四話
「よし、暫く屋敷に籠ってて出来なかったマップ攻略。始めよう!」
そう言って意気揚々と準備をして、街を出たユカ。行先は初心者向けダンジョンの東の森。忍者屋敷の北に位置する広大な森である。
初心者ダンジョンではあるものの、その広さから4つの区画に分かれており、初心者向けは4つの内の1つだけである。
(確か、ここの森に出現する魔物は虫系と植物系と小動物系だったはず…。二ヶ月前の記憶だからうろ覚えだけど…)
色々考えながら移動する事暫く、ようやく森の入り口に辿り着いたユカは中へと足を進める。
森の中を探索し数分経った時、茂みの中から魔物が飛び出し、ユカは期待を大きく膨らませた、が。
茂みの中から現れた魔物は、ムカデを単純に数倍に大きくしたような姿をしていた。
(流石にこれは…キショい…。お腹側見せないでよ…余計キモく見えるから…)
ユカは虫が苦手では無いが、得意では無い。だが、ムカデが巨大化したソレは余程変わった嗜好を持った者では無い限り嫌悪感を抱くだろう見た目をしている。
(虫をただ巨大化させただけで、これほどキモくなるとは…)
一方ムカデはユカを襲う気マンマンであり、気付けば戦闘エリアが形成されていた。
ユカが気持ち悪がっていると、ムカデは一気にユカに飛び掛かってくる。
「ちょっと、チェンジ!!」
と、叫んで手にした忍者刀でムカデを真っ二つに切り裂く。ムカデは地面に落ちる前に光となって消えていった。
エリアが消えていき、刀を戻すと大きく溜息を零して先に進む。
(虫系ってこういう?流石の私もこれは嫌だよ?)
敵を探しながら探索する事数分、またムカデが飛び出して来たが、一撃で切り捨てて探索に戻って行った。
(何?ムカデしかいないの?偶然?)
そうして3匹目のムカデを倒して、レベルも2に上がり溜息を零して先に進もうとすると茂みの中から突如、魔物が飛び出しユカを襲ってきた。
またムカデかと思って攻撃を躱し、距離を取って襲ってきた敵を見据えたユカは驚愕を露わにする。
飛び出して来た魔物は、幼稚園児の様な見た目に、頭に蟻の触角が生えた幼女だった。しかも5人もいる。
(ぇ、何?この幼女達?魔物?蟻の擬人化みたいな感じ?)
頭の中で色々考えながらも、心の中では歓喜していた。3連続でムカデを引いた反動かもしれない。
尚、ユカは気付いていなかったが、目の前の幼女達は蟻娘という魔物であり、初心者ダンジョンに出現する割には筋力値が上級に匹敵する程高く、更に集団で出現する為初心者殺しと名高い魔物であった。尚、足は速くない為普通であれば出会った瞬間逃げるべき相手である。
しかし、ユカの頭に逃げるという文字は無く、戦う気マンマンである。戦闘エリアの展開が終わると、蟻達はユカを囲む様に動き、少しづつ距離を詰めていく。
「先手必勝!」
痺れを切らしたユカがそう叫び、一人に飛び掛かる。
が、当然の様に残った4人に押さえ付けられて、あっという間に四肢をのしかかられて拘束される。ユカの表情は期待に満ちていた。
(この子達、見た目の割にすっごい力が強い…。もがいても全然動かない…)
そうして蟻達は早速の様にユカの体に指を這わせる。
「んっ、ふふっ、ちょっ、数が多い…!」
一人10本、計50本の指がユカの脇を、首を、足を、脇腹を這い回し、くすぐっていく。一部は服の上とはいえ、完全に露出してる部分もあり、強いくすぐったさが蓄積していき、やがて我慢の限界を迎える。
「やぁっ、もうっ、無理ぃぃぃぃいいいいいいいっ!あっはははははははははははは!」
激しく笑い悶えながら反射的に体を動かして抵抗を試みるが、蟻娘達の拘束はかなり強力で上級プレイヤーでも易々と抜け出せない程である。最も、ユカには縄抜けの術がある為、抜け出そうと思えば何時でも抜け出せるが、ユカ自身がギリギリまで楽しんでいたいと思っているので抜け出そうとしない。
「おねーちゃん、すっごい笑うね?」
「くすぐられるのが嬉しいから?」
「じゃあもっとくすぐってあげるね?」
「首筋さわさわ……くすぐったい?」
「脇、弱い?いっぱいくすぐってあげる」
蟻娘達が各々の担当位置を全ての指でくすぐっていく。さわさわと撫で回すようにくすぐったり、時には爪を立ててカリカリしたり、時には揉んだり、それぞれの指を不規則に動かして慣れさせないようにくすぐったり、様々なくすぐり方でユカを追い詰めていく。
「やぁっははははははははははは!!だめぇっ!!くすぐったいいいいいいいい!!」
5人のくすぐりは強力で、あっという間にユカのHPが減って行く。
「あっはははははははははははは!!もう、だめぇっへへへへへへへ!!」
残り1割を切ったところでユカは術を発動し、拘束から抜け、縮地で距離を取る。
「あれっ?」
まさか抜けられるとは思っていなかったのだろう。突然の事に蟻娘達が困惑している隙にユカは一目散に逃げていく。
