魔女と兎と家の呪い~悪魔の技術で発展した明魔の時代、とある社長のマイホームが出来るまで~
令和が去り、新たな元号"明魔"となった日本。そこでは新たな技術が使われていた。
ここはとある会社のビル、その中の社長室である。
席に座っているのがここの社長。顔の皺と白髪から、まもなく定年退職であることがわかる。その隣の席には、眼鏡をかけた女性秘書が座っていた。
「そうか、建築は中止......」
「はい、一度目は転落事故で従業員が骨折、二度目は数人の従業員が熱で倒れて入院、ついに三度目には木材が落下、下にいた従業員が下敷きとなって死亡したそうです」
「そこまでの事態となっては仕方ない、報告ありがとう。しかし、何か取り憑かれているのだろうか......」
時計は午後9時を指している。
「建設していたのは確か、社長の住宅でしたね」
「ああ、プライベートな話ではあることはわかっている......だけど、大きな家を持つことが俺の夢だったんだ。独り身であるが、大きな家をな......」
「......」
秘書は黙ったまま、机の引き出しを開けた。その中には一枚の名刺が見えていた。
「社長、これを機会に最先端の技術に触れてみませんか?」
「最先端の技術......まさか」
その名刺に秘書の手が触れた。
ー悪魔なんでも事務所・魔女と兎ー
chapter1 森の中の洋館
翌朝、会社がある街から遠く離れた山奥を、一台の車が走っていた。
「しかし、なぜこちらから行かなくてはならないんだ?」
助手席に座っている社長が、運転席に座っている秘書に尋ねる。
「これから依頼する人物は、契約は事務所でしかしない主義ですから」
「本当に信頼できるんだろうな?」
「彼女は"魔術師"の中でも優秀です。少し料金は高くなりますが、確実に仕事をこなすと評判です」
「ふうん、魔術師ねえ。確か、"悪魔の技術"の専門家なんだろ?」
「はい。蒸気機関からAIまで続く産業革命、その五つ目と言われているのが悪魔を使った技術です。そもそも悪魔とは......」
「よしてくれ。お前からは何度もその話を聞いたが、全然話が入ってこない。せめてどんな所に使われているか教えてくれ」
「そうですね......この自動運転がそのひとつです」
秘書の座る運転席には、ハンドルはおろか、アクセルやブレーキすらなかった。その代わりにタッチパネルがあるだけだ。
「AIじゃあなかったのか!?」
「それは企画段階の話です。悪魔による技術が発達してからはそちらに乗り換えたのでしょう」
「まったく知らなかった......まさかここまで悪魔が取り憑いているとは」
「自動運転以外にも、医療、介護、工業、生産、セキュリティ......悪魔の技術は至るところに使われています」
「そして、俺のマイホームにも使うんだろう?」
「社長が依頼していた建設会社は、はっきり言って古いやり方を使った会社です。悪魔を使った建設方法を利用したほうが費用を押さえることができます」
「それはわかっているよ。ただ......なんというか......人には人の良さが......」
「社長、そんなことを言っているから、年々利益が減っているでしょう」
「はいはい......わかっているよ」
車は、ある建物の前で止まった。
「......本当にここなのか?」
「はい、ここで合っています」
車から降りた二人の目の前には、古びた洋館が立っていた。
「その魔術師って職業の人間は、こんな不気味なところが好きなのか?」
「いいえ、これは単なる彼女の趣味らしいです」
そう言いながら秘書はインターフォンを押した。
しばらくしてから、玄関の扉が開いた。
「......」
社長は扉を開けた者を見て騒然とした。
「どしたの、じいさん」
「ウサギが......立っている......喋っている......」
扉を開けたのは二足歩行の白ウサギ。童話に出てきそうなスーツを着こなしており、垂れ耳の頭にはシルクハットを乗せている。
「お......おい......説明しろ」
社長は助けを求めるように秘書を見た。
「お忙しいところを失礼します。先日、相談の予約をした......」
「違う、そうじゃない。こいつ......いや、このウサギが立っている訳を!」
「ウサギが立ってて何が悪いのさ」
ウサギは不満そうにそっぽを向いた。
