19話
メインストーリーだけどユカ達の出番無いです。
素材を集め、装備を新調した翌日。ユカ達は早速の様に狩場に向かっていた。
同時刻。天を貫く巨塔77層。そこで桃色の魔法少女衣装を身に纏った金髪の少女、イリーナは所謂ソロ狩りをしていた。目当ては76~79層のみに出現する『堕落せし魔導士』が落とす『魔力の塊』というアイテムである。
天を貫く巨塔は100層まで伸びており、最上階に『彩光の女神イリス』が出現する。
「まだ14個かぁ……最低でも50は欲しいなぁ、今日中にどれだけ集められるかな」
そんな事を呟きながら歩いていると、通路の陰から次の魔物が襲ってくる。
【魔術:テレポート】
イリーナは術を行使し、後方に瞬間移動をしてラミア亜種の攻撃を回避する。
【魔術:天炎華】
術が発動すると巨大な炎が生まれ、魔物を飲み込み、一撃で撃破する。
「こいつじゃ無いんだよなぁ……」
そのままフロアをウロウロする。
塔の内部は幾つかの小部屋と、小部屋をつなぐ通路で構成されており、部屋の何処かに次の層へ上る階段がある。
【魔術:雷塵波】
術を発動し、強烈な雷が迸り、通路の隅で3体固まっていた目当ての魔物を一掃する。
「3体も固まってるとは、ラッキー。でも一個しか落ちなかったかぁ。……ん?」
次を探そうと移動しようとすると、イリーナは倒れた魔物に違和感を覚える。一体の倒れた魔物の体の半分が壁の中にめり込んでいるのだ。このゲームは壁判定がしっかりしており、例え残った魔物の体であろうとも壁の中にめり込むことはイリーナも初めての事である。
「バグかな……珍しい……」
そう言って壁を触ってみる。ちゃんと触った感触があり、壁は存在している事が分かる。
「ふーむ……」
【魔術:エクスプロージョン】
イリーナの術で爆発が起きると、目の前の壁が壊れ、通路が現れる。
「隠し通路……こんな所があったのか……」
イリーナは初めての光景に期待を膨らませ、先に進む。真っ直ぐな一本道を暫く進むと、体育館程の広さの部屋に辿り着く。
(なんだこの部屋……如何にもボス戦ですって言ってるようなもんじゃん……)
イリーナが部屋の中に数歩進むと、目の前にクエストウィンドウが出現する。
●クエスト
星より生まれた少女を従えろ
(なんだこのクエスト、普通のクエストと画面が違う……)
イリーナはクエストを受ける。すると、部屋の中央に光が集まり、純白のワンピースを着た銀髪の少女が現れる。
(あれが、敵……?魔物娘ではないみたいだけど……羽も無ければ普通の人間の形をしてる……。名前は……『ステラ』か)
少女は現れた位置で蹲っており、動こうとしない。
(従えろって事は、純粋に倒すのじゃダメって事?くすぐったら良いのかな……?でも、なんかしっくりこないな……)
ひとまず、ゆっくりと少女に近づいていく。
「えっと、こんにちは」
そして挨拶をする。すると少女は僅かに顔を上げてイリーナを見る。だが、すぐに俯いてしまう。
(多分……あってる筈……反応あったし……)
負けじと話しかける。
「私はイリーナ、貴女は?」
「……ステラ」
呟くように小さい声で答える。
「どうしたの?何があったの?」
「私は星から生まれた……人々を助ける為に生まれた存在……けど、ダメだった」
イリーナは考えこむ。
(ダメだった?助けられなかったって事?……なんか違うゲームやってる気分)
「えっと、えっと……。ど、ドンマイ!」
少女は全く反応しない。
「つ、次頑張ろうっ!」
「次?次なんて無い……私なんて……」
(どうすればいいのよこれ……)
「じゃあ、私と一緒に来る?」
考えるのを放棄したイリーナはド直球な質問をする。
「貴女と?私より強いなら、良いよ」
そう言って少女は立ち上がる。
(こういう事か、これで倒してくすぐればいいのね)
「いいよ!来て!」
直後、イリーナは少女から膨大な魔力が溢れ、集まり、術の発動の予兆を感じる。
【降星術:メテオ】
少女の頭上に魔法陣が浮かび、そこから隕石が生まれ、イリーナに向かって落ちていく。
「えぇっ!?」
降星術は『イリス』以外に使用者が居ない、所謂敵の固有スキルと言われていた。
『燃え尽きろ。すべては焔に呑まれるのみ』
【魔術:深紅の焔】
イリーナの術が発動すると、巨大な炎が生まれ、隕石を呑み込み、消滅させる。
「びっくりしたー……。別に上級じゃなくても相殺出来たかな……何とか拘束したいところだけど……」
色々と考えを巡らせるイリーナに構わず、少女は次の術を発動させる。
【降星術:ミーティア】
今度は魔法陣から高速で落下してくる隕石が生まれる。
【魔術:アースウォール】
イリーナの術が発動し、地面が盛り上がり、壁が出来上がり、流星を防ぐ。
「今度はこっちの番!」
『押し流せ、浄化の水流よ』
