17話
モモがゲームデビューし、3人でゲームを楽しみ、約一月が経過していた。既に3人ともレベルが20を超えていた。
「何だかんだ、皆一ヶ月以上続けてるのね。私、二人共すぐやらなくなるんだろうなぁって思ってたけど……」
「私はユカさんが居るなら何でもいいし」
「私も楽しんでるよー」
適当なカフェで寛いでいる3人。
「そろそろ装備を新調したいなぁ……。私はスキルで素材があれば生産出来るけど、二人は?」
「素材集めればヘーニャさんに作って貰えるから、問題は素材かなぁ」
ヘーニャとは、アイリスで一番鍛冶スキルの高いプレイヤーである。
「じゃあ今日は素材集めしようか。二人は何が必要なの?」
「防具は『ハーピーの羽』ぐらいかな。ほかの材料は揃ってるし。武器は……『黒氷石』が欲しいなぁ」
『黒氷石』は鉄を超える硬度を誇る黒い氷のような石で、採掘場の一部で採取可能である。
「じゃあ今日は採掘場に行ってみる?」
そのまま3人は採掘場へと向かう。西の平原を抜け、平原と砂漠の境にある山の麓にある洞窟の入り口から採掘場へと入る。
採掘場は序盤から終盤まで武具の製造に必要な鉱石の採掘が可能なので、多くのプレイヤーが通う人気のダンジョンである。
「ツルハシも買って来たし、黒氷石の採取ポイントまで行きますか」
三人は採掘場の中を進んでいく。当然、魔物も襲ってくる。上半身しかない半透明な女性、『ゴースト』が5体纏めて現れ、エリアが形成される。
「うへぇ、ゴーストかぁ……二人共任せたー」
霊系の魔物は物理に対して高い耐性を持っている為、物理職のミコは後ろに下がる。
「はいはい、みこはそこで見てて、いくよ!」
【忍術:雷遁】
ユカが手をゴーストの方に向けると、小さな雷が迸り、ゴーストの一匹を撃破する。
「死霊系は聖術師にとってはただの雑魚」
【聖術:ターンアンデッド】
モモが手を向けると、ゴーストの(足は無いが)足元に魔法陣が浮かび、光が溢れ、二匹纏めて消し飛ばす。
二人が残りのゴーストの方を見ると、二匹の内一匹が二人の頭上を飛び越え、ミコの方に向かっていった。二人は取り敢えず見なかった事にして残りの一匹を倒す事に集中する。
「ちょ、こっちに一匹来てるって!」
ミコは反射的に槍を振り回し、迎撃するが、あまりダメージを与えられない。ゴーストはそのまま接近し。
「ひゃぁっ!ちょっ、やめっ!くすぐったいって……。くひひひひひっ!やっ、やぁっ!」
素早く後ろに回り、脇腹を揉むようにくすぐり始める。
「あっはははははは!ちょっと!二人共っ!たすけへへへへへっ!」
「流石に助けた方が良いかな」
「了解」
【聖術:ターンアンデッド】
モモの聖術によってミコをくすぐっていたゴーストが消える。
「二人共……すぐ助けてよ……というか、明らかこっち来てたのに分かってスルーしたよね?」
「気のせいよ。全く気付かなかったわ」
「いやー全然気付かなかったなー(棒)」
ジト目で睨みつけるミコ。露骨に口笛まで吹きだすユカ。
「ま、先に進もう!」
知らぬ存ぜぬを貫き、先に進みだすユカ。ミコは口をとがらせながら付いて行く。
そのまま進むと、今度は30センチ程の大きさのコウモリが4体現れる。名前は『タンバッド』細長い舌をもったコウモリの魔物である。
「私の出番だー!初撃いくよー!」
出番の無かったミコが突撃する。
【槍術:ソニックスピア】
スキルの発動と同時に、ミコが一瞬だけ加速してコウモリを一匹を貫き、光の粒子になって消えていく。
「よし、つぎぃっ!?」
当然、敵の群れの中に単独で突っ込めば残った3体の舌で絡めとられるミコ。
「くひひっ!やめっ、気持ち悪い……ひゃぁっ!ちょっ!脇舐めちゃだめぇっへへへへへへっ!」
二人はさも当然の如く傍観している。
「ふひゃはははははははっ!おへそにっ!舌いれにゃぁっははっははは!」
ミコの防具は敏捷値を上げる為、装甲がかなり薄く、普通の服と変わらない程防御能力は低い。裾やスカートから下が侵入し、ミコの素肌を直接刺激し始める。
