63話
遅くなりました63話です。
天を貫く巨塔の10層目。
ユカ達一行は、ようやくそこに辿り着いた。
「ここを抜ければ中間地点ね……」
ここを突破出来れば、次からは11層からスタートする事が出来る。
そして4人の前に立ちふさがるのは、アルラウネと羊を足して2で割った様な女の子。
「なに、あの子」
「バロメッツだね。ハーフレイド級」
バロメッツはユカ達を認識すると、自身の周囲に直径2メートル程の大きさの真っ白な毛玉を6体呼び出す。
「あれは?」
「『フワウール』だね。一応生きてるらしいわ。体当たりで中に取り込もうとしてくるから気を付けて」
バロメッツの取り巻き、空中をフワフワ浮いている白い毛玉、『フワウール』。そのまんまな名前である。
その攻撃方法は、体当たりで自身の体内(?)に取り込んで来る。取り込まれると、全身をそのフワフワな体でくすぐってくる。プレイヤーやパートナーを取り込み、くすぐっているフワウールは色が白からピンクに変わる為、分かりやすい。
因みに、毛は羊毛である。
「残り1体で再召喚してくるから、二体は残しておいてね」
ボスモンスターお決まり、取り巻きの再召喚。一撃で葬れる程の火力が無ければ、再召喚されないギリギリの数で残しておくのが定石である。
「どうする?」
「ニナがバロメッツを引きつけつつ攻撃。モモさんは笛で後方から支援しつつ、魔人で取り巻きを一匹引き付けてて。ミコは植物での支援が終わったら取り巻きを一匹引き付けてて。私が取り巻きを一匹づつ倒していくから」
ユカの指示で、それぞれ動き出す。
「バリア破壊できたらくすぐりたいなー……。そんな事言ってる余裕ないかな」
ニナはそんな事を呟きながら、蒼い炎を纏った鎌でバロメッツに斬りかかる。
「触手みたいなのは無いけど、デカいから体当たりでも危険ね……」
ユカは次々と襲ってくるフワウールの体当たりを避けながら、火遁で一匹づつ確実に倒していく。
一応植物系であるフワウールは炎がよく効くが、それでも3~4発は当てないと倒す事が出来ない。
更に直径2メートルの巨体から繰り出される体当たりは、ユカの想像以上に早く、避けるのが中々に難しい。
「よし、これで3匹目……」
ミコは蔓の様な植物で一匹の行動を阻害しつつ、自身にヘイトが向くように剣鉈でかすり傷を与え続け、モモの魔人はもう一匹を両手で地面に押さえ付けている。
ユカが残り一匹を倒そうと周囲を見渡した瞬間。残りの一匹は既にユカの目の前まで接近していた。
「なっ!」
縮地でも間に合わない距離まで接近されており、ユカは為すすべなく捕まる。
「モガッ!モゴ……!」
ユカはそのままフワウールの中へ取り込まれる。
「ユカちゃん捕まっちゃったかぁ……。まぁ、後一匹ならいっか。私がバロメッツを一人で倒せればの話だけど……」
ニナは戦闘に集中しつつ、聞こえてきた声から状況を推察する。
そういうニナも、流石にハーフレイド級を一人で抑え続けているのは厳しい様子で、バロメッツの攻撃を躱しつつ軽い一撃を与える事しか出来ていない。
「このポップコーンみたいな攻撃避け辛いっ!」
中でもニナが苦戦しているのが、赤色の拳ぐらいの大きさの実をばら撒き、それがポップコーンの様に弾けてフワフワの毛に変わる技。
この攻撃はバロメッツが任意のタイミングで弾けさせることが可能で、弾けた後は30センチぐらいの大きさの毛玉がバロメッツの意のままに操りあらゆる方向から相手を襲う技である。
ニナはこの攻撃が来る度に蒼い炎を全方位にばら撒き焼却して凌いでいたが、フェイントを入り混ぜた動きをするようになり、段々と余裕が無くなってきている。
一方、フワウールに取り込まれたユカ。
「んふっ!ふぅっ!ふぅっふふふふふふふ!」
全身を羊毛に包まれ、こすられるユカ。服の露出は控えめであるため刺激はさほど強くはないが、全身を一度に攻められれば我慢する余裕もない。
「んっふふふふふふふふ!ふふっ!ふぅ~~~っ!」
まるで羊毛に食べられている様な感覚になるユカ。全身を包む羊毛はユカに身動き一つとらせず、まともな笑い声すら発する事が出来ない。
