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第1話

※次回は二日以内に更新します。

 二学期に入ってから三日目。


 わたしは体調不良で学校を休んだ。


 一年二組の教室に行くのが怖かった。柚月たちになにかされるんじゃないかと不安だった。


 このタイミングで休んだりしたら、この先ますます登校しづらくなってしまうことはわかっている。それでも、学校に行くことができなかった。


 心だけじゃなく、肉体的にもかなりつらかった。お腹が痛いし、頭もズキズキする。そのうえ、妙な倦怠感まであった。


 どこにも出かけたくなくて、一日中家の中にこもっていた。


 自室で安静にしていたおかげか、翌朝にはだいぶ身体の具合が良くなってきた。


 にも関わらず、わたしは二日続けて学校を休んでしまった。あの教室に行く気力がまだ充填していなかったからだ。


 普段は学校をサボることなんてないから、母はなにも疑うことなく学校に欠席の連絡を入れてくれた。母を騙して申し訳なくなった。


「なにかあったら、遠慮なく母さんの携帯に連絡するんだよ」


「うん。いってらっしゃい」


 自室の扉が静かに閉められた。部屋の外から、階段を下りる母の足音が微かに聞こえた。


 母は週に二回、スーパーでレジ打ちをしてお金を稼いでいる。今日はその出勤日のため、早朝から家を出たのだ。


 それなりに広い一軒家の中で、わたしは一人きりになってしまった。


 兄弟も姉妹もいないから、一人には慣れているはずなのに――今は寂しくて寂しくて、胸が張り裂けそうだ。


 強い子だったら、こんな状況でも歯を食いしばって登校するのだろう。気の弱い自分が惨めに思えてきて、余計に悲しくなってくる。


 このまま明日も学校を休んでしまうのだろうか。そしたら、土日の連休に入ってしまう。一歩間違えれば、そのまま不登校になってもおかしくない。


 不安と焦燥感が頭の中を駆け巡り、ベッドから身体を起こすことさえできない。


 そうこうしているうちに、強い眠気に襲われてきた。我慢する気になんてなれなかったので、二度寝をすることにした。




 スマホの振動により、わたしは浅い眠りから覚めた。


 布団の中で悪戦苦闘しながら、机の上でやかましく音を立てるスマホを覗きこむ。


 緒方からの電話だった。


 今はまだ午前九時半。こんな朝っぱらからなんの用だ?


 少し逡巡してから、スマホを手に取った。


『――もしもし。栗沢、おまえ今どこにいる。学校はどうした』


 開口一番、緒方はわたしに聞いてきた。


「今は家にいるよ。学校は休むつもり」


『体調でも悪いのか』


「身体の調子は悪くないけど……」


『じゃあ、なんで来ないんだよ』


「行きたくないからだよ。緒方くんには関係ないでしょ」


『関係ある。同じバンドメンバーだろが。おまえがいなかったら、全員で練習できねーだろ』


「あ……」


 正論だった。ぐうの音も出ない。


『なにか事情があって来れないなら、その理由を話してみろよ。連絡の一つもよこさないでなに考えてやがる。俺や寺島だけならともかく、部長にだって迷惑がかかるんだぞ』


 彼の言葉が胸に突き刺さる。


 わたしは自分のことで頭がいっぱいで、バンドメンバーのことをないがしろにしていた。


「連絡を入れなかったのは謝るよ。……ごめんね」


 ここまでは言える。


 問題はこの先だ。緒方にわたしの心情を吐露するべきなのか?


