14話
ミコのゲームデビュー二日目。
ミコはアイリスの中で一番強い騎士のアイカからレクチャーを受けていた。
「騎士は基本的に三つのタイプに分かれるわ。一つが、片手槍と盾を持った一番基本的な万能タイプ。攻撃も防御も出来るから一番多く見られるスタイルね。二つ目は両手槍を持った攻撃タイプ。盾を捨てて、両手槍での攻撃をメインにしたタイプね。盾の分の防御力を補う為、重鎧を装備するから、機動力がかなり低いのが難点。最後に、両手持ちの塔盾を持った防御特化タイプ。相手の攻撃を引き受け、囮になって味方の大技の時間稼ぎをする役目が多いわ」
ノートとペンを取り出し、真剣に学ぶミコ。
「このゲームで盾とか鎧とか効果あるの?」
率直な疑問。
「あるわ。例えば盾を使えば相手の触手とか、拘束攻撃を防げるし。鎧を着れば、相手は脱がすか破壊しようと攻撃してくるわ。重厚な鎧を着ているプレイヤーに対しては、相手も普通に攻撃してくる場合もある。破壊された鎧はアイテムボックスに戻って、修理しないと装備出来なくなるわ」
アイカの言葉をノートに書き纏めて行くミコ。
「思ったのだけど、両手槍で軽装備でヒットアンドアウェイみたいな事出来ないかな?」
アイカは考え込み。
「出来なくなくはないわ。ただ、回避自体が高いプレイヤースキルを要求される技術だから、今まで使いこなせた人は居ないわね。まぁ何十本もの触手を躱せる人なんてそうそう居ないけど」
一方、ユカはルルナに投げ武器の講義を受けていた。狩人は手斧という投げ武器を持っている為、クナイや手裏剣の参考になればと思っての事である。
「とはいえ、手斧とクナイや手裏剣は大分違うから参考にならないと思うけど?重さとか。狩人の手斧自体、釣り戦法でしか出番ないし」
と言いながらも、投げ方のコツや狙いの付け方を教えるルルナ。
講義が終わり、ひとまずレベル上げと練習の為に東の森に訪れる二人。
「で、結局どんな感じで戦う事にしたの?」
「御覧の通り、軽装両手槍。取り敢えずどんなもんか、どんなスタイルが一番合うか。試しながら進めて行こうかなって」
そう言うミコの手には両手槍が握られており、服は動きやすさを重視した軽装具だった。
歩く事暫く、いつか見た巨大なムカデが歓迎するかのように現れる。
(何だろう……ここ数日色々濃かったからか、懐かしさすら感じる……)
「うわっ、キモッ」
素直な感想を漏らすミコ。
ムカデはミコに向かって飛び掛かる。
「えいやっ」
ミコは弧を描くように槍を振るい、ムカデを両断する。
「弱っ!」
因みにリリィはムカデはティキャットの次に弱い、ゲーム中最弱モンスター2位と言っていた。
そんな感じで油断していたミコに、矢が飛んでくる。
ミコは完全に意識外の不意打ちに反応出来ず、肩に矢が刺さり、その場に倒れこむ。
「みこ!?大丈夫!?」
ユカはPKと思い、即座に矢が飛んできた方向を向いて警戒する。
「痛くはないけど……体が痺れて動けない……」
ミコは麻痺の状態異常にかかっていた。
そして矢が飛んできた方向から姿を現したのは、緑色の肌をした100センチ程の少女達、6人。頭には角の様なモノが生えており、布切れで作られた衣服を纏っている。それぞれが手に武器を持っており、そのうちの一人が弓を持っている。
常に集団で行動し、武器や罠を巧みに使って襲ってくる『ゴブリン』
一体一体は大した事無いが、群れで行動する為低レベルではかなりの強敵である。
「ゆかちー、私を置いて逃げて……」
「何くだらない事言ってるの……先手必勝!」
いつも通り、突っ込むユカ。
突っ込んだ瞬間、クナイを投げて弓を持ったゴブリンの眉間にヒットし、開幕で一匹を倒す。そのまま縄を持ったゴブリンを、刀で縄を切り裂く。
【忍術:火遁】
そのまま忍術を発動し、怯ませた隙をついて切り裂いて倒す。背後から一匹が飛び掛かって来るが、縮地で躱し、即座にクナイを二つ投げ、倒す。
(後半分!)