「この子はウサギに、悪魔の技術で知能を高めたペットです」
「そこのお姉さんも失礼だよ。ボクはペットなんかじゃない、"悪魔何でも事務所・魔女と兎"の所長"レイワ"の助手、"マウ"っていう名前があるんだ」
「これは大変失礼しました」
秘書はあくまでも事務的な態度だった。
「君たち、建築の依頼で来たんだろ? 案内するからついてきてよ」
そう言って二足歩行のウサギ......マウは屋敷の中へと入って行った。社長と秘書も後に続き、屋敷に足を踏み入れた。
chapter2 廊下の中で
「じいさん、魔術師に仕事を依頼するの初めてなの?」
廊下を歩く中で、マウは耳を動かしながら答えた。
「ああ、なんか......悪魔とか言うのに馴染めなくてな」
「それは時代遅れだよ! じいさん、社長なんでしょ!? この明魔の時代に......」
「そうだが......さっきも時代遅れだと言われたばっかりなんだよなあ」
秘書は答えなかった。その様子を見てマウは鼻を速く動かした。
「まあいいや。じいさんも大切なお客様になるからね......さて」
マウはとある扉の前で止まった。
「ここが......レイワって魔術師の部屋なのか」
「ああそうだよ。先に言っておくけど、彼女は口が聞けないからね」
「電話した時にお聞きしております。彼女の意思は、マウさんが代わりに答えると」
秘書の答えに、マウは満足そうに頷いた。
「それじゃあこれからレイワと会うけど......じいさん、どんな姿を想像する?」
「どんな姿って......偏見かもしれんが、お婆さんじゃあないか? 事務所の名前に魔女って書くもんだし」
「残念! ハズレでーす。答えは......」
マウは扉をノックし、扉をゆっくりと開けた。
部屋のソファーで座っていたのは、十代ぐらいの少女だった。雪のような白さを持つ肌と、これも白いミディアムウルフの髪型、整った顔つき、そして、やや紫が混じった黒色パーカーが特徴的の彼女は、社長たちを見て深くお辞儀をした。
chapter3 契約
「屍江稻 令和......令和って、前の元号の?」
名刺を受け取った社長が尋ねると、少女こと"令和"は笑顔で頷いた。
部屋にはコーヒーを乗せたテーブルをソファーで挟む形になっており、扉側のソファーには社長と秘書が、その向こう側のソファーには令和とマウが座っていた。
「さて、そこのじいさん......社長さんのお家を建てたいが、相次ぐ事故で工事が中止になった。そこで令和に悪魔を使った建築作業を依頼する......そんな話だったよね?」
「はい、こちらが建築予定の場所です」
そう言って秘書はタプレットを取り出し、令和の前に差し出した。
令和はタプレットに写っている写真や間取り図を眺め、マウに向かって親指を立てた。
「うん、出来そうだって」
「何日ぐらいで出来るんだ?」
今度は令和の指は人差し指を立てた。
「一ヶ月......以外と速いな」
「社長さん、なに勘違いしていつのさ。1日で出来るって意味だよ」
「......もう何も驚かないぞ」
「悪魔の技術を使った建築......悪魔建築は効率を求める傾向にあるんだ。1日でも遅れたら取り消すお客さんだっているんだよ......あ、コーヒー飲んでいいよ」
「それじゃあ、いただきます」「いただきます」
社長と秘書、令和が紅茶を飲み一息ついたところで、マウが再び口を開いた。
「君たち、他に質問はあるかい?」
「......質問ではありませんが、ひとつ注文があります」
秘書が手をあげた。
「社長を工事の現場に同行させてください」
「いきなり何勝手なこと決めているんだ!?」
社長の言葉に、マウは腹を抱えて笑った。
「あははは!! ご本人が現地でオーダーメイドかあ! いいねえ、悪魔建築の得意分野だよ! 社長さんの社会勉強にもなるしさ! そうでしょ、令和?」
令和は二度頷いた。秘書は丁寧にお辞儀を返した。
「ありがとうございます。それでは、そろそろ依頼料の話になりますが......」
chapter4 オーダーメイド
その翌日、社長は一人で住宅街の中の建築予定地に向かった。予定地には作りかけの家が残っていた。
「あ、社長さん! おはよう!」
その前には令和とマウが立っていた。令和は昨日と同じ服装に加えて、ショルダーバックにヘルメットを装備しており、マウはヘルメットとツナギを着ていた。
