因は、ほとんどが剣による攻撃だな。

   そして、後で燃やされた。

   んっ?

   酷いな、拘束の魔法も使われているようだ。」

パイン:「複数人ということですか?」

ゾル:「あぁ。

   最低でも戦士等の前衛が一人、精霊魔導士が1人だな。」

パイン:「んー。

    やっぱり、ヘマタイトチームですかね?」

ゾル:「考えても仕方がない。

   とりあえず、警戒しながら進むとしよう。」

パイン:「わかりました。」


広場の1か所から道が続いていた。

幾本もの柱が奥へと並び立っている。

柱の表面は浸食され、所々にひび割れがあり、

作られてから長い年月を経ている事を感じさせた。

2人は、柱の間を進んだ。

そして道は、洞窟の入口へと続いていた。

洞窟はギリギリ2人で並んで通れるほどの幅があり、

魔法の光により明るかった。

洞窟の壁面はつるつるに磨き上げられており、

つなぎ目は見当たらなかった。

2人は長い洞窟の中を慎重に歩いて行った。

5分程進むと出口が見えた。

洞窟を抜けると、人工的に作られた四角い部屋だった。

中には何も無く、つるつるに磨かれた壁が異質な雰囲気を

醸し出していた。

反対側の壁には両開きの扉があった。

2人は意を決して扉の先に進んだ。

そこはヴォールト*1作りの通路だった。

通路は左右両方に内側に湾曲するように伸びていた。

多くのものは通路が円形ではないかと感じただろう。

正面には先に進む扉があった。

2人は扉を開けて先に進んだ。

そこは不思議な空間だった。

四角い部屋ではなく、左右の壁が大きく凸凹しているのだ。

良く調べて分かったことだが、

四方の壁に接続されていない事から、

壁ではなく柱だと思われた。

その時突然、2人は背筋を凍らせた。

つま先から頭に向かって、身体の中を何かが通り過ぎたのだ。

パインは、覗き見られたような感覚を覚えた。

続いて然声が聞こえた。

女性の声だ。


 「警告します。

 直ちに敷地内から退避してください。」


パイン:「キーラなのか?」

ゾル:「いや、そうは思えない。」

その時ゾルは何かに気が付いたように驚き、

そしてパインに向かって言った。

ゾル:「パイン。

   直ぐにここから出るぞ。」

パイン:「えっ。」

ゾル:「急げ!!」

2人は来た道を戻り、洞窟の手前の小部屋まで移動した。

ゾル:「多分、ここまでくれば安心だろう。」

パイン:「どういうことですか?」

パインがゾルに問いかけた時、

謎の声によって会話は中断された。


 「貴様らは何者だ?」


2人は声のする方向を見た。

そこには、プレートメイルを着込み、手に戦斧(せんぷ)を持った

髭面の男が立っていた。

プレートメイルと戦斧が淡い光を放っている。

魔法のかかった武器防具だ。

どんな魔法具かは分からない。

しかし、かなり危険な存在であることは間違いなかった。


 「んっ?

 そっちの魔導士はカッパータグか。

 冒険者なのか?

 いや、冒険者なら赤のローブなど着るはずがない*2。

 冒険者協会?

 いや、冒険者協会ならこんな回りくどいことはしない。

 王国?

