ジェムの称号
次の日、パインは軍議室にいた。
ドリムのほかには、マッカス、シルカー、ゾルだった。
ドリム:「さて、今日集まってもらったのは、
大魔導士キーラについてだ。」
パインは驚いて声を上げてしまった。
パイン:「キーラだって?」
全員の視線がパインに集まる。
パイン:「申し訳ありません。
つい大声を上げてしまいました。」
ドリム:「よい、よい。
パイン君は、大魔導士キーラを知っているな。」
パイン:「もちろんです。
魔導書を最初に作った伝説の魔導士の一人ですね。」
今から200年ほど前。
魔導士は、魔導を一人で研究する者がほとんどだった。
中には、弟子をとり一緒に研究を行っている者もいたが、
それはごく少数であったため、魔導士への道を閉ざしていた。
そんな中で3人の魔導士が立ち上がった。
精霊魔導士の深紅のキーラ、
神聖魔導士の純白のセイラ、
邪神魔導士の漆黒のゾーラの3人だ。
3人は魔導士への道を開くため魔導書の製作に注力した。
そして現在の魔導書の基礎となるものを作り上げた。
3人を超える魔導士が過去には存在したかもしれない。
しかし、その記録は存在しない。
3人が作り上げた魔導書は高度であり、
その全てを理解できた者は、現在でも現れていない。
その為、3人を大魔導士と呼ぶようになった。
そして、国として大魔導士と正式に認定している者は、
伝説の3人以外には存在していない。
ドリム:「そう。
伝説では3人の大魔導士はどうなったか知っているか?」
パイン:「セイラとゾーラは、魔導書を書き上げた後に
亡くなっています。
確かキーラは、山に籠ったはずです。」
ドリム:「その通りだ。
ところで、裏伝説というのを知っているか?」
パイン:「裏伝説ですか。
いえ、聞いた事はありません。」
ドリム:「そうだろうな。
この伝説は限られた者にしか伝えられていない。」
パイン:「それで、どんな話なんでしょうか?」
ドリムはニヤニヤとしながら言った。
ドリム:「おっ、乗ってきな。
裏伝説はこんな話だ。」
そう言って、ドリムは話始めた。
魔導書を作り上げた後、3人は協力し合い、ある研究を始めた。
研究は順調に進んだ。
そしてついに完成まで漕ぎ着けることが出来た。
しかし、材料の一つがあまりにも希少すぎ、
3人分の薬しか作る事が出来なかった。
量に制限がある以上実験等を行う事は出来ない。
そこで3人は、3等分した薬を己の身体で試すことにした。
これにより、3人の内2人が死亡し、1人が生き残った。
生き残ったのは、キーラだった。
そしてキーラは北の山に籠った。
王国、公国が建国したとき、キーラは山を下りた。
そして初代国王と初代大公と密約を交わした。
それはキーラの住んでいる北の地をキーラの領地とすること。
通常時は、お互いに干渉しない。
非常時は、お互いに助け合う。
お互いにそれを守る事を誓い、
何時の日にか起こるであろうことを想定し、
このメダルを持ちあった。
ドリムはメダルをテーブルの上に置いた。
ドリム:「まあ、こんな話だ。」
パイン:「まさかキーラはまだ生きているというのですか?」
ドリム:「大魔導士が3人も集まって、
何を研究していたと思う?」
パインは考えた。
そして、ある言葉にたどり着いた。
パイン:「まさか、不老不死の研究ですか?」
ドリムは、ニヤッと笑うと答えた。
ドリム:「やはり、そこにたどり着くな。
まぁ、裏伝説を知ったなら、
大抵の者は、そう考えるだろう。
一番しっくりとくるしな。
私もそう考えた。」
パイン:「いや、でも。」
ドリム:「実は、私も半信半疑だ。
しかし、先代の大公はこのメダルを渡すときに
密約が無効になった時に、
このメダルは壊れると言っている。
つまり、まだ密約は有効だと言う事だ。」
パイン:「キーラが生きていればメダルは壊れないと。」
ドリム:「その通りだ。」
パイン:「非常時というのは?」
ドリム:「もし、君と同じ力を持つ者が、
敵に100人いたとしよう。
王国、公国は、国を守り切れると思うか?」
パインは驚いた。
そんなことは考えもしなかった。
しかし、そんなことはあるはずはない、とは言えなかった。
この短い間に3人もの存在を知ったのだ。
自分、監視塔での襲撃者、そしてノリス。
存在する可能性は高いし、さらに増える可能性もあるのだ。
パイン:「難しいでしょうね。」
ドリム:「隠密行動等、直接戦闘で無いとしたら、
たとえ10人だったとしても、
守り切る事はできないだろう。
つまり今は非常時なのだよ。」
パイン:「分かりました。
それで、私はどうすればよいですか?」
ドリム:「ゾルと共に大魔導士キーラの元に行ってほしい。
そして、このメダルを見せるのだ。
キーラは必ず協力してくれるだろう。」
パイン:「ちょっと待ってください。
北の山といっても広すぎます。
何処をさがしたらいいのですか?」
ドリム:「それならば、案ずることは無い。
このメダルが導いでくれるだろう。
あと、これを持って行け。」
ドリムは、小瓶を取り出すと2人の前に差し出した。
ドリム:「回復のポーションだ。
数は少ないが何かの助けになるだろう。」
その日の夕方、パイン、ゾルの2人は、公国の最北の村である、
トモフ村に到着していた。
酒場で食事をしているときに、その噂を耳にした。
「おぃ、聞いたか?」
「この村に、ヘマタイトが来てたらしいぜ。」
「ヘマタイト?