そうして蟻娘達の姿が見えなくなった事を確認すると、近くにあった切り株に腰掛け、息を整えていく。
(何だったんだろう、あの子達。すっごく強い。ここのボスはアルラウネって聞いていたし、ボス以外にあんな子が居たんだ……)
回復薬を飲み、落ち着いたところでレベル2で覚えたスキルを確認する。新たに覚えたスキルは二つ、『薬学術』と『手裏剣術』である。
(薬学術……なんか錬金術師みたいなスキルね)
ユカが思った通り、薬の生成とは本来は錬金術の分野である。毒物も錬金術で生み出すのが一般とされている。だが、『薬学術』で生成できる毒は麻痺や感度上昇が多く、殆どが塗布するタイプである。
(もう一つは、手裏剣術……。手裏剣って言うけど、クナイも投げれるのね)
『手裏剣術』は手裏剣やクナイを生産したり、投げる事が可能になるスキルであった。薬学術と同時に覚えたのは、生成した毒をこれらに塗って使えという事なのだろう。また、まきびしを撒く事も出来るが、味方にも当たる可能性がある為、使いにくそうという感想を得た。
だが残念な事に、どちらも材料が足りない為、現段階では使えなさそうである。ここのボスを倒して街に戻ったら色々情報を集めて整理しようとユカは心に留めて置くことにした。
(取り敢えず先に進もう)
休憩を終えて、ユカは再び森の奥へと歩き出す。そしてムカデを更に二体程切り倒して少し進むと、新たな魔物が現れた。
(木……?木人とでも言うのかな……)
それは木だった。成人男性ほどの太さの胴を持った木に無理矢理何本もの手が生えた様な見た目の木、トレント系と呼ばれる魔物の最下級種『トレント』である。他にも『エルダートレント』や『イビルトレント』等、多くの種類が存在する。
(まぁ、取り敢えず倒してみよう)
そう思ったユカは刀を抜き、一気に間合いを詰めて切り掛かる。が、仮にも木である為か、カッと音を立てて刀はトレントの胴に引っ掛かり、抜けなくなってしまう。
「なっ、抜けない……!」
どうにか抜けないか、引っ張ったりしてみるユカだが、当然相手がそれを待ってくれる筈もなく、ユカはトレントの体に生えてる手に両手首をつかまれる。
「えっ、あっ」
完全に失念していたユカは両手を振り解こうと体を捩るが、強く握られている為抜け出すことは出来なかった。尚、縄抜けの術は再使用に20分のクールタイムが発生する為、約10分は使えない状況である。
そのままリレーのバトンの様に胴体の上の方に運ばれていくユカ、とうとう足が地面から離れる。そしていよいよ、6本の腕がユカの体をくすぐり始める。
「やめっ、やっ、あっ、あはっ、あははははははは!!:
一本は脇を突っつくように、もう一本は反対側の脇をカリカリとくすぐり、二本は脇腹を揉み、もう二本は太ももを優しく撫でるようにくすぐる。
ユカは両手を捕まれ、宙に浮いている状態なので両足を動かすぐらいしか抵抗が出来なかった。最も、大した抵抗になっていないが。
「あっはははははははははは!はっ、はっ、ひひっ、はひっ、ひっひひひ、ひゃっははははははははっははっはははは!!」
不規則に動きを変えて、慣れさせない様に責め立てるトレント。ユカは脇を閉じようと試みるが、数秒でスタミナが限界に達し無防備状態に戻る。そこをお仕置きの様に苛烈に責め立てる腕。更に笑い悶えるユカ。
「やぁっはははははっははは!!もう無理いいいいいいいいいっ!!」
HPが3割を切るが縄抜けは後5分は使えない。どう考えても間に合わない。
「やっ、や、だぁっははははははっははははははは!!」
なのでユカは一か八に賭ける。
「あっはははははっははははははは!!はぁっはっ、んっ、んっふふふふ、この、いい加減にぃっ!?ひっひひひひ!」
【忍術:火遁】
ユカが術を発動すると万歳の状態で拘束されていた手の平から火が噴き出す。突然の事に驚いたトレントは引火を防ぐため、ユカを手放し距離を取る。
「はぁっ、はぁっ、やっぱ、植物には、火が効くのね……」
息を整えながらもトレントを睨み、不敵に笑みを浮かべるユカ。尚、火遁は本来牽制用の技である。
「今度はこっちの番!」
トレントは動きが遅い、それを最初の一撃で知ったユカは縮地で間合いを詰め、手をトレントの胴に当て、火遁を発動する。すると胴体が一気に燃え上がり、トレントはそのまま火だるまになって、最後は光になって消えていった。
「あんなのも居るんだ……流石ゲーム……」
(もうちょっと優しくしてくれたら長く楽しめるのに……)
等と思いながら回復薬を飲み、HPの回復を確認したユカは再び歩き出す。
ユカは余韻に浸っていたため気付いていなかったが、この時レベルが3に上がり新たなスキルを覚えていた。
そのままユカは森を歩き続け、遂に森のボス、アルラウネと遭遇する。
次回番外編