11話
気付いたら大分長くなっていた。久々の戦闘回
自室に戻され、落ち着いたところで再び忍者屋敷を目指す。
今度は街を出て直ぐに隠れ身の術を使い、真っ直ぐ向かう事暫く。ようやく屋敷に到着する。
「何だか不思議な感じ。この間まで毎日通っていたのに」
そんな事を呟きながら受付へ向かうユカ。
「あ、頭領。お疲れ様です!」
元気よく迎え入れる桜。
取り敢えず一回クリアしてみようと思ったユカだが、いつものウィンドウに新しい選択肢が増えていることに気付く。
(頭領室に行く……選択肢が増えてる……)
ユカがそれを選択すると、光に包まれ転送される。すると一人用の部屋にしては随分と広い和室に到着する。
「およ、頭領様。お久しぶりですー」
頭領室でユカを迎えてくれたのは、やはりと言うか、ユカが初めて忍者屋敷に訪れた時にユカを魅了した牡丹であった。
「最近来てくれませんでしたが、今日はどういった御用事ですか?」
何か企んでいるような笑みを浮かべながらそう言ってユカに近寄る牡丹。
(NPCに相談して解決するのかな……)
「攻撃系の忍術が中々習得できなくて、ヒントとか無いかなぁって……」
このゲームのNPCのAIはかなり高性能で、普通の人の様だと評判なので、ダメ元で相談してみるユカ。
「なんだ、そんな事ですか。まぁ頭領は冒険者でもありますからねぇ」
そう言って幾つか巻物を差し出す牡丹。ユカがその巻物を受け取り、一つを開くと目の前にクエストウィンドウが出現する。
●上級忍術【忍術:火遁・真紅】の習得
成功条件:『焔より生じたモノ』の撃破
明らかに今のユカではクリアできなさそうな クエストが出てくる。
(いやいやいやいや、これはステップアップしすぎでしょ。聞いた事も無いわよこんな奴。他にクリア出来そうなの無いかな……)
そう思い、幾つかの巻物を開き、一つだけ可能性があるのを見つける。
●上級忍術【忍術:雷遁・紫電】の習得
成功条件:『雷鳴の丘』の頂上にある祭壇に触れる
(行くだけなら何とかなるかな……?)
一応、団長にどういう場所か聞いてみる。
『ユカちゃん、何か分かったー?』
『たしゅけ、たしゅけてくだひゃいいいぃぃぃぃぃ!!』
後ろから聞き覚えのある天使の笑い声が聞こえるが、聞かなかった事にして話を進める。
~上級忍術の説明中~
『雷鳴の丘の頂上にある祭壇……あそこって確かレイドボスの『麒麟』を倒さないと行けなかった筈だけど……』
ユカは上級忍術の習得を諦める。
だが、リリィが救いの手を伸べる。
『んー、私も上級忍術って気になるし。ユカちゃんもいい経験になるから、一回行ってみようか?』
こうして急遽、ユカを含めたレイドボス戦が始まる。
リリィが今居るメンバーにチャットで声を掛け、全員が雷鳴の丘の入り口に集合する。
「隠れ身の術、凄いねぇ……。全く姿が見えない」
道中、ユカは隠れ身の術で姿を消して同行する。
雷鳴の丘はその名の通り、常に雷が鳴っており、出現する魔物も『雷獣』や『エレキラット』等、雷を操る種が多く存在する。
そうしてメンバーが魔物を容易く屠り進む事暫く、中ボスの『ライオウ』が出現する。ライオンに似た姿をした、強力な雷攻撃をする強敵だが、ここで苦戦するようならボスを倒すことは叶わない。
本物の猛獣の様に強烈な咆哮を上げて威嚇するライオウ。ユカ以外は全く動じない。
(凄い迫力だけど、これでもくすぐりしかしてこないって逆にちょっとシュールかも……。というかどうやってくすぐってくるんだろう)
一人で行けるぐらい強くなったら行こうと心に決めるユカ。
当然と言うべきか、リリィ達精鋭が率いるメンバーはライオウに攻撃を許さず瞬殺する。
そのまま危なげなく進む事暫くして、いよいよ『麒麟』と対面する。
「妾に挑む愚か者達とはそなたたちか……身の程を知るがいい!」
見た目は10歳にも満たない程幼い幼女が言葉を発する。純白の髪に、頭には青白い一本の角が生え、服は着てないが白い毛が全身の至る所に、服の代わりに生えており、それ以上に白い肌がその中から時折姿を見せる。
彼女こそレイドボスの一人、『麒麟』
「さて、流石に手加減出来る相手じゃないし、全力で行きますか!!」
『夜より暗い深淵より来い、闇から生まれし神よ』
【召喚術:深淵の女神】
リリィのとっておきの術の一つ、深淵の女神。魔法系の技を使う中では彼女が最強だとリリィは言う。最も、彼女を召喚出来る召喚術師はリリィしか居ないが。
