53話
無し回。
後本編2話分は無し回が続くと思います。
GWの最終日。リリィのギルド『アイリス』とリリィの妹のギルドとの模擬戦。その二回戦。ルルナ対ローザ。
「相手は……女性?」
試合会場のルルナの反対側に現れたのは赤いロングヘアーの如何にも戦士といった格好をした女性だった。
「ローザさんは……、どっちだったかなぁ。リーシャさんのギルド、性別違う人が多いからなぁ」
イリーナが少し思い出す素振りをするが、興味が無いからかすぐに諦める。
「しかし、そういう事ね」
「どう言う事なの?エルザ」
エルザが何かに気付いたように呟く。
「今気づいたけど最初の三人、全員近接戦特化型の前衛職なのよ。恐らく、私とルルナを落として二勝を確実にする気なのよ」
「ぁー、成程。言われてみれば」
「まぁ、私達が勝てば問題ないの」
イリーナとネアは気楽に答えるが、ユカ達4人は少し顔を引き攣らせる。
そんな控室の状況など知らず、リリィの気の抜けた合図で試合は始まる。
「戦士かぁ、せめて瞬殺は免れないようにしないとなぁ」
基本的に狩人は、魔法職と同じで接近戦には弱い。本来盾役となる前衛の後ろから弓矢を放って攻撃するのが本来の戦い方である。
なので今回の模擬戦の様に、1対1で、接近戦を得意とする職との戦いはかなり不利である。
【剣技:閃光突き】
開幕で最速の突き攻撃をくり出すローザ。ルルナはそれを弓で弾いて防ぎ、そのまま後ろに飛んで距離を離そうとする。が、ローザは止まらず距離を詰める。
「弓で剣って防げるんだ」
「モノにもよるけど、ルルナちゃんが今回使ってる弓は攻撃重視の金属製だからね」
狩人の使う弓は、木製の機動力重視タイプと、金属製の攻撃重視タイプがある。ルルナは両方持っており敵によって使い分けている。
その後も、何度かローザが剣技を行使するが、ルルナは弓を使って巧みに防ぐ。
【弓術:テンペストショット】
弓で大きく弾き、隙を作って矢を空に放つ。その矢は空で何十本もの矢に変化し降り注ぐ。
「くっ、撃たれたか」
【闘技:剛気鋼体】
広範囲に降り注ぐ矢の雨は避ける事が出来ない。そう判断し一切動けなくなり、魔法に弱くなる代わりに物理防御を高める闘技を発動する。
【弓術:マジックアロー】
動けない隙に魔力で形成した矢を放つ。数少ない物理職が放つ魔法技の一つである。
「いったぁ……やっぱこの防御は無理があったか」
テンペストショットで動けない隙に魔法技を放つ。だが、マジックアローは序盤で覚える技なので威力が低く、魔法防御が下がっているとは言え大したダメージを与えられない。
【弓術:ブレイズショット】
距離を詰められる前に次の矢を放ち、炎を纏った矢がローザを襲う。
【剣技:居合・結界】
その矢を剣で斬り落とし、そのまま距離を詰める。
「立て直しが早いなぁ」
ルルナはその対応の早さにうんざりする。
【我流剣術:神速突き】
次の瞬間、ローザの姿が消えたと思えば、ルルナに肉薄し、肩に剣を突き刺している。
「痛いなぁ……、上級剣術。ここで使ってくるか」
魔法職の詠唱が有る上級魔法に匹敵する程の威力のあるスキルも作れる物理職の上級技。
物理職の上級技は魔法職と違い、幾つかの行動や技を組み合わせる事によって自分の好きな技を生み出す事が出来る。名前も自分で設定できる。なので、同じ技名でありながらプレイヤーによって全く違う動きをするという事が稀によくある。
因みにこのゲームは他のゲームの違い、痛みに関する制限が強い。ルルナの肩に剣が突き刺さっているが、実際には細い針で少しチクッとされた程度の痛みしか感じていない。
「そして、まずいわね」
先程の一撃でルルナのHPは大分削れている。そしてローザの戦闘スタイルは手数と機動力重視。これを好機と次々に剣を振るう。
「こういう時、ユカちゃんが羨ましいわ……」
拘束されても無条件で脱出できる縄抜け。一瞬で距離を詰め、一瞬で離脱も可能な縮地。攻撃を無効化して背後からカウンターを行う空蝉。縮地があれば楽に戦えるんだろうなと羨むルルナ。
「泣き言を言ってもしょうがない、かっ!」
ギリギリの所で剣を躱し、防ぐが、それでも限度はある。何より、攻撃が出来なければ勝つことは出来ない。
「これは、加速系のパッシブスキルを使っているわね」
前衛職のパッシブスキルの一つに加速系と呼ばれるスキルがある。これは戦闘が始まってから時間が経てば経つほど自身の敏捷値が上昇し、より早くなる事が出来る。
ローザはこれを好んで使っているが、動きが早くなれば制御も難しくなってしまうので、これを使う人は少ない。
「これは、もう無理かなぁ……」
