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六話

 家に帰宅した優香は早速の様にベッドに寝転がり、ゲーム機を頭に付け、ゲームを起動する。

 ログインが完了するとユカはギルドハウスの、ユカに与えられた個室に降り立った。


(今日は、ギルドハウス内の施設を見て回ろう)


 昨日、正確には今日思い付いた予定を実行するべく、ユカは部屋を出てギルドハウス内の散策を始める。

 アイリスのギルドハウス、『百合の庭園』(命名:リリィ)はハウスと言う名に合わず、かなり広大な敷地を持っており、一番巨大なハウス本体以外にも数々の施設が建てられている。

 そんな庭園内はギルドメンバー以外にも数多くのNPCが徘徊している。リリィが言うには極稀にNPCに変装した運営も混じっているらしい。


(まずは、どこに行こうかな……)


 ユカはリリィから貰った地図を片手に庭園内を歩いていく。

 最初に訪れたのは、古い日本屋敷。地図にはお化け屋敷と書かれている場所だった。この場所はアイリスの副団長の個人施設である。

 アイリスの副団長『フィア』

 職業は死霊術師でリリィとはサービス開始から間もない頃からの知り合いで、実力も折り紙つきである。大量のアンデットや人形等を操り、相手を数で蹂躙する戦闘スタイルから付いた二つ名は『死霊楽団』

 尚、現在はリアルの状況が多忙であまりログイン出来ていない。その為ユカは名前は聞いた事はあるが、まだ会った事が無かった。


(取り敢えず入ってみよう。気になるし)


 外見と幽霊屋敷の名に相応しい内装は、ホラーに耐性の無い者では絶対に入らない様な雰囲気を纏っている。ユカはホラーゲームも平気な為、躊躇う事無く中に入っていく。

 そして正面にあった扉を開けて中に入ると、一瞬驚き、一歩退いてしまう。そこには大量の人形が壁一面の棚に飾られていた。その数は100や200は下らないだろう。


(流石にこの数は、厳しいかな……)


 ユカは雰囲気に合わない煩悩で頭の中を染めながらも扉を閉めて別の場所へ足を運ぶ。

 両側の壁際にあった階段で二階へと上がり、正面から左側の二階部屋へと向かう。扉を開けて中に入るが、そこには誰もいなかった。

 いや、正確には誰もいない様に見えた。部屋の隅に置かれたピアノは、ユカが部屋に入ると、誰も居ないのに鳴り始める。ユカは不気味に思いながらも部屋の中に入り、中央にあるダンスホールの様な場所まで進む。


「ひゃぁっ!?」


 中央まで進むと、ユカは突然声を上げて脇を閉じる。


(誰も居ない……?でも、さっき確かに誰かに突っつかれた……)


 さっきまで自分が居た場所を睨んでいると、またも見えない何かがユカをくすぐる。


「ふひゃぁっ!?」


 今度は脇腹を誰かに突っつかれた感触がしたユカ。だが今度はそれだけで終わらない。


「いやっ、ちょっ、やめっ、くっ、ふふふっ、あははっ」


 体の様々な場所を見えない何かに突っつかれたり、揉まれたり、こしょこしょっとくすぐられたり。ユカは全く予想できない刺激に為す術なく翻弄されていく。


「くふふっ、ちょっと、やっ、くすぐったい……」


 そしてユカは自分が踊らされている様になっている事に気付き、そういう仕組みかと納得する。


(もうちょっと楽しみたいけど、他にも見てみたい場所もあるし……)


 ユカは後ろ髪を引かれながらも縮地を使い部屋を出る。

 次に向かった部屋には、中央に配置されている高級そうな椅子に、紫色の長い髪をロールに巻いてある、ゴスロリ衣装に身を包んだ50センチ程の大きさの人形が置かれていた。


(これは、人形?動くのかな?)


 むしろ動いて欲しいと思いつつ、部屋の中に入っていくユカ。部屋を見渡すと、他にもベッドや机が見られる事から誰かの個室だったように思える。

 すると案の定、人形がふわりと浮かび上がり、青い瞳が開かれる。それは死霊術でのみ生み出す事が出来る特殊な魔物、『リビングドール』である。

 死霊術には人形生成という技能が存在し、これによってドール系3種、『マジックドール』『リビングドール』『オートマタ』を生み出す事が出来る。マジックドールは10センチ未満の大きさしか作れず、必要最低限の知能しか持たないので術者が支持をしなければ動くことは無いが、他の二種は自我があり自立行動が可能である。

 リビングドールはドール系の中間に位置する存在であり、かなりカスタムが可能なオートマタに比べると戦闘力は大分低い。しかし自我が存在し、自在に宙に浮かぶ事が出来るリビングドールはくすぐりにおいてはオートマタ以上という声もある。


「こんばんわ、お姉さん」


 リビングドールはユカと目線を合わせると、そう言って小さくお辞儀をした。


「ぁ、どうも、こんばんわ」


 予想外の事に最低限の反応しかできないユカ。


「ふふふっ、お姉さんはこんな所に一人で何しに来たのかな?」


 リビングドールの顔は怪しい笑みを浮かべていた。


「えっと、探索に……」


 そこまで言ったところで、ユカは体に異変を感じる。頭がうまく回らず、ボーっとするような感覚に襲われ、体が自然にベッドの方に向かう。


「何、これ……」


 そのままベッドに仰向けに寝転がる。ベッドは高級な物のようにふかふかである。

 リビングドールはそんなユカに上に座る。


「くすっ、お姉さんが悪いんだよ?人の家に勝手に入ってくるから」


 ドール系でリビングドールのみが覚えられる技、魔眼。見つめた相手を様々な状態異常にかける、一部の魔物のみが扱う技。

 序盤のエリアでは状態異常を操る魔物は存在しないので、ユカはその知識は全くと言っていいほど無かった。


「頭が……なにこれ……」


「私の魔眼で、お姉さん魅了しちゃった。いっぱい可愛がってあげるからね」


 状態異常の一つ、魅了。正常な判断を出来なくさせて、かけた者に逆らえなくする強力な状態異常である。


「それじゃあ、早速……」


 リビングドールはそう言ってユカの脇に手を伸ばしてくすぐり始める。


「んっ……、くひひっ……」


 指を不規則に動かし、ユカを追い詰めていくリビングドール。尚、魅了はどのような状態であろうと命令は絶対である為、ユカの四肢は拘束されていないにも拘わらず逃げ出す事が出来ない。


「ふふ、くすぐったい?もっとしてあげるから、動かないでね?」


 そう言って指の動きを徐々に加速させていく。


「くひゃんっ、やぁっ、はひっ、あははっ!」


(体が、全然動かない……何で?)


「ふふっ、ほら、もっと笑って?我慢しちゃだめだよ?」


「ひゃぁっ!?あはっ、あっははははははははははははは!!」


 リビングドールが命令した瞬間、我慢することが出来なくなったユカ。


(何?何これ!?)


「ひゃはははははははははははっ!」


「このまま段々下に下がって行ってー……、脇腹をつんつんっ」


「ひゃんっ、ふひっ、ひひひっ」


「もみもみ……」


「ふひゃぁっはははっははははははははは!」


「なーでなーで……」


「んっふふふふふふ」


「こちょこちょー」


「やぁっはははははっははははは!!」


 リビングドールに弄ばれるユカ。すると部屋の扉が突然開き、そこから12~14歳程の少女が出てきた。


「だっ、だれえええへへへへへへへへへへへ!」


「ぁ、ご主人様。お久しぶりです」


 リビングドールは手を止めず、顔だけを扉の方に向けて入って来た者に挨拶をする。


「あっははははははははははははは!」


「えぇ、取り敢えず一旦それ、やめてあげて頂戴」


 少女が命令するとリビングドールは手を止める。そのまま少女の前まで飛んでいき、お辞儀をする。


「はぁっ、はぁっ……」


「やれやれ、新人が来てると聞いて来たけれど……。団長と同じタイプの子とわね……」


 少女は大きく溜息を吐いて、ユカの近くまで歩み寄る。ユカはようやく落ち着いてきたのでベッドから起き上がる。そして目の前の少女を改めて観察する。

 膝まである長いロングストレートの銀色の髪を持ち、頭には黒の小さなシルクハットの様な物が乗っており、ピンクを基調としたノースリーブのワンピースに黒のストッキング、ピンクのリボンドレスシューズを身に纏い、青色のつり目の瞳は強気な印象を与えるが、どこかあどけなさが残る顔をした少女はユカに自己紹介を始める。


「初めまして。私はフィア。団長から話は聞いてるわ。取り敢えず、一旦団長室まで来てもらってもいいかしら?」


「はい、わかりました」


 流石に自分がくすぐられてる姿を見られたユカは恥ずかしそうにしながらもフィアの後に続いて団長室へと向かう。

 移動する事暫く、団長室に到着した二人。他にも先に来ていた者が何人かいる事から重要な話があるとユカは雰囲気から察した。


「ん、おかえり。待ってたよ」


 リリィは二人を確認すると、部屋を見渡してメンバーを確認して話を始める。


「さて、実はね、宣戦布告状を貰ってね」


 宣戦布告状。

 戦いを挑まれたという事は分かるが、ユカはピンと来ていなかった。


「ユカちゃんは初めてだから、ギルド戦について説明するね」


 そう言ってリリィは説明を始める。


「ギルド戦っていうのは、まぁ文字通りギルド同士で戦うイベントなんだけど。ただ単にギルド同士で戦ったら、人数が多い方が必然的に有利になるじゃない?だからか、このゲームのギルド戦はランダムに選ばれた10対10で専用フィールドで戦うことになっているの。でも、当日出れないって人もいるだろうから、一人だけならメンバーの変更が認められてるの。で、今回ここに居る私以外が選ばれたって訳。今居ない子もいるけどね」


 初心者の私が選ばれるのかよ。ユカは真っ先にそう思い自分の不運を嘆いた。


「あの、じゃあ私は他の人と変わった方が良いんじゃ……」


 誰もが同じ事を考えるだろう事を口にするユカ。


「んー、メンツ次第ではそうしたんだけど。今回はフィアちゃんが運良く選ばれて、当日ちゃんと出れるらしいからね。ユカちゃんもいい経験になると思って、変えない事にしたの」


 リリィがそこまで言うほど強い人なのかと、ユカはフィアを見る。


「ま、今日ログイン出来たのは偶然だけれど。当日は問題なく出れる筈よ」


 ユカの視線を受けつつ、自信満々に答えるフィア。


「ま、という訳だから。ユカちゃんは自陣で見学してて」


 リリィは気楽そうに笑う。

 そのままお開きとなり、各々が自分の行きたい場所に散っていく。そんな中フィアはユカに話しかける。


「ところで、貴女は何故あの場所に居たの?」


「えっと、ここの施設とかを巡ってて……」


 正直に答えるユカ。


「あ、気を付けた方が良いよ、ユカちゃん。フィアちゃんはドSだから」


 リリィは笑顔で忠告をする。


「そういえば、あの人形は何をしたのでしょうか?体が自由に動かなかったのですが……」


 ユカは丁度いいと、疑問だったことを聞いてみる。


「ん?もしかして魅了の魔眼でも食らったの?」


 答えたのはリリィの方だった。


「でしょうね。あの人形は魅了以外の魔眼は習得していない筈だし……」


 ユカはハテナマークを浮かべたままである。


「魅了?魔眼?」


「あぁ、ユカちゃんは状態異常系の知識は殆ど無いのかな?まぁ魅了なんて上位の敵しかしてこないしねぇ」


 そう言ってリリィは窓から見える学校の様な場所を指差す。


「あそこの学校で状態異常系の知識とか学べるから、興味あったら行ってみたら?」


 ユカは「分かりました」と答え、早速向かっていった。部屋に残っていたフィアはリリィの方を向く。


「あそこを概要だけ紹介する貴女も十分ドSだと思うけれど……」


 呆れた顔でリリィを見る。


「私はドSでもありドMでもあるよ?」


 何を今更といった表情で見つめ返すリリィ

 そんな事を知らないユカは学校へ真っ直ぐ向かって行った。

登場人物が少女ばっかになってる気がするのは気のせいです。

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