16話
くすぐり少な目回。
ドッペルゲンガーに敗北し、適当に見つけた喫茶店で反省会をする二人。
「イリーナさんに軽く話聞いてみたけど、ドッペルゲンガーはステータスとスキルが全く同じで出現するから、純粋なプレイヤースキルでしか勝つ方法が無いって」
飲み物を飲み、パンケーキをつまみながら話し合う。
「あぁ~……幸せだわー。どれだけ甘い物食べても太る心配が無いって最高ねぇ……」
パンケーキを口に入れ、満面の笑みを浮かべるユカ。
「ゆかちー、あんまり甘い物食べないもんねぇ。太りやすい体質だから」
そんな体質の反面か、ユカ自身はかなり甘い物好きだった。
「やっぱ森で地道にレベル上げるしかないのかなぁ。10まで上げればもうちょっと選択肢増えるんだけど……」
森と平原以外の場所は適正レベルが低くても10である。
「10ぐらいだったら何とかならないかな?二人だし」
ユカは「んー」と考え込むが、地道な努力しかないと却下する。
「そうだ。ギルドハウスの施設にアスレチックジムっていうのがあったから行ってみない?私、体術スキル上げたいのよ」
ミコは一瞬嫌な顔をする。
「体術スキルって上げると何があるの?」
「みこ、体術とか感知とか索敵とか、共通スキルを軽視しない方が良いよ……。体術スキルが上がるとアクロバティックな動きが出来るようになるのよ。体を思った通りに動かそうとすれば、後はシステムが補助してくれるの」
因みに戦闘系の共有スキルは
・体術:アクロバティックな動きが可能になる。熟練度が上がると可能な動きが増える。
・感知:設置されている罠の場所が分かる。熟練度が上がると範囲が広がる。
・索敵:周囲の魔物やプレイヤーの位置が分かる。熟練度が上がると範囲が広がる。
・観察眼:自分よりレベルの低い相手のくすぐりに弱い部位が分かるようになる。熟練度が上がると、より細かく分かるようになる。プレイヤーと一部の魔物には無効。
・隠蔽:周囲の魔物に気付かれにくくなる。熟練度が上がると効果が増す。プレイヤーには無効。
・自動回避:ある程度の攻撃ならシステムが体を動かして自動で回避してくれる。熟練度が上がると効果が増す。広範囲や威力の高い攻撃には無効。
・察知:認識外からの攻撃を察知出来る。熟練度が上がると察知出来る範囲が広がる。
・自動回復:一秒毎に一定値の体力を回復出来る。熟練度が上がると回復量が増える。
・幸運:運が良くなる。唯一プレイ時間に応じて熟練度が上がり、熟練度が上がるとより運が良くなる。
みこは共通スキルの一覧を眺める。
「幸運って随分ざっくりだけど、具体的にどういう効果があるの?」
「団長が言うには、ドロップ率が上がったり、状態異常の成功率が上がったりするらしいよ?まぁ団長達もよく分からないらしいけど……」
因みに幸運の熟練度はプレイ時間が24時間経過毎に1上がる仕組みになっている。
「自動回避は欲しいかも……」
「それ、一番上げにくいスキルらしいよ?敵の攻撃を20回、回避して1上がるって団長が言ってたわ」
難易度の高さに項垂れるミコ。
「やっぱ地道に上げるしかないかぁ」
「貴女はすぐ楽しようとするんだから……。たまには努力しなさい」
呆れたように言うユカ。
「そういえば、急にリアルの話になるけどいい?」
「えぇ、良いけど……。何かあったの?」
ミコらしくない仕草に違和感を覚えるユカ。
「んとさ、ゆかちーのクラスに、名前忘れたけど頭いい人いるじゃん?無口で無表情な女の子」
「あぁ、百瀬さん?彼女がどうかしたの?」
百瀬香織。ユカのクラスメートの一人で、常に学年トップをキープしている天才で、かなりの美少女である。だが、余り喋ろうとせず、常に無表情であり、用事が無ければ自分から他人に話しかけたりしない為、クラスでも孤立しており、誰かと共に行動している所を見た者が居ないという程である。
その為、ユカは彼女の名前が出て来るとは微塵も思っていなかった。
「うん、そうそう。彼女。ゆかちー、彼女と何かあった?」
心当たりは当然無いユカ。
「特に何も無かったけど……というか、彼女と会話すらしてないわよ。何かあったの?」
「えーっと、昨日学校で彼女に二人っきりで話したいことがあるって言われて、そしたらゆかちーの事について色々聞かれたんだよね」