 いや、ちがうな、王国には奴がいる。

 なるほど、そう言う事か。

 貴様ら、公国の者だな。

 我々をつけてきたんだな。」

この者の思考は分からなかった。

しかし、的を得ている事を考えると

かなり頭の回る者であることは間違いなかった。

パイン、ゾル:「・・・」

その時、魔法詠唱が聞こえた。


ゾル:「しまった。」

そう思った時には既に遅かった。

2人を魔法の糸でグルグル巻きにされ、

そのまま崩れ落ちるように倒れた。

ゾルは、すぐに魔法を唱えたが、何も起こらなかった。

パインは、力を込めて糸を引きちぎろうとした。

しかし、糸はびくともしなかった。


ゾル:「パイン、無駄だ。

   拘束の魔法*3だ。

   キャンセルマジック*4でないと解除できない。

   それにどうやら私よりも経験を積んだ魔導士のようだ。」


 「ほぅ。

 いい評価をありがとよ。」

そう言いながら一人の男の魔導士が現れた。

パイン達は、魔法の糸によって全身を覆いつくされようと

していた。


 「いつみてもいい眺めだ。」

 「リーダー。

 例の物が見つかったようです。

 「そうか、見つかったか。

 早速向かうとしよう。」

ゾル:「おい、警告を無視するのか?」

 「警告?

 我々を誰だと思っているんだ?

 泣く子も黙る。

 ヘマタイトチームだぞ。

 お前らの処分は後で決める。

 それまで静かにしていることだな。」

自信の表れかそれとも魔法具の力を信じてなのかは

分からなかった。

しかし彼等は躊躇することなく扉の先へと進んで行った。


ゾルは思った。

奴等は、自分たちの正体を晒した。

戻ってきたら我々を殺すだろう。

しかし、、、。


しばらくの間、無言の時間が続いた。

どのぐらいの時間が経ったのだろうか?