油断する事無く次を見据えるユカ。が、残りのゴブリン達は逃げ出していた。
「逃げた……」
拍子抜けしたユカはミコに薬を飲ませて麻痺を治し、リリィとチャットを繋ぐ。
「団長、今大丈夫ですか?」
『ユカちゃん、今度は何を見つけたの?』
今起こった事を話すユカ。
『逃げるゴブリン……。ユカちゃん!今からPT申請飛ばすから、受理したらゴブリンの跡を追って!私もすぐそっち行くから!』
そのままチャットが切れる。するとすぐにリリィからPT申請が飛んで来て、ユカはそれを受理すると、ミコと一緒にゴブリンが逃げた方向に向かう。
「結局、何だったんだろう……」
「分かんないけど、団長のあの慌てぶりから、多分そう言う事があるんじゃないかな……」
一方、ギルドハウス前。
『地獄の門を潜りて、来たれ。神をも喰らいし獣よ』
【召喚術:神狼】
リリィが術を発動し、魔法陣が描かれると、そこから巨大な狼が現れる。
「久方ぶりだな、我が主」
狼はリリィを視認すると普通に喋りだす。
「フェンリル、急ぎの用があるから、背中に乗せて連れてって」
そのままリリィはフェンリルの背中に乗り、猛スピードでユカ達の場所へ向かう。PTを組んでいる場合、PTメンバーがどのあたりに居るか大体の位置がわかるのである。
戻って、ユカ達。
「何、あれ?……村?」
木の陰に隠れながら、ゴブリンを追って辿り着いた場所を見ていた。
そこは木で作られた塀に囲まれた村だった。入り口には門番らしきゴブリンが立っている。
「んー、みこはここで団長を待ってて、私はちょっと中を見てくる」
そう言ってユカは隠れ身の術を発動し、透明になって村に入っていく。
村の中には大量のゴブリンが闊歩しており、余程の強者でない限り、敗北するだろう数が存在した。ユカはそんな村の中心に建てられた一際大きい建物の中に侵入する。
「ひゃっはははははははははははははは!!もう、やめてくださいいいいいいいい!!」
中に入った瞬間笑い声が響いてくる。
「あっははははははははははははははははははははは!!もうやぁぁっはははははははははははははは!!」
建物の中心で、木で出来た椅子の様なモノに、足を伸ばし、万歳の体勢で手枷と足枷をはめられ、大勢のゴブリンにくすぐられている女性が居た。
(あの子、NPCだ……こんなイベントもあるんだ……)
そんなゴブリン達が大勢いる中、豪華な椅子に座った女性が居た。その女性の肌は白く、緑色の髪を持ち、純白のドレスを身に纏い、頭には金のティアラが添えられた女性。一見すると、どこかの国のお姫様の様にも見える。
(あれは……魔物?人間みたいな見た目だけど……ゴブリンプリンセス。あれもゴブリンなんだ)
凝視して読み取った情報にはゴブリンプリンセスと書かれていた。
「はなしてぇぇぇぇぇへへへへへ!!もうはなしてぇぇぇぇぇへへへへへへへ!!」
長時間くすぐられていたのか、女性は既に限界に近かった。
するとプリンセスが手を上げる。すると女性をくすぐっていたゴブリン達の動きが止まる。
「まぁ、そろそろ良いでしょう。その子にも飽きかけていた所だし……」
そう言うと、ふと、プリンセスはユカの方を見る。
(あれ、なんかこっち見てない?そういえば、透明系はボス系には効果がないって聞いた事が……)
ユカはそこまで思い出すと、逃げ出そうとするが。
「そこの侵入者を捕えなさい」
プリンセスが指示を出すと周りのゴブリン達が一斉に襲ってくる。当然、ユカにこの数を相手に出来る訳もなく、あっという間に捕まってしまう。そして、そのまま女性と同じように拘束される。
「ふふふっ、ここまで来れたご褒美です。私が直々にくすぐって差し上げましょう」
そう言ってプリンセスは立ち上がり、手に羽をもってユカに近づく。
「まずはこの綺麗な足から……」
靴を脱がされ、裸足になったユカの素足を羽で優しく撫でる。
「んっ……くっ……ふふっ……」
「土踏まずを重点的に撫でたり……」
「やっ……んふふっ……」
「指を付け根をこーしょこーしょ」
「くふっ……んん……くひひっ……」
プリンセスは羽を置いて、ブラシを手に取る。
「ブラシで足の裏全体をゴシゴシと……」
「~~~~~~~っ!!」
足を動かそうとするが、当然動けず、足枷が音を立てるだけである。
「ふふっ、良い反応ね……。それじゃあ、次は体を方を行ってみましょうか」
そう言って羽に持ち替えて移動するプリンセス。
一方、ミコ。
「何か、ゆかちーのHPが少し減ってるような……捕まった?」
