31話
ピラミッドの攻略を終えた翌日。
日緋色金は取り敢えず、作ってもレベルが足りず装備出来ないだろうと、しかし売ってしまうのも気が引けたので保留という事にした。ユカを除き。
「ゆかちーだけ武器作ってもらったんだよね」
「正確には、インゴットにしてもらって、自分で作ったんだけどね」
ユカは日緋色金を『緋色のインゴット』に変えてもらい、それを使って武器を作った。だが当然と言うべきか、レベルが足りず装備は出来ない。
だがアイテムボックスから取り出し、実体化させる事は可能だった為、試しに実体化させてみた。すると、驚いた事にそれは何時もの忍者刀ではなく、巨大な手裏剣だった。
十字の形をし、太陽にも見紛う色をした、ユカの身長と殆ど変わらない程の大きさを誇る手裏剣。中央には持つための取っ手が作られている。
「早く装備してみたいなぁ……」
装備可能レベルは90。遠い道のりである。
そんな事を話しながら団長室へ向かう二人。ニナとモモはまだログインしていない。
「団長、来ましたよー」
団長室に到着し、中に入る二人。中には幹部4人とリリィが集合していた。
「ようやく来たねー」
二人を見ると笑顔を咲かせるリリィ。
「話って何でしょうか、団長?」
ユカは自分を呼んだ理由を尋ねる。
「うん、今度ね妹のギルドと模擬戦する事になったんだ。勝ち抜き形式の5対5なんだけど、早い話ユカちゃんに出て貰おうと思って」
そこまで言われた所でフリーズするユカ。
「えっと、何でゆかちー?5対5なら団長と幹部4人でいいんじゃ……」
「いやー、私は強すぎるから自重しろって言われたんだよねぇ。フィアちゃんも仕事忙しくて無理って言ってたから、じゃあユニーク持ちのユカちゃんにしようかなって」
ようやくユカが再起動する。
「まぁやるのは数ヶ月後、次の大型アップデートが終わって落ち着いたらって事だから返事は今じゃなくていいよ」
そこで話は終わり、ログインしたニナとモモの二人と合流し、4人で喫茶店に入り、他愛も無い話をした後、モモがインしたばかりだがリアルの用事でログアウトする。
ミコはソロでやりたい事があるので別行動し、残ったユカとニナが、偶然ニナが見つけたクエストをやる事にする。クエストの内容は、街の東に広がる広大な森、『グリクース樹海』。全部で4つに分かれているこのマップの、2層目にある湖の水を汲んでくるという内容である。
二人は移動を開始し、森の二層目に向かう。
「二層目は初めて行くんだけど、何が出るの?」
「えーと、確かねぇ。『リリラウネ』『エルダートレント』『マタンゴ』『マイコニド』『リップフラワー』他にもトラップとか小動物が多数生息してるわ」
街の外には経験値は入らないが、場合によっては攻撃してきたりする動物等が存在する。倒した場合、大体は肉等の食材アイテムが手に入る。中には滅多に遭遇しない希少生物も存在する。
そんな事を話しながら歩いていると、森に到着する。一層目の敵は苦戦する程ではないので、出てくる敵を適当に倒しながら一層目を駆け抜け、二層目に到着する。
「湖までどの位あるの?」
「直線距離だとそんなに遠くない筈だよ?」
二人は草木を掻き分け、ニナが持って来たコンパスを頼りに湖へ向かう。一分ほど歩くと、木の根元に100センチは超える大きさのキノコが生えていた。
「あれ、どう見ても怪しいよね?」
ユカがソレを見て目を細める。
「あれは、多分マタンゴだね。キノコ系でマタンゴは動かない待ち伏せタイプで、マイコニドは徘徊してるから」
ニナがワクワクした表情でそれを見つめる。
「どうする?迂回する?」
ユカが一応聞いてみる。
「え、くすぐられるんじゃないの?」
当然の様にニナが言う。
「やっぱりそうよねー」
HPが1割を切ったら助けると決め、ニナがキノコに近づく。すぐ傍まで近づくと、キノコが突然、大量の胞子をまき散らす。
