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44話

少な目回(またです

 蜃気楼神殿攻略二日目、4人は昨日ログアウトした小部屋に出現する。


「さて、攻略再開しましょうか」


 ユカが明らかな作り笑いで3人に語り掛ける。


「そうね。一番の問題が迷子という事だけど」


 モモが正確に現実を指摘する。

 昨日、未知の魔物を相手に戦術的撤退を行った為、4人全員現在位置が把握できていない。更に徘徊する魔物は今のところ一種類しか確認していないが、非常に高い防御能力によって勝利は難しい。


「まぁ、ともかく探索するしか無いわねぇ……」


 そうして4人は未知の神殿を探索する。

 神殿自体が相当広く、また相当に入り組んでいる。


「ねぇ、あっち……。嫌なのが見えたんだけど……」


 ミコが指で示した先、そこには階段があった。


「……上の階があるのね」


 ただでさえ広く迷いやすい構造なのに、更に上の階層がある。かなり広大なダンジョンである。


「取り敢えず登ってみましょう……」


「ボスは奥にいるー」


 階段を上る4人。2階層に辿り着き、少し進むと新たな敵が現れる。


「また知らない魔物……」


「名前は……『エンシェントガーディアン』か。もうここに居るのは全て未知の魔物と思っていいかもね」


 見た目は、ファミリア等が行使する【魔術:影の虚像】で出現する影の様な、全身が真っ黒の人間。だが、うっすらと人の顔が見える。そして名前と出現場所から察せられる通り、影とは比べ物にならない程強い。それが2体現れる。


「勝てる、かなぁ」


「一応戦ってみましょう。撤退の用意だけは怠らないで」


 数が少ない事もあり、4人は戦闘態勢に移行する。エリアの形成が終わると、ガーディアンは姿勢を低くし、駆け出し、一気に距離を詰めて来る。


「っ!」


【忍術:雷遁・天雷】


 ユカは反射的に忍術を発動し、接近してきたガーディアンに確かなダメージを与える。


「さっきの奴よりは柔らかい!」


 エンシェントガーディアンはショウニグラスよりは弱い。その為、ユカ達でも確かなダメージを与えられた。


「なら、さっきの奴が神性持ちの可能性が高くなってきたね」


 ニナも続けて鎌を振るう。


【死神技法:蒼炎舞】


 蒼い炎を纏った鎌が、ガーディアンのHPを更に削る。


「止め!」


【剣技・アクセルブレイド】


 ユカが放った剣技は、一瞬で3つの斬撃となり、ガーディアンのHPを削り切る。


「数が少なかったから、なんとかなったねー……」


「厄介なスキルも使って来なかったしね」


 そして4人はショウニグラスが出れば逃走し、エンシェントガーディアンは倒して進む。ガーディアンは結構経験値が多く、気付けば全員のレベルが上がっていた。

 そうして探索する事2時間。そろそろ次のログアウト出来そうな小部屋を探そうとすると、大きな円形の広間に辿り着く。


「何、ここ……明らかにボス部屋じゃん……」


 白を基調とした神殿だが、その部屋だけは部屋全体が黄金色に輝いていた。


「反対側に扉があるわね。あの先に目的のアイテムがあるのかな」


 モモが示した先には確かに扉があった。


「どうか何も出てきませんように」


 ミコが無駄な祈りを捧げる。

 そうして4人全員が部屋に侵入すると、部屋全体がエリアになる。


「やっぱり、出てきたわね」


 部屋の中央付近。そこに一人の女性が現れる。黒いローブで全身を包み、整った綺麗な顔立ち、灰色の髪、大きな母性の象徴。そして一番の特徴は、ローブ越しにも分かる程目立つ二本の山羊の角。足元からは二本の足の他に無数の触手が顔を覗かせている。