感の鋭いミコ。そして団長が到着する。
「おまたー。ユカちゃんは?」
ミコが中に入って行ったことを伝えると、顔が一瞬にやけたのは気のせい。
「逃げるゴブリンが現れるっていうのは、ゴブリンプリンセスが登場した証拠なのよ」
逃げるゴブリンについて説明を始めるリリィ。
「ゴブリンプリンセス?強いんですか?」
「私も分かんない。数ヶ月に一回しか登場しない上に、強い人ってゴブリンぐらいなら逃げる前に全滅出来るから、今まで戦闘した事ある人は一人しかいないんだよね。激レアモンスターだから私も契約出来てなかったけど、お陰で召喚出来るようになりそうだよー。スクリーンショットで見たゴブリンプリンセスはすっごく可愛かったんだよ」
リリィはフェンリルを帰還させると、次の召喚術を発動する。
『急がなきゃ、急がなきゃ。慌てるウサギに導かれ、少女は来る。ケーキを食べたら大きくなって?扇子を扇げば小さくなって?ケンカはダメ、仲良くしましょう?痛いのは嫌、ほら、笑いましょう?』
【召喚術:不思議な少女】
リリィが術を行使して魔法陣が輝くと、そこからアリスが姿を現す。
「お久しぶりです、主様」
リリィの準備が終わると、二人は村に向かって歩いていく。急いでいく気はない。
戻って、ユカ。
「んっふふふふふふふ……」
「首筋、羽で撫でられるとゾクゾクするでしょう?」
羽の先っぽで首筋をこしょこしょとくすぐるプリンセス。
すると羽を置いて、手に何かの液体を取る。
「これ、何だかわかる?スライムの体液なんだけど、とってもぬるぬるするから、これでくすぐるとすっごくくすぐったいのよ?」
そのまま、その手でユカの剥き出しの脇を撫でるように触りだす。
「くひゅっ!くっふふふふふふ……」
「あら、可愛い声。丸出しの服を着てるから、脇は強いのかと思ったけど……。これなら存分に楽しめそうね」
脇全体に塗り終わると、ユカの上に跨り、脇を本格的にくすぐり始める。
「んくっ!んんふふふふふふふふふ!」
「我慢しなくていいのよ」
そう言って、プリンセスはユカの顔にそっと近づき。「ふーっ」と息を耳に吹きかける。
「んひゃぁっ!?」
そのままユカの耳を舐めだす。当然、手を緩めずに。
「ひゃ、ひゃめっ、ひゃぁっははははははははははははははははは!!」
こうなるともう我慢する事は不可能。ただ、プリンセスの技に翻弄され、笑い悶えるのみ。
「んっ、お前達、足の裏をくすぐってやりなさい」
プリンセスが指示を出すと、数匹のゴブリンがユカの両足をくすぐり始める。
「あぁっはははははははははははははははははははははははは!!!くしゅぐったい!!くしゅぐったいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!」
「んふっ、良い声で笑うわね。もっと聞かせて……。んっ……」
「やめへへへへへへへへへへ!!ひゃっははははははははははははははははははははは!!!」
ユカは耳を舐められ、力が抜けて抵抗も出来ず、ただなすがままにくすぐられ続ける。
「やぁぁぁっははははははははははははははははははははははは!!!もうむり、もうむりいいいぃぃぃぃっひひひひひひひひひひひひ!!!」
ふと、ユカがプリンセスの奥、建物の入り口の方を見ると、そこにはビデオカメラを構えて撮影するリリィの姿があった。隣に居るミコは頬を赤らめながらもガン見している。
「見てないでたしゅけてぇぇぇぇぇぇぇぇっへへへへっへへへへへへへへへへ!!」
「流石にそろそろHPが尽きそうね。アリス、ゴー。プリンセス以外のゴブリンに用は無いから倒しちゃって」
リリィの指示と同時に、アリスは飛び出し、瞬く間にゴブリンを切っていく。
「何者だっ!?」
突然の事に驚くプリンセス。ユカから離れ、リリィを見据える。だが、もう遅かった。
「遅い。ほら、捕まえた」
アリスはプリンセスに抱き付くと、首筋にキスをする。
【麻痺の口付け】
途端にプリンセスは体が痺れ、その場に倒れこむ。
動けないプリンセスを運び、ユカや女性が拘束されていたのと同じ拘束台に拘束する。
「さぁてっと、バリアは無いみたいだし、このまま私に屈服するまでくすぐっちゃいます」
「何をする!離せ!」
「離す訳ないんだよねぇ。アリス、足の方をお願い。私は上半身を……」
アリスはプリンセスの靴を脱がし、露わになった白い足を、10本の指で撫で回す。
「や、やめ、やめろ……。んっ、くっふふふふふ」
