98話
天を貫く巨塔へ挑むユカ達4人は、中ボスが待つ25階へ到達する。
「アレが今回のボス、『ポルターガイスト』だね」
「えらくシンプルな名前なのね」
「まぁ、その分どういう攻撃してくるかが分かりやすいから……」
ユカは部屋全体を見渡す。
滅びた屋敷を彷彿とさせる内装の一辺30メートル程の大きな正方形の部屋には、ブラシや筆などのくすぐり道具があちらこちらに散乱してした。
「これらを浮かして襲ってくるのよね」
「まぁ、名前的にもそうでしょう」
「敵以外にも注意しないといけないのはめんどくさそうだなぁ」
部屋の中央にいる眼鏡をかけた大人しそうな印象を受ける少女は、不敵に笑って自分の周囲に取り巻きを召喚する。
「アレは?」
「『ティック・ポゼッション』ていう敵。周囲の物や、プレイヤーに憑依して操ってくる厄介な敵だよ」
「憑依されると動けなくなったり、近くにいるプレイヤーを襲ったりするから気を付けて」
「後、憑依する前は体が凄く小さいのも厄介な点ね」
ユカの言う通り、その敵の大きさは直径5センチ程度の大きさしかない球体の姿をしているため、非常に攻撃が当て辛い。更には半透明で視認もし辛い
「気付いたら近くにいて憑依されたー、なんてことが無いようにねー」
ニナのどことなく楽観的な言葉と同時に、ユカが縮地で一気に距離を詰め、いつも通りに至近距離で忍術を叩き込む。
【忍術:火遁・業火】
そのまま縮地で一気に離脱する。
「もう散っていたか……。何体倒して何体残っているのかも分かり辛いわね」
離脱した後、ユカは周囲に意識を向けて注意する。
「これ、先に地面に落ちてる道具を壊すのはダメなの?」
ミコが率直な疑問を投げて。
「いや、復活するから意味ないね」
下調べをよくするニナが答える。
「ついでに、あの子人型だけど幽霊だからか触れなくてくすぐれないんだよね。まぁ、それは向こうもおんなじなんだけど」
「だから道具を操ってくるんだねぇー」
「2人とも喋ってないで戦ってよ」
尚、モモは既に一番後ろの壁際まで下がって魔力上昇の曲を奏でていた。魔人は自身の周囲の警戒にあたらせている。
「やりますよーっと、それ」
【豊穣:バクサンカ】
ミコがポルターの周囲に弾丸を放つと、球根のような形の実が生えて、ぷくーっと膨らみ一気に爆散する。
「んー、効いてないね」
「物理完全無効だからね。基本的には術じゃないと倒せないよ」
「物理職のみだと詰むのかぁ」
「いや、一応物理耐性をある程度無視して攻撃する手段もあるにはあるよ。習得レベルが高いけど」
ニナもユカとミコの間あたりの位置から蒼い炎を飛ばしてダメージを与える。
「取り巻きが何処に潜んでいるか分からないから、迂闊に近づけないねぇ……」
半透明で5センチしかないポゼッション達を遠くから見つけるのは至難の技なので、ユカも初撃以降は迂闊に近寄らず、距離をとって戦っている。
「HP多いし、時間かかりそうだなぁ……。ひゃぁっ!?」
「ミコちゃん?どうしたの?」
「なに、かがぁっ……。せな、か……。くすぐったぃ……!」
ミコはその場に座り込み、必死に背中に手を伸ばすが、原因となる物を上手く掴めない。
「何かが服の中に入っちゃった?」
ニナがミコに近づく。
「ニナ、ちゃ。うし、ろ……!」
「へ?」
ニナが反応するよりも早く、半透明の球体がニナの体に吸い込まれる。
「あ、あちゃぁ……ごめん、ミコちゃん」
ニナは状況から全てを察して謝罪するが、ニナの体はミコの両手を掴んで上にあげさせる。
「憑りつかれちゃった。テヘッ」
「いや、テヘッじゃないよ!」
ミコとニナの周りに様々な道具が宙に浮かび上がり、ゆっくりと近づいてくる。
