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第5話

※次回の更新日は未定です。

「まあ、いいんじゃねえのか」


 鈴原先生は部室でのライブを肯定してくれた。


 軽音部の四人はあれからすぐに職員室を訪れた。幸いにも鈴原先生は自分の席で仕事をしていたため、その場で話を持ちかけることができた。


「俺と学年主任の許可さえ下りれば、そのくらいできるだろ。軽音部が廃部になるかどうか瀬戸際なんだし、ほかの先生たちだって露骨に反対したりはしないだろうな」


「ありがとうございます、先生」


 頭を軽く下げる相神さんを見て、鈴原先生は抑揚のない声で話を続ける。


「おっと、まだ気が早いぜ。いくつか気をつけておきたいことがあるからな」


「なんでしょうか?」


「まず一つ。たとえ学校側がライブを公認したとしても、なるべく部外者は呼ぶな。万が一そいつらが問題でも起こしたりしたら、おまえたちがどんな処罰を受けるかわかるだろ?」


「それはわかりますが……」相神さんは鈴原先生の顔をじっと見つめる。「この場合の部外者というのは、演奏者と観客――どちらも含まれますか」


「ああ、そうだな。どうしても校外の人を呼びたいなら、おまえたちの裁量で決めればいい。問題が起きて損するのはおまえたちのほうだしな」


「わかりました。ほかにはなにか、注意するべきことってありますか」


「最初からその気はないと思うが、念のために忠告しておく。ライブを観に来てくれるやつらから金を取るんじゃねえぞ」


「そんなつもりはありません」


 相神さんがきっぱりとした口調でそう告げると、鈴原先生は満足げに頷いた。


「わかってるならそれでいい。前に何回か部室の様子をチェックしてみたが、酒や煙草の痕跡もいっさいなかったしな。そのへんに関してはなにも問題ないか」


 知らない間にそんな顧問らしいことをしていたのか。


「先生、俺らのこと少しは信用してくださいよ」


 緒方が横から口出しをした。


「俺が若いころは、素行の悪いバンドマンがうじゃうじゃいたんだ。ライブハウスを出禁になった友達もたくさんいた。そういうイメージが今でも頭から離れなくてね。まあ、おまえたちのことは信用してるから心配すんなよ」


「大丈夫ですよ、鈴原先生」


「なにがだ、相神」


「私は先生のこと、信用してますから」


「はいはい。おまえはせいぜい、成績を落とさないようにな。せっかく模試で全国五十位以内に入れたんだ。受験が終わるまで、今の順位を維持しておけよ」


「言われなくてもわかってますよーだ」


 おどける相神さんの隣で、わたしはただただ驚嘆していた。


 いったいこの人は、いつ勉強をしているんだ?




「私って昔から要領が良くてさー。それでも最近だと、起きてる間は勉強とベースの練習くらいしかしてないよ」


 快活に笑う相神さんだけど、その努力は並大抵のものではないはずだ。学校の試験で頭を悩ませているわたしや緒方からしてみれば、全国模試で五十位なんて雲の上の話だ。


「僕らの要望が受け入れられて一安心だよ。やったね」


 寺島は特別教室棟の階段を二段飛ばしで駆け上がり、踊り場から三人の姿を見下ろす。


 鈴原先生と話をしたあと、わたしたちは学年主任の松谷先生にもライブの話を持ちかけた。


 その結果、部室でのライブが正式に学校側から認められることとなった。


 ただし、ライブを開催するうえで厳守しなければならない条件をいくつかつけられた。



 ①・休校日にライブを開催することは禁止


 ②・当日は軽音楽部の顧問と学年主任の立会いのもとライブを進行させる


 ③・観客から入場料を徴収しない


 ④・その他、学校側が出した指示には素直に従うこと



 これらの条件を一つでも破った場合、即座にライブは中止となり、なおかつ軽音部に厳重な処罰が下されるとのことだ。ここでいう処罰とは「軽音楽部の廃部」ということで間違いないだろう。


「これで舞台は整ったな」緒方が階段を上りながら言う。「あとは悔いの残らないよう、全力でライブに挑むだけだ。ふん、燃えてきたぜ」


「緒方くんのくせに、らしくないこと言うねー」


 相神さんがおちょくると、緒方は「うっさいです」とささやき、口を閉じてしまった。二人の微笑ましいやりとりを目にして、わたしはつい吹き出してしまった。


 やっとライブ会場が決まった。大事なのはここからだ。


 わたしたち四人の力を合わせて、ライブを成功させるんだ。




 四人で話し合った末、ライブの日程は二学期の終業式の午後に決まった。十二月の平日に絞った場合、この日がもっとも集客数を見こめると判断したのだ。


 そのあとは大急ぎで宣伝用のポスターを作成した。



 『軽音楽部によるワンマンライブの告知!