「ふぇっ!?げほっ!……体が、しび……」
もろに吸い込んだニナは麻痺の状態異常にかかり、その場に倒れ込む。それを見計らったかのように、キノコの茎の部分から二本の腕が生え、ニナの体を掴み、手繰り寄せ、そのまま脇腹をくすぐる。
「くっ……!ひっ……!ふぁっ……!ひぁっ……!」
動きがそこまで早くないので、そんなにくすぐったくなく、これなら時間がかかりそうだからもう倒してしまって構わないとユカに伝えようとするニナ。
「ふひゃぁっ!?ひゃっ!えっ!?なに、これぇっへへへへへへ!!」
突然くすぐったさが強くなり、瞑っていた目を開くと、マタンゴが生えていた木から、綿毛の様なモノが生えた蔓が何本も伸びてきて、ニナの服の中に、スカートや袖から侵入し、素肌を撫でるようにくすぐっている。
「ひひっ!ひぁっはははははははは!くすぐったいっ!」
麻痺で一切身動きが取れないニナは、ただ笑い声をあげる事しか出来ない。最も、麻痺にかかっていなくても抵抗はしなかっただろうが。
「ひゃぁっはははははははははははっ!はひっ!はぁっ!はぁっはっはははははははははは!ひははははははははははは!」
蔓はニナの両脇を撫で、首やお腹に巻き付いて上下に動いたり、内股を先端でなぞったり、背中を這い回ったり、あらゆる方法でニナを責める。
「ひぁぁ~~~~~っははははははははははは!はぁっははははははははは!ひゃはははははははははは!」
HPが1割を切った所で約束通りユカが動く。忍者刀で蔓を切り裂き、マタンゴはゼロ距離で火遁を放ち、倒す。
「はぁっ……はぁっ……はひっ……」
解放されたニナは大の字に寝転がり、息を整え、その後ポーションを飲んで回復する。
回復が終わると湖に向かって歩き始める。ユカが少し先を歩き始めると、地面が急に柔らかくなり、違和感を覚える。
「え?」
状況が分からず一瞬その場で立ち止まっていると、ユカの左右の地面から何かが挟む様に現れ、ユカを捕える。ユカは一瞬の事に反応が出来ず、そのまま捕まってしまう。
「ちょ、なにこれ!?」
それは一見すると、巨大なハエトリグサのようだった。しかしそれは人を捕えられる程大きく、葉はとても肉厚で、内側は柔らかくぶよぶよしている。
「ハエトリグサ……?抜けっ……!なっ……!?くっ……!ふふっ……!やっ……ひっ……!うごかっ……!あはっ……!」
ニナには何が起こってるか分からないが、中の肉の様な部分がぐにぐにと動き始め、ユカの体に揉むような刺激を与える。
「あははっ……!これっ……!くすぐっ……たっ……!ひゃっ……!っはははは!」
ユカの体の首から下は全て囚われており、全く抵抗できないままくすぐられる。
「うわぁ、羨ま……いや、眺めるのも中々……」
ニナはそんなユカを眺める。
「ひゃぁっ!?あはっ!動きがっ!はやぁっははははははははははは!あはっ!あっはははははははははははは!」
中が見えない為良く分からないが、内部の動きが早くなる。
「あははははっ!くすぐったいっ!あっははははははははははは!はぁっ!っはははははっははははははははは!」
あっという間にHPが1割を切る。それを合図にニナが鎌を振るい、ハエトリグサを攻撃、怯んで拘束が緩んだ隙にユカが脱出し、縮地で距離を取る。
【死神技法:魂の葬炎】
ニナの手から生まれた蒼い炎がハエトリグサを焼き払う。
「はぁっ……はぁっ……中々……よかっ……きつかったわね……」
息を整え、回復を終えると再び湖に向かって歩き出す。
そのまま交互にくすぐられながら進み続け、ようやく湖に辿り着く。
「やっと到着ー。綺麗なところねー。水を汲んだらクリスタルで帰ろうか」
ニナがそう言って容器を片手に湖に近づいていく。
「今度ここも攻略したいわねー」
ユカが辺りを警戒しながらそんな事を呟く。
「汲んだよー!帰ろう~!」
ニナが水の入った容器を掲げ、クリスタルを使用する。ユカもそれに続き、クリスタルで街へと帰還する。