「これ、どうやったら助かる?」
「んー、無理。ユカちゃんが早めに倒してくれることを願って」
「なんか、こう。ちょっと助けて貰うことってできないの?」
「憑依から解放する方法が、プレイヤーの手でくすぐるしか無いから、そんな暇ないと思う。だったらモモちゃんが引き続き火力アップのバフを掛け続けて、ユカちゃんがなるべく早く敵を倒すのが最善かな。下手に救助に来てユカちゃんまで憑依されたら終わりだからね」
「ご説明どうも……」
ミコは迫ってくる道具たちを見つめてどこか諦めた顔をする。
「最初は筆かぁ、王道だね」
「何で嬉しそうなの……」
「今更じゃない?」
ミコとニナに最初に近づいて来たのは4本の筆。筆はそれぞれ左右の袖から服の中に入り、ガラ空きの腋を優しく撫で回す。
「んぅっ……!ふっふふふふ!やっ……!はぁっ……!あっ!はっ……!」
「ふひゅっ……!んふっ!ふっ!このもどかしさ、はぁっ……!筆の良さよねぇっ……!」
まだ耐えれる優しいくすぐったさに身を捩る2人。そんな2人に新しい道具が近付いてくる。
「はぁっ……!やっ……!あっ!なに、これ……!」
「んっふふふ……!うぁっ……、やばいのきたぁっ……!あはっ……!」
新たに近づくそれは、取ってから細長い金属の棒が何本も花の様に広がる道具。本来の用途は頭皮を刺激するヘッドマッサージ機である。
だが、4つ現れたそれが向かうのは頭ではなく、脇腹。2人の脇腹に到着すると、小刻みに動きだす。
「んひぃっ!ひゃっ!やぁぁっははははははははは!なに、これぇっへへへへへへへ!くすっ!ぐったぁっはははははははは!」
「あぁっははははははははははは!やっぱ、これ、やばぁっははははははははは!」
2人は脇腹から送られてくる強いくすぐったさに、大きな声で笑い、必死に身を捩る。
そんな2人に新たに4本の耳かき棒が近付き、2人の両耳を梵天で優しく撫で回す。
「くすぐっ!やぁぁっははははははははははは!あはっ!はぁっ!やっ!あっ!はっ!はぁっ!あっ!あはっ!あっはっはっははははははは!」
「ひゃぁっははは!はぁっ!はっ!もっ、きつっ!ふひっ!はっ!あはっ!あぁっははははははははは!靴っ!飛んでっ!」
2人の靴が突然どこかへ飛んで行き、露になった足の裏に4つのヘアブラシが近付いてくる。
「やめっ!やっ!やぁぁっっはははははははははは!それっ!だめぇっへへへへへへへ!」
「あっははははははは!これ、以上はぁっ!やばっ!やっ!んやぁっははははははははは!」
だが、2人の声を無視してブラシは2人の両足の裏を靴下越しにゴシゴシとくすぐり始める。
「ひゃぁぁぁっははははははははは!だめだっ!めぇっへへへへへへへ!だっ!あぁっはははははははは!」
「あぁっははははははははは!あしっ、やばぃっひひひひひ!あぁっ!っははははははははははは!」
2人の体力がみるみると減って行き、残り3割を切ったタイミングで全ての道具の動きが止まり、2人はくすぐったさから解放される。
「ふへっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
「やっ……!ふひっ……!ふぇっ……!はぁっ……」
「お疲れ、倒し終わったわよ」
ユカがポルターガイストを倒したことにより、道具たちが一斉に動きを止めた。
「このボスは本体倒せば取り巻きも自動消滅するから、そこは楽でいいわね」
2人の回復を待った後、4人は26階へ移動する。
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