魔法職は、かなり強力な術を行使するとき、専用の詠唱を唱える必要がある。だが、詠唱が必要な分、その術はかなり強力で、前衛職が出せないようなダメージを叩き出す事も出来る。
リリィが術を発動させると魔法陣が突如、真っ黒に染まり、まるで無そのもののような空間から一人の少女が姿を現す。
灰色の長髪をたなびかせ、漆黒のゴス服を身に纏い、真っ黒な瞳を持った目は、顔は、無表情で相手に興味を持たない。彼女の名はアラディア。深淵の女神の名の通り、闇から産まれた神で、ゲームに実装されている魔物の中でトップを争う程の強さを持った存在である。
「久々の召喚ね、主人様。それで、誰を虐めればいいの?」
「あの子」とリリィは麒麟を指差す。
認識するや否や、早速の様に術を発動し、麒麟を攻め立てる。
【魔術:漆黒の槍】
【魔術:邪なる光】
闇が固まった様な槍が出現し、麒麟に向かって真っ直ぐ飛んで行ったかと思えば、アラディアの左手から真っ黒な光が光線の様に襲い掛かる。
麒麟は雷をバリアの様に展開しそれらを防ぐ。
「召喚術で呼び出した子って普通に攻撃出来るんですね」
「召喚術や陰陽術の式神とか死霊術の人形やゴーレムとか、ああいう使役系の魔法で呼び出した子とかは敵も普通の攻撃で戦ってくるよ。くすぐりオンリーはプレイヤーだけ。まぁ魔物娘を召喚したらくすぐり合いになる事もあるけど」
バリアはアラディアの攻撃を防ぐと同時に消滅し、そこから麒麟の雷撃がアラディアを襲う。が、アラディアの周囲を覆っている真っ黒な霧に阻まれ届くことは無かった。
その横からイリーナとルルナが突撃する。
「私達も良いとこ見せないと、団長だけで終わりそう!」
「別にそれはそれで良い気もするけど、まぁ何もせずに終わるのもアレか」
【魔術:エアロビュート】
【弓技:ミラージュショット】
イリーナが術を発動すると無数の風の刃が、ルルナが技を発動させると一度に何本もの矢が麒麟を襲う。
「ぬぅ、やりおるではないか!」
またも麒麟は雷のバリアを展開しそれらを防ぐ。
「まだ時間かかりそうかな。レイドボスはバリアがあるからめんどくさいのよねぇ」
「どういうことですか?」
「んとね、魔物娘系のレイドボスはバリアみたいなのを持ってて、それを破壊しないとくすぐる事が出来ないのよねぇ」
二人が会話している間も、他のメンバーが加わり戦闘は激しさを増していく。尚、レイドボスは戦闘エリアが通常の2~3倍ほど広く設定されている。
『思い知れ、深淵なる闇を』
【魔術:アビス】
アラディアの両手から闇の塊が発生し、麒麟に向かって、弾丸の様に飛んで行く。
それと同時にイリーナが仕掛ける。
『遥かな空を彩る光よ、私に力を与え給え。天より注げ、全てを破壊する極光よ』
【魔術:崩壊の極光】
空から強力な破壊の力を秘めたオーロラが降り注げば、アラディアのアビスが麒麟のバリアに着弾し、大規模な闇の爆発が発生する。
「流石、超高威力魔術が二つ直撃しただけはあるねぇ。もうちょっとでバリア破壊できそう。まぁここからが問題なんだけど」
【召喚術:誓約の天使】
そう言ってリリィはマリエルを召喚する。いつもの被害担当である。
召喚が完了するとほぼ同時に、麒麟は自分を中心とした広範囲に電磁波の様な攻撃を展開する。
アラディアやイリーナ、ルルナを含め、この攻撃を予測していた者達は事前に距離を取って回避していたが、一部の子と、麒麟の目の前に召喚されたマリエルは直撃し、体が麻痺してその場に倒れる。
「あの、団長。あの天使、いつもくすぐられてません?」
「だってくすぐられてる天使ってかわいいじゃん?」
麻痺して倒れてるマリエルに近付き、お腹の上に足を乗せる麒麟。
「くくく、妾をこけにした報い、その身で受けるがいい」
そのまま微弱の電気をマリエルに流し、くすぐり始める。
「や、やめ、なにこれ、くすぐったいいいいいいいいいい!!」
まるで見えないナニカに全身をくすぐられてる様な感覚に、笑い悶えるマリエル。
「あはははははははははははは!!やめへへへへへへへへ!!ふひひひひひひひひひひひひ!!」
尚、団長の指示で無事なメンバーも攻撃の手を止めている。救出する気皆無である。
「妾をこけにするからこうなるのじゃ」
「知らない、知らないいいいいいいいい!!やめへへへへへへへへへへ!!くしゅぐったいいいいいいいいいいい!!」