「ああ、おはよう......昨日から思っていたが、まさかオーダーメイドと建築を同時にするのか?」
「うん。そのまさかだよ」
ため息をつく社長。
「......悪魔を使った技術ってのは、まるで魔法だな」
「だから魔術師っていう職名じゃない。とにかく早く建築始めちゃおうよ」
二人と一匹は作りかけの家の中に立った。
「これは風通しのいい欠陥住宅だねえ」
「作りかけだから当たり前だ。本当に残したままでいいのか?」
「うん、それじゃあ令和、始めちゃってよ」
マウに言われた令和は頷き、ショルダーバックからタプレットを取り出した。
「タプレットでやるのか」
「悪魔の技術を使う時はアプリを使う。直接儀式をする方法もあるけど、この時代ではまず使わないね」
タプレットを動かす令和の指が止まり、入ってきた入り口を指した。そこにはまだ扉は設置されていなかった。
「あの扉はどんな感じがいいのかって」
「あ......ああ、ちょっと待ってくれ。昨日渡されたチラシだすから」
そう言って社長は、何枚かのチラシを取り出した。様々な扉や壁紙などの写真が載っているチラシだ。
「それじゃあこの形の扉を頼む」
社長は写真のひとつを指差し、令和に見せた。令和は満足そうに親指を立て、タプレットを入り口に向けて操作した。
「さて社長さん、あの扉をよーく見ているんだよ」
入り口に黒い球体が現れた。それは四角形に変わり入り口を塞ぎ、色が変わり......
「扉に......なった!? それも、俺が指定した扉に!?」
chapter5 異変
その後、作業は順調に進み、昼頃になると外側はほぼ完成状態になっていた。
今、三人は近所の公園で昼休憩を取っていた。
「......令和さん、あんた、何も食べないのか?」
おにぎりを片手に社長が尋ねた。令和の手にはキャンディーが一粒しかなかった。
「令和はあまり食欲旺盛ってわけじゃあないんだ。気にしないでいいよ」
牧草を食べながら答えるマウ。
「そうなのか? それはそうと、さっきのあれはなんだったんだ? 壁や床、階段に変わった黒い球体......」
「あれはねえ......悪魔が作っていたところだね」
「?」
「悪魔は普段、肉眼では見ることができない。技術を借りるには儀式かアプリを使って悪魔と連絡し、交渉して対価となる報酬を支払う必要がある。今回は秘書さんからの資金を使っているから気にしなくてもいいよ」
「???」
「そもそも悪魔って言うのは......ん?」
マウの肩をつついた令和は、困惑している社長の顔を指差した。
「プッ! 何その顔......じゃなかった。ゴメンゴメン!! 難しい話だったね!」
その後、建築予定地に戻った三人。
「さて、あとは内装を仕上げて、家具を設置すれば終わりなんだよな?」
「社長さんもようやく順応してきたねえ。窓ガラス忘れているけど」
「それは俺のせいじゃないだろ」
すっかり馴染んだ社長とマウの会話に、令和は片手を口に当てて微笑んだ。
しかし、令和の片手は口から鼻へと移った。
「......なあ、なんか変な匂いしないか? 何かが燃えるような匂いが」
「バーベキューしているんだよ。社長さん、割り込んじゃえば?」
「この近くの公園は焚き火禁止だぞ!? この辺りで何かが燃えるとすれば......!」
社長が声を途絶えるよりも速く、令和は窓の側へと駆け出した。社長とマウも後に続く。
道路に面した窓から黒い煙が漏れていた。
「くそっ! 火事かっ!! 消防車呼ぼう!!」
「落ち着いて社長さん!! この時代に消防車ないから!」
マウが社長を連れて現場から離れている間に、令和は窓から中を覗こうと試みた。しかし、煙のせいで中が見えないため、窓から離れた位置からタプレットを操作した。
数分後、建築現場に社長とマウが戻ってきた。
「今までの展開通りなら、家に戻ってくると......」
煙はすでに消えていた。窓の側には令和がハンカチで汗を吹いていた。
「この時代に消防車がない理由、わかった?」
「お前のセリフから察しがついたよ。しかし、なんで火事なんか起きたんだ」
「......ちょっと中を覗かせてもらっていいかい?」
そう言ってマウは窓から部屋の中に入り、しばらくしてから戻ってきた。