それ、うまいのか?」
「冒険者だよ、ボ ウ ケ ン シ ャ。」
「冒険者かよ。
そいつは有名人なのか?」
「いや、俺も初めて聞いた。」
「なんだそりゃ。」
「この村の冒険者協会の友人が驚いてたんだよ。
ヘマタイトが来たってな。」
「ふーん。それで?」
「友人が言うには、冒険者チームってのは
ランク分けされてるんだが、
その最高峰には、宝石の名前がつくらしい。」
「ヘマタイトってのは、宝石の名前なのか?」
「どうもそうらしいんだ。」
「へー、それで?」
「なんでも、北の山に住む魔物を倒しに来たらしいんだ。」
「北の山に魔物なんているのか?」
「ヘマタイトの話では、いるらしい。」
「しかしなあ、生まれてこの方、北の山の魔物なんて
聞いた事すらないけどな。」
「あぁ、家の親父や爺さんにも聞いてみたけど、
そんな話は聞いたことが無いって言ってたよ。」
「まあ、冒険者のやることは俺らにゃわかんねえよ。
とりあえず飲もうぜ。」
パイン:「今の話、聞きましたか?」
ゾル:「あぁ、ヘマタイトと言えば、
悪い噂の絶えない冒険者チームだな。」
パイン:「えっ、どんな噂なんですか?」
ゾル:「噂というか訴えだな。
多いのは窃取だ。」
パイン:「窃取ですか。」
ゾル:「あぁ、運搬依頼された品物の中から高価なものを選んで
窃取したと言われている。」
パイン:「言われている、だけですか?」
ゾル:「証拠がないんだよ。」
パイン:「どういうことです?」
ゾル:「運搬依頼の場合、品物は目録と一緒に運搬される。
受取時に双方立ち合いの元、目録で確認される。
受渡時も同様だ。
訴えでは、目録が改ざんされたらしい。
それを証明することができなかったんだ。
今までに同じ訴えは3件発生している。」
パイン:「そんなに。」
ゾル:「次に多いのが依頼人への提訴だ。」
パイン:「提訴ですか。」
ゾル:「彼等に依頼すると訴えられると
一時期話題になったものだ。
次に多いのは盗掘だ。
王国、公国の領地内で発見された遺跡や財宝は、
発見者と土地の所有者の間で相談分配されるのが
決まりになっている。
しかし、彼等はそれを盗んでいるという噂があるんだ。
どこから情報を入手しているのか分からないが、
発見から申請までの間に盗掘していると思われる。
これについては多くの目撃情報も得られている。」
パイン:「それが事実なら、酷い奴らですね。」
ゾル:「あぁ、だが証拠が無いので手が出せないんだ。」
パイン:「ところで、彼等は北の山の魔物を退治しに行くと
言っていたみたいですが、
まさかキーラってことはないですよね?」
ゾル:「どうだろうな。
そもそも彼等が本当の事を言っている
とも限らないしな。」
パイン:「ところで、メダルがキーラの所に導いてくれるって、
本当なんですか?」
ゾル:「さあな。
あれは、あくまでも言い伝えだ。」
パイン:「だとしたら、何処に向かえば?」
ゾル:「あぁ、それならば、心配するな。
行くべき場所は一つしかない。」
パイン:「どこです?」
ゾル:「遺跡だ。」
パイン:「遺跡?」
ゾル:「北の山の山奥には遺跡がある。
その場所ははっきりとしている。
3人の大魔導士は、その辺りをねぐらにしていたんだ。
これはあくまでも言い伝えだけどな。」
パイン:「また、言い伝えですか。」
2人はこの後も話に花を咲かせた。
一泊すると次の日の早朝、北の山に向けて出発した。
登山は特に問題もなかった。
そして、昼には一番手前の山の山頂にたどり着いた。
そこから見えるのは、鋭く尖った山々だった。
パイン:「これはすごい。
絶景ですね。」
ゾル:「何を呑気な事を。
これから向かうのは、あそこだぞ。」
ゾルは、一ヵ所を指さした。
パインが指さす方向を見ると、黒ゴマのような小さな影が
山頂辺りの空を飛びまわっていた。
パイン:「あれは何だ?」
パインは、その影に意識を集中した。
パイン:「鳥?
いや、人か?
