121話
スランプ気味
ユカ達が新大陸の王都に辿り着いた翌日。
休日の昼間にユカとミコが王都の適当な喫茶店に集まっていた。
「久々に2人きりだね」
「そうね」
モモとニナは用事があって昼間は不在。
「この街で2人でできること、何かある?」
「2人でできること、ねぇ・・・」
相手がミコではなくニナであったなら、適当にくすぐられに行くことを提案するが、ミコなので適当な返事ができず考え込む。
「あ、私美味しいもの食べに行きたい」
「大分ざっくりとした要望ね。なら、レストランでも探してみましょうか」
町の探索に繰り出す2人。
暫く歩いていると、和風な建物のレストランと、その入り口近くに立つNPCの女性を見つける。
「あの人、クエストかな」
「そうっぽいわね。受ける?2人でどうにかなる内容かも分からないけど」
「暇だし、いいんじゃない?・・・すみませーん」
「あら、いらっしゃいませ。けど、すみません。今ちょうど一番人気の料理の材料を切らしてしまっているの。それ以外なら出せるのだけれど・・・」
「一番人気の料理?」
「えぇ。『ヒドラ』っていう魔物の肉を使った料理なの。・・・もし良ければ、獲ってきて頂けますか?謝礼は出しますので」
「どこにいるの?強い?」
「王都近くを流れる大きな川に生息しています。特別強くはありませんが、不意打ち奇襲を得意とする魔物なので、それだけは気をつけてください」
「ん、ならやってみよっか」
「そうね。じゃ、行ってくるわね」
「どうかお気を付けて」
女性店員との会話を終えた2人は街をでる。
「川ってどこにあるの?」
「ほんとうにすぐ近くよ。5分もかからないわ」
道中エンカウントすることもなく川辺に辿り着く。
「そういえば魔物の類って出現しないって話じゃなかった?」
「陸だけの話よ。水中に騎士団の人が居たら不自然でしょ?だから水棲の魔物はいるの」
「なるほど、それもそうか。で、どうやって探すの?」
「道具があれば釣り上げるのもいいけど、時間かかるし水に入って探すのが一番手っ取り早いみたいね」
ユカがネットで調べた情報を話す。
「勿論、不意打ちされるリスクが高い方法だけどね」
「ゆかちーなら抜け出せるし、その方法でいいんじゃない?」
「何私を囮にすること前提なのよ。やるならみこもやるのよ」
「えぇー・・・。まぁ、いっか」
2人で武器を構え、川の浅瀬に入る。
「ところで『ヒドラ』ってどんな魔物なの?何となく首がいっぱいあるドラゴンのイメージがあるけど」
「ゲームだと大体そのイメージだけど、このゲームのは生物の方をモデルにしてるっぽいわね」
立ち止まって目の前に画面を開き、ネットで検索してヒドラについて調べるユカ。
「え、実際の生物にヒドラって名前の奴がいるの?」
「いるわ。クラゲとかイソギンチャクの仲間だから、ドラゴンとは全く違うけど」
「ん?じゃあ触手系・・・?」
「うん」
「やっぱ釣りにしようかな~」
ミコがそう言って陸に上がろうとした時、水面から薄いピンク色の触手が現れ、ミコに襲い掛かる。
「なんでっ!?」
突然の奇襲に当然対応できず、そのまま触手に絡め捕られるミコ。
「ゆかちー、助けて!」
「こっちにも別のが襲ってきたから、そっちで何とかして」
ミコが襲われたのとほぼ同時に、ユカも襲われていたが縮地で難なく躱していた。
「何とかって言われても・・・!」
「そいつの本体は触手の根本、つまり足元に居るわ。それを倒せれば触手も力を失うわ」
「捕まってる状態でそれができたら苦労しないのよー!ひゃぁんっ!」
細長い触手が何本もミコの体に絡みつき、袖や裾から服の中にも侵入し、素肌を撫でまわしてくすぐり始める。
「やっ!んっふふふふふ!やめっ!やぁっはっははっははははははは!」
触手は腋の下を重点的に責める。
「あぁ~~~っはっはっははははははは!やだぁっ!っははははははは!はなれっ!っへへへへへ!」
触手の先端がミコの素肌に触れ動くたびに体が震え、口からは笑い声があふれ出る。
「やぁぁ~~っはっはっはっははっはははははは!わきっ!とじれなぁっはっはっははははは!」
頭を振ったり体を捩ったりして暴れるが、ミコの力では触手を振りほどけず、くすぐったさを表現するだけになる。
「あーーーーーっはっはっはっはははははははははは!くすぐったぃぃっひっひっひひひひひ!」
触手は動きを弱めるどころか、段々と早くなっていく。
「はぁ!はぁっ!あっはっはははははははは!やっ!だめっ!あ~~~っ!はぁっはっはははっはははははは!」
ミコの体力が3割を切ったあたりでユカが救援に来る。
「えーっと、みこ。なるべく動かないで。本体はどこに・・・」
「はやぁっ!くぅっふっふっふふふふぁっはっはっははははははははは!」
忍者刀を片手に触手の根本を探すユカ。
「あーーーっ!あぁ~~~っはっはっははははははは!もっ、やぁっはっはははははは!」
「いた。これね」
【剣技:急所突き】
ユカがミコをくすぐっていたヒドラの位置を特定すると、忍者刀で仕留める。
「はぶっ!あぁ~~~~・・・。水が冷たい・・・」
「さ、少し休憩したら王都に戻るわよ」
「ゆかちーも冷たい・・・」
ミコが復活するまで待った後、2人は王都のレストランまで戻ってくる。
「はい、これが依頼の品ね」
「あぁ、ありがとうございます!こちらは謝礼と、よければお食事もどうでしょう」
「そうだね。苦労したり、折角だし、食べていこうか」
「では席へどうぞ」
席に着いて待つこと1~2分、2人の前に料理が運ばれてくる。
「ごゆっくりどうぞ」
料理を持ってきたNPCが一礼すると去っていく。
「これがヒドラの。あの細長い触手がこんな美味しそうになるんだ」
「味は、アナゴに近い気がする。食べたこと無い味ね」
「あ、ほんとだ。でも美味しい」
2人は数分で完食すると、店を出て再び街へ繰り出す。