「おかしい......火種となった物は見当たらなかったよ。コンロもまだ設置してないのに」
「大丈夫だ......ここでは事故が多発していることは知っている」
社長の言葉に、令和とマウは互いに顔を合わせた。
「社長さん、依頼を実行するには、別の作業が必要かもしれないね」
chapter6 追加依頼
その日の夜、社長はコンビニ袋を片手にマンションにたどり着いた。
「あら、噂の人!」
「あ......ああ、管理人さん」
入り口の前に立っている女性が話しかけてきた。
「ねえあんた、女の子連れ込んだでしょ?」
「は?」
「惚けないでよお、夕方、あんたがウサギを連れた女の子を部屋に連れてくるとこ、ちゃんと見たんだから!」
「いや、それは......」
「大丈夫大丈夫! あんたが社長っていう立場、ちゃんと理解しているから! うちのマンション、知能の高いペットなら大丈夫だから、十分に楽しんじゃってよ!」
「......」
社長は自分の部屋に戻ってきた。そこには、令和とマウの姿があった。マウの衣装はなぜか寝間着姿だった。
「あははは!! いやあ傑作傑作!!」
笑う一人と一匹に対して、社長は不満そうな表情でコンビニ袋をテーブルに置いた。
「......何が傑作なんだ」
「ゴメンゴメン! さっき外の景色見るために令和と一緒に廊下に出たんだ。そしたら社長さんの会話を聞いちゃってさ、令和なんか吹き出しちゃったよ!」
謝罪の意味なのか、令和は社長に向かってお辞儀をした......が、その表情は笑いを堪えるのに必死そうだ。
「それはいいとして、二人は俺の部屋で何をする気なんだ?」
「そのことなんだけどさ......あの現場には、以前から事故が起きているんだよね?」
「ああ、まるで何かが取り憑いているみたいにな」
「社長さんが買い出しに行っている間に令和と相談したけどさ......やっぱりその事故をなんとかしないといけないって結論になったよ」
「出来るのか?」
令和は頷いた。
「伊達に事務所の名前に"なんでも"と入れていないよ」
「そうか......なんだか、魔術師って万能だな」
「勘違いしないでよ。普通の魔術師は医療とか工業、セキュリティといった、それぞれの得意分野の依頼を受ける。企業専属、フリーランス関わらずにね。だけど、すべての分野の依頼を受けられ、しかもトップクラスの実力を持つ魔術師は、世界を探しても令和しかいない。彼女が"魔女"と呼ばれるのは、その万能性からなんだ」
「お......おう......」
熱心に語るマウに対して、社長は口を挟むことができなかった。
「まあそれはいいとして、追加料金は心配しなくてもいいよ。あの秘書さんが負担してくれるんだって」
「......また勝手なことしてくれるな」
「いいんじゃない? あの人、勉強代だって言ってたし。フスフス」
マウは期限よさそうに鼻を動かした。
chapter7 取り憑く者
その晩、社長は自分のベットで寝ることにした。寝る直前、マウは「ボクは令和と一緒にソファーで寝るから気にしないでいいよ」と言っていた。
「はあ......今日は本当に疲れたな」
毛布の中で社長はため息をついた。
「こんな日には悪夢でも見るかもしれないな......」
「て......」
「......?」
社長は瞳を開けた。
「......め......え......」
どこからか、声が聞こえる。
「......よく......も......」
「!?」
思わず社長は身を起こした。
「てめえのせいで......」
ベットの横に黒い球体があった。その球体に、半透明の男が吸い込まれて行く。
「......!!」
「何人の人間が不幸になったと思ってやがる!!」
その男が叫んだ時、黒い球体は完全に男を飲み込み、消えてしまった。
「......」
社長が呆然としていると、寝室の扉が静かに開いた。
「......その様子だと、見ちゃったんだね」
令和とマウだった。令和の手にはタプレットがあった。
「......ああ」
「ごめん、出来れば気づかれないようにしたかったけど......あれ、トラウマになる人結構いるんだよね......」
「大丈夫だ......ただ......」
社長は夢ではないと確かめるように頬を叩き、確信したように頷いた。