「ほれ、もっと強くするぞ」
麒麟が流す電気が絶妙に強くなり、更に大きな声で笑い悶えるマリエル。体はまだ指一本も動かす事は出来ない。
「ひゃめへへへへへへへへへへへへへへ!!ひゃははははははははははははは!!もうむりでひゅううううううううううう!!」
やがてマリエルの耐久値が0になり、淡い光に包まれ、強制帰還させられる。
「はぁ、眼福だった。しかし、やっぱマリエルじゃ長く持たないか」
リリィはうっとりとした表情で感想を述べる。ユカは隣でマリエルに同情した。
「さて、次はどいつじゃ?」
麒麟がこちらを向いた時、目の前まで接近したアラディアが映る。
【魔術:ダークブレイズ】
アラディアの右手から闇の炎が溢れ、麒麟を襲う。麒麟は咄嗟に後ろへ下がり、距離を取るが、左右からイリーナとルルナが追撃する。
【魔術:エレメンタルバレット】
【弓技:ゲートオブアロー】
イリーナの構えた杖から火、水、風、土の属性を秘めた虹色の弾丸が、ルルナの周囲に光の渦の様な門が生まれ、そこから何本もの光の矢が麒麟を襲う。
「ぬぅ、おのれ!」
麒麟はバリアでこれらを防ぐ。が、この硬直時間が致命的となる。
『今は亡き、夢の跡。佇む少女は夜空を見上げ、名も無き歌を歌えば、星は光を増して輝き応える。知ってはならない、死は光によって齎される。足掻いてはならない、全ては無駄に終わるのだから。滅びの時は今。光は我が手の先に』
【深淵魔術:カタストロフ・ルーチェ】
プレイヤーが出せる火力を大幅に上回った破壊力を持った漆黒の光が、アラディアの右手から産まれ、レーザービームの様に麒麟に向かって放たれる。麒麟は回避不能と悟り、防御の構えを取る。
そのまま、麒麟のバリアを消し飛ばし、体力の約4割を削る。
「ぐぅ、おのれぇぇ!!」
「相変わらず凄いダメージ出すなぁ。詠唱が長いのが弱点だけど」
ユカは格の違いに呆然としていた。
「バリアも剥がれたし、こっからは楽に終わるかな」
リリィは不敵にほほ笑む。
「ここからは手加減無しじゃ、妾を本気にさせた事、後悔するがっ……!?」
麒麟がセリフを言い終わる前にリリィはアラディアに指示を出し、アラディアは指示通りに行動する。
【魔術:闇の眷属】
麒麟の足元に魔法陣が広がり、魔法陣は瞬く間に真っ黒に染まり、そこから真っ黒の触手が何本も生え、麒麟の四肢を拘束し宙に浮かべる。
「何をする!離せっ!」
「さぁて、サービスたーいむ」
リリィは真っ黒な笑みを浮かべ、アラディアに指示を出していく。
アラディアは指示通りに触手を操り、麒麟の体をくすぐり始める。
「や、止めぬか、くすぐったい……」
段々と余裕が無くなっていく麒麟。
「おのれ……みてろよ……電撃で、くひゃんっ!?や、やめ、ひゃぁんっ!」
電撃で反撃を試みようとするが、予備動作で察知したアラディアが的確に触手を這わせ、阻止する。
「くっくっく、こうなればレイドボスもただの女の子よ、存分に楽しませて貰おうか……!」
リリィは悪役の様なセリフと共にアラディアよりも黒い笑みを浮かべる。
「ふふふっ、存分に楽しませて貰うわよ。いっぱい笑って頂戴」
アラディアも乗り気である。
触手を次々と体に這わせ、麒麟を追い詰めていく。
「やめ、妾、くすぐったいのよわ……んひっ!」
アラディアは周囲の黒い霧を纏め、幾つもの宙に浮かぶ手を作り出す。
「くっくくく、やめ、ひゃんっ!やめぬか……」
黒い手をワキワキと動かすながら麒麟に近づけていくアラディア。
「ふふふっ、止めてください、でしょ?」
「くひひひひっ!わ、妾が、そんなっ」
「あら残念。じゃあ止められないわね。どこまで耐えられるか楽しみだわ……。それじゃあ、お楽しみの処刑タイムすたーと」
アラディアの合図と共に、黒い手が麒麟の体に群がり始める。勿論触手もくすぐる。
「や、やめ、やめぬかぁぁぁぁぁぁっははははははははははははははは!!」
体毛が服の代わりになっている麒麟はくすぐりに対しての防御力は当然低い。
「うふふっ、いっぱい笑って、いっぱい悶えて」
「あっははははははははははははは!!数が多すぎじゃぁぁぁぁっははははははははははははは!!やめへへへへへへへへへへ!!」
こうなると逆転は難しいだろうが、アラディアは一切手を緩めず、どころか段々と激しくする。
「あぁっはははははははははははははははは!!やめ、やめへへへへへへへへへへ!!」
