57話
ユカが豪邸から戻ってクエストを完了し、そのまま時間をつぶして一旦ログアウト。夕食を食べて再びゲームに戻るとニナもログインしていた。
「ハロー、二人共!あれ、モモちゃんは?」
「家族で出掛けてるから今日は来ないわ」
「そっかぁ、じゃあ今日はどうする?」
そうして二人が考えだすと、ミコが欲しい物があると言い出す。
「海の方までウニを取りに行きたいのよ!」
「みこ、頭でも打った?」
いきなりゲームに関係なさそうな事を言いだすミコを心配するユカ。
「いや違うよ。テレビでウニの特集みたいなのやっててさ。リアルだと高いから買い辛いけど、ゲームならと思って!」
「ウニかぁ。そう言えば、後二ヶ月でアレが来る筈だし、予行練習にもなるから丁度いいな」
「アレ?アレって何?」
ニナの言葉に不穏な単語が混ざっていたことを聞き逃さなかったミコ。
「多分、ニナが言ってるのは海底洞窟の事でしょう」
「そうそう。今年もきっとくるでしょう。去年はまだ始めて無かったからいけなかったけど、今年こそは!」
海底洞窟とは、去年の7月に夏季限定で解放されたダンジョンの事であり、名前の通り入り口が水中に存在する。
多くの水棲魔物や人魚が現れるダンジョンで、本格的な水中戦でそれらの対処をしなければならない事から難易度は適正レベル以上とされている。
「団長のローレライちゃんかわいいからなぁ。水中戦に慣れておかないと」
「それはそうとして、水中呼吸の装備は持ってるの?」
ミコが欲しがっているウニは当然水中に生息している。水中呼吸の能力無しで潜れば、30秒後に最大HPの5%の割合ダメージを1秒毎に与えられる。なので、能力無しで水中に潜るのは浅瀬でない限りかなり難しい。
「こんなこともあろうかと、水中呼吸のポーション購入しておいたよ。安いやつだけど、練習だからいいよね」
ニナはそう言ってアイテムボックスからポーションを幾つか取り出す。錬金術で作れるそれは、素材によって効果時間が変動する。当然、効果時間が長い物の方が高価だが、水中呼吸はそこまで素材が貴重ではないので高価という訳では無い。
今回ニナが用意したものは効果時間30分の、中くらいの物である。
「それじゃ、今日は水中戦の練習兼、素潜り漁ね。行きましょう」
そうして3人は北西の海辺へと向かい、到着する。
「海はいいねぇ。リアルだとまだ寒いから入れないけど」
「取り敢えず、水中戦で注意する事は多いからよく聞いててね」
ユカは主にミコに水中戦の注意事項を説明する。まず投げ斧や弓矢等の飛び道具は使用不可。炎系の攻撃は威力が半分以下まで減衰する。更に雷系の攻撃が敵味方無差別の広範囲攻撃に変化してしまうので実質使用禁止。水属性は普通に使えるが、それ以外は浮力が働き独特の動きを見せる為使い辛い。
また、物理攻撃も得物が大きい程地上より動きが遅くなるので総じて使い辛い。つまり、水中戦はかなり戦い辛い。
「私はどう戦えばいいの?」
一通りの説明をユカが終えた後、ミコは深刻な顔で聞く。
「……そういえば、ミコってどうやって戦えばいいんだろう。海底近くなら普通に戦えそうだけど……」
ミコの能力は、地面に種をまき、そこから急成長した植物を操る力。水中戦に向いている能力とは思えないのが3人の感想。
「んー……、サブ武器の鉈を振り回すしかないかなぁ……」
「私も、炎系の術しか無いから鎌を振り回すしかないかな」
「私は水遁とかあるけど、考えてみれば手裏剣が使えないのね。一応前に使ってた忍者刀は持って来てるけど……」
ユカは忍術を主力に戦えるが、武器が使えず、縮地による離脱も出来ない。ニナも、炎系が封じられれば鎌を振り回すしか攻撃手段がない。
「まぁ、そんなに深い所まで行かないから今日は大丈夫でしょう」
装備のチェックを終えると、3人はポーションを一気に飲み干す。
「にっがい……。まっずい……」
「文句を言わないの」
「まぁ、言いたくなる気持ちは分かるよー。海底洞窟が来る前に水中装備を手に入れるべきだね……」
3人は一度顔を見合わせると頷いて一気に海の中へと突撃する。砂浜から10メートルほど海を突き進めば一気に深くなり、100メートルを超えると水深も10メートルを超える。
「そろそろ良いかな。一気に潜るわよ」
そう言ってユカが先導する。水に潜れば顔に空気がシャボン玉の様に纏う。
3人が潜った場所の海底は岩場になっておりミコの目標もちらほら見える。勿論、海の魔物もちらほらと見える。
「あれは、群体ウナギね。集団で襲って来るから気を付けて」
ユカが他二人に接近してくる魔物について注意を促すが、二人に気付いた様子はない。
「そうだった。水中だから会話出来ないんだった……」
ユカは二人の方に向かって火遁を放ち合図を送る。
「うわっ!?何っ!?ゆかちー?魔物っ!?」
ミコは火遁によって唐突に発生した大量の泡に驚き、ユカの方を見ると奥に魔物が迫って来ている事に気付く。
「うわっ、びっくりした。魔物が来てたのね」
ニナはさほど驚いた様子もなくユカの方を見て魔物が接近している事に気付く。
そうして3人が戦闘態勢に入ると魔物も大分近くまで接近しエリアが形成される。