上半身が女性の鳥に見える。」
ゾルも同じ方向を見た。
しかし、見えるのは只の点だった。
ゾル:「あれが、見えるのか、、、。
上半身が女性に見えるなら、ハルピュイア*1だろう。」
パイン:「ハルピュイアですか。」
ゾル:「足元がしっかりとしている場所ならば、
それほど脅威ではないよ。
空を飛ぶから戦いにくい事はたしかだが、
落ち着いて対処すれば問題はないだろう。」
パイン:「なるほど。」
ゾル:「しかし、気になる事はある。
あの辺りは、これから向かう方向だという事だ。」
パイン:「ハルピュイアと戦闘になるかもしれませんね。」
ゾル:「場合によっては、そうなるだろうな。
慎重に進むとしよう。」
パイン:「分かりました。」
2人は北方向へと山を下って行った。
山の中腹まで下った辺りで、景色は一変した。
峡谷*2だった。
少し進むと崖になっており、先へと続く道が無いように思えた。
パイン:「この先、どうやって進むんですか?」
ゾル:「あれだよ。」
ゾルはある一方方向を指差した。
それを見たパインは驚いた。
桟道だった。
切り立った崖に板が延々と張り付いていた。
板の幅は20cm程度しかない。
そして身体を支える為の鎖が一直線に延びていた。
パインはゾッとした。
パイン:「まっ、まさかあんなところを進むんですか?」
ゾル:「あぁ、その通りだよ。
あれしか道が無いんだ。
大丈夫だよ。
身体を支える為の鎖もある。」
パイン:「板が腐っているとかないんですか?」
ゾル:「問題ない。
板も鎖も魔法で補強されている。」
パイン:「んー。」
ゾル:「さっさと行くぞ。」
そう言うとゾルは桟道に近づき足を踏み出した。
しかたなくパインも続く。
2人は、鎖をしっかりと掴みながら、
カニ歩きの要領で進んで行った。
ゾル:「下を見るなよ。」
パイン:「見たくても、みれませんよ。」
ゾル:「そうか、それが賢明だよ。」
パイン:「ところで遺跡には行ったことがあるんですか?」
ゾル:「いや、残念ながら、遺跡までは行ったことは無いんだ。
メダルを持たぬ者は近づいてはいけないと
言われているからな。」
パイン:「また言い伝えですか。」
ゾル:「あぁ、そうだ。」
最初のうちは、恐怖を感じていたパインだったが、
進むに従い、恐怖は薄れていった。
そして、なんとか1つ目の桟道を渡り切った。
崖をくり抜いて作ったのだろうか?
休憩場所のような空間だ。
パインは、地面には赤黒い染みがあるのに気が付いた。
パイン:「これ、血でしょうかね。」
ゾル:「そうみたいだ。
結構新しそうだな。」
そう言いながら、ゾルは腹ばいになり、慎重に崖下を覗き込む。
そして崖の途中に生えた木の上に両羽を広げて倒れている
ハルピュイアを発見した。
ハルピュイアは全く動かない。
ゾル:「崖下にハルピュイアの死体がある。
どうやら、誰かがハルピュイアに襲われたみたいだな。」
その時、パインはゾルの身体の上に影が移動するのを見た。
素早く上を見上げた。
ハルピュイアだ。
ハルピュイアは、羽を大きく広げ、鉤爪を伸ばして、
今にもゾルに掴みかかろうとしていた。
パインは居合抜きの要領で、剣を抜くと上段に向けて振った。
手ごたえはあった。
ハルピュイアは、バランスを崩して落下する。
パインはほっとした。
パイン:(もう大丈夫だ。)
そう考えた時、ゾルの身体が崖下に向けて、
引きずられて行くのが見えた。
パイン:(まずい!!
間に合うか?)
パインは知っていた。
グレイグが助けるのは、己の身に危険が迫った時と
グレイグが有益だと判断した時だけだと。
パインはとっさにゾルのローブを掴んだ。
ゾルとハルピュイアの体重がパインの片腕にかかる。
重さに関しては全く苦ではなかった。
問題は足場だ。
滑らかな足場は身体を支える所がなかった。
パインはずるずると引きずられて行く。
咄嗟に腹ばいになった。
しかし、身体の滑りは止まらなかった。
ゾルはハルピュイアと共に足場の外側にいた。
唯一の支えは、ローブを掴んだパインの右手だけだった。
その時、ハルピュイアが羽をばたつかせた。
同時にゾルのローブがビリビリと音を立てた。
パイン:「手に掴まれ!!!」
そう言って、パインは左手を差し出す。
ゾルは、身をよじってパインの手を掴もうとする。
「ビリビリビリッ。」
パインの右腕が重さから解放された。
ローブが破れ、大きな塊が崖下へ落下して行った。
パインは焦った。
しかし、同時に左腕に強く引っ張られる感覚があった。
ゾルは、パインのローブの袖口を掴んでいた。
パインは直ぐに右手を伸ばしゾルの手首を掴んだ。
パイン:(同じだ。)
それはアリスの時に感じた感覚と同じだった。
*1:ハルピュイア
顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鳥。
ハーピーとも呼ばれる。
*2:峡谷
谷の断面が、V字形をなす両岸が険しい崖になっていて
谷底平野を持たない。
渓谷と比較してさらに深い谷の事。
*3:桟道
切り立った山腹や崖等に沿って、
木材で棚のように張り出して設けた道。
桟道で画像検索すればイメージがつかめるだろう。