ますます混乱するユカ。
「何それ怖い」
その日は二人で森でレベル上げをして、二人共レベルが10超えた所で解散し、ログアウトした。
翌日の学校。
優香は帰り支度をして教室を出る。美琴とはクラスが違う為、先に外に出て待って一緒に帰るのが優香のいつもの放課後だった。
だが、今日はいつもと違っていた。優香が下駄箱を空けると、そこに一枚の手紙が置かれていた。優香はそれを見てフリーズする。
「ゆかちー、下駄箱見たまま何やってるの?」
美琴が困惑した表情で声をかけ、優香は再起動を完了する。
「何か、入ってた……」
優香が手紙を取り出すと、今度は美琴がフリーズする。美琴の再起動が完了するまで数分の時を要した。
「まさか、ゆかちーに告白するような猛者が居ると思わなかったから……頭が完全に停止してた……」
「それ、どういう意味よ」
優香は美少女で人気は高いが、そっけない態度しか取らないので美琴以外に親しい人は居なかった。
「ところで、名前とか書いてないの?」
「えぇ、書いてあるわ。百瀬って……」
美琴、二度目のフリーズ。そして数分後。
「あ、あぁ。彼女の弟さんとか?」
「居るのか知らないけど、この学校で百瀬って姓名は彼女しか居ないわよ」
動揺を露わにする美琴を放って手紙を読み始める優香。
「え、えぇ……。もう、何て言うか、うん。こういう時どんな顔すればいいのか分からないや……」
「私は取り敢えず行って来るけど、みこはどうする?先に帰ってる?」
「色々気になるし、校門前で待ってるよ」
優香が美琴と一旦別れ、指定された屋上へ向かう。
(屋上って、随分と定番な場所ね……。まぁ誰かに邪魔される可能性が一番低いからかな)
優香が屋上の扉を開くと、彼女は既にそこに居た。
肩にかかる程の長さの黒髪を、シュシュでツーサイドアップに纏めた、まだ幼さの残る顔は可愛らしい印象を与えるが、常に無表情である為、彼女に近づく者は少ない。
「来てくれたのね……」
彼女は優香の姿を見ると、一瞬だけ顔を緩める。
「来なかったら、いつまでもここで待っているでしょうし。話ぐらいは、ね」
彼女は「そう」とだけ答える。
「単刀直入に言うわ」
彼女は大きく深呼吸をする。
「橘優香さん。私は貴女が好きです。初めて会った時からずっと……」
一時、静寂が場を支配する。
「私は……」
優香が口を開く。
「私は、貴女の事をよく知らないし、貴女も私の事をよく知らないと思う。だから、考えさせて」
「そう……。でも、ノーではないのね」
彼女は複雑な表情をするが、希望があるからか、どこか明るい表情を見せる。
「ま、まぁ、それは……うん……」
実際、ユカは嬉し恥ずかしな気分だった。
「じゃあ優香さんの事、もっと教えて」
そのまま二人は一緒に校門まで向かう。
「あ、ゆかちー、おか……」
一緒に来た香織を見て言葉を詰まらせる美琴。
「あー、えーっと……」
「一応、みこには話しておくわね」
屋上での事を説明する優香。
「ぁーうん。まぁゆかちーが良いならいっか。ところで、今日はやるの?ゲーム」
美琴の言葉に食い付く香織。
「ゲーム?優香さんゲームやってるの?」
美琴を睨みつける優香。テヘッと悪びれずポーズをとる美琴。
(何か嫌な予感がするわ……)
その夜。
ゲーム内。
「ユカさんがこのゲームやってるとは思わなかったわ」
現実と変わらない髪型を真っ白にして、現実よりも大人っぽくされた彼女が居た。ユーザーネームは『モモ』
3人とも安直なネーミングセンスである。
「私は今日中にゲーム機とソフトをセットで買って来た貴女に驚いてるわよ……」
相も変らぬ忍者衣装のユカ。ミコは庭園で訓練中。
因みにモモは聖術師を選択した。
「ところで、聖術師って攻撃手段あるの?他の職業の事良く分からないけど……」
「一応、ホーリーライトって魔法があるわね」
聖術師の初期スキルは『ヒール』と『ホーリーライト』である。
「それじゃ、早速実戦してみようか」
二人は平原へ移動し、ティキャットを見つける。
「最弱モンスターだね。モモさん、やってみて」
ユカに言われ、頷いた後、杖を構え、魔法を打つ準備をする。だが、いつまで経っても魔法が発動しない。
「どうしたの?モモさん」
振り向いたモモから予想外の返答が返ってくる。
