ちょっとしたエピローグ
「見て見て! あたしたち、また同じクラスだよ!」
新しいクラスの配属先が記載されたプリントを見て、柚月が嬉しそうに声を上げた。
「ほんとだ! やったね!」
わたしは柚月と一緒に、新しいクラスとなる二年一組の教室を目指す。
春休みが明け、今日からわたしたちは高校二年生だ。
ライブ以降、柚月とはちょくちょく話すようになった。離れていた時間を取り戻すかのように、二人でよく笑い合っている。
柚月は先月からベースの練習をするようになり、相神さんが置いていったベースを毎日大切に扱いながら弾いている。上達速度はすさまじく、この調子なら文化祭のライブまでには余裕で間に合うだろう。
また、柚月と仲直りをしたことで、伊織や花音とも再び話せるようになった。もっと二人と仲良くなりたかっただけに、二年で別々のクラスになってしまったのが実に残念だ。
二年一組の教室に到着して、わたしは思いがけず笑顔になった。
なんと、そこには緒方と寺島の二人がいたのだ。先ほどのプリントで男子のほうを確認していなかっただけに、その衝撃はかなり大きなものだった。
「おはよう、ほしのちゃん、柚月ちゃん」さっそく寺島が挨拶をした。「これから一年間、よろしくね!」
「うん、よろしく!」わたしは寺島に挨拶を返し、続いて緒方に顔を向ける。「緒方も一年間、よろしくね」
「ああ。ま、どうせ部室でも会うけどな」
緒方は相変わらずつれない態度だ。それでも、去年に比べたらずっと話しかけやすくはなったけど。
「まさかオガチンまで一緒だとは思わなかったなー」柚月が朗らかな声で話す。「あたし、最初にオガチンに声かけられたとき、殺されるんじゃないかと思ったよ」
「あはは! その話なら僕も聞いたよ。ぜひ見たかったなー、その場面」
「るっせ。黙ってろ」
さすがは柚月だ、もうこの二人ともすっかり打ち解けている。
「ふふっ」
「ん? どうしたの、ほしの」
「え、いや……これから騒がしくなりそうだな、って思って」
「そうだね。あたしも楽しみだなあ。なんてったって、二年は修学旅行もあるもんね」
自分の横で楽しそうに笑う柚月を見て、本当に仲直りができたのだと実感した。
「おまえらー、席に着けよー」
四人で話していると、新しい担任となる鈴原先生が教室にやってきた。
もしかして、あの人がわたしたち四人を同じクラスに振り分けたのだろうか。軽音部員を全員まとめて自分の管理下に置くために。いわゆる、職権乱用というやつか。
実は鈴原先生も、若いころにバンドをやっていたらしい。東京では有名なギタリストで、都内各地のライブハウスで暴れていたそうだ。これは最近になって松谷先生から又聞きした話なので、まだ事実かどうかは判明していない。近々、本人に直接問いただしてみる予定だ。
始業式のあと、寺島と柚月はそのまま部室に直行した。
いったん二人と別れ、わたしと緒方は一階の自販機でジュースを買うことにした。
昼前の校舎内は生徒たちでごった返していた。わたしたちは速やかに飲み物を買い、それからゆっくりとした足取りで部室へと向かった。
「ねえ、緒方。一つ聞いてもいいかな」
わたしは歩きながら緒方の顔を見上げる。
「なんだよ」
「この前、てらじーも言ってたんだけどさ――わたしたちってやっぱり、大人たちの言いなりになってるのかな?」
「はあ? なんだそりゃ」
「いやさ、軽音部の廃部を阻止するために、学校側から提示された条件を達成しようと奮闘したじゃん。それ以外にも、試験期間のときはしっかり勉強だってしてたし。わたしたちは好き勝手に生きてるように見えて、無意識のうちに親とか先生の言いつけを守ってるよね。だってそうしないと、生きていけないわけだから。それって結局のところ、大人たちの言いなりになってるってことになるのかな」
緒方は廊下の真ん中で立ち止まり、少しだけ考えこんでから答えた。
「……深く考えすぎだろ。別にいいんじゃねーのか。好き勝手にギターやベースやドラムができるんならさ。それに――俺らが自ら行動したからこそ、軽音部は今もこうして存在してるんだろ。俺は今の軽音部さえあれば、それでいいと思ってるぜ」
意外にも冷静な見解だった。
わたしや寺島よりも、大人に見える気がする。
なんだか少しだけ悔しい。
「ふーん、そっか。緒方はそんなふうに考えてたんだね。なるほど」
「なに納得してんだ、おまえは」
「別になにもー。早く部室に行こうよ、オガチン」
「……おい、やめろ。おまえにだけはそのあだ名で呼ばれたくねーな」
「そんなこと言われたら、なおさらそう呼びたくなっちゃうなー」
「んだと――」
「やーいオガチン! ここまでおいで!」
そう言って、わたしは廊下を駆け出した。
「おい待て、栗沢! ひっぱたくぞ!」
そんな気なんてないくせに。
最近では、緒方をからかうのがわたしの密かな楽しみになりつつある。男の子をからかうのが楽しみだなんて、自分でもおかしなことだとは思う――そのことを柚月にこっそり話したら、なぜか笑われてしまった。
ともかく、緒方ともようやく打ち解けることができたのだ。
初めて会ったばかりのころを考えると、とても感慨深いものがある。
わたしの名前は栗沢くりさわほしの。
今日から高校二年生。
勉強もスポーツも決して得意なわけではない。
だけど――
今の自分には、誇れるものがある。
あのとき、勇気を出してよかった。軽音部の部室を訪れて、本当によかった。
軽音部のみんなに、そして音楽と出会えたことに、心の底から感謝している。
だって、大好きなものに囲まれて生きていけるのだから。
〈終わり〉