そのままニナはクエストの報告に、ユカはリーンの育成に向かう。
ニナは街の中を迷う事無く進み、人通りの少ない裏路地に入り、そこにある一つの民家に入る。
「こんばんわ。まってたよ?」
そこでニナを迎えたのは水色のツインテールの少女。同じく水色のロリータドレスを身に纏った少女は、見た目だけでは小学生にしか見えない。しかし毛先や服のリボンの端などが液体のようになっている事から彼女が普通ではない事が分かる。
「はい、これ依頼の品ね」
ニナは少女に汲んできた水の入った容器を渡す。
「わぁっ!ありがとうございます」
少女は笑顔を浮かべ、容器を受け取る。
「では、次のアイテムをお願いします」
少女がそう言うと、クエストが進行したという画面がニナの前に現れる。
ニナが数日前、偶然見つけたこのクエストは、複数の段階に分かれているタイプのクエストで、ニナが水を納品した事により第一段階が終わったと言った所である。
(長くて面倒だけど、達成すればもしかして……)
そんな期待を胸に次の内容を確認する。
一方、ユカとニナが森に行っている間のミコは街から少し離れた場所にある川で釣りをしていた。
「なーんか釣れないかなー」
ゲームでしか味わえない魚でも釣れないかなと期待しながら釣り糸を垂らし、待つ。
5分程待っていると反応があり、ウキが一気に沈む。
「きた!」
ミコはそれを合図に釣竿を一気に引っ張り、獲物を釣り上げる。
水飛沫と共に、かかったモノが宙を舞い、地面に落ちる。それと同時にエリアが形成される。
「あれ?何でエリアが……。何アレ」
ミコが見つめる先。ミコが釣り上げたモノは、一見すると大きなヒルのような生き物。しかし大きいと言っても人の腕ぐらいの大きさしかない。
「魔物……だよね?どうしよ……。魔物が釣れるのは予想外……」
大きなヒル、『フットヒル』はゆっくりとミコに近づいていく。ミコは槍を構え警戒する。
「そりゃっ!」
ミコは槍でヒルを突こうとする。しかしヒルは横に転がり、これを避ける。そしてそのままミコの左のブーツに食らい付く。
「えっ、ちょっ、離して!」
ミコは左足をブンブン振り回した後、中々離れなかった為、ブーツを脱いで放り投げる。しかしそれは完全な愚策だった。
ヒルはブーツが投げられる前に離れ、そのまま左足に飛びつく。
「いやっ!ちょっ!」
予想外の事にパニックになっているミコはそのまま後ろに倒れてしまう。そしてヒルはミコの左足を足首の少し上まで咥える。
「やっ!離しっ!てへぇっ!?」
途端、ミコはくすぐったさに身を捩る。ヒルの口の中には舌のような触手が何本も生えており、それらが口の中に入ってきたミコの左足に殺到したのである。
靴下越しとは言え、その刺激は相当なモノであり、あっという間にミコの口から笑い声が噴き出る。
「だめっ!っはははははははははは!やぁっははははははっははははは!」
足をバタバタと動かしてヒルを地面に叩きつけるが、ヒルは離れようとしない。どころか、仕返しとばかりに触手を巧みに操り、ミコの靴下を脱がせてしまう。
「いやっ!脱がさなぁっははははははははははははははははは!むりぃっ!っひひひひひひひひひ!あはっ!あっはははははははははははは!」
何本もの触手がミコの素足を満遍なくくすぐる。
「やぁっはははははははははははははは!あははははっ!あはっ!ぁっははははははははははははははははは!」
左足だけとは言え、かなりのくすぐったさがミコを襲う。
「だめっへへへへっへへへへへへ!!あはははっ!くすぐったいっ!あっはははははははははははははははは!いいっ!かげんにぃっ!」
ミコが槍を持ち、ヒルに向かって叩き落す。ヒルのHP自体は大して多くない為、その一撃でヒルは撃破される。
「はぁっ……!はぁっ……!」
ミコは大きく息を吸って整え、数分後にはまた釣り糸を垂らす。