50話
ユカ達が居るのは北方にある遺跡の最奥の部屋。
その部屋の、ユカ達の反対側で待ち構えていたのは、銀のロングヘアーの髪を持ち、額にはダイヤモンドが嵌められたサークレットの様な物を着けて古の巫女の様な衣装を身に纏っている。何歳ぐらいに見えますか?と問われれば大体の人が16~18歳と答えるだろう容姿をした少女。
だが、勿論人間では無い。特徴的なのは背中に生えた蝙蝠の様な羽。スカートの中から足元まで伸びる蛇や蜥蜴の様な尻尾。
高い能力値を持つ肉体に、決して低くない魔力。ドラゴン系の亜種『ヴィーヴル』である。
「あれが今回の目的のボスね」
「このゲーム初のドラゴンだから、どんなのが出て来るのかと思ってたけど。予想と随分違うのが出てきたなぁ」
ミコが普通の人が抱くであろう感想を言う。
「まぁ、それはこのゲームだからねぇ」
ニナが尤もな答えを言う。この世界に出て来るドラゴンが大体こんな感じである。
因みに何処がとは言わないが、とても大きい。
そんな感想を言い合っている内にエリアが形成され、ヴィーヴルは戦闘態勢に入る。
「ドラゴン系は魔眼みたいな状態異常にしてくる技は持って無いけど、純粋に強いから気を付けてね」
ユカが全員に聞こえる声量で注意を呼び掛ける。
「ほいっ!」
ミコが種をばら撒いて下準備をする。
「……」
モモは魔人を呼び出すと、笛を咥えたままヴィーヴルを注視している。
「さてさて、どの手でいこうかなぁ」
ニナは既にバリアを破壊した後の事を妄想している。
そして、先に動いたのはヴィーヴルの方だった。
【使い魔召喚】
ヴィーヴルの周囲に直径2メートルぐらいの魔法陣が8つ現れ、そこから人の腕ぐらいの太さの蛇に蝙蝠のような羽を付けた生物が現れる。蛇の様な生き物は口から先が二つに分かれてる舌を3本も覗かせている。
その魔物の名は『スカイサーペント』直訳で空飛ぶ蛇である。
「スカイサーペント。ヴィーヴルの取り巻きよ」
適正レベル50以上のボスモンスターは、一部の例外を除きプレイヤー間で取り巻きと呼ばれる雑魚敵を召喚する。取り巻きは一定数以下で再召喚され、適正レベルが高くなれば再召喚するトリガーとなる数も増える。例えばレベル50ぐらいのボスは、一匹だけでも残っていれば再召喚しないが、90以上にもなれば、4匹を下回れば再召喚してくる。
そして、ヴィーヴルの再召喚数は。
「取り巻きは1匹以下になったら再召喚してくるから、2匹をキープしてね」
ユカが全員に適切な指示を出す。
そして8体のスカイサーペントは、一斉にユカ達に襲い掛かる。
「ニナとみこは取り巻きの処理をお願い。私とモモさんでヴィーヴルを攻撃するよ」
3人は「了解」と声をそろえる。
「取り敢えず、これかな」
ミコが撒いておいた種からシダ植物の様な草が生い茂り、スカイサーペントの足を止める。
「ほい、連携技!」
【死神技法:贖罪の火】
そしてニナの蒼い炎がスカイサーペントを燃やし尽くす。更にミコの植物に引火して、いつもより与えるダメージが多い。
だが、ここで問題が発生する。ミコの植物に絡まったスカイサーペントは、8体。つまり全て。そしてユカとモモはヴィーヴルの近くまで接近していた。この状態でヴィーヴルが取り巻きを再召喚すれば。
【使い魔召喚】
「え!?何でっ!?」
ヴィーヴルが取り巻きを再召喚する。そのスカイサーペントが目の前にいるユカとモモを襲うのは、当然である。