「んふっ!んふふ!ふっふふふふふふ!」
ユカを襲う刺激は、突如蒼い炎によって終わりを告げる。
「んふぅわぁっ!あっついっ!」
ニナが何とか隙を作り、ユカを包んでいたフワウールを蒼い炎で焼き払ったのである。
「もう少しまともな救出方法無かったの?」
ユカはくすぐられた際のダメージと、今の炎でHPを半分以上失っていた。
「いや、そんな余裕はないっ!てっ!」
ニナは未だにバロメッツとギリギリの戦いをしていた。
「まぁ、そうね。モモさんのおかげで回復の必要は無いし。このまま二人で一気に削ってしまいましょう」
モモは後ろでHP継続回復の曲を奏でている。
【忍術:操刃・塵桜】
【死神技法:滅却の焔】
ユカの手裏剣と、ニナの蒼い炎が同時にバロメッツを襲い、ボス専用のくすぐりを防ぐバリアが限界を迎え、ガラスの様に砕け散る。
「壊れたなら、後はこっちのもの!」
【死神技法:欲望の手】
ニナがスキルを発動すると、バロメッツの足元に魔法陣が広がり、それは瞬く間に黒く染まり、そこから真っ黒な細い手が何本も現れ、バロメッツの体に絡み付き、自由を奪っていく。
「やっ、何この手……!」
アルラウネ系は筋力値が低く、一度拘束さえしてしまえば引き剥がす事はほぼ不可能になる。バロメッツもその例に漏れず、どれだけ体を動かそうと黒い手は動きを緩めず、やがて万歳の姿勢で固定される。そして素肌を晒している脇とお腹周りがガラ空きになる。
尚、アルラウネ系である為、太ももから下は植物と同化している為、足などの部位は存在しない。
「ふっふっふ。こうなってしまえばハーフレイド級といえどただの女の子よ」
ニナが悪い顔をしながらゆっくりバロメッツに近づいて行く。
「そうね。仕返し……じゃなくて、暴力で解決するのはやはり良くないものね」
【忍術:分身の術】
ユカはそう言いながら分身の術を行使し、3体の分身を生み出す。
「やっ……、あの……その……」
バロメッツの言葉も待たずに飛び掛かるニナと、それに続くユカと分身達。
「やめっ!……あっははははははははは!だめですぅっ!っふふふふふふ!」
一度に大量の手にくすぐられ、我慢も出来ずに笑いだすバロメッツ。
「ここかぁ?ここがええのんかぁ?」
「やぁっはははははははは!ゆるしっ!てぇっへへへへへへへ!」
ニナはバロメッツの正面に陣取り、スケベオヤジの様な発言をしながら、バロメッツの両脇を両手で、指を立ててカリカリとくすぐり、強い刺激を与える。
「まぁ、こんな露出度の高い恰好してる方が悪いわよね。どのみちHPが無くなるまではくすぐるから」
「やっ!ぁっはははははははは!そんにゃぁっはははははははは!」
ユカと分身達の計4人はバロメッツの左右と斜め後ろに陣取り、背中、首筋、脇腹、お腹を思うがままに蹂躙する。
「あ、そうだ。取り巻きはもう倒しても問題ないわ。本体をくすぐってる間は再召喚できないから」
「ひゃぁっはははははは!ひゃめっ!んぅ~~っはははははは!あはっ!はぁっ!はぁっははははは!」
「そんなくすぐってる片手間で言われても……。私達は二人ほど火力無いんだから、すぐには倒せないよっ!」
ミコは文句を言いながらも剣鉈でフワウールに応戦し始める。
「あっははははははは!ははっ!はひっ!ひっひひひっ!ひぁっははははははは!」
バロメッツはハーフレイド級だけあって、HPはかなり高い。だが5人に全身をくすぐられればHPをどんどん減らしていく。
「やぁっ!ひゃっははははははは!ひゃらっ!ぁっはははははははは!」
その後も一切手を緩められる事なくHPが空になるまでくすぐられ続けた。
バロメッツのHPが0になると、部屋の奥にあった魔法陣が光り始める。
「これで次の階層に行けるわね」
そうしてユカ達4人は11層へ、初めての休憩エリアである。
「これで次はここからスタートできるねぇ」
ニナがつぶやいた通り、次からは1層にあった魔法陣からこの2層まで一気に来る事が可能になる。
「まぁ、とりあえず今日はもう寝よう……」
「そうね。もう夜も遅いし」
そのまま4人は一層に戻り、各々ログアウトしていった。