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第1話

※次回の更新日は未定です。

 季節は秋に移行していた。


 軽音部員の四人は以前にも増して真剣にバンド練習をするようになった。


 毎日放課後になると、全員が部室に集まって音合わせをしていた。


 わたしたちは各自バンドスコアを持ち寄り、みんなで話し合いながら演奏する曲を選んだ。遅くても今年中にはライブをやる予定だから、一曲でも多くの曲を合わせられるようになりたい。


 クラスではほとんど誰とも会話をしなくなっていた。柚月たちとも関わることはなかった。どちらにしろわたしはバンド練習のほうに集中したいので、遊びの誘いを断る手間がはぶけたと思えばいい。


 もちろん、クラスで孤立したままでいるのはまずいとも思う。


 だけど――今は軽音部に関することが最優先だ。


 もしも軽音部が廃部になってしまったら、今度こそ学校内に居場所がなくなってしまう。なにより、バンド活動を続けることが難しくなる。


 それだけは絶対に嫌だ。


 わたしの高校生活から軽音部の存在が消えるのは、もはや考えられないことになっていた。




 九月下旬のとある日。


 いつもどおり、放課後の軽音部の部室には四人のバンドメンバーが集まっていた。


「ライブの日程なんだけどさ。そろそろ決めておこうよ」


 ベースアンプの上に腰かけている相神さんが、一年生たちを見回しながら言った。


「俺はいつでもいいっす」


 まずは緒方がそう答えた。


「僕も試験前とかじゃなければ、いつでもいいですよ。栗沢さんはどう?」


 寺島がわたしに問いかける。


 そう聞かれても、特にこれといって要望はない。


「わたしも別に……」


 そこで言葉が詰まってしまった。


 わたしが押し黙っていると、相神さんが再び口を開いた。


「私さ、いろいろ考えてみたんだけど――十二月にしない?」


「十二月、ですか?」寺島が顔を上げた。「僕は構いませんけど……なんというか、ギリギリですね」


「そっちのほうがいいかなって思ったんだ」相神さんが丁寧に説明する。「中途半端なクオリティのライブを何回もやるより、バシっと一発かっこいいライブをやったほうが印象に残ると思うんだよね。練習期間が三ヶ月もあれば、今よりもずっといい演奏になる。私はそう確信しているよ」


 彼女の声には熱がこもっていた。前々からそのように考えていたのだろう。


「決まりだな」緒方が頷く。「栗沢、おまえも不満はないだろ?」


「ま、まあ、特にはないけど……」


「そのわりにはうかない顔してるね?」


 わたしのもとに相神さんが近づいてきた。


「……一つ、気になることがありまして」


「なになに。遠慮しないで言ってみて」


「あのですね」わたしは室内にいる三人に向けて話し始めた。「軽音部の部員を五人に増やさないといけないんですよね? 新入部員を勧誘するのなら、早めにライブをやってもいいんじゃないかと思いまして……」


 これに関しては、たった今思いついたことだ。


 軽音部の部員募集を宣伝したポスターは、校内で一番目立つ掲示板に貼ってある。しかし、わたしが軽音部に入部して以来、新たに部員が増えることはなかった。


「ライブのMC中に勧誘するってのはどうかな」寺島が提案した。「そうだな――『ボランティアだと思って入部してください、名前だけでも構いません!』みたいな感じでさ」


「あはは、それいいね。寺島くんの意見、採用!」


 本気なのか冗談なのか、相神さんは腕を伸ばして親指を立てた。寺島は寺島で、まんざらでもない顔をして喜んでいる。


「ほんとにそれ言うんですか、相神さん……?」


「ありだとは思うよ。ほしのちゃんは実感ないかもしんないけど、うちらの評判ってそんなに良くないんだよね。MCで勧誘すれば、みんなに誠実さが伝わるかもね」


「評判、良くないんですか」


「ま、いろいろあってね。今の失言は忘れて」


 そんなふうに言われたら、余計気になりますけど。


「部員のことは気にしないで。最悪、部長の私が先生たちに直談判するから。そうすれば、もう一年くらい期限が延びるかもしれないし」


「はあ……」


 果たしてそんなに上手くいくのだろうか。


 わたしが疑問に思っていると、


「ライブの会場はどこがいいかな」寺島が誰ともなしに言った。「やっぱり、ライブハウスとか?」


「俺らみたいな高校生バンドでも出れるのか」


「演奏がまともなら出演できるだろうね」相神さんが答える。「もっとも、私たちの場合は対バン形式になるだろうけど」


「対バンってなんですか」


「複数のバンドが順番にライブをすることだよ。単独ライブの反対だね」


 相神さんの解説を聞いて、わたしは気後れしてしまった。


 対バンになれば、どうしても他のバンドの演奏と比較されてしまう。ライブ自体、わたしにはまだ経験がない。当日のプレッシャーはものすごいことになりそうだ。


「ライブハウスのほかにも、まだ候補となる場所はあるよ」


「え、どこですか」


 寺島がたずねると、相神さんはふっふっふっと笑い声を上げた。


「それはね――公民館さ!」


 公民館……?


 脳内になぜかお年寄りの姿が浮かび上がる。


「公民館でライブ、やるんすか?」


 緒方がげんなりとした口調でつぶやいた。


「ライブハウスでやるよりも単独ライブできる可能性は高いよ! お金さえ払えばね!」


 やけに元気な声で相神さんが言い放つ。


 公民館でライブなんて、まったく考えていなかった。


 後輩たちのきょとんとした表情に気づいたのか、相神さんが慌てて訂正した。


「あ、あくまで候補の一つってことだから! やだなー、いくら部長だからって、そんな強引に決めたりしないから!」


 公民館のことを口にしたとき、自信ありげでしたよね。


 まあ、正直ライブハウスよりもいいかもしれない。この歳でいきなりライブハウスで演奏するなんて、わたしみたいな温室育ちの凡人には少々ハードルが高い。それに、ライブハウスってなんだか怖いイメージがある。


「そうだね……まあとにかく、まだ時間はあるんだし、もう少し考えてから決めよっか」


 相神さんがそのようにまとめ、この日の話し合いは終わった。


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