静寂を破ったのはパインだった。


パイン:「あいつら、処分は後で決めるって、

    まさか殺すつもりじゃないだろうな。」

ゾル:「いや、大丈夫だ。

   彼等は、もう戻ってこないだろう。」

パイン:「どうしてそう言えるんだ?」

ゾル:「さっきの警告を思い出せ。

   そしてこの遺跡の構造だ。」

パイン:「遺跡の構造?」

突然、扉が音も無く閉まった。

そして扉の側の壁が光を帯び始めた。

ゾル:「どうやら、始まったようだ。」

壁の光はどんどん強くなる。

そして、眩しいぐらいに明るくなった後、

突然光は消え失せた。

パイン:「今のは何だったんだ?」

ゾル:「魔法が発動したんだ。

   何の魔法かは分からないがな。」

パイン:「魔法だって。」

ゾル:「この遺跡は魔法陣なんだ。

   あのへんな形の壁。

   あれは、きっと魔法文字だ。

   上からみれば魔法陣になっているんだろう。」

その時、扉の先の通路から足音が聞こえた。

コツン、コツン、コツン。

ゾル:「まずいな。

   まだ生きているのかよ。」

コツン、コツン、コツン。

足音は次第に大きくなっていった。

そしてついに扉が開いた。

現れた1人の人物に2人の目は釘付けになった。


2人は、頭の上からつま先まで電撃が走ったように感じた。

ゾル、パイン:「美しい。」

ボソッと呟いた。

2人の第一印象はそれだった。

『美しい』、それ以外の言葉が思いつかなかった。

小さめの顔から伸びた黒い髪、胴からすらっと伸びた白い

両腕と両足。

何よりも目を引いたのは、服装だった。

なめし皮で作られた、身体にフィットする黒いドレス。

その所々が魔法文字の形状にくり抜かれており、

そこから見える白い肌が艶めかしかった。


 「どうやら貴方達は、盗掘ではないようね。」

まるで天使が発する様な美しい声だった。


女性が何やら呪文を唱えると、パイン達の拘束が解けた。

直ぐにゾルは(ひざまず)き、(こうべ)を垂れた。

パインは立ち上がると女性に対峙した。


パイン:「助けていただいて感謝します。

    貴方は何者なんですか?」

 「へぇーっ。

 私の魅了(チャーム)をレジストするんだ。

 貴方、名前は?」

パイン:「私はパイン。

    隣にいるのがゾルです。」

 「パインとゾル。

 良い名ね。

 私は、キーラ。

 魔導士キーラよ。」

パインは、驚いた。

パイン:「えっ。

    あなたが大魔導士キーラ様。

    私達は、貴方に会いに来たのです。」

パインは、キーラを老婆のような女性と思っていた。

その驚きは当然ともいえるだろう。

キーラ:「んーと。

    先ず言っておくわね、敬称は不要よ。

    キーラでいいわ。

    それで、私にどんな用事があるのかしら?」

パインは、メダルを見せると、ここに来ることになった

経緯(いきさつ)を話した。


キーラ:「なるほどね。

    それで、パインも啓示を受けたの?」

パイン:「はい。」


キーラ:「さて、まずは、その人の魅了を解かないとね。」

そう言うと、ゾルの頭の上に手を当てる。

直ぐにゾルは正気を取り戻した。

キーラ:「さて、ゾルさん。」

ゾル:「はっ。」

ゾルは、恥ずかしいのか、

キーラの顔をまともに見る事ができない。

キーラ:「貴方は、1人で大公の元へ戻ってください。

    私とパインは、夕方に屋敷に向かうから。」

ゾル:「畏まりました。」

そう言うとゾルは少し離れた位置へ移動すると、

帰還の魔法で公国へと戻って行った。


キーラ:「さて。

    いくつか教えて頂戴。」

パイン:「なんでしょうか?」

キーラ:「グレイグと言う名に聞き覚えは?」

パイン:「えっ。

    何故その名前を。」

キーラ:「なるほどね。

    分かったわ。

    もう話す必要はないようね。」

パイン:「何か知っているのですか?」

キーラ:「いや、まだその時じゃない。

    この話はここで終わりにしましょう。」

パイン:「そうですか。」

パインは、残念だった。

しかし、キーラは言っていた。

 「まだその時じゃない」と。

いずれグレイグの事を知る日が来るということだ。

パインは、グレイグを知っている者がいることに感謝した。


キーラ:「さて、次の話ね。

    貴方は精霊魔導士を極めたいと

    考えているのでしょう?」

パイン:「はい。」

キーラ:「なら、私の弟子にならない?」

パイン:「えっ。

    光栄なことですが、何故私なのですか?」

キーラ:「貴方は私の魅了をレジストした。

    魅了に対抗するにはいくつかの方法があるの。

    一つ目は、対魅了用の魔法陣を身体に彫り込むこと。

    これは、もっとも効果的な方法ね。

    二つ目は、対魅了用の魔法を掛けておくこと。

    でも、これには欠点があるのよ。

    上位者の魅了に対しての効果が著しく低いのよ。

    三つ目は、生まれながらに持つ耐性ね。

    一つ目、二つ目は、本人の努力によりいくらでも

    変える事ができるけど、三つ目は別なの。

    耐性を強化する方法はないから、これは素質なの。

    この服は初めて会った者を魅了するんだけど、

    貴方は、魅了をレジストした。

    対魅了用魔法陣や対魅了用魔法ではなく、

    己の耐性のみでレジストしたのよ。

    この意味は大きい。

    耐性の高い者は、魔法に対する受容性が高いと

    言われているしね。

    つまり、貴方は魔導の深淵を覗き見る資格を

    持っているということ。」

パインは、驚いた。

いきなり資格を持っていると言われても。

パイン:「えっ、いや、どうしたら、、、。」

キーラ:「直ぐに決めろとは言わないわ。

    そうね。

    今の問題が解決するまで考える時間を与えましょう。

    私は貴方と共に行動し、魔法の応用と組み合わせ*5を

    教示しましょう。

    それでどうかな?」

パインは、しばらく考えそして決心した。

パイン:「はい。

    よろしくお願いします。」

キーラ:「うむ。

    よろしい。

    さて、それでは初めての教えね。

    これから公国へ転移したいとします。

    しかし、私は公国の転受の魔法陣を知らない。

    つまり、公国へと転移することが出来ない。

    もちろん、帰還の巻物を使うとか、

    知っている者に便乗するなどは、論外だから。

    どうすればいいと思う?」

パイン:「それじゃあ、無理じゃないですか?」

キーラ:「アナライシズマジックを知っている?」

パイン:「はい。

    残留魔塵を分析して、魔法の種類や威力を

    知る魔法ですよね。」

キーラ:「そうよ。」

パイン:「でも、学院では使用頻度の少ない魔法だと言う理由で、

    詳細には教えてもらえませんでした。」

キーラ:「なるほどね。

    転移の魔法(テレポーテーション)の残留魔塵に使うと、

    どこに飛んだかが分かると言ったら?」

パイン:「えっ、そうなんですか?