「……魔法って、どうやって発動するの?」
静寂か場を支配する。
ユカは何となくで行使出来ていたが、魔法を使う職業を選択したプレイヤーの大半は、魔法の発動方法で躓いてしまう。あのイリーナですら、最初は発動方法が分からなかったのだ。
「えっと……何て言えば良いんだろう……」
ユカは人にモノを教えるのが得意ではない。そうこうしている間にティキャットが走り出し、モモの太ももに飛び付く。
「ぇ……ひゃんっ!」
太ももと舐められ、その刺激で驚き、尻餅をつくモモ。
「くっ……ふふふっ……やっ……だめっ……そんなところ……舐めないで……」
ユカは助けるべきか悩んでいる。
「ひゃぁっ!だめっ!くっふふふふふふっはははははは!くすぐったいっ!」
当然、彼女が笑っている姿を見るのは初めてである。
「あはははははっ!!ユカさんっ!たすけてっ!」
「ぁ、ぇ、うん、わかったわ」
見惚れていたユカは助けを求められ、現実に戻り、刀を突き刺して倒す。
「くすぐられるのって、思ったよりキツイわね……」
そのまま息を整えると、一緒にギルドハウスへ戻る。因みにモモも既にアイリスに加入している。
庭園でイリーナを見つけ、魔法の使い方を教わる。
「魔法の発動方法は、頭の中で使いたい魔法を正確にイメージし、そこに魔力を注ぎ込んで具現化させるの。簡単に手順だけ説明すると、魔法の発動対象を決め、使う魔法を選び、魔力を注ぎ、発動させるの」
「魔力ってどうやって注ぐんですか?」
「んと、魔力を注ぐのをイメージする感じ?魔力が燃料で魔法が機械って感じかな?」
言われた通りにイメージしていくモモ。
【聖術:ホーリーライト】
モモの魔法が形を成し、杖に光が集まると、設置されたカカシに向かって飛んで行き、炸裂する。
「出来た……。楽しい……」
魔法を行使するという、現実では出来ない事が出来た感覚に楽しさを覚えるモモ。
「魔法を行使するって難しいよねぇ……。私も団長から教わるまで分からなかったし……」
過去を思い出し、苦笑いするイリーナ。
「そういえば、団長達って6人でよく戦闘に行きますけど、回復役いませんでしたね」
「あぁ、うん。団長の召喚術って、下手な聖術師より回復能力高いから……」
因みに『イリス』も回復が使えたりする。
「もっと魔法を上手く使えるようになって、ユカさんの役に立てるようになりたいです」
そのまま、モモはイリーナに魔法の使い方を教えてもらう。
ユカは二人の授業(?)が本格化しそうだったので自室に戻って行った。
「お帰りなさい、御主人様」
「お帰りなさい、ユカ様」
自室に戻ると、二人がユカを出迎える。
「うん、ただいま」
ユカは二人の事を大分気に入っている。その為、特に用事が無い時や、ゆっくりしたい時は自室に戻り、二人にお世話されている。
ユカはそのまま部屋に入り、アイテムボックスを開いてパジャマを選択し、着替えるとベッドに腰掛ける。そのまま横になると、二人がユカを挟むように添い寝する。
「ふふっ、御主人様、いっぱいこしょこしょしてあげますね」
ユカの右隣りに水華が。
「ユカ様、沢山くすぐってあげるね」
左隣に朱莉が寝転がり、二人でユカを挟むように抱き付く。
そのまま、体に巻き付けた両手を動かし、パジャマの下に潜り込ませ、ユカの素肌を直接、優しくくすぐり始める。
「んっふふふ……ふふっ……あははっ!……くっふふふふ……ひゃっははははは!」
お腹周辺を優しく、撫で回すように。時々、軽く引っ掻くようにくすぐる二人。
「こしょこしょ……こしょこしょ……」
「ふーっ、ふーっ」
水華が耳に口を近づけ、こしょこしょと囁き。朱莉が耳に息を吹きかける。
「あははははははははははっ!くすぐったいっ……!ふふふふふふっ……!ひゃふふふふふふっ!」
抵抗すると二人を攻撃してしまう恐れがあるので、ユカは反射的に抵抗しようとしている体を必死に抑える。
「ふふふふふっはははははっはははは!はぁっ……はぁっ……!くひっ!くっふふふふふふ!あっはははははっははは!」
そのままユカは二人にくすぐられ続け、解放されると、程よい疲労感からそのまま眠りについた。
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