いよいよ防げない攻撃が増え始め、そのままHPを全て削り取られる。
「しゅーりょー!」
リリィが合図を送り、二回戦も終了となる。
「ふふん、次も勝てば私達の勝ちよ?」
「まだ分からないよー」
呑気な姉妹が張り合っている間に二人はそれぞれの控室に戻る。
「やっぱりダメだったわ。頑張ってみたけど、大技を撃つ隙が無い」
「気にしないでいいよー。頑張ってたし」
イリーナが励ます。
「さて、私の出番なの」
直前までルール表を確認していたネアが会場の方へ行く。
「頑張ってねー」
イリーナが声援を送る。
そうしてネアと対戦相手のフォーズが試合会場の中央で見合う。
片方は120ほどの大きさしかない少女。片方は180はある大きな体の茶髪ロン毛の、如何にも騎士然とした男。その見た目通り、職業は騎士である。
「体格差がえぐいわね」
「幼女と大男だからねぇ、見た目は」
尚、中身は二人共大人である。
そしてリリィの間抜けな合図が響き、第三試合が始まる。
「せいやぁっ!」
【槍術:ソニックスピア】
開幕いきなり、目に留まらぬ速度で突きをくり出す。
「ふん」
【電磁バリア発生装置】
ネアの周囲をバリアが包み槍の一撃を防ぐ。従来の電磁バリアでは持ち運べるサイズで上位プレイヤーの一撃を防ぐ事は難しいが、ネアが今回持って来たのは新大陸から盗んで来た技術を取り込んだ最新式である。
「流石だな……。これほどの硬度のバリアとは……」
「そ。だから、ハチの巣になればいいの」
ネアは白衣の下から、箱をくり抜いた様な独特の形状のサブマシンを取り出し、躊躇なく引き金を引く。
銃口が火を噴き、ぱららららっと軽い発砲音が響き、大量の鉛玉がフォーズに向かって吐き出される。
「あぶねぇっ!」
フォーズは反射的に盾を構えて銃弾の雨を防ぐ。
そして弾が切れた瞬間に槍でバリアを突く。
「硬すぎだろ……」
再度弾かれる槍に愚痴を零す。本来電磁バリアとは強い物理的衝撃に弱い。だが、新大陸の進んだ技術を盗んで手に入れた電磁バリアはダンプカーに撥ねられる程の衝撃が無いと一撃で壊れる事は無い程硬い。
「じゃあ、面白いのを見せてあげるの」
そう言ってネアは真横に手を翳す。
「何だ?」
フォーズはその行動に自分の知らない新兵器が飛び出してくるのを警戒し、距離を取って盾を構える。
【技師技能:次元倉庫】
真横に展開された次元倉庫から姿を現したのは、桃色の魔法少女風の衣装を身に纏い、黒い鎌を持ったグレーの膝まで届くポニーテールの少女。
「おはよー、ますたー!」
元気な挨拶をする彼女の名は『クレア』。ネアが生み出したアンドロイドの上位互換のDEMと呼ばれる存在である。
「おい、パートナーは禁止だろう」
フォーズは一応忠告する。
「この子はパートナーじゃないの。DEMっていう、アンドロイドの上位的な存在なの」
ネアは訂正させる。パートナーは禁止されているが、DEMは禁止とはルール表に書かれていない。
「これが、アンドロイドだと……」
フォーズはクレアをじっくり観察する。感情を持ち、プレイヤーと同じ装備を身に纏う彼女は従来のアンドロイドとは全くの別物だったのだ。
「それじゃ、クレア、あの男を叩きのめすの!」
「了解、ますたー!」
そう言うと、鎌を構えて突撃する。
「はえぇっ!」
一息でフォーズとの差を縮め、鎌を上から振り下ろす。それを盾で防ぐ。
本来、機械技師が扱う武器兵器の類は強力な物であればあるほどサイズが大きくなる傾向があり、乗り込んだり構えたりで使用までに時間が掛かる。なので、フォーズは大型兵器を使わせる隙を与えない接近戦で一方的に攻撃すれば勝てると考えていた。だが、クレアの登場によりその認識が大きく変化する。
「このっ……!アンドロイドの強さじゃないだろうっ!」
クレアは既に上位プレイヤーも上回る程のステータスになっていた。その一番の理由は、プレイヤーと違いレベルという概念が無く、通常のプレイヤーよりも高いステータスを得る事が出来る。
「クレア、こっちに近づかせない様にして欲しいの」
「了解ー」
クレアはそう返事をするとネアとフォーズの間に入って戦う様に意識して立ち回る。
「くそっ、隙がねぇ……」
フォーズはクレアの鎌による連撃に防戦一方となっている。そしてちらりとネアを見ると、何やら大きな筒の様な物を持って構えていた。
「おまっ!人に対して使う物じゃないだろっ!」
「知った事じゃ無いの。クレア、爆発に注意するの」
ネアが取り出して構えたのは、バズーカ砲。本来であれば戦車等に向けて撃つ物であり、人に向けて撃つ物ではない。