「止めてください、でしょ?ほら、脇腹もみもみ、脇をこちょこちょ、触手でおへそをほじって、首筋をつつーっと、耳も虐めてあげる、足の裏にも触手をいっぱい這わせて、内ももにも手を追加しましょうか」
「やぁぁぁぁぁっははははははははははは!!はげしっ、多い!多いのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっはははははははははははは!!!やめ、やめへくだひゃいいいいいいいいいいいいっ!!!」
「笑いながら言われても、誠意を感じられないわ。そんなんじゃ止めてあげないよ?」
「そんにゃぁぁぁぁぁぁぁぁっははははははははははははははは!!」
因みに麒麟が拘束されたあたりで他のメンバーは集まって雑談に移行している。
リリィは鼻息を荒くしながら片手にビデオカメラを持っていた。ユカは顔を少し赤くしながらガン見している。
「ほらほら……早くしないと、どんどん増えちゃうよ?触手も、手も」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!やめへぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!やめてくださいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ふふっ、ちゃんと言えたね。ご褒美に私が直々にくすぐってあげる」
「あっははははははははははははは!!話が、違っ!やめっ!いやぁぁぁぁぁぁぁっはははははははは!!」
首を横にブンブン振って抵抗するが、アラディアは意に介さず麒麟の体に触れる。
「そうねぇ、どこをくすぐろうかしら。殆ど触手と霧の手で埋まっちゃってるし……」
「くすぐらなくていいからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっはははははははははは!!」
「そう言っても、ご褒美はちゃんとあげなきゃ、ね?……そうだ、ここくすぐってあげるよ、足の付け根。鼠径部って言うんだっけ?ここを指でこちょこちょっと……」
「やぁぁぁぁぁっめへっへへへへへへへへへへ!!あっははははははははははははははははは!!そんにゃとこさわらにゃぁぁぁぁぁぁぁぁっはははははははははは!!」
全身を激しく動かそうとして抵抗するが、全身に巻き付かれてる触手の力は強く、全く動かす事が出来ない。
そんな麒麟のHPはみるみると減って行っている。
「ここをマッサージすると、下半身が痩せるとか、色々と健康にいいらしいよ?こんな風に揉むように、振動を与えるように……」
「あぁっははははははははははははははははははははは!!!」
それがトドメとなり、麒麟の体の上にダウンマーカーが点灯し、麒麟は意識を失いその場に崩れ落ちる。そしてメンバー全員の目の前にドロップの画面が現れる。
「まぁまぁ楽しめたかな……私はやっぱ、沢山の人間をいっぺんにくすぐる方が好きね……」
そんな事を呟きながら、アラディアは帰還されていった。
「私のビデオコレクションがどんどん充実してくる……ふふふっ……」
リリィはビデオカメラを大事そうにアイテムボックスに仕舞い、先に進んでいく。ユカ達もそのあとに続く。
そして頂上へと到着すると、そこには目的である祭壇が中心に建っていた。
ユカはゆっくりとその祭壇に手を伸ばし、触れる。すると祭壇が光り、光はやがて収束し、ユカの中に吸い込まれていった。
「どう、ユカちゃん?」
「多分、大丈夫だと思います。試しに一発……」
ユカは誰も居ない方向を向き、右手を突き出すように差し出し、習得したばかりの術を発動させる。
【忍術:雷遁・紫電】
術が発動すると半径数百メートル程の範囲が紫色の雷で埋め尽くされ、爆発音にも似た雷鳴が轟く。そしてユカのMPの最大値に近い量がごっそりと消費される。
ユカを含めた全員が想像以上の威力に呆然とする。
「流石レイドボスの撃破が前提のスキル……普通に高威力ね」
「問題はMPの消費量かなー、レベルが上がるまで実用は難しいかもねぇ」
そのまま一行は街へと戻り、そのままお開きとなった。
ユカは当面の目標をレベル上げにする事にして、その日はログアウトした。
次ギルド戦。その次、ハロウィンイベント。
書きたい話が多い……