こんなはずじゃなかった
彼はやけに弁が立つ。
「許せないよなぁ。バーチャルったって中身は人間なんだぜ?ふざけるなって話だよなあ。人間を何だと思ってるんだ。ほんとくずだよ。人間の屑。気色が悪い。悪意の塊。大人はよお、いつだってそうだ。金のことしか考えてない。星新一の名作は読んだか?読んだよな。書いていたよな。宇宙人との約束を、大人になった子供たちは取り下げたんだ。大人ってそういうことだよなあ。ほんとうにつまんねえよ。大人はよお。維持北ねえよなあ。俺たちの気持ちを考えちゃくれねえよ。お前もいつかは大人になるんだろうなあ」
言ってることに意味はない。まるで理解ができない。彼の言葉はただ並べられているようにしか聞こえない。彼の言葉に伝えたいメッセージはなく、もし仮にあったとしても伝えようとする気持ちは感じ取れない。
「だとしてもだ。言いたいことを言うってすごくないか少年よ。私はかつて少年だった。君のようだった。わたしも子供だったんだ。大人になって後悔したんだ。言いたいことを言おうって。なんでも言ってしまおうって。そもそもが無理だったんだ。俺に伝える才能はない。伝える頭はない。みじんもない。ただ話すしかない。話すこと自体が目的なんだ。だから黙って聞いててくれる君はいい。さえぎらない。さえぎらないから大声を出す必要がない。私がしたいのは議論じゃない。吐き出したいだけなんだ。ただ口を動かしたいだけなんだ。だから君は最高のパートナーなんだ」
まったく、まったくもって意味がない。ひたすらにうるさく、彼が語る。
「私は君がどう思っているかわかる。気色が悪いと思っているだろう。こいつはなんだ。かかわってはいけないやつだと。だけど君は逃げたりしない。だって君の家はここだからだ。来てくれてありがとう。少年よ」
気持ちが悪い。ただ、気持ちが悪い。テレビの向こう側だと思い込む。男の姿を液晶に透かして見るイメージをする。
「僕が説明する。君がここにいる理由を。これはシンプルだ。話し相手が欲しかった」