  校内でロックライブを開催します。


  当校の生徒でしたら、どなたさまも大歓迎です。


  無料ですので、どうぞ気楽に観賞してください。


  日時・・・十二月○日 終業式の終了後すぐ


  場所・・・特別教室棟五階・第二音楽室


  みなさまのご来場を、心よりお待ちしています。』



 余白の部分に相神さんのメールアドレスを記載したうえで何枚かカラーコピーを取り、校内にあるいくつかの掲示板に片っ端から貼りつけた。


 バンド練習のほうも手を抜くようなことはなかった。


 最後まで通して演奏することのできる曲は八曲にまで増えていた。ライブで演奏する曲はこの八曲の中から選ぶことになった。


 わたしの胸には不安と期待が入り混じっている。


 相反する二つの感情は、日を追うごとに強く膨れ上がっていく。


 いつ、どこで、なにをしているときも――バンドのことが頭から離れなかった。




 季節はさらに進み、いよいよ十二月に入ろうとしていた。


 中間試験が終わってから約一ヶ月。早くも期末試験が迫ってきていた。


 校内のすべての部活動は活動停止期間に入っている。わが軽音部も例外ではなく、鈴原先生の言いつけによって部室への出入りが禁止された。ライブ前に他の先生たちに悪い印象を与えるのは極力避けるべきだと忠告され、部員たちはしぶしぶ従った。


 試験科目が増えたことにより一人じゃ対処しきれなくなったのだろう、緒方は一学期のときと同じくわたしに勉強を教えてくれるようにと頼んできた。


 特に断る理由もなかったので、わたしは彼の頼みを承諾した。


 そして現在――わたしと緒方の二人は学校の図書室で勉強会を開いていた。


 二つにくっついた長方形の机に向かい合って座り、黙々と手を動かす。前回の勉強会よりも口数が少ないのは、それだけ緒方の学力が上がったからなのか。


 細長い雨粒がしきりに窓を濡らす。勉強中に降る雨は嫌いじゃない。外に出て気分転換したいという欲望が自然と断たれるからだ。


「なあ、栗沢」


 緒方が手を止め、顔を上げた。


「なに?」わたしは顔を伏せたまま返事をする。「わからない箇所でもあった?」


「いや、そうじゃねえ。本番で上手くたたけそうか?」


「うん。ドラムなら任せて」


 わたしはノートから目を離し、緒方に顔を向けた。


 緒方は口元をふっとゆるめた。


「おまえのドラム、期待してるからな」


 ドキッとした。


 男の子にそんなことを言われた経験なんてなかった。


 照れた表情を見られるのが嫌だったので、急いでノートに視線を移した。


「話は変わるが、おまえ――友達をライブに誘う気はあんのか?」


 わたしの手の動きが止まった。


「友達……?」わたしはゆっくり顔を上げる。「いきなりどうしたの」


「夏休みにケンカしたって、おまえが自分でそう言ってただろうが。そいつとは今どうなってんだよ。少しは話すようになったのか」


「そんなの、緒方には――」


「関係ある。何度も同じこと言わせんな。つーかよ、その調子だといまだに仲直りしてなさそうだな」


「……そうだよ。はっきり言ってさ、いまさら柚月と仲直りすることなんて無理だよ。そんなの、できっこないよ」


 最後に柚月と話したのはいつだったっけ。ライブを観てもらえば仲直りできると思っていたけど、まずそのライブに誘うことすらできない。来年のクラス替えまでおとなしくしているのが一番の得策だ。


「よく考えたほうがいいぜ。一生後悔することになるかもしれねーしな」




 十二月の到来とともに、二学期の期末試験が行われた。


 軽音部の四人がテストで赤点を取ることはなかった。これで補修を気にすることなくライブに集中することができる。


 本番までに残された時間はもうわずかしかない。四人はライブを成功させるため、毎日バンド練習に明け暮れた。


 その合間をぬってライブ会場の設営――もとい、部室の模様替えも同時進行させた。外の会場と違い、ある程度自由に室内の飾りつけをできるぶん、なにからなにまで自分たちでやらなければならない。


 だからこそ、妥協はしたくない。自分たちにできることなら、なんでもやるんだ。

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