目をぎゅっと閉じ、くすぐりに耐えようとするプリンセス。因みに、プリンセスの真正面には固定台に置かれたビデオカメラが撮影していた。
因みにユカと女性はミコが解放していた。だが、召喚術の習得にはリリィがソロで倒す必要があるので加勢はしない。
「土踏まずばっか……くふっ……触らな……ふひひっ。今なら許してる……だからっ……離せっ……んひっ」
「いい調子だね。じゃあ私も始めるね」
当然の様に無視してくすぐり始めるリリィ。脇腹を揉むようにくすぐり始める。
「んふふふふふふっ!や、やめっ、ん~~~っ!」
息が荒くなるリリィ。
「はぁ~、やっぱ実物は写真よりいいねぇ……。ねぇ、もっと聞かせてよ。可愛い笑い声。しかし、ドレスが地味に邪魔ねぇ」
そう言ってアイテムボックスからハサミを取り出し、ドレスに穴をあけていくリリィ。
「や、やめろっ、くふっ、これ以上はっ」
これからされる事を想像し、段々と余裕を失っていくプリンセス。
「止めるわけないよぉ、こんな可愛い子を捕まえてるんだから……貴方だってそうでしょう?それじゃ、素肌を直接……。ん?スライムの体液か、これは」
スライムの体液を手に取るリリィ。真っ黒な笑みを浮かべる。
「やめっ、やめてっ、謝るから……」
絶望に染まるプリンセス。
「やーだ!それじゃー、素肌、いっちゃいまーす!」
スライムの体液がべっとりと付いた手でプリンセスのお腹を直接撫で回すリリィ。
「やめっ!やめへへへへへへへへへへ!!」
「良い反応だねー。なーでなーで。白か」
ついでに色を確認する。何のとは言わないが。
「見るなぁぁぁっははははははははははははははは!!」
「あぁ、小さくて可愛らしい……。脇が空いてるわね」
リリィは片手を離し、空いてる空間に向ける。
【召喚術:キャンサー】
地面に魔法陣が描かれると、そこから蟹の胴体に、赤い髪を持ち白い上着を着た人間の上半身が生えた様な見た目の少女、水辺に出現する魔物娘、『キャンサー』が姿を現す。
「久しぶりです。主人」
「キャンちゃん、おひさー。早速だけど、この子の脇をくすぐって」
「分かりました」
キャンサーは頷くと、蟹の口の部分から大量の泡を吐き出し始める。キャンサーは蟹の爪で両腕を抑え、下半身を蟹の胴体でのしかかり動けなくした後、蟹の口から吐いた泡を人の手ですくい、拘束した相手の上半身を洗うようにくすぐる攻撃をする。つまり、上半身に対するくすぐりはかなり上手い。
「くひひひひひひっ!や、やめてっ、これ以上……ふひっ、たすけっ……」
キャンサーにプリンセスの後ろの位置を明け渡し、プリンセスの上に跨るリリィ。後ろから泡立てた手をゆっくりと近づけるキャンサー。
「貴女の気持ちはすごく分かる。私も主人に似たような事されたから。でも止めない。主人の命令だから」
顔は笑顔を浮かべているキャンサー。
見計らったように足をペロペロと舐めだすアリス。
「ひゃんっ!やめっ、舐めにゃぁぁぁぁっははははははははははは!!」
リリィとキャンサーの手がほぼ同時にプリンセスの体を襲う。
「もみもみ、なでなで、つんつん、こちょこちょー」
「脇は汚れが溜まりやすいから、念入りに洗ってあげるね?」
「やぁぁぁぁぁぁぁっははははははははははははははははははははははは!!!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへ!!ひゃっはははははははははははははははははは!!」
スライムの体液でヌルヌルになるお腹。泡まみれの脇。既にお姫様とは言えないような惨状になっていた。当然必死に抵抗するが、枷が音を立てるだけで無駄に終わる。
(少女が少女にくすぐられている。最高ね)
そんな事を考えながら観察しているユカ。ミコは顔を赤らめながらガン見している。NPCの女性は帰っていた。
「あぁぁぁっはははははははははははははははははははははははは!!!もうむりいぃぃぃっひひひひひひひひひひひひ!!ゆるひてぇぇぇっへへへへっへへへへ!!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへ!!」
やがてプリンセスのHPが0になり、がっくりを項垂れ気絶する。
「ん、終わったか。召喚も可能になったね。よかったよかった。これでいつでも色んな方法でくすぐれる……」
ブラックコーヒーより真っ黒な笑みを浮かべるリリィ。ユカは心の中でプリンセスに同情した。