51話
短め回
ニナが髪の色を銀色に変えた後、ユカ達はGWに入り、今まで以上にレベル上げを頑張り、例の対戦の日の2日前の夜に念願のレベル90代に4人全員が到達した。
対戦の日の前日、今日は4人集まり、新しく誂えて貰った日緋色金の武器に慣れる為、そしてユカの火力を上げる為、上級忍術習得のトリガーである『焔より生じたモノ』を倒すために大陸の南にある火山へ来ていた。
「焔より生じたモノって、何?情報がざっくりしすぎじゃない?」
ミコが感じた事を率直に聞く。彼女の武器である特殊な拳銃は、太陽の様な色に光り輝き、二丁に増えていた。更に今までのセミオートから、1秒に5発を連射できるフルオートに変わり、これによって一度に発射できる限界である10発を2秒で吐き出す事が出来る。
「団長に聞いてみたけど、恐らくマグマスライムの事だって言ってたわ」
ユカの装備は、以前見せた巨大な手裏剣である。服装も変わり、桃色を基調とした、白い小さな花が散りばめられた、着物を改造したような忍者服に、黒のスパッツ。同じく黒のニーハイソックスに、服と同じ色の足袋の様な形をしたブーツ。腰まで届く水色の長い髪を、服と同じ色の小さなリボンで纏めてポニーテールにしている。
「スライム……面倒ね……」
モモが少し嫌な顔をして呟く。
モモの武器は変わらず笛。ただ、皆と同じように太陽の様な色に輝いている。服装は、本人の期待を裏切り、露出度は変わらなかった。色は水色である。
「マグマスライムかぁ……ボスだねぇ……」
ニナが新しい銀髪を揺らしながら呟く。白と紺が基調のセーラー服の上下から黒のマントを羽織り、黒のタイツに茶色のローファー。中二病を患っているJKの様な服装である。
新調された鎌は、仲間と同じ色で輝く。ただ、刃は実体がなく、炎の様に揺らめいている。そしてニナはこの武器の強力な固有スキルに驚いた。
それは、物理攻撃力と魔法攻撃力を合わせて、統一するというスキル。つまり、両方の攻撃力を足した数値が、そのまま両方の攻撃力になるというもの。「これで一々入れ替えたりする手間が省けた!」と喜んでいた。
ニナがつぶやいた通り、マグマスライムは火山に生息するボスモンスターの内の一種である。
「まぁ、火山の割と手前の方に居るボスだし、個の能力は高くないから大丈夫でしょう」
「個……?まるで複数出て来るみたいな言い方だね」
ユカがそう言うと、ミコが引っ掛かりを覚える。
「よく聞いてるわね。その通りよ。4体出て来るわ」
「うっわぁ……」
ただでさえ面倒なスライム種が、ボスクラスで複数。その情報でミコのやる気が削がれていく。止める気は無いが。
道中の敵は問題なく撃破し、移動を続ける。
「マグマって名前から分かる通り、炎系は全く効かないって思っていいわ」
マグマスライムは炎系は殆ど無効、他のスライム種同様、物理にも高い耐性を持つ。耐性が優秀だが、その分HPが低い欠点を持つ。
「にしても、強くなったねぇ……私達……」
何度目か分からない敵を倒して、ミコが呟く。
縮地で安全な一撃離脱が可能で、忍術や手裏剣で中距離から接近戦までこなせるユカ。
植物を生み、戦場を自分のモノに出来るミコ。
魔人を前線で戦わせ、後方から曲を奏でて全員を回復から補助、果てはデバフまで出来るモモ。
物理と魔法、双方の火力がかなり高いアタッカー、ニナ。
これが結構バランスがよく。余程の事がない限りボス以外は苦戦する事も無くなった。
「そうねぇ。まぁ90代にもなればこんなもんでしょう」
本人達は気付いていないが、4人共ユニークジョブのおかげで本来の90代よりステータスが高い。
そんなこんなで、マグマスライムが出る部屋の手前まで到着した4人。
「フォーメーションはどうする?」
ミコがユカに聞く。
「いつも通りで良いんじゃない?」
適当に答えるユカ。
「適当ー。まぁ慣れない形で戦ってヘマする可能性もあるし、無難かな」
ニナが肯定し、4人は部屋に入る。
体育館程度の広さを誇るここは、火山故に熱気が凄い。地面から壁、天井まで全て黒い岩で、壁から溶岩が流れ出てる場所もある。