「名前は……『シュブ・ニグラス』か。聞いた事は?」


 ユカがニナに聞く。


「んー。ゲーム内では無いね」


「んん?どういう事?」


 見ればニナは引き攣った顔をしていた。


「まぁ、神話に登場する豊穣の女神よ。一言で言えば神」


「……勝ち目は?」


「情報が一切無いから何とも言えないけど、まぁかなり低いかな。バリアを破壊できればワンちゃん……」


 4人が警戒はしつつもアレコレ対策を考える。余裕か慈悲か、ニグラスは4人を見て微笑み、何かをする素振りは無い。


「今から団長達を呼んでみる?」


「それも考えたけど、今イリーナさんしか居ないんだよねぇ。どのみち10分や20分で辿り着ける距離じゃないし」


 この場は4人で切り抜けるしかないと結論に至る。


「じゃあ作戦はこうね。最大火力でバリアの破壊を第一に。破壊出来たら拘束。以上!」


 そして、前衛にユカとニナ。後衛にモモ。その間にミコ。4人が以前に考えた攻撃重視の陣である。


「よし、いくよ!」


 先ずはユカが縮地で距離を一気に詰める。ニグラスはそれを微笑みを浮かべたまま迎え入れる。


【忍術:火雷遁・爆雷】


 ニグラスに雷が降り注ぎ、着弾地点が爆発する。そしてユカは爆発に怯む事無く突っ込み、刀を振るう。


【剣技:抜刀・3連斬】


 ユカが刀を抜くと同時、3つの斬撃がニグラスを襲う。それはバリアに確かな傷を与えるが、破壊には程遠い。

 元より簡単に破壊できると思っていないユカは驚く事無く、直ぐに後ろに下がる。そして入れ替わるように鎌を構えたニナが突撃する。


「追撃!」


【死神技法:魔天蒼】


 ニナの鎌が大きな蒼い炎に包まれる。それは鎌が巨大化したと錯覚する程である。そしてそれはニナの手によって振るわれ、ニグラスのバリアに大きなダメージを与える。

 そしてニナもユカと同じように後ろに下がろうとするが、足に触手が絡み付き、それを阻止する。


「なにこれ!?いつの間に!?」


 そのままニナは触手に絡みつかれ、ニグラスのローブの中に呑み込まれる。


「ちょ、まっ、怖っ!ねぇ大丈夫!?これ大丈夫!?ね……」


 ローブの中に完全に呑まれると、途端にニナの声が聞こえなくなる。


「ねぇ、あれ大丈夫なの……?」


「多分……。HPが減って行ってるし、くすぐられてるんじゃないかな」


 PTメンバーは離れていてもHPバーを確認する事が出来る。ニナのHPは呑み込まれたあたりから減り始めた為、中でくすぐられている事が予想される。


「不味いわねぇ……攻撃の要のニナがダウンは厳しい……」


 ニナの火力は4人の中で最も高い。その分攻撃速度が遅いという欠点もあるが。

 そのローブの中。


「あははははっ!あはっ!はひっ!くすぐったいっ!ふひひっ!ひぁっはははははっはははははは!」


 大量の触手にくすぐられるニナ。


「ひゃぁっははははははははははははは!あはははははっ!あっははははははは!やぁっははははははは!」


 ニナの視界には数えられない程大量の触手しか映っていない。ニグラスのローブの中は軽い異世界の様になっており、人の体では収まらない程の触手をここに収納している。


「ふぁっはははははははは!あはははははっ!はひっ!ひゃっははははははははは!」


 そしてその触手はニナをくすぐろうと全方位から群がっている。


「あはははははははははっ!はぁっはははははははははは!あはっ!あはははは!ひゃっははははははははは!」


 触手は細い物もあれば太い物もある為、服も殆ど意味をなさない。


「あははっ!あはっ!はっ!はぁっ!っははははははははは!ふひゃっははははははは!」


 そして外。


「ねぇ、ゆかちー」


「なぁに、みこ」


 本格的にどうしようか悩む二人に、ミコがアイテムボックスを弄りながら話しかける。


「そういえばさ、人形が売られてた棚の近くにこんな薬があって、面白そうだったから買ったんだけど、飲む?」


 ミコがそう言ってユカに渡したのは、小さな瓶に入った黄金色に光り輝く液体。


「それ飲んで大丈夫な奴?飲み物の色じゃないわよ」


 流石のユカも光る液体を見るのは初めてである。あからさまに嫌な顔をする。


「大丈夫だよ。錬金術で作れる物らしいし」


 ミコが言うには、その薬の名前は『英雄の飲み薬』という。希少な素材を使っている為、一つでも結構な値段で売られる薬である。その効果は30分間だけ全ての能力値の上昇、それと。


