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第4話

※次回更新は未定です。

 翌日、九月一日。


 今日から二学期が始まる。


 曇り空の下、わたしは陰鬱な気持ちで学校前の坂を上っていく。


 昨日の帰り、柚月とは一度も口を利かなかった。気まずかった。伊織と花音はそのことに気づいていたとは思うけど、二人からは特になにも言及されなかった。


 なにも知らなかったとはいえ、昨日は酷いことを口走ってしまった。


 柚月は吹奏楽部で嫌な思いをしたにも関わらず、そんな素振りをいっさい見せないでわたしたちに明るく接していた。それはきっと、みんなに心配をかけたくなかったから。文化祭のとき、彼女はどんな思いで吹奏楽部の演奏を観ていたのだろうか。わたしには想像もつかない。


 柚月に会ったら、きちんと謝ろう。


 今朝目覚めたときには、そう決めていた。


 学校に到着し、昇降口に入る。自分の下駄箱に近づく最中、ちょうど柚月と鉢合わせした。


 絶好のチャンスだ。謝るなら今しかない。


「おはよう、柚月。あの――」


「急いでるから」


 小声でそうつぶやくと、柚月はわたしに背中を向け、廊下のほうへと歩き出した。


「待って、柚月!」


 声を張り上げて呼びかけたものの、柚月を追いかけることはできなかった。足を踏み出すのが怖かったからだ。


 彼女の姿が見えなくなってから、わたしはようやく教室に向かい始めた。


 足に力が入らない。階段を上がるのさえしんどい。自分のクラスがある四階が、はるか遠くに感じる。


 一年二組の教室に入り、まずは自分の席に荷物を置いた。


 それから、まっすぐ柚月のもとに向かった。


 そばにいた伊織と花音が、わたしを怪訝そうな目で一瞥した。


 嫌な予感がする。


「伊織、花音、トイレに行こうよ」


 柚月はわたしと目を合わせることもなく、廊下に向かって歩き出す。


「柚月……?」


 無視しないで――その一言が、どうしても口から出てこない。


 もどかしくてたまらない。


 柚月に続き、伊織と花音も黙って教室を出ていった。


 わたしは一人、教室に取り残されてしまった。


 そのあと、下校時刻になるまで柚月たちと言葉を交わすことはできなかった。


 三人に声をかけてみても、ことごとく無視されてしまうのだ。


 電話をかけても出てもらえず、LINEにメッセージを送ってもまったく相手にされない。下手にブロックされてないぶん、余計に悪質だ。


 わたしは三人から除け者扱いされていた。


 まるで、自分の存在が忽然と消え失せたかのようだ。


 この日は軽音部の部室にも寄らずに帰宅した。




 一夜が明けても、事態はなにも好転しなかった。


 性懲りもなく柚月たちに近づこうとしても、無言で避けられてしまう。それも、目立たないようにさりげなく。


 クラスのどこにも居場所がないまま、昼休みを迎えてしまった。


 元々わたしは、あまり社交的な人間ではない。柚月、伊織、花音の三人に拒絶された今、一緒に昼休みを過ごせるような友達はクラスに存在しなかった。


 教室を出ても、行くあてなんてどこにもない。校内をふらふらとさまよい、最終的に図書室の中で昼休みを過ごした。室内での飲食は禁止されているため、母が作ってくれた弁当を食べることもできなかった。


 教室に戻ったとき、柚月たちがわたしの顔をちらりと見たのがわかった。


 なにごともなく顔を戻して笑い合う三人の姿を視界の端に捉え、胃のあたりがキリキリと痛くなった。


 自分の席に座っても、三人の視線が気になってしかたがない。


 どうしてこんなことになってしまったんだ。


 自問自答してみる。


 わたしが仲間外れにされたのに、深い理由はないだろう。昨日のことはあくまで、わたしと柚月だけの問題だ。


 誰かを悪者に仕立て上げることで、他の友達と結束を深める――よくあることだ。


 そして今回は、わたしが悪者扱いされた。


 虐げるほうはいつだって、遊び半分の軽い気持ちでやっているだけなんだ。


 中学のときにも、仲間外れにされた友達がいた。あのときだって、ほんの些細なことがきっかけだったと思う。


 その子をかばいたかった。だけど、そんなマネをすれば、標的が自分に変更されるだけだと思ったから、なにもできなかった。ほかの子と同じように、その子を無視することしかできなかった。


 いや、本当にその子のことをかばう気持ちがあったのなら、なりふり構わず行動に移していたはずだ。傍観者の立場を選んだ時点で、わたしだってほかの子となにも変わらない。


 同じ目に遭って、やっとその子の痛みがわかった。


 とても息苦しくて――どうしようもないほど悲しい。


 午後になっても、わたしはほとんど誰とも話さないまま過ごした。放課後までの時間がやけに長く感じた。


 この日も軽音部の部室に寄ることはなかった。


 今のわたしに、バンドのことを考える余裕なんてなかった。

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