番外編 リリィ1
アイリスの面子でジャックを倒した後……。
団長リリィの現在地。ハロウィンの街。
ハロウィン限定ダンジョンで、全域に緑色の霧が充満し、至る所にカボチャが乱立し、歪な家が建ち並び、異形の樹木が生えている。
「よしっ。ハロウィン限定のモンスター、全員召喚出来るようにしておこう!まずは雑魚から!」
【召喚術:誓約の天使】
光り輝く魔法陣から、いつもの被害担当が姿を現す。
『急がなきゃ、急がなきゃ。慌てるウサギに導かれ、少女は来る。ケーキを食べたら大きくなって?扇子を扇げば小さくなって?ケンカはダメ、仲良くしましょう?痛いのは嫌、ほら、笑いましょう?』
【召喚術:不思議な少女】
術を発動すると、魔法陣が描かれ、腰まで伸びた金髪ロングの髪を持った、水色と白のエプロンドレスを身にまとった少女。『アリス』が現れる。
『アリス』は不思議の国という名の最上級ダンジョンの最深部に出現する最上級のレイドボス。リリィは物理系で最強と言っている。アリスはアイリスの精鋭でも討伐するのに10回以上失敗した強敵であり、アラディアと並び、最強ボスのツートップと名高い。その理由が、ダメージリフレクションという彼女の固有技能が凶悪の一言に尽きるからである。ダメージリフレクションは、発動中に受けたダメージ分のHPをダメージを与えたプレイヤーにくすぐったさで反射するという技で、何も考えずに最大火力で攻撃してしまえば、HPが全て減るまで見えない触れないナニカにくすぐられ続ける事になる。
また、アリス自身もかなりの強さを誇り、更にトランプ兵という取り巻きを一定数以下で再召喚する上、トランプ兵の『トランプハート』は回復もしてくる厄介さもあり、ダメージリフレクション発動中は彼女達の攻撃をひたすら耐える事を強いられる為、長期戦は免れず、ジリ貧になってやがて全滅してしまうのである。
「お久しぶりです、主様」
「よし、それじゃ早速行ってみよう!」
そう言って、早速の様に突っ込んでいく3人。
「ふひひひひひひひ!ご主人しゃまっ!たすけっ!ひゃっはははははははははははははは!」
白い布に目と口を作った様な、有名なゴーストのイメージそのもののゴーストが、6匹、マリエルの体に群がり、手の様な物でくすぐっている。
「あっははははははははは!なんでっ、触れなっ!ひゃはははははははは!」
マリエルは体を激しく動かして抵抗するが、ゴースト達に触れる事が出来ず、すり抜けるばかりで無駄に終わる。
「やめへへへへへへへへへへ!!あっはははははははははははははははははは!!」
「そろそろ限界そうね。アリス、やっちゃって」
アリスは頷くと、片手を目の前に突き出す。すると、その手に剣が現れる。その剣を手に取ると、その体躯から想像できない速度で飛び出し、一気に間合いを詰める。
【剣技:居合一閃】
アリスの姿が一瞬消えると、マリエルの周りに居たゴーストのみが切られ、全滅する。
解放されたマリエルはその場に倒れこむ。
「そういえば回復役を召喚し忘れてた」
『その歌は、全てを魅了する。その歌が齎すのは、愛か、破滅か。嘆きの歌姫は、今日も、いつもの岩場で歌を奏でる』
【召喚術:人魚姫】
術が発動し、描かれた魔法陣が水面の様に揺らめくと、そこから水色の髪を持った人魚が現れる。因みに貝殻ではなくちゃんと服を着ている。水着に近いが。
「呼ばれて飛び出て、歌姫ローレライ参上です。お呼びでしょうか、マスター」
「うん、その登場の仕方は危ないから止めてっていつも言ってるから止めて欲しいなって」
『人魚姫:ローレライ』
夏季限定ダンジョンの海底洞窟の最深部にいるレイドボス。歌を歌い、多彩な状態異常で弱らせ、強力な水中系の魔物を召喚してくすぐってくる。サポート能力では全ての召喚術で一番優秀な子とリリィは語る。
「ライちゃん、『癒しの夜のセレナーデ』をお願い」
「了解です。それでは一曲」
ローレライが準備に入ると、どこからともなく、小魚達が楽器を持って来て、演奏を始める。
ローレライが歌を歌えば、マリエルの体力は段々と回復していく。マリエルの回復が終わった所で、3人と一匹(?)は先に進み、次を探す。
「あぁっはははははははははははは!!ハムハムしちゃやぁぁぁぁぁっははははははははははは!!」
マリエルは今度は美少女ゾンビにくすぐられていた。
4体のゾンビが抱き付くようにマリエルを拘束し、首筋や耳、脇腹等を甘噛みしている。
「くひひひひひひっ!力が強くてっ、抜けられっ、やっ、やぁっはははははははははははは!!」
当然の様にビデオカメラで撮影するリリィ。
「ぁ、ミイラ男、いえ、ミイラ女?包帯だらけで分かりませんが、小さい胸があるので多分ミイラ女?が加わりましたね。おぉ、マスター。ミイラは手も使いますよ。ゾンビみたいなもんなのに賢いです」
