126話
時が過ぎるのがはやい
学校で悪霊退治のクエストを受けたユカとニナは、退治のためにお札を貼って回り、最後の貼る場所である屋上に向かう。
「屋上。何が出て来るかな」
「あまり想像つかないわね・・・」
扉を開けて屋上に入ると、屋上は不気味な静けさに包まれていた。
屋上の中央あたりに宙に浮いた女学生の霊がいた。
「なにこれ。ボス戦?」
「そんな雰囲気あるわね・・・」
「お札貼ればクリアの筈だよね。・・・場所はどこだろう」
「あそこじゃない?反対側の・・・」
ユカが指差したのは、ユカ達のいる場所から反対側にある、もう一つの屋上への出入り口の近く。
「あぁー、あれかぁ。・・・じゃあスルーはできないね」
「お札はあと一枚しかないし、どうする?」
「いや、ユカちゃんの方が機動力あるし。そのままユカちゃんが持って貼りに行ってよ。最悪、私が囮になって捕まって、その隙にユカちゃんが張りに行くこともできるし」
「それ、捕まってくすぐられたいだけじゃないの?」
「ソンナコトナイヨ」
ある程度動きを相談した後、ユカ達がゆっくり近づくと、女学生の霊がユカ達のことを見て動き出す。
「さて、どう出て来るかな」
相手がどういう行動をしてくるのか様子を伺うと、直後にユカ達の足元に黒いモヤのようなものが広がる。
「明らかに良くないことが起きそうね!」
「範囲攻撃とか持ってるんだ!」
2人が咄嗟に後ろに飛び退いて回避すると、黒いモヤから黒い腕が何本も現れて、さっきまで2人がいた場所を掴もうとして空を切る。
「そういう攻撃をしてくるのねぇ」
「見てから回避できるから、これは注意していれば大丈夫そう」
次はどんな攻撃を仕掛けて来るのかとユカが霊の方を見ると、先程までいた霊の姿が消えていた。
「あれ?どこに行った・・・?ひゃぁっ!?」
霊の姿を探すのと同時に、ユカは突然脇腹を襲ったくすぐったさに声を上げる。
「んっ!くふっ・・・!いつのまに・・・!」
ユカの背後には霊が立っていて、ニヤニヤした顔でユカの脇腹を掴みくすぐっていた。
「ユカちゃんが先に狙われたかぁ」
ニナは少し残念そうに呟き、様子を見る。ユカは拘束を抜け出す縄抜けの術があるので、あまり心配はしていない。
「さっさと抜け出して・・・。あれ・・・?」
ユカは縄抜けで拘束を抜けて、さっさと終わらせようとして、異変に気付く。
「ユカちゃーん?どうしたの?」
「何か、へん・・・。体が、動かない・・・」
「へ?・・・金縛りってこと?」
ユカは霊に捕まった姿勢のまま、首から下が何一つ動かすことができず、スキルも使えなくなっていることに気付く。
そんなユカを追い詰めるように、ユカの足元にさっきと同じ黒いモヤが広がり、そこから黒い手が現れる。
「あっ・・・、やっ・・・、待っ・・・!」
ユカ言葉を待たず、黒い手は一斉にユカの体に群がり、くすぐり始める。
「あぁぁっはっはっはははははははは!やっ!あぁっはっははははははは!」
「あれは無理っぽいなー・・・。スキル無効化とかえぐい。というか、お札ユカちゃんが持ってるしどうしよ」
「やぁぁ~~っはっはっはっははっはははははは!はぁっ!~~~~~~っ!!」
「ユカちゃーん。せめてお札をこっちに渡せないー?」
「無理無理無理むりぃっひっひっひひひひひ!うごけなぁっはっはっはははははは!」
「だよね。・・・とはいえ近付いたら確実に巻き込まれるだろうし、どうしよ」
「はぁぁぁっはっはっはっはっはははははは!や、なにっ!?」
黒い手はユカの両手足首を持ち上げ、ユカをJ字の形で空中に固定する。元から金縛りで動けないのであまり変わらないが、これで足の裏もくすぐることができる姿勢になる。
そしてブーツを脱がして無防備になった足の裏も黒い手が蹂躙する。
「んやぁぁぁ~~~~~っはっはっはっはっはははははは!やめっ!あぁっはっはっはっはははは!」
女学生の霊はいつの間にかユカの正面に移動しており、ユカのくすぐったそうな笑顔を見つめながら脇や脇腹をくすぐって楽しんでいる。
「あっははははははは!あはっ!やっ!あぁ~~~~っはっはっはっはっははははは!」
「ユカちゃーん。せめてお札ってどこにあるか教えてー」
「スカートっ!あぁーーーっはっはっはっはははは!右ぽっけ!」
「なるほど。まぁどのみち近づけないんだけどね。どうしよ」
「あはっ!はぁっ!あぁぁっはっはっははははははは!もぉやめっ!あぁ~~~っはっはっはっはははははは!」
「んー、そうだ」
【死神技法:欲望の手】
ニナが術を発動すると、ユカの足元に魔法陣が広がり、そこからまた黒い手が現れる。
この黒い手はニナの術で呼び出された、本来はくすぐる用の技である。
「これでうまいことお札を抜き取れたりしないかな」
「あぁぁっはっはっはっはっはっははははははは!なにっ!やめぇっへっへっへっへへへへ!」
「スカートの右ポッケから、お札を取って・・・。本来こんなことする用の技じゃないから、すごい集中しなきゃ・・・」
ニナは黒い手を操って、ユカのスカートの右ポッケからお札を取り出し、ニナの方へ持っていく。
「よし、取れた!じゃ、貼ってくるね」
「はやっくぅっふっふふふ!~~~~っ!あはっ!あぁぁっはっはっははははは!」
お札を取ったニナはダッシュで光っているお札を貼る場所へ向かい、ペタッと貼る。
その瞬間、女学生の霊はフッと消え、ユカはようやく解放される。
「はぁー・・・っ!はぁー・・・っ!ひさびさに、たくさんくすぐられた気がする・・・」
「おつかれー。何はともあれ、これでクリアだよね」
2人は学校から出ると、転移する前の、学校の正門の前に戻ってきた。
「無事にやり遂げてくれたか。助かったよ、ありがとう」
教師からお礼を言われ、報酬を受け取る。
「えーっと。お金と何かアイテム貰ったね」
「1つは普通に素材アイテムね。もう一つは、ここのイベントを振り返ることができる回想用アイテム」
「あー、じゃあ一回きりなんだ。ここのイベント」
こういった特殊なイベントが発生し、かつ1度しかプレイできないクエスト系では、後でわざと負けて楽しむ用のアイテムが貰えることがあり、今回の報酬にもそれが含まれていた。
「そろそろモモちゃんが来る時間だし、わりと丁度よかったね」
「そうね。みこも流石にそろそろ宿題終わってる頃だろうし、合流しましょうか」
2人は合流に良さそうな場所を探して歩き出す。