「あはははははははっ!くすぐったいっ!やめへへへへへへへへっ!」
「そろそろ助ける?」
「そうだね。みこも十分楽しんだでしょ」
【忍術:土遁】
【聖術:ホーリーライト】
ユカの術で発動すると、ユカの半分ほどの大きさの岩が出現し、コウモリに向かって飛んで行く。同時にモモの聖術が発動すると、モモの杖の先から小さな光の玉が生まれ、コウモリに飛んで行き、炸裂する。
「はぁっ!はひっ!いい加減にっ!」
残りの二体がやられた事に怯んだ一匹が、拘束が緩んだ隙に槍を振るい、コウモリに攻撃し、残りを倒す。
「はぁ……はぁ……何で私ばっか……」
「いやだって、さっきのは自分からやられに行ってたし……」
「ホントは内心喜んでいるんじゃないのかしら?」
「いやいや、ゆかちーじゃないんだから」
「おいまて」
そんな事を話していると、ミコの頭上からスライムが落下してミコに覆いかぶさる。
「ぶへぇっ!?今度は何っ!?」
ほんのりと赤い色をした『スライムメス』
通常のスライムと違い、マッサージに近い優しい刺激を与えるという特徴から、スライム系でトップを争う人気を誇る魔物である。
「はひっ……やっ……んぅ……ひゃぁぁ~~……」
ミコを包み込み、早速の様にくすぐり始めるスライム。
「んっ……くっふふふ……やぁ……あっはは……」
初めて経験する刺激に身悶えるミコ。
「ふひひっ……んやぁ……ふっふふふふ……あはっ……」
まるで何本もの手に全身を同時にマッサージされるような刺激を味わされるミコ。
(何か反応がえっちぃ……)
「ミコさん、変な声出さないでください」
言葉にしないユカと遠慮を知らないモモ。
「そんにゃっ……ことっ……言われたってぇ……くひっ……たすけっ……」
「みこ、スライムはどうにかして剥がさないと倒せないんだけど」
当然ミコに引き剥がす事は不可能である。
「むりっ……力が抜けてっ……ふっふふふ……無理にでもっ……倒し……んん~~っ……」
「分かった。ちょっと熱いから気を付けてね」
【忍術:火遁】
ユカが術を発動し、小さな火がスライムを襲うと、それに怯み、スライムはミコから離れる。
【忍術:火遁・業火】
ユカの術が発動し、人一人程度なら呑み込める程の炎が生まれ、スライムを焼き尽くす。レベル20と同時に覚えた初の中級技である。
「はぁ……はぁ……」
「みこ、今日なんか魔物に狙われやすいね」
「ここで休んでいても、また次が来るし、先に進みましょう」
「まって……後一分でいいから……休ませて……」
一分後、3人は先に進みだす。
「黒氷石が採れる場所まで後どのくらいなの?」
「まだ半分ぐらいよ」
「部屋の手前には、確か中ボス的なのが居た筈だから、油断しないでね」
そのまま危なげなく進んでいく3人。
そして中ボスの『アラクネ』と対峙する。
アラクネは部屋中に蜘蛛糸のトラップを仕掛け、引っ掛かって動かなくなったプレイヤーには大量の子蜘蛛が体中を這い回り、くすぐってくる強敵である。ボス本体は、女性の上半身に蜘蛛の下半身をもった魔物娘である。
「あら、獲物ね」
アラクネはユカ達を認識すると、妖艶な笑みを浮かべる。それと同時に部屋全体がエリアと化す。
「とにかく、このボスは下手に動き回ると糸に絡み取られて動けなくなるから、常に周りを注意しながら戦う事」
「分かった!先手いくよ!」
【槍術:ソニックスピア】
人の話を聞かないミコがスキルを発動し、一気にアラクネに接近し、槍で肩のあたりを刺す。
「分かってないじゃない!」
ユカは周囲を警戒しながら間合いを詰め、行動する。
当然ボスクラスを一撃で倒せるはずもなく、ミコに向かって蜘蛛糸が発射される。
「あぶないっ!」
ミコは紙一重でそれを回避し、距離をとる。
モモは後方で周囲を警戒し、ボスを注視して、いつでも術を発動できるよう備える。
「ほら、もっとこっちにきたらぁ?いっぱい笑わせてあげるわ」
手をワキワキと動かし、誘うアラクネ。
【忍術:火遁】