「あいつは......俺の親父の部下だった奴だ......」
chapter8 結末
一週間後、ここはとある喫茶店。そこで令和とシルクハットを被ったマウ、そして秘書がテーブルについていた。
「......先週は本当にありがとうございました。社長は住み心地がよく、大変満足していると伝えてくれとおっしゃっていました」
「確か、秘書さんが暗い顔してこの店に来た時、常連客だった令和が名刺をあげたんだよね。令和、今の秘書さんはどう?」
令和はマウに親指を立てるポーズを見せた。
「うん! 今の秘書さんの顔は明るくなっているって!」
マウの言葉に秘書は頬を少し赤らめた。
「......ところで、社長から聞きましたか?」
「聞いた......何を?」
首を傾げるマウに、令和はタプレットを指した。
「ああ、あの亡霊が社長さんのパパの部下ってことね」
「はい、以前の会社はあまりにも状態が酷く、労働基準に見合っていないと言えました。その時の社長......今の社長の父親は、部下が自ら命を断ったことを知ってさえも心を動かすことが無かったと聞いております。その父親が亡くなり、今の社長が会社を生まれ変わらせたことで立て直せたのです」
「ふーん、それがどうしたの?」
「......なぜあの亡霊は、今の社長に取り憑いていたんでしょうか? 恨みを持っていたのなら、前の社長に取り憑くはずだと思いますが......」
「うーん、確かにそうだね......」
令和はタプレットを操作し、画面に文章を映し、マウに見せた。
「相変わらず準備がいいねえ......」
「......?」
「令和があらかじめ説明文を書いていたみたい」
以下は令和が用意した説明文である。
悪魔の技術の中には、特定の人物に呪いをかける技術があります。当然、命を奪いかねないため、法律では禁止されています。しかし、世の中には隠れて禁止されている悪魔の技術を使う魔術師もいるのです。
考察になりますが、前社長に恨みを持っていた人間はその魔術師に依頼をしたのでしょう。前社長の夢を壊すと。しかし、その魔術師が完璧な能力を持っていたとは限りません。
悪魔と交渉する時、魔術師の知識が足りないと、悪魔と魔術師の認識にズレが生じることがあります。この場合、依頼人は前社長の呪いを望み、魔術師もそれを目的としていた。しかし、悪魔はその子孫、つまり今の社長に呪いをかけると勘違いしたのではないでしょうか。
「まあ簡単に言えば、悪魔が勘違いして今の社長に呪いかけちゃったってことだね」
chapter9 魔女と兎
秘書と別れた令和とマウは、喫茶店の前で立っていた。
「あ、来たよ!」
やって来たのは一台の車、無人タクシーだ。一人と一匹は扉を開け、乗り込んだ。
「ねえ、せっかくだから社長さんの家、見に行かない?」
助手席のマウの言葉に、令和は頷いてタッチパネルを操作した。すると車のタイヤが動きだし、令和が設定したルートを走り始めた。
「ねえ令和、前から思っていたけどさ......小説書いてみたら?」
突然のマウの申し出に、令和は目を丸くした。
「例えばボクたちの仕事を書いてみるとか。名前は変えてさ、小説向けに着色を加えたらいい感じじゃない?」
令和は手を振りながら鼻で笑った。その後、何かを想像するように瞳を閉じ、悪くないと言ったような表情で頷いた。
場所は代わり、ここは住宅街。かつての建築現場には、立派な家が建てられていた。独り身の男が住んでいそうにない、立派な家が。
その玄関の扉から社長が現れた。彼は背伸びをし、振り替えって家を眺めた。
「二日でこんな家が出来るとは......」
「ね? 悪魔の技術も侮れないでしょ?」
聞き覚えのある声がして、社長は振り替える。
そこには無人タクシーに乗った令和とマウの姿があった。一人と一匹が社長に手を振ると、すぐに無人タクシーは去っていった。
「......やっぱり魔女って万能だな」
そう呟いて、社長は散歩に出掛けて行った。
いかがでしたか? こんにちは、オロボ46です。
今回は悪魔が産業革命のように注目されている世界観で書いてみました。8000文字以上と文字数が多く、連載として分断するか、短編としてまとめるかで迷ってしまいました。
今回は短編にしましたが、長すぎるというコメントがあれば、次回からは分割しようと考えています。