    いや、しかし、場所が分かったとしても飛ぶことは

    出来ないんじゃないですか?」

キーラ:「別々に使えばね。

    アナライシズマジックとテレポーテーションを

    組み合わせればどうなるかな?」

パイン:「なるほど!!」

キーラ:「これが、魔法の応用と組み合わせよ。

    貴方は、学院で詳細を教えられなかったからと言って、

    それを受け入れ、自分で調べる事を怠ったのよ。

    学院では、最低限のことしか教えてくれない。

    たかが数年で教えられる事等、限られているの。

    魔導は生涯をかけて学ぶものだと知りなさい。」

パインは、目から鱗が落ちたように感じた。

そして、今までになく輝いていた。

パイン:「はい。

    わかりました。」

キーラ:「では、早速ゾルの残した残留魔塵から公国へ

    転移するとしましょう。」

パイン:「あっ、その前に質問が。

キーラ:「なんですか?」

パイン:「遺跡の魔法陣は、あなたが作ったのですか?」

キーラ:「へぇー。

    あの立体魔法陣に気が付いたの。

    あれを作ったのは私じゃないわ。

    この遺跡を建てた者よ。

    ところで、立体魔法陣に気付いたのは貴方なの?」

パイン:「いえ、私ではありません。

    ゾルです。」

キーラ:「なるほど、あの若者か。

    おもしろいわね。」

パイン:「ところで、

    ヘマタイトチームはどうなったのでしょう?」

キーラ:「ヘマタイトチーム?

    あぁ、盗掘の事か。

    やつらは、何処かに飛ばされたわよ。

    たぶん、ここより遥か南の地でしょうね。」



*1:ヴォールト

 アーチを平行に押し出した形状(かまぼこ型)を特徴とする

 天井様式および建築構造の総称。

 日本語では穹窿きゅうりゅうと訳される。


*2:冒険者なら赤のローブなど着るはずがない

 冒険者同士の戦いは情報戦でもある。

 相手の能力を知り、自分の能力を悟らせない。

 能力を知っていれば事前の対策も可能だ。

 そのため王国や公国の人間や能力に自信がある場合を除いて、

 茶色のローブを着る者がほとんどである。


*3:拘束の魔法

 魔法の糸を出現させ対象を絡めとり動きを封じる。

 永続魔法との組み合わせにより長期間拘束可能となる。

 発動直後は、両手両足程度だが、時間が経つにつれ、

 拘束は大きくなり、最終的には頭だけを残して、

 繭のような状態になる。


*4:キャンセルマジック

 永続魔法を解除する為の魔法。

 自分と同等以下の魔導士の発動した永続魔法を

 解除することができる。


*5:魔法の応用と組み合わせ

 魔導士と呼ばれる者は、たとえ見習いだとしても

 対象系統魔法の基礎(LV0)を修得している。

 LV0では、効果を現さない魔法もあるが、

 魔法の組み合わせによって効果を得る事もできる。

 たとえば、マジックアローは、魔法の矢を作り出す魔法だ。

 これに炎や氷の魔法を組み合わせる事により、

 ファイアアローやフリーズアロー等を生み出す事ができる。

 2つ、3つと組み合わせる事により、様々な効果を

 生み出す事ができるのだ。

 しかし、応用と組み合わせはそれほど単純ではない。

 魔法と魔法を繋ぐ魔法語を見出さなければならない。

 場合によっては、魔法語を生み出さなければならないのだ。



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