表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/41

第1話

※次回は約1時間後に更新します。

 軽音部のみんなと遊びに出かけてから一週間あまりがたった。


 六月下旬にもなると、日を追うごとに夏の匂いが濃くなってくる。


 そして予定どおり、全学年平等に試験期間へと突入した。


「あーもう、こんな数式覚えてなんの役に立つんだよー!」


 わたしの横で柚月が頭を抱えた。


 本来なら試験勉強は一人でしたほうがはかどるけど、この日は柚月たちと一緒にカフェで勉強会を開いていた。わたしも高校生のはしくれ、人付き合いを避けては通れない。


「数学は解答が決まってるから、私は好きだな」伊織がシャーペンを指先で回す。「それより現代文のほうが嫌いだな。作者の気持ちとか死ぬほどどーでもいいわ」


「いいよね、伊織ちゃんは。数学が得意で」


 花音がうらやましそうな目で伊織のノートを覗きこむ。


 この四人の中で理系よりなのは伊織だけだ。残りの三人はもれなく文系より。わたしも数学は特に苦手だ。


「ほしのー、あんたは勉強進んでる?」


 柚月がわたしの腕をシャーペンでつつく。


「ま、まあ、ぼちぼちってとこかな」


 わたしは試験勉強とともに、家でドラムの基礎練習も行っていた。最初は勉強の時間のほうが長かったけど、徐々にドラムの練習にさく時間のほうが長くなってきている。このままだとテストの答案用紙が悲惨なことになると思いつつも、なかなか勉強に集中する気にはなれないでいた。


「あーあ、テストとかマジで死ねばいいのに」


「怖いよ伊織ちゃん! おっかないなあ、もう」


 手より口を動かす伊織と花音。なんだかんだ余裕があるのか、とっくに勉強を諦めているのかはわからない。


「期末試験が終わったら、またみんなで遊ぼーよ」


 テーブルに突っ伏していた柚月が顔を上げた。


「私、海行きたーい」


「いいね、海水浴! 私もさんせーい!」


「お、二人はノリノリだね!」柚月は急に明るくなり、わたしの肩に手を置いた。「ほしのはどうなの? 海・水・浴!」


「いいと思うよ、わたしも。夏休みに行こうよ」


「よし決まりだね!」


「テスト終わったら休みに入るよね」メニュー表を眺めながら、伊織がしゃべる。「そのときに水着でも買いに行こーよ」


「なんか急にやる気出てきた!」花音が身を乗り出す。「ほしのちゃんとはこの前遊べなかったから、そのぶん海で思いっきりはしゃごうね!」


「うん。今度はわたしも必ず行くから!」


 みんなと夏休みの予定について話していたら、勉強のほうもやる気がわいてきた。たまには友達と一緒に勉強をするのもいいものだ。




 その日の夜、スマホに電話がかかった。


 自宅の居間でくつろいでいたわたしは、着信画面を見て目を丸くした。


 緒方恭平――なんであいつから?


 軽音部に入部したあの日、みんなとお互いに携帯番号やアドレスを交換した。でも、よりにもよって(こんな言い方は失礼だけど)緒方から直接電話がかかってくるだなんて思ってもいなかった。


 たっぷり三十秒ほどスマホをにらんでから、わたしはおっかなびっくり通話ボタンをタッチした。親に会話を聞かれたくはなかったので、居間を出て自室へと向かう。


『――もしもし。栗沢だよな?』


「うん、そうだよ。どうしたの、緒方くん」


 わたしは自室に入ってドアを閉め、ベッドに腰かけた。


『…………おまえに頼みたいことがある』


「頼みたいこと?」


 彼の声は真剣だった。


 いったいどんなことを要求されるんだ?


『明日の放課後、部室に来てくれないか』


「部室に?」


 今は試験期間中だ。必ずしも部室に入れる保証なんてない。


『部室の鍵は俺が開ける。とにかく頼んだ』


「あ、ちょっと待って――」


 そこで通話が切れてしまった。


 まだ承諾したわけではないのに。


 どうしよう。よくよく考えてみれば、頼みごとの内容も聞いていない。


 相変わらず緒方がなにを考えているのか、ちっともわからない。


 それでもたぶん、明日になったらわたしは部室に向かうのだろう。


 結局、緒方に明日の用件を聞き直すことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