「あ、ごめん。全部倒しちゃった」
「ばかあああぁぁぁぁぁっ!!」
テヘッとポーズをとるニナに対してユカが悲鳴に近い声を上げる。
殆ど目の前で湧いたスカイサーペント達から逃れる事は、二人には不可能であった。ユカはその気になれば縄抜けと縮地で離脱できるが。
「ちょっ、絡み付いてくる……!やっ!服の中に……!んふっ……!脇っ……!舐めちゃっ……!ふひっ!」
ユカの腕に普通の蛇の様に巻き付いたスカイサーペントが、そのまま頭を袖から中へと突っ込み、3本の舌で脇を舐める。
「あははっ!だめっ!んひゃっ!ひゃっはははははは!」
一方のモモは。
「やだっ、離れてっ!んふふふっ!舐めないでっ……!数がっ……!」
お腹や、腕にスカイサーペントが巻き付き、一匹3本の下で丸出しのお腹や、ユカと同じように脇を舐める。
「ふふっ!やだっ!ふははははっ!んふっ!ふふふふっ!」
因みに、モモが呼び出した魔人はパートナー程融通が利かず、使役者であるモモがくすぐられたりして平静を保てない場合は棒立ちして何もしなくなる。
「んふふっ!ふふっ!やめっ!ふははははっ!助けてっ!」
両腕に一匹ずつ、お腹に一匹、そしてもう一匹が首に巻き付き、尻尾で首筋をなぞり、モモの左耳を三本の舌で弄ぶ。
「ふははははっ!ははっ!やだぁっ!っふふふふふ!」
モモは何とか引き剥がそうとするが、体にしっかりと巻き付いた蛇は、くすぐられて脱力している、筋力値に一切ステータスを振っていないキャラが引き剥がせるものでは無い。
戻ってユカ。
「あはっ!ひゃはっはははははは!離れなぁっ!っははははははははは!」
ユカはモモ程露出が多くない。だからと言って刺激が弱い事は無いが。二匹が脇を舐め、一匹が袖から中に侵入し、そのままお腹に巻き付いてへそとその周りを3本の下で舐めつつ、尻尾の先で脇腹をなぞったり突っついたりして刺激する。
残った一匹は両方の膝のあたりに巻き付いて内ももを舐める。膝に巻き付かれた事により、ユカは立つ事すらままならず、くすぐられて芋虫の様にのたうち回っていた。
「あっはははははは!やぁっははははは!あはっ!はっ!んんっ!~~~っはははははは!」
そんなくすぐられる少女二人を遠巻きに見ているミコとニナ。
「これ、どうする?」
ミコがニナに聞く。
「んー……。正直きついよねぇ」
ニナが唸る。
「じゃあ、こうしよう。私がヴィーヴルを何とか抑えてみるから、二人の救助をお願い」
「おっけー」
ミコは銃を構えて二人の元へと行く。
ニナは鎌を構えると、ヴィーヴルに向かって突撃する。
【死神技法:滅却の焔】
ニナが術を行使し、蒼い炎の爆発がヴィーヴルを襲う。
【死神技法:魔天蒼】
蒼い炎で作られた巨大な鎌が、ヴィーヴルを追撃する。
「ま、この程度で壊れたりしないよねぇ」
ニナが反撃を警戒して後ろに飛び退き、未だ健在のヴィーヴルを見て呟く。バリアの耐久値は3割程度しか減っていなかった。
ちらりとミコの方を見ると、蔓の様な植物と共にスカイサーペントを一匹ずつ引き剥がそうとしていた。あの様子だと、まだ時間が掛かりそうである。
「まだ暫く掛かりそうねぇ」
溜息を一つ漏らし、鎌を構えなおす。そして魔法と物理の攻撃力を入れ替える。
【死神技法:レクイエム・リーパー】
ニナが技を行使すると、鎌が蒼い炎を薄っすらと纏い、やがて蒼から白に色を変える。
「そぉいっ!」
