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第6話

※次回は24時間以内に更新します。

 いくつかの店を巡回し、昼の十二時を過ぎたころ、わたしたちはファミレスに立ち寄った。


 空いていた窓際の席を陣取り、四人はそれぞれ食べたいメニューを注文した。


 ドリンクバーで注いできたジュースを口にしていると、


「栗沢さんはどんなバンドが好みなの?」


 反対側の席から寺島がたずねてきた。


「わたし? わたしは……ビートルズとかが好きかな」


 まともに聴いたことのあるバンドはそれくらいしかないけど。


「いいよね、ビートルズ。まさにロックの王道だ」寺島が嬉しそうに頷く。「ロックバンドの起源はビートルズから始まったとも言われているしね。彼らが後続のミュージシャンに与えた影響は計り知れないよ。ポップなサウンドに、耳に残りやすいメロディー。アルバムごとに雰囲気が異なる幅広い音楽性。名実ともに、世界でもっとも偉大なロックバンドだろうね」


「詳しいね、寺島くん」


 わたしの両親も似たようなことを口にしていた。


 ビートルズというバンドは、ロックファンの間ではとても重要な存在なのだ。そのことをすっかり忘れていた。


「みんなの好きなバンドを教えてほしいな」


「僕は洋楽ロックが好きだな」まず寺島が答えた。「ビートルズもそうだけど、基本的にメロディアスで耳になじみやすい曲をつくるバンドを好んで聴いてるよ。たとえば有名どころだと、グリーン・デイ、SUM41、オアシス、ニルヴァーナ、レッチリとかだね。今の時代は動画サイトとかで気軽に視聴できるから、暇さえあればいろんなバンドをチェックしてるんだ。もちろん、現物のCDやレコードも収集してるけどね」


 寺島の口から次々とロックバンドの名前が出てきたものの、わたしにはビートルズ以外どのバンドもわからない。


「じゃあ緒方くんは?」


「俺は邦楽ロックのほうが好きだ」今度は緒方が答えた。「特に好きなバンドはブルハ、ハイスタ、ピロウズあたりだ。日本語のほうがわかりやすくていい」


「でもハイスタなんて、ほぼ全部英語の歌詞じゃん」


「うるせー、ハイスタは別だ。この外人かぶれが」


 緒方は隣に座っている寺島をにらみ、文句を言った。


「相神さんはどんなバンドが好きなんですか?」


 わたしは隣に座っている相神さんに質問した。


「え、私?」相神さんが目を光らせる。「私はそうだね――強いて言うなら、V系のバンドとかかな」


「V系?」


「ヴィジュアル系バンドのことだよ」


 それならわたしも知っている。化粧をして派手な格好をしたバンドのことだ。そういえば、この前もヴィジュアル系バンドがテレビに出演してたっけ。


「有名どころだと、X JAPANとかルナシーあたりがオススメだね。最近のイチオシならノクターナル・ブラッドラストあたりかな。V系の他にも、激しいバンドとかが好みだよ。それから、バンドじゃなくて音楽ジャンルのくくりなんだけど、アニソンなんかもよく聴くよ」


「アニソンって、アニメソングのことですか」


「そう、それ。アニメといえば、世界に誇れる日本の文化だもんね。ほしのちゃんは普段、アニメとかって観るほう?」


「わたしはそんなに観ませんね。話に乗れなくて、すいません」


 小さいころは夢中になって観てたアニメもあったけど、中学に上がるころには熱が冷めていた。今はドラえもんやサザエさんといった国民的アニメをたまに視聴する程度だ。


「別に気にしなくていいよ。同士ならそこにもいるしね」


 そう言って、相神さんは寺島のほうに視線を投げた。


「寺島くんってアニメとか観るんだ」


 わたしがなんの気もなしに言うと、寺島はあたふたしながら口を開いた。


「ちょ、ちょっと待ってよ、栗沢さん! 今僕のこと、オタクだとか思ったでしょ!?」


 別にそんなことは思ってないけどな……。まあ彼の反応が面白いので、ここは否定しないでおこう。


「相神さん、勝手にバラさないでくださいよお」


「あはは。ごめんごめん」


 寺島と相神さんの会話が楽しそうに見えたからだろう、わたしはつい緒方にも声をかけてしまった。


「緒方くんはアニメとかって――」


「観ねえよ」


「ごめんなさい」


 反射的に謝罪の言葉が口から出てしまった。


「謝んな、逆に不快だ」


 緒方は辛辣な口調でそうつぶやいた。


 みんなで話していると、頼んでいた料理が席に運ばれてきた。おしゃべりを中断し、ひとまずご飯を食べ

ることにした。




 お腹が満たされたあと、わたしたちはこのあとどこに行くかで再び話を始めた。その結果、みんなでカラオケに行くことになった。


 カラオケではフリータイムを選び、退出時間ギリギリまでおおいに楽しんだ。


 驚くことに、わたし以外の三人は全員歌が上手かった。そのせいで、わたしは少しだけ居心地が悪く感じてしまった。歌のレパートリーなんてそんなに持ってなかったから、最後のほうは一人で休んでいたけど。


 外に出ると、空一面に夕焼けが広がっていた。


 わたしの身体は心地よい疲労感と充足感に満ちていた。


「いやー、今日は久々に楽しかったなあ」相神さんが両腕を頭上に伸ばした。「ありがとね、みんな。特にほしのちゃんには感謝しておかなくちゃね。ドラムはやってる人が少ないから、ほんとに助かるよ」


「いえいえ、お礼を言うのはこちらのほうですよ。いい楽器店も紹介してもらえましたし。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 相神さんが楽しそうに微笑んだ。


「僕はまだまだ遊び足りないんだけどなー。オールで遊びたいくらいだよ」


「一人でネカフェにでも行ってろ」


 なにげない男子二人の会話が、なんとも心地よかった。




 完全に日が暮れたころ、わたしは家に帰宅した。


 自室のベッドで横になってスマホをいじる。画面には柚月たちから送られてきた都内の写真が映っている。


 今日は楽しかった。


 男の子や先輩と一緒に街に出かけるのが初めてだったから、余計にそう思うのだろう。


 社交的な人が聞いたら笑われるかもしれないけど、中学生のころよりは交友関係が広がったはずだ。そう思えるのが地味に嬉しかった。


 楽しそうに笑う柚月たちの写真に目を通している最中、ふと部屋を見渡した。


 今日買ったばかりの教則本とドラムスティックが視界に飛びこんできた。


 身体は疲れているけど、心はまだまだ元気だ。


 わたしはスマホをベッドの上に置き、それからドラムの教則本を手に取った。


 練習しよう。


 少しでも三人に追いつけるように。


 バンドの一員として、堂々と胸を張れるように。


 その日の夜から、わたしは本格的にドラムの練習を始めた。

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