隣で実況するローレライ。
「見てないで助けてぇぇぇぇっへへへへへへへへ!!あっははははははははははははははは!!」
HPがギリギリまで減ると、アリスが切り倒す。疲弊したマリエルを癒すローレライ。
「さて、雑魚はこんなもんか。それじゃ、本番行ってみようか」
そのまま移動して、見覚えのある場所に来る一行。そして、上から見覚えのある敵がゆっくりと降りてくる。
「トリックオアトリート、お菓子がないなら、たっぷりくすぐっちゃうわよ?」
全く変わらないセリフを吐いて、ジャック・オ・ランタンが。
【召喚術:触手の女王】
術が発動し、巨大な魔法陣が地面に描かれると、そこから壺の様な形の巨体が、上の口から何百もの触手を生やした『クイーンローパー』が現れる。
因みにクイーンローパーは分類的には魔物娘で、口の中に人型部分がある。確認するにはくすぐられる事前提だが、かなりの美女という噂。尚、リリィは確認済みであり、噂を流した張本人。
「ローちゃん、あいつを拘束して、時間稼ぎお願い」
リリィが指示を出すと、触手をジャックに向かて勢いよく伸ばしていく。ジャックは蔓や手下を使って防ぐが、流石に百を超える触手はそう簡単に防げない。
『夜より暗い深淵より来い、闇から生まれし神よ』
【召喚術:深淵の女神】
『彼方の空より、彼方の天より、降臨せよ、顕現せよ、光から生まれし神よ』
【召喚術:彩光の女神】
闇に染まった魔法陣からアラディアが、七色に染まった魔法陣からイリスが呼び出される。
「ライちゃん、『貴方の為のオラトリオ』をお願い」
「リクエストオーケー!奏でていきますー!」
ローレライの綺麗な歌声が響き渡り、味方全員の防御力が上昇する。
準備が完了したところで、ジャックがバリアを使って触手を弾き飛ばす。
それとほぼ同時に、鎌を呼び出したアリスがジャックに向かって飛翔する。
【鎌技:ソウルリーパー】
鎌が闇に染まり、それを大きく振り上げてジャックに振り下ろし、バリアにダメージを与えると、ほぼ同時。いつの間にか剣に持ち替えていたアリスが、そのまま次の攻撃に移っていた。
【剣技:コンチェルティーノ】
アリスが残像の様にブレ、目で追えない速度で無数の斬撃を叩きつける。
ジャックの意識が完全にアリスに移っている中、イリスとアラディアも仕掛ける。
『思い知れ、深淵なる闇を』
【魔術:アビス】
『天より注げ、終焉を齎す光よ』
【降星術:ミーティア・フィナーレ】
アラディアが生み出した闇の塊が弾丸の様に飛んで行き、ジャックのバリアに当たると、大規模な闇の爆発が発生し、イリスが術を発動すると、天から光の流星が降ってジャックのバリアに直撃する。
「やっぱり、最強クラスのレイドボス3人もいれば楽勝だねー」
強力な攻撃を立て続けに直撃し、ジャックのバリアは消え去った。すると待ってました言わんばかりにローパーが触手を伸ばし、術の余波から立ち直れていないジャックを拘束する。
「な、何?止めなさい!」
当然やめる訳がない。ローパーは大量の触手を使い、ジャックの体をくすぐり始める。
「や、やめ、やめてぇぇぇぇぇへへへへへへへへ!!」
数え切れないほどの触手に一気にくすぐられ、我慢できる訳も無く、大声で笑い悶えるジャック。
「ライちゃん、『魅惑のバラード』をお願い」
「はい、マスター。奏でまーす」
ローレライが曲を奏で、歌いだすと、ジャックに変化が起きる。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!あぁっはははははははははははははははは!!もっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ジャックは魅了状態になっていた。
『魅惑のバラード』は曲を聴いた相手を耐性無視の魅了状態にする強力な能力である。
一方、イリスはアラディアにくすぐられていた。
「あっははははははははっははははははははははははは!!!もっとくしゅぐってくだしゃぁぁぁぁっははははははははははははは!!!」
やがてジャックは体力が空になり、光となって消える。
「こんなもんかな、次新キャラ実装されるとしたらクリスマスかな……」
全員を帰還させ、団長室へと戻るリリィ。
実装されている全ての魔物を召喚出来る彼女。最も、機械系と不死系の魔物はそもそも召喚不可能の為召喚出来ないが。いつしか『魔王』とまで呼ばれた彼女は最強プレイヤーとしてゲーム内で名を馳せる。
百合くすぐりもっと流行れ。
余談ですがリリィは初期案では主人公の予定でした。その後色々考えてユカちゃんが生まれました。