 なにも言えずに黙っていると、緒方が痺れを切らした。


『なにかあったんなら教えろよ。思い切って話せば、楽になるかもしんねーだろ』


 言い方は粗暴だったけど、彼の声にはどこか温かみがあった。


 その優しい声色に、わたしの心が突き動かされた。


「……時間かかるかもしれないけど、最後まで聞いてね」


 せきを切ったように、わたしは柚月たちとの間に起きたことを話し始めた。


 その間、緒方は黙って話を聞いてくれた。


 すべて話し終えると、胸のつっかえが少し取れた。


「ねえ、緒方くん。わたしはどうしたらいいのかな……?」


『――しょうがねえな。待ってろ』


 一方的に通話を切られてしまった。


 なんでもいいから、なにか返答が欲しかったのに。


 念のため緒方に電話をかけ直してみたけど、通話が繋がることはなかった。


 中途半端なところで会話が途切れてもやもやする。


 気を紛らわすため、ひとまず洗面所で顔を洗うことにした。


 続いてパジャマから学校指定のジャージに着替え、麦茶で渇いた喉を潤す。食欲がわかないから、朝ご飯は食べなくてもいいだろう。


 二度寝をしたせいか、すっかり目が覚めていた。


 軽音部のみんなから借りているCDをまだ全部聴いていなかったので、音楽鑑賞をすることにした。


 さて、どのCDを聴こうか。


 さっき緒方と電話で話したことだし、ここは彼から借りたCDでも聴いてみるか。


 軽音部に入ってから、わたしはどんどん音楽にのめりこんでいた。以前はビートルズくらいしか聴いていなかったのに、今では邦楽・洋楽問わずいろんなジャンルの音楽を聴くようになった(その大半はロックバンドの曲だ)。


 緒方からはブルーハーツやピロウズのCDを借りていた。自室に置いてある小さなCDコンポでピロウズのベストアルバムを聴き、次にブルーハーツのベストアルバムを再生した。


 ノリのいいロックンロールを聴くのはストレス解消になる。地球の環境を慮っても、かなりエコな部類の娯楽に入るだろう。


 ぼーっとしながらブルーハーツの曲を聴いていると、再びスマホに着信がかかってきた。


 相手はまたもや緒方だった。


「今度はどうしたの?」


 CDを一時停止させ、スマホをとおして緒方に問いかける。


『今、おまえの家に誰かいるか』


「は? ……家にはわたし一人しかいないけど」


『わかった』


 通話はすぐに切れた。


 なにがわかったんだ?


 訝しげに思いつつ、止めていたCDを再生しようとしたその矢先――階下からインターホンの音が聞こえてきた。


 宅配便かなにかかな。


 わたしは一階の居間に向かい、インターホンの通話ボタンを押してモニターを確認した。


 そして、仰天した。


 モニターに制服姿の緒方が映りこんでいたのだ。


『どうせ家にいても暇だろ。病気じゃないなら外に出てこいよ』


 臆面もなく、緒方はモニター越しにわたしを呼びつけた。


 いったいどうやってわたしの家を突き止めたんだ!?


「お、緒方くん! 授業はどうしたの!?」


 気が動転していたから、そんなどうでもいいことを聞いてしまった。


『サボった。とにかく、一度外に出ろ。家の前で待ってるからな』


 インターホンのモニターはそこで暗転した。


 なにを考えてるんだ、あの男は!


 わたしは急いで玄関に向かってドアを開けた。


 家の門のすぐ向こう側に緒方が立っていた。彼は自転車にまたがっていた。


「なんで緒方くんがここに――」


「おまえが学校に来てないことがわかったから、ここの住所を教師から聞き出した。おまえの見舞いを口実にな」


 こういうところから個人情報が漏洩するのかもしれない。


「わたしの家まで、自転車に乗ってやってきたの?」


「ああ。なんか文句あんのか」


「別にないけど……」


 学校からここまで、軽く三駅分の距離はある。その間を自転車だけで移動するのは、さぞかし疲れるだろう。


「わざわざ自転車でわたしの家にまで来て、なにがしたいの」


「乗れよ」緒方が自分の後ろをあごで差す。「ちょっくらツーリングに出かけようぜ。気分転換にはもってこいだ」


 珍しく緒方が笑っていた。普段よりは話しやすそうだ。


「自転車の二人乗りは交通違反だよ」


「捕まんなきゃ違反にはならねーよ」


「緒方くんって、補導されたこととかあるの?」


「どういう意味だ、てめえ」


「い、いや、なんでも」


 あるんでしょ、とはさすがに言えなかった。


「いいからさっさと乗れ。気晴らしにはなるぞ」


 戸惑いつつも、わたしは結局こくりと頷き、彼の誘いに乗ってしまった。

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