ユカが術を発動し、小さな炎で牽制する。当然、大したダメージは与えられない。
アラクネが糸で反撃する。ユカはそれを最小限の動きで避ける。
アラクネの意識がユカに向いてる間に、ミコが反対側から接近する。
【槍術:ストライクスピア】
ミコが鋭い突き攻撃を繰り出し、アラクネの肩を貫く。
アラクネが再び反撃し、糸を発射してくるが、ミコは後ろに大きく飛び、それを回避する。が、それは悪手だった。
「あれっ?」
後ろに飛んだ先には大きな蜘蛛の巣が張られており、ミコは体を動かせなくなってしまう。
「みこ……貴女ねぇ……」
ユカは呆れる。
そんなミコの元に小さな蜘蛛が何十匹も群がり始める。
「いやっ、やめてっ!いや……やめっ……やめへっ!やぁっ!くふふふふふっ!やっ!ふふふふふっはっはははははははははは!!」
何十匹もの小さな蜘蛛に体中を這い回られれば、耐えられる人間など居ない。
「やぁぁぁっはははっはははははははははっははは!!だめだめだめぇっへへっへへへへへへへへ!!数が多すぎぃっひひひひひひっひひひひひ!!」
大声で笑い悶え、みるみるとHPを減らしていくミコ。
ユカとモモは助けようという気はあるが、すぐには行動しない。何故なら、アラクネ自身は何もしていないので、下手に救助を試みれば、逆に捕まって崩壊する可能性があるからだ。
「たすけてぇぇっへへへへへへへへへへへ!!あっはははっははははははははは!!やめへへっへへへへへへへへへっへへへ!!」
先に動いたのはユカ。
【忍術:火遁・業火】
術が発動し、人も呑み込む業火がアラクネを襲う。
【聖術:ホーリーカッター】
モモの術が発動し、光の刃が生まれ、ミコを拘束している蜘蛛糸を切り裂く。
【聖術:モルトヒール】
ヒールより更に回復量の多い術でミコのHPを回復する。
一方、ユカは。
「ひゃはははははははははははは!!だめぇっへへへへへへっ!!くすぐったいっ!」
両手を糸で縛られ、天井から吊るされ、万歳の姿勢でアラクネにくすぐられていた。
炎の中から唐突に現れた糸に反応しきれず、そのまま現在に至る。最も、中級の術を直撃している為、アラクネの残りHPも残り少なかった。
「あっはははははは!あっはっはははは!だめっ!やめへへへへっははっははははははは!!」
「ふふふ……こんな脇が丸見えの服着てるのに、弱いのねぇ。いっぱいこちょこちょしてあげる」
「やめへっへはぁぁっはははっはははははははははは!!」
息を整え終わったミコがアラクネを背後から襲う。
【槍術:ブレイブストライク】
現状のミコの最大威力を誇るスキルが発動し、アラクネの胴体を貫く。中級の技を連続で直撃したため、流石に耐え切れず、アラクネは光の粒子になって消えて行った。
「はぁ……はぁ……おつかれ……」
「おつー、ナイスデコイ」
「真っ先に捕まったのは貴女でしょうが」
そんな事を言いつつ、回復を済ませ、奥へと進む。
「これが黒氷石かぁー。確かに氷っぽい見た目してるけど真っ黒だね」
「現実には無い物質ね。当然だけど。流石ゲームと言ったところかしら」
ミコは黒氷石を手で持ち上げ、眺め。モモは手で軽く叩いて、興味深げに観察する。
「二人共ー、もうちょっと数欲しいんだから、手伝ってー」
ユカは奥の壁をツルハシで殴っていた。共有スキルに採掘があり、これは20回採掘を行う事で熟練度が上がり、熟練度が上がると、より多くの鉱石を一度に採掘出来るようになったり、アイテムが落ちるまでに必要な壁を掘る回数が減ったりする。
当然3人とも採掘スキルは低いので、壁を沢山殴らないといけない。
十分な黒氷石が集まると、ワープクリスタルでダンジョンを脱出し、街まで戻る。
「次はハーピーの羽だっけ。ハーピーは南東の山で出現するから、早速行こうか」
そして3人はすぐに街を出て、南東へ向かう。
蜘蛛の巣に引っ掛かって巨大蜘蛛にくすぐられるってシーンが昔のアニメか何かにあった気がする。内容は全く思い出せないけどそこは鮮明に覚えてる不思議。