九話
ギルド『アイリス』のギルドハウスの地下にある訓練場、学校の体育館程の広さがあるそこでは現在。
「や、やぁぁっははははははははははは!!」
ユカが大量の触手にくすぐられていた。
その傍では息を荒くしている団長、リリィの姿があった。
「ハァハァ、触手にくすぐられる少女最高!」
セリフだけ見ればとても女性とは思えない発言をしてユカを凝視している。
何故このような状況になっているのか。それは遡る事数十分前。ゲームにログインしたユカはギルド戦が控えていることもあり、多少なりともレベルを上げておいた方が良いなと思ったが、先日学園で得た経験値によってレベルが上がり、新たなスキルを覚えていた事に気付いた。
新しいスキルは『忍具製造』
忍者服や忍者刀等、専用装備を作る事が可能になるスキルだった。だが、強い装備は当然というか、レベル制限かかけられており、すぐに装備する事は出来ない。だが現在のレベルでも装備が可能で、現在ユカが装備している物よりも性能が高い物もあったため、先ずはこれを作ろうと思ったが材料が足りなかった。しかも、ユカの知らないアイテムも含まれていた為、リリィに相談しに行くことにした。
「団長、今大丈夫ですか?」
「ユカちゃん?うん、大丈夫だよー」
団長室に珍しく一人でいたリリィ。そんな彼女に事情を話す。
「そんな訳で、この『鉄鉱石』ってどこで手に入りますか?」
そう聞くと、リリィはその手間を省く返答をする。
「それなら余ってるから、譲ってもいいよー」
鉄鉱石は西の方にあるダンジョン、採掘場で手に入るアイテムである。死霊系やゴーレム系、スライム系や蝙蝠といった、いかにも洞窟に生息していますといった魔物が数多く出現し、奥に進むほど希少な鉱石系のアイテムが取れやすくなるが敵が強くなるというダンジョンであり、最深部には一日一回だけオリハルコンが確定ドロップする場所があるが、レイドボスのマザーゴーレムが手前の部屋に居る為、撃破しなければ行くことは出来ない仕様になっていた。
鉄鉱石はそんなダンジョンの手前の方でも入手できるアイテムだが、ユカのレベルでは少々厳しい場所である。なのでリリィの申し出はユカにとってかなり有り難い事である。
「ただ、一回だけくすぐらせて?」
そうして二人は訓練場に移動した後、リリィは召喚術を行使する。
【召喚術:魔女王】
術が発動すると、地面に魔法陣が現れ、そこから羊の角の様な物が生えた少女が現れる。
彼女の名はバフォメット。最上級ダンジョンの一つ、『魔女の屋敷』の最深部に出現するレイドボスである。
魔女の屋敷では使い魔であるファミリアや、魔女、サキュバス等の高レベルモンスターが徘徊し、バフォメットはそれらを召喚、使役する事もある。また、バフォメットは『洗脳』という特殊な状態異常を行使してくる。これはプレイヤーや魔物も含めて、彼女しか行使してこない能力である。
「さぁ、バフォメット。あの子をくすぐって!」
次の瞬間、バフォメットの周囲に魔法陣が浮かび、そこから無数の触手が現れる。
こうして現在に至る。
「あぁっはははははははははは!!」
ユカはバフォメットが召喚した、先端がブラシの様になっている触手で体をくすぐられていた。
「きゃははははっははははははは!!くしゅぐったいいいいいいいいいいい!!」
全身をブラシで洗われているようなくすぐったさがユカを襲う。
しかし突然、触手がユカを解放し消えていく。
「はひ……?はぁ……はぁ……」
突然の事に戸惑いつつも上手く頭が回らず、息を整えるユカ。その時、ユカの周囲に魔法陣が浮かび上がり、10歳児程の女の子が5人現れる。
「はへ……?」
彼女達はファミリア。バフォメットが生み出す使い