【魔術:タイタルウェイブ】
術が発動し、巨大な津波が生まれ、少女を呑み込もうとする。
【降星術:星光波】
術が発動し、光の波動が津波を打ち消す。
(詠唱有りの術を無詠唱の術で消されるなんて、予想以上に強敵ね……)
イリーナは考えを巡らせる、どうやって倒すべきかと。
【魔術:エレメンタルバレット】
術を発動し、4種の属性が混ざり合った弾丸を生み出し、少女に向かって放つ。
少女は先程と同じ術で相殺する。
(これだけの強敵は久々……)
【魔術:紅蓮】
【魔術:雷塵波】
イリーナの右手から炎が生まれ、左手から雷が生まれる。
複数の魔術の同時発動。これがイリーナが編み出した技術。イリーナが最強の魔術師と呼ばれる所以の一つである。
勿論、イリーナは他のメンバーにやり方を教えたことがあるが、難易度が高すぎる為、誰も習得できなかった。
【降星術:ブレイジングスター】
少女は一瞬驚くも、術を発動し、灼熱の焔を纏った隕石を生み出し、焔と雷を打ち消しつつイリーナに攻撃する。
「いいね、久々にワクワクしてきたよ!」
【魔術:天炎華】
【魔術:雷塵波】
【魔術:氷槌】
【魔術:風撃砲】
調子に乗ってきたイリーナが、魔術を4つ同時に発動し、少女の術を打ち消し、その膨大な余波で少女も攻撃する。
【魔術:水泡撃】
【魔術:灼熱の焔】
余波で怯んでいる内にイリーナが術を発動する。術の発動を察知した少女が迎撃の術を発動しようとする。だが、その前にイリーナの術同士がぶつかり、部屋が水蒸気で充満する。
「なっ!?」
予想外の事に戸惑う少女。
【魔術:魔拘束】
戸惑っている内にイリーナが術を発動する。すると少女の手足に魔法陣が出現し、拘束する。
「なにっ!?離してっ!」
「ふぃー、上手くいったー」
拘束を確認すると、風の魔術を使い、水蒸気を吹き飛ばす。
「くっくっく。負けを認めて私に従えば、解放してあげよう」
「そんな事する訳無いでしょう」
「なら仕方が無いねぇ」
そう言ってイリーナは術を操作し、少女を大の字で空中に固定する。
「従う気になったら何時でも言ってね?」
「まって、まさか……」
少女は何をされるのかを察し始める。
【魔術:堕落の魔手】
イリーナが術を発動すると、少女の周りに6つの魔法陣が現れ、そこからマジックハンドの様な手が現れる。イリーナが指を鳴らすと、6つの手は一斉に少女に群がり、くすぐり始める。
「いやっ、まって、いっ……くっふふふふふふ……!だめっ!くひゃんっ!やめっ!ぁっははははははっははははは!!」
2つの手が左右の脇を、もう2つが脇腹を、残りの2つが足を、細長い指を存分に発揮して少女をくすぐる。
「だめっ!だめだめだめぇっへへへへへへへ!!やぁっはははははははは!!」
当然耐え切れるモノでもない為、少女は大声で笑い悶える。
イリーナはニヤニヤしながら少女に近づいていく。
「くっくっく、さて、ステラちゃんの弱点は何処かなぁ、正義の魔法少女の私に教えてごらん?」
正義とは一体。
「くっふふふふふふ!教えるわけっ!にゃぁっはははははっははは!!」
「にゃぁっ!だって、可愛い。ここかな、首筋って結構弱い人多いよね」
そう言って少女の首筋に指を這わせる。
「ふひひひひひひひっ!ひゃめっ!力がぬけちゃっははははっはははは!!」
因みにイリーナの観察眼の熟練度はカンストしている為、少女が何処が一番弱いか既に知っており、呼び出した手も敢えてそこをスルーさせてある。
「お耳ふにふにー」
「ひゃんっ!やめてへへへへへへへっ!!やっはっははははははは!!」
イリーナは後ろに回る。
「背中綺麗ねー、指をつつーっと」
「やめっ!あっはははっはははははは!!くすぐったいってばぁっはははっははははは!!」
再び前に回る。
「可愛いおへそ、こちょこちょー」
「ふひゃぁっはははははははははは!!もうっ!やぁっはははははははは!!」
スカートを捲り、両手でおへその周りのくすぐるイリーナ。
すると指を鳴らし、くすぐっていた手を全て一旦止める。
「どう?降参する?」
「はぁっ……!はぁっ……!そんな、訳……!」
ニヤリと笑うイリーナ。
「じゃあしょうがないねぇ。弱点、ここでしょ?」
そう言って太ももに手を這わせるイリーナ。
顔を引き攣らせる少女。
「だめっ、そこだけはっ!」
イリーナは一旦手を離し、アイテムボックスを操作し、手袋を取り出す。
「ふふっ、この手袋。いい素材でね。これを付けると凄いくすぐったいの」
そう言って再び太ももに手を這わせる。
「だめっ……」
「ほーら、さわさわー」
イリーナが指を動かし始めると、少女は口をぎゅっと閉じ必死に耐える。
「んっ……!くふっ……!ふふふっ……!」
「従う気になったら何時でも言ってねー」