ニナが白い炎を纏った鎌をヴィーヴルに向けて振るう。すると、鎌の軌跡に白い炎が残り、その炎が膨れ上がり、そのままビームの様に発射されヴィーヴルを襲う。
それがヴィーヴルに直撃し、バリアを削る。そのまま流れるように鎌を連続で振るい、斬りかかる。効果は切れる事無く続いているようで、鎌が振るわれる度に白い炎の奔流が生まれる。
(んー、普段だったら捕まりたいけど……。流石に私がやられたら負け確だろうしなぁ)
くすぐられたいという欲望よりも、ユカ達との友情の方が勝り、真面目に戦う。
「もうちょいなんだけどなぁー」
拘束攻撃を避けつつ、幾度か鎌を当て、その度に白い炎の奔流が生まれ、バリアの耐久値は残り2割まで減っていた。
「っ!」
そして遂に、ヴィーヴルの尻尾がニナの片手を掴む。そのままニナの体を引っ張り、バランスを崩してもう片方の手首をヴィーヴルの片手が掴み、空いたもう片方の手がニナの脇腹に添えられ、服の上から指を小刻みに動かす。
「んひっ……!ちょっ、ふふっ!あはっ!」
ヴィーヴルはクスッと微笑むと、術を行使し、ニナ周りに魔法陣が8つ現れ、そこから手が触手の様に伸びて出て来る。その手は4本がニナの両手両足を掴んで地面に抑え、残りの四本がニナの体を自由にくすぐる。
「ちょっと、あはっ!ずるいっ!あっはははははは!」
脇、脇腹、足、4本の手は多くの人がくすぐったいと感じるであろう場所を不規則に、場所を変えたりしつつ、指で、手でくすぐる。
「んはっ!あはっはははははははは!やめっ!っはははははは!」
ニナはそのまま笑い声を上げ続ける。
「やぁっははははははは!あはっ!はっ!んひひひひっ!ひぁっはははははは!」
ヴィーヴルはその様子を確認し、残った一人のミコを捕えるべく振り返る。その瞬間。
【剣技:居合・絶空】
ユカの剣技がヴィーヴルを襲う。
その一撃は、バリアの耐久値を全て削り切り、本体にもダメージを与える。
「このまま押し切るっ!」
【忍術:火風遁・火災旋風】
忍術を叩き込み、ヴィーヴルのHPを減らしていく。そして後ろに大きく飛び退こうとした瞬間。
「っ!?」
群青色の肌を持つ魔人が殴って阻止する。ヴィーヴルの視界の端には笛を咥えるモモと、スカイサーペントを蔓でぐるぐる巻きにして無い胸を張ってるミコの姿が映る
【笛術:魔導士】
モモが奏でる曲は、味方の魔法ダメージを上昇させる技である。
【忍術:火雷遁・爆雷】
ユカが忍術を行使し、爆発を伴う雷が降り注ぐ。
威力の上がったソレは、バリアが剥がれたヴィーヴルのHPを一気に削り、すかさず魔人が殴って追撃する。
「とどめぇっ!」
【剣技:居合・閃殺】
ユカの忍者刀が鋭い一撃を放ち、ヴィーヴルの残りHPを削り取る。
「お、終わったぁー……」
ユカが刀を仕舞って座り込む。モモは残ったスカイサーペントを魔人に処理させる。ミコはそれを眺めて、ニナは解放されて、その場で大きく呼吸している。
「どう?目当ての物、手に入った?」
ユカがニナに聞く。そもそもこのボスを倒す目的はモモのレベル上げでもあるが、ニナの素材集めでもある。
「はぁっ……、うんっ……、ゲットしたよー……」
ニナがシステムメッセージを確認して言う。
この日の狩りはこれでお開きとなり、街へと帰還する。
ニナはこの日の内に素材をヘアカラーに変えて貰って、髪色を金色から銀色に変える。
「金も好きだけど、やっぱ銀や白が一番好きねぇ、私は」
新しく出来上がった自分の姿を鏡で確認し、満足そうに微笑む。