だが、何の躊躇いも無く引き金を引く。発射音と共に弾がフォーズに向かって寸分たがわず飛んで行く。
「ちょっ」
それと同時にクレアはフォーズと距離を取る。
【盾術:正面障壁】
フォーズはスキルを発動すると、盾が光輝き、フォーズの正面に光の大きな盾が出現する。
騎士のスキルの一つ。盾を装備時のみ行使できるスキルで、効果はあらゆる攻撃に対する強力な防御効果。ただし、防げるのは正面方向に限定され側面や後方からの攻撃は防げない。
その効果は確かで、バズーカ砲の一撃を防ぎきる。
『燃え盛る焔よ、我が声に応えよ。眼前の敵を焼き尽くせ』
【魔術:焔皇】
バズーカ砲の爆煙が未だ残る中、クレアの詠唱が響き渡り、巨大な炎の塊が生まれる。
「こいつ、魔法まで使えるのかよっ!」
炎の塊は、正面障壁では防ぎきれない程巨大である。
それはクレアが腕を振るうと、フォーズに向かって突っ込んでくる。
【盾術:耐熱結界】
フォーズの盾が光り輝くと、それはやがてフォーズを包み込む。
それは、炎に対する高い耐性を一時的に高めるスキルである。だが、完全耐性には至らない。
「やっぱ、防御が高い騎士はめんどいの」
ネアはそう言って未だ炎の残る中にいるフォーズに向けて6連発式グレネードランチャーを構える。そして、一切の躊躇無く6発全てを連射する。防ぎにくいように微妙に着弾地点をずらすというおまけ付きで。
ぽんっという何処か間の抜けた発射音と共に放たれた6発の擲弾はネアの狙い通りの場所に山なりの放物線を描いて飛んで行く。
「くそっ……!」
騎士の防御系のスキルは二つ以上同時に発動する事は出来ない。未だ炎の影響が残る中、耐熱結界を解けば上級魔術の炎に焼かれる。
よって、フォーズは賭けに出る。着弾までの僅かな時間で炎の影響外まで下がり、物理防御のスキルを展開する。成功すればダメージを大きく抑えられるが、もし失敗すれば、直撃を食らい大ダメージを受ける。正に賭けであった。
結果、フォーズは賭けに勝つ。1秒未満の際どいタイミングで何とか間に合い、擲弾の爆発によって飛び散る破片の全てを防ぎきる。
「あぶねぇ……、たすかっ……!」
盾の裏から顔を出したフォーズは、直後にその顔を引き攣らせる。その目に映ったのは、人が一人の力では持ち運ぶのに苦労する程重く、三脚によって支えられた大きな銃。その横に置いてある箱から銃弾がベルトの様に伸び、銃と繋がっている。
「XM806……をベースに再現した重機関銃なの」
機械技師は銃を開発出来るという特性上、実在の銃を再現するプレイヤーも少なくない。と言うより、一から銃を作るよりかは実在の物を再現した方が遥かに簡単かつ性能も安定するのである。
「ここはファンタジーの世界だぞ……そういうのはFPSで」
「問答無用、なの」
ネアは座って銃を構えたままそう言い放ち、フォーズに向けて発砲する。
発砲音を轟かせ、次々と銃口から吐き出される弾丸は、フォーズの展開する光の盾に吸い込まれるように飛翔し、穿つ。
「くそ、流石にこれは……!」
フォーズのスキルによって強化された盾は、確かな防御力を誇る。だが、ネアの機関銃から吐き出される弾丸は、12.7ミリ弾。本来は軽装甲車等の兵器の類に対して使用する大きさである。その為、弾が盾に衝突する度に甲高い金属音が響き、障壁にダメージを与える。
「このままでは……」
機関銃による弾幕は激しく、前進も後退も許してはくれない。そして、このままでいれば障壁が破壊されるだろう。傍の箱からは未だに銃弾が出てきている為、弾切れは期待できないだろう。
やがて機関銃の弾幕が、障壁を破壊する。残ったのはスキルの効果を失った盾を構えるフォーズのみ。
「……降参だ。だから、盾の破壊は止めてくれ」
フォーズは降伏を選ぶ。このまま勝てる可能性の低い戦いをして盾を破壊されるよりはマシと考えたのだろう。
「はい、しゅーりょー!」
リリィの合図で三試合目がネアの勝利で終わる。
「流石、ね。DEMを完成させて、あれほどまで育ててあるなんて……」
リーシャは素直に称賛する。
「ふふん、当然の勝利なの」
控室に戻って来たネアは実に清々しい笑顔だった。
「いよいよ、私達の番かぁ……」
緊張しきったユカが呟く。
「まぁ、何とかなるでしょ」
ミコはいつも通りの口調だが、若干テンションが低いので緊張している事が伺える。
「そう、ね。いつも通りに戦えば良いわ」
モモはさほど緊張していない様に見える。
「レベルが上がり切っていない私達は、相手が対応する前に倒さないと勝機は無いでしょうねぇ」
ニナは真剣な表情でつぶやく。
「……それじゃ、行きますか」
ユカの言葉と共に会場へ向かう。