「レベルによる装備制限の無効化って効果があるんだよね」


 つまりこれを飲めば30分だけ、例えレベルが1でも最強の武器を持つ事が出来るようになる。その効力から、上級者がサブキャラのパワーレベリングに使う事が多い。


「成程……」


 そしてユカは、ミコがそれを渡して来た意図を理解した。つまり日緋色金で作られた、あの武器を使えと。


「なるはやで用意お願いねー」


 ミコはそう言って植物の壁を作り出す。見ればニグラスがゆっくりとだが、こちらに向かって来ている。


「足止め、よろしくね」


 ユカは薬を一気に飲み干し、すぐさまアイテムボックスを開き、武器を選択する。


【聖術:アングー】


【聖術:アクセルブースト】


【聖術:ホーリーエンチャント】


『大いなる祝福の羽を、貴女に』


【聖術:ホーリーフェザー】


 続けてモモがあらゆる能力上昇系の魔法をユカに掛ける。これによって、ユカの現在の能力値は一時的に最上位プレイヤーに勝るとも劣らない程高くなる。


「これが、忍者の最強武器……」


 当のユカは太陽の如く輝く巨大な手裏剣を見つめ、感慨に耽っていた。そして手裏剣の中央の穴に取り付けられた十字の取っ手を掴み武器の重さなどを確認する。


「結構軽いのね……」


 ユカの身長と同じぐらいの幅がありながら、ミスリル製の刀よりも軽い。


「武器の固有スキル……色々とてんこ盛りね……」


 この武器自体に固有スキルが付与されており、更に幾つかのスキルがこの武器用に変化している。


「ゆかちー、そろそろやばい」


 ミコが呼び、ユカが振り返ると、植物の壁が破られていた。


「やれるだけやってみるとしますか」


 ユカはニグラスの方に向き直り、縮地で一気に距離を詰める。するとニグラスは待っていたかのように触手を操り、ユカを捕えようとする。


【忍法:仙刃烈火】


 ユカがスキルを行使し、手裏剣を投げる。その手裏剣は炎を纏い、まるで意思を持っているかの様にユカの周りを回転しながら飛び回り、ニグラスごと触手を切り裂く。そして手裏剣はちゃんと持ち主であるユカの手元に戻って来る。


「何よあれ、物理法則どうなってるの」


「まぁ、そこはファンタジーだからね」


 現実離れした光景に傍観を決める二人。


「成程、これは良いわね」


 一方、ユカはその初撃で武器の扱い方を大方理解することが出来た。


【忍法:操刃・烈破】


 再度感覚を確認する様に、炎を纏う手裏剣を前方に投げる。それはニグラスを切り裂くと空中でUターンしてユカの元へ戻って来る。


「魔法と同じ感覚で操作出来るのね。便利だけど、消費が激しい」


 今はモモの聖術の一つ、ホーリーエンチャントによってMPが自然回復しているが、手裏剣を操作するだけでMPを消費しており、燃費は悪い。


【忍法:操刃・風車】


 ニグラスが膨大な触手を伸ばし、あらゆる方向からユカを捕えようとする。が、ユカの手裏剣はそれを全て斬り落とす。


「なら、普段使いする時は操作は最小限に抑えなきゃ……」


 手裏剣を受け取り、触手を躱すユカ。何気に空中で回転したり、曲芸の様な動きをしている。


「ニナがダウンすると不味いから、早々に救出させて貰うわよ」


【秘術忍法:鳳仙花】


 ユカがスキルを行使すると、右手に持っていた手裏剣の輝きが強くなり、弾けたかと思えば、左手にもう一つの手裏剣が現れる。そして二つの手裏剣はユカが投げると縦横無尽に飛び回り、ニグラスのバリアに甚大なダメージを与え、破壊する。

 バリアがガラスの様な音を立てて崩れ落ちると、その衝撃でニグラスはニナをローブの中から吐き出す。


「げふっ!えほっ、はぁっ……はぁっ……」


 ニナは吐き出された時に地面に頭をぶつけたが、このゲームは一定以上の痛みは感じられない様になっている為、何事も無かったの様に大の字に寝転がり、大きく呼吸する。

 ユカはそれを確認すると、次は拘束と駆けだそうとする。


「お見事です。化身とはいえ、私をここまで追い詰めるとは」


 ニグラスが初めて言葉を発し、もう戦意は無いとアピールしている。


「この先に用があるのでしょう?もう通って良いですよ」


 エリアが消えるのを見て、油断を誘う罠ではないと判断したユカは戦闘態勢を解き、奥の扉へと向かう。モモがそれに続き、ミコはニナを背負ってから続く。


「倒さなくてもよかったのね……」


 戦闘の余韻もそこそこに、ユカが疲労を顔に浮かべて言葉を漏らす。


「だねー。多分、試練的な感じだったんじゃない?触手しか使って来なかったし」


 ミコもそれに続く。


「あの量の触手は流石の私もきついよ……」


 歩けるようになるまで回復したニナがさっきまでの責めを思い出し、苦笑いする。


「そう言えば、取って来るアイテムってどんな見た目をしているのかしら」


 モモが今更な疑問を浮かべる。

 そんな会話をしながら短い通路を通り、4人は最奥の部屋に辿り着く。その部屋の中央に、祭壇の様なモノがあり、そこには御伽噺に出てきそうなランプが置かれていた。


「……これ?」


「多分」


 目的のアイテムが、予想とまるで違い困惑する一行。


「これって、あれよね。磨けば願いを叶える」


「それ以上いけない」


 他にそれらしきアイテムも見当たらず、モモはランプを手に取る。


「取っても特に何も起こらないわね」


「あっちに出口があるよ」


 ミコが指差した先には魔法陣があり、傍の看板には『入り口まで帰れる魔法陣』と書かれている。

 4人はその魔法陣に乗り、入り口まで戻り、蜃気楼神殿を後にする。


「後は街まで帰ったら寝よー」


「そうね、もういい時間だものね」


 既に午後9時を越えており、ここから街まで戻れば学生は寝ないと不味い時間である。


 砂漠の敵は油断しなければユカ達の敵ではなく、道中何も問題なく砂漠の入り口の村まで戻って来る。


「それじゃ、私は完了報告をしてくるわ」


「はーい。いってらっしゃーい」


 モモはクエストの依頼主の元へ行く。その背中を見送る3人。


「あれだけのクエストなんだから、報酬は良い物なんだろうなぁ。なんだろうなぁ」


 ミコが純粋な好奇心で報酬を期待している。

 一方、ユカとニナは報酬についてある程度の目途はつけていた。


「えっと、ここよね」


 モモは一つの小さな家に入る。家の中には民族衣装の様な服を着た黒髪の少女が居た。


「あら、こんばんわ。依頼の物は取ってこれたかしら?」


 モモを見ると笑顔を咲かせ、丁寧な口調でモモに依頼の事を聞く。


「ええ、これで良いのかしら?」


 モモはランプを渡す。


「まぁ!本当に取って来れるなんて。少々お待ちください……」


 少女はランプを持って奥の扉へ入る。そして1分程で何かを持って戻って来る。


「こちらがお礼になります」


 そう言って少女がモモに渡したのは、紙束の様なアイテム。名前は『魔人使いの心得』


「これは……」


 モモは自分以外の3人が似たような名前のアイテムを持っている為、それがどのようなアイテムかを知っている。


「それと、貴女が望むなら私も貴女と共に戦いますね」


 モモの頭が理解しきる前に少女はそう言って、モモのパートナーとなった。

久々の連日投稿。

2ヶ月ぐらい前に色々妄想してたら纏まって形になったモモのユニークジョブ


手裏剣の名前は決まっていません。

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