第3話
※次回は明日中に更新します。
「ここで『ほしのつどい』のメンバー紹介に入りましょうか」
予定どおり、相神さんによるMCが始まった。
「まずは――このバンドのエース、ギターボーカルの緒方くん!」
緒方は軽く会釈して「うすっ」と体育会系みたいな挨拶をした。観客たちから小さな拍手が送られた。
「続いて――緒方くんの悪友、リードギターの寺島くん!」
寺島がおじぎをすると、前方から「てらじー!」「よっ、チャラ男ー」「ギターかっこいいよー!」といった声が上がってきた。彼は部活以外の交友関係にも恵まれているようだ。
「そして――バンド名にもなった私たちのアイドル、ドラムのほしのちゃん!」
わたしはペコリと頭を下げた。緒方のときと同じく、まばらな拍手がわいた。
「最後に――」ここでMCは寺島にバトンタッチした。「僕らの面倒を見てくれた、軽音楽部の部長! ベースの相神さん!」
相神さんは即興で『ドント・セイ・レイジー』のベースソロを弾き、観客たちをわかせた。
「さて、四曲目は……」寺島が振り返ってわたしの顔を見る。「ドラムのほしのちゃんの希望によって演奏することが決まりました。ではここで、ほしのちゃんから一言」
ドラムセットの脇に置いてあったマイクを近づけ、わたしは観客席に向かって話しかける。
「次にやる曲は、緒方……くんの好きなバンドの曲です。選曲にはちょっとした理由があります。まずは、わたしもこの曲が好きだというのが一つ。それからもう一つ――わたしには今、どうしても仲直りしたい友達がいます。その子に向けて演奏したかったので、この曲をリクエストしました」
それだけ言って、わたしはマイクを遠ざけた。
あ、しまった。曲名を告げるのを忘れてた。
それを瞬時に察したのか、緒方がわたしの代わりに口を開いた。
「――それでは聴いてください。ピロウズで『レディーバード・ガール』!」
わたしは両手を掲げてドラムスティックでカウントを取り、スネアドラムをたたいた。
四曲目の演奏が始まった。『レディーバード・ガール』は軽快なロックンロールで、爽快感のあるクリーンなギターサウンドが特徴的だ。曲調もポップだから、初めて耳にする人にも比較的聴きやすいはずだ。
この曲ではスネアドラムの高速連打――いわゆるストロークと呼ばれる技法が頻繁に使われている。難しい部分は簡略化しようかとも考えたけど、最終的にはなるべく原曲を忠実に再現することに決めた。
全力で演奏しなければ、柚月に想いは伝わらないと判断したからだ。
四曲目ということもあってか、だいぶ身体が温まってきていた。ライブの初めのころより、腕も足も軽やかに動かせる。
地面を走るような緒方の低音と、空を駆け抜けるような寺島のクリーントーン。二つの異なるギターを、相神さんの重厚なベースが支える。そして、わたしの刻む8ビートがみんなをまとめてひっぱっていく。
緒方は一つ一つの言葉を噛みしめるように歌い上げる。
夢を見ている
目を開けたまま見ている
キミとの距離がゼロになる夢を
ここで待ってる 耳を澄まして待ってる
キミの足音 近づく瞬間を
今か今かと
二回目のサビに入るとき、わたしは渾身の力をこめてスネアドラムとフロアタムをたたいた。
真剣に演奏するのは、柚月に認めてもらいたいから。
そしてもちろん、軽音部のみんなが大好きだから。
Is this iove? This is love!
キミに会いたいな
胸が痛くて泣きそうなのは
キミのせいなんだ
次はドラムがもっとも忙しい間奏パートだ。
寺島のギターソロが飛び跳ねる中、わたしは脇目もふらずに両腕と右足を動かす。
クラッシュシンバルを打ち鳴らし、
ストロークを何度も何度も繰り返し、
同時にペダルを踏んでバスドラムを響かせ、リズムを取る。
完璧な演奏ではないけど、なんとか音を崩さずに間奏パートを乗り切ることができた。
Cメロのあとはラスサビ。アウトロの部分では、緒方ががなるような声で力強く歌った。
最後にスネアドラムを四連打し、クラッシュシンバルを打ち鳴らす。鳴らしたシンバルを手でつかんだとき、四人の鳴らしていた音がピタリと止まった。
四曲目の演奏はここで終わりだ。
その直後、観客席から大きな拍手が巻き起こった。それだけではなく、いくつか黄色い歓声まで上がってきた。三曲目にバラードの『ピーシーズ』を挟んだ反動がきたのかもしれない。
場内のボルテージは確実に高まっていた。
とても喜ばしいことだけど、次に演奏する曲で最後となる。
「次の曲で俺らのライブは終わります」緒方が観客たちにしゃべりかける。「最後まで楽しんでくれたら、嬉しいっす」
緒方らしくもない、かしこまった態度だった。
四人はお互いに顔を見合わせた。
わたしも含めて全員が汗だくだったけど、三人の表情はとても晴れやかに見えた。
「いくぜ――ブルーハーツより、『終わらない歌』!!」
緒方が叫んだあと、わたしは右手を振り下ろしてハイハットを打ち鳴らした。
三回鳴らした後にスネアドラムを打撃。続いてバスドラムの連打。
同時に、緒方と寺島がギターを鳴らす。
五曲目の演奏が始まった。
冒頭のサビに入り、緒方の歌声と相神さんのベースが加わる。
『終わらない歌』は自信を持ってたたける曲だ。
当然だろう――だって、わたしたちが一番最初に合わせた曲なのだから。
観客席のほうを見渡す余裕さえ出てきた。
ステージ前方にいる観客たちは身体を動かし、個別にリズムを取りながらわたしたちの演奏を聴いている。奥のほうにいる観客たちも、よそ見をしないでこちらに笑顔を向けていた。
間違いなく、本日のライブでもっとも盛り上がっていた。
ギターの旋律、
ベースの重低音、
ドラムのビート、
そして緒方の歌声、
すべての音が渾然一体となり、一つの巨大なロックサウンドを築き上げていく。
もっともっと熱いビートを刻みたい。ずっとずっとこの時間を楽しみたい。
だけど、もうすぐライブは終わってしまう。
だから、せめて。
目の前で音を奏でる三人の勇姿を、その奥でライブを楽しむ観客たちの光景を――
この瞳に焼きつけておこう。
曲の演奏が終わってからも、わたしはドラムをたたき続けた。そして、ステージの四人は再びお互いの顔を見合わせ、タイミングを計って同時に楽器の音を鳴らした。
観客席から、今日一番の大喝采がわき上がった。その反響は文化祭のときに緒方たちに向けられたものより大きく聞こえた。
「ありがとうございました――『ほしのつどい』でした」
相神さんがお礼を言い、前の三人がおじぎをしたので、わたしも慌てて立ち上がって深く頭を下げた。
前方から再び大きな拍手が巻き起こった。
鳴り止まない拍手の中、わたしは大きな達成感と多幸感に包まれていた。
偶然、緒方の横顔が視界に入った。
緒方はすがすがしい笑みを浮かべながら観客たちのことを見ていた。
そんな彼の姿が、とても印象的だった。
他の二人はどんな表情を浮かべているのだろうか。
そんなことを思っていると、
「「アンコール! アンコール!」」
観客たちの拍手は手拍子に変わり、一つの言葉を連呼するようになっていた。
「えっと――どうしよっか……?」
戸惑う相神さんに、
「まだ三曲ありますよね?」
「僕らが演奏できる曲は全部やりたいです!」
緒方と寺島がライブの続行を熱望した。
「ほしのちゃん。残り三曲、いけそう?」
相神さん、そんなの愚問ですよ。
「――もちろんです!!」