「くひっ……!ん~~~っ!だれっ!がっ!」
イリーナは指を鳴らす。止まっていた手が一斉に動き出す。
「ひゃぁっ!あひっ!だめっ!ふっふふふっはははははははは!!やぁっはははははは!!はぁっはぁっははははははは!!」
少女は体を激しく動かし、抵抗を試みるが、イリーナの魔力で生み出された魔法陣の拘束力は強く、抜け出す事はかなわない。
【魔術:堕落の魔手】
イリーナは術を発動し、手を4本追加する。
「やぁっ!だめっ!あはははははっ!!」
それを視認し、首を左右に振って拒絶するが、当然受け入れられる訳も無く、2本がイリーナと共に太ももを、残りの2本はお腹を撫で回したり、指を這わせたりしてくすぐり始める。
「だめだってぇぇっへへへっへへへへへ!!ふはははははっ!!はひっ!はぁっははははははは!!」
イリーナも指を不規則に動かしたり、揉むように動かしたりと、予測できない動きでくすぐりに慣らさせない。
「ぁっはははははははは!!もうむりぃっひひひひひひひ!!やっははははっはははは!!降参っ!するからやめへへへへへへへへっ!!」
少女の口から降参という言葉が出ると、イリーナの前にクエスト成功のウィンドウが表示されたので、イリーナは術を解除して少女を解放する。少女は床に寝転がり、大きく呼吸をして息を整える。
(報酬画面が出ない……この子から直接受け取る感じかな)
5分程待つと、少女が立ち上がり、イリーナにお辞儀をする。
「約束、貴女に従います。改めて自己紹介。私はステラ。これから宜しく」
するとイリーナの目の前に、ステラがパートナーとして設定されたと表示される。
(やはりパートナー所得イベントだったか)
パートナーとは、プレイヤーと行動を共にするNPCで、補助能力を持ったキャラが多い。召喚術で生み出されたキャラと違い、設定をいじらない限り常時行動を共にし、HPが無くなってもダウン状態になるだけで消える事は無い。ただし、連れていけるパートナーは一人までである。中には強力な固有技能を持っている者もいる。
「これもあげる」
そう言ってステラは何かをイリーナに差し出す。
「ん、ありがと。なにこれ?」
貰ったのは古い紙束。これが何なのか調べると、驚愕のアイテム名が表示される。
『降星術師の心得』
(これって……まさかっ!)
ユカが手に入れた転職アイテムの名前は『忍者の心得』
イリーナは急いで街に戻り、教会へダッシュする。その後ろをステラが走って追いかける。因みにワープ系のアイテムを使っても、パートナーはちゃんと一緒にワープする。
そのまま転職を選択すると、そこに降星術師の項目が追加されている。
・降星術師:星の力を使い、広範囲に強力な攻撃を行う事が出来る。ただし、術の発動が遅い。※この職業はあなた専用です。
(やっぱり!ユニークジョブ!)
そしてイリーナは現在、物凄く悩んでいた。転職すれば、職業レベルが1に戻されるからだ。プレイヤーレベルはそのままなので、ステータスが激減する事は無いが、スキルは初期スキルにリセットされる。魔術師を極めたイリーナにとって、正に究極の選択であった。
その場で悩む続ける事20分。決心を付けたイリーナは、降星術師に転職する。
転職を終えると、ギルドハウスへダッシュで戻る。そのまま団長室へ駆け込む。
「あ、イリーナおかえりー。目当ての物は集まった?」
団長室にはリリィの他、エルザとネアが居た。
「団長!見てみて!」
「ん?後ろの子はパートナー?随分可愛い子見つけて来たね」
パートナーは殆どが魔物や動物だったりする為、人型は珍しかったりする。しかも人型の殆どが難易度の高いクエストのクリア報酬だったり、早い者勝ちの一人限定だったりする。
「ん?ちょっと待って、イリーナ。貴女転職したの!?」
真っ先に気付いたのはエルザだった。
「え?うわっマジだ」
リリィがらしくない声を上げる。
「ふふーん!こういうのをパートナーと一緒に貰ったの!」
イリーナは塔で起きた出来事について話す。
「降星術師……イリスちゃんが降星術を使ってたから、術の存在は知ってたけど、イリスちゃんの固有スキルかと思ってたよ……」
「イリーナが苦戦する程の相手を屈服させるって、かなり難易度の高いクエストね。まぁ報酬を考えれば納得だけど……」
「ユニークジョブってまだ存在したの。けど、他にもあるか、見当もつかないの」
「だよねぇ、100層もある天塔の77層っていう特徴も無い半端な層の隠し通路の奥で難易度の高いクエストの報酬だし、他にもあるとしても、全く見当も付かないね。あ、ネア。明日暇だったらレベル上げ手伝って?」
「分かったの」
そのまま他愛も無い話をしながらその日はお開きとなる。
あひゃひゃひゃって感じの表現、何かキ●ガイっぽくて嫌いなんだけど考えすぎかな……