その部屋の入り口から反対側に、目的のマグマスライムが4体、待ち構えていた。真っ赤でドロドロした体を持つマグマスライムは、知識が無ければ生きた溶岩か何かだと思うだろう。だが実際は溶岩ではなく粘液で、温度も40度前後と見た目ほど熱くは無い。
「取り敢えず、各個撃破を狙うわよ」
そう言って、ユカは一番左端のマグマスライムを指し示す。
「おっけー。ほい」
ミコはそう言って右手の銃を10発、足元にフルオートで吐き出す。そして着弾地点を中心に花畑が広がる。
【豊穣:快癒園】
ミコが新たに習得したスキル。10発全てを短時間に撃ち尽くす必要があるが、それが出来れば花畑が広がり、その中にいる味方全員はHPやMPが自動回復する。
「火山の中に花畑って……。中々にシュールね……」
モモが足元に広がる花畑を見つめて呟く。
「火山の熱にも耐えられる品種です」
ミコが冗談で返す。
それとほぼ同時に、ユカが縮地で一気に距離を詰める。
【忍法:操刃・激流】
ユカが放った手裏剣が、水を纏いマグマスライムの一匹の周りを回転する様に動いて切り刻む。
そして捕まらない為に、後ろに飛び退く。
「んー……。やる事無いなぁ。火山行くって分かってたからソフィナを連れて来ればよかったかな」
ニナが花畑の中で、マグマスライムを眺めて呟く。鎌による物理攻撃と、炎による魔法攻撃を主力にするニナはマグマスライムと相性が悪いので、花畑でただ眺める事しかしていない。
因みに4人共パートナーを連れてこない理由は、人数が多すぎてごちゃごちゃするから、というモノだったりする。
「なら、捕まってきたら?」
モモが冗談交じりに言う。
「成程、アリね」
そう言ってニナは一番右のマグマスライムに突撃する。
「は?」
モモは本当に行くとは思っておらず、突っ込んでいくニナの背中を見つめて。
「まぁ、いっか。ニナだし」
そう言ってユカの方へ視線を戻す。
「そおいっ!」
ニナはマグマスライムに鎌を突き立てる。
そして案の定、そのままニナを包み込む様に捕まえる。その様子を、手裏剣を投げて左端のマグマスライムを撃破したユカが見て。
「何してるの……」
呆れた顔で眺めていた。助ける気は無い。
「あぁ……温かいわぁ……」
ニナがスライムに包まれつつ、まるで風呂に入っているような感想を漏らす。
だが、当然スライムはそのまま何もしない訳は無い。粘液の体を活かし、僅かな隙間からも服の中へと侵入する。
「うひっ!?」
服の中の素肌にスライムの温かい粘液が触れ、一瞬びっくりして変な声を上げるニナ。
スライムはお構いなしに、じゅるじゅると音を立ててニナの素肌を撫で始める。
「んふっ……!ふふっ……!ふはぁっ……!いいっ……!」
全身をスライムに包まれて、笑顔を咲かせるニナ。
「んふふっ……!ふひっ……!ひっ……ひひっ……!」
スライムは今までの撫でるような動きをやめ、一度しっかりとニナを包み込み、粘液の体を流動させる。
「んひっ!ぁ……!ぁっはははははははは!はげしっ!」
まるで体中にミミズが這い回っているような刺激がニナを襲う。
「ふぁっははははははは!ははっ!はっ!ひっ!ふっふふふ!んんっ!んひっ!だめっ!我慢できなぁっははははははは!」
スライム系の粘液の体は、捕まった人間がいくら暴れようと決して逃す事は無い。故にはニナはうっかり拘束が解かれるという事が無いように暴れないという手間が省けるという利点がある。
「んふふふふっ!あはっ!あっははははは!ははっ!ひぁっははははは!」
すぐ隣ではユカ達が残りのマグマスライムと戦っているが、知らぬ存ぜぬといった様子でニナをくすぐり続ける。
「ひゃはははははっ!はっ!ふっ!ふぁっははははははは!やばっ!っははははははは!」
アタッカーがユカしか居ない為、この後5分程くすぐられ続けたニナは大きく呼吸をし、回復まで更に5分の時間を要した。
無事ユカの忍術習得が終わり、街へと帰還する一行。
「明日は遅刻しないようにしないとねぇ……」
ユカが、特にミコを見つめて言う。
「大丈夫だよ、多分」
「本当かなぁ……」
4人は集合時間を決めて、この日はログアウトする。
次回くすぐりが一切ないギルド戦。
その前に番外編挟むかも。