3人を襲う魔物の名は群体ウナギ。常に5匹以上の群れで行動する水棲の魔物。その細長い体を活かし水中を高速で移動し服の隙間から中へ侵入し、ヌルヌルした体を擦り付けたり5本の舌で舐めたりしてくすぐってくる。弱点は個のHPが低い事。また、魔物ではあるがドロップする肉は本物のウナギと殆ど同じで人気が高い。最も、集めるのに手間がかかる為、それを稼ぐ人は殆どいないが。
今回3人の前に現れた数は最低数より一匹多い6匹。
「ウニだけではなく、ウナギも私の食卓に並ぶのだっ!」
ミコはそう張り切って腰についている鉈を取り出し構える。
(みこ、やたら張り切ってるけど大丈夫かな)
ユカの心配をよそに、鉈を構え二人の前に出るミコに狙いを定めた群体ウナギはまっすぐにミコの元に向かっていく。
「せりゃぁっ!」
ミコが掛け声と共に鉈をウナギに向かって振るう。それは完璧なタイミングで振るわれた一撃だった。地上であればの話だが。
水中である為、振るわれた鉈はゆっくりとしか動かず、高速で動く群体ウナギには一匹にも当たらず、そのままウナギは全てミコの服の中に侵入する。
「当たらなぃっ!やっ!入って来ないで……、ヌルヌルする……」
今日は急に予定が決まった事もあり、何時ものワンピースを着てきたミコ。服の裾やスカート等、ウナギが侵入できる箇所はたくさんある。
尚、水中に潜るという事もあり、流石にスカートの下にスパッツを履いて来ている為下着は見えない。
「やぁっ……、服の中で暴れないで……あはっ!」
何とかウナギを追い出そうと身を捩っていたミコだったが、急に反応が変わる。ウナギが5本の舌でミコの素肌を舐め始め、その刺激が急に強くなったからである。
「やめっ!っははは!あはっ!あっははははははは!離れっへへへへへへ!」
ウナギはミコの服の中を自由に泳ぎ回りながら5本の舌を指の様に動かし、ミコをくすぐる。
「たすけっ!っははははははは!やめへへへへへへっ!ぁっははははははは!」
ミコは服の中に手を入れウナギを追い出そうとするが、ヌルヌルした粘液で覆われたウナギを掴んでもすぐに抜け出し、追い出す事は出来ない。
「流石に、助けないとヤバいわね」
ユカはミコの独力では脱出は不可能。二人がかりでも難しいと判断し、早々に救出に向かう。
「良いなぁ、とてもくすぐったそう……。ぁ、助けるの?」
ニナはユカの動きから意図を察し、同じく救出に向かう。
「はやくっ!たしゅけっへへへへへへ!へぁっはははははは!あはっ!わきだめぇっへへへへへ!」
二人が救出に来たので、ウナギを捕まえやすいようにと両腕を真上にあげると、好機とばかりにウナギが殺到し、舌を這わせる。
「はやっ!あっははははははは!あはっ!はぁっはははははははは!たしゅっふふふふふふ!」
「ヌルヌルして掴めない……。みこ、暴れないで」
見知った仲なので、ワンピースのスカートをあばらの辺りまでたくし上げ、ミコの体に群がるウナギを掴もうとする二人。だが、掴んでもすぐに抜け出す粘液によって中々上手くいかない。
「はひっ!ひぁっははははははははは!あはっ!あっははははは!ははっ!」
「このままこっちに来られると厄介ね……。そうだ」
ユカは何か思いついたようで、忍者刀を抜き、右手に持つ。そして空いた左手でウナギを掴むと、抜け出す前に刀を突き刺す。
「別に捕まえなくてもこれでいいじゃない……」
そのまま残りのウナギも掴んでは刺すの繰り返しで全て仕留める。
「はっ……はぁっ……!はひっ……!」
ミコは水中にプカプカ浮かびながら大きく呼吸して息を整える。
「みこは放っておいて、周囲に魔物の気配は無いからこのまま採取に向かいましょう」
ユカは軽く周囲を見渡して魔物が居ない事を確認すると、一気に海底まで潜っていく。
「あのままユカちゃんの方に矛先を向ければよかったのに……。まぁたくしあげミコちゃんが見れたから良し!」
ニナは聞こえないのを良い事に変態的な発言をしたのち、ユカと同じく深く潜り岩場を目指す。
「沢山いるわね。隙間に多いから取るの大変だけど……」
今回の目的であるウニは岩の隙間に沢山いたが、手を入れにくい隙間にいる事が多い。なので、ユカは刀を、ニナは鎌を器用に動かしウニを取っていく。
結果、ミコが復帰するまでの数分で何十匹というウニが取れ、ミコが取る必要が無くなり、そのままギルドハウスまで帰還する。
「そう言えば聞き忘れてたけど、ミコちゃんって料理スキル上げてるの?」
このゲームでは料理を作るには料理スキルという共通スキルを上げる必要がある。これが低いと簡単な料理しか作れない。
「大丈夫!ちゃんと上げてるよ。……ゆかちーが」
「結局私頼みなのね……」
ユカは呆れたように呟くが、結局はミコの望み通りにしてしまう。尚、ミコは料理スキルを一切上げていないが、ニナはそこそこあげており、ユカはかなり高い。この場にはいないが、モモも結構上げていたりする。
既に夜も大分更けていたが、3人はそのままユカの部屋でウナギとウニを沢山食べて満足する。
最近ミコの被害率が高い気がする……。
でもミコってくすぐりやすいんですよね。
海底洞窟の話が本格化するのはもう少し先になると思います。
そう言えば何時の間にかピクシブに言語フィルター機能が追加されてて驚きました。
これで小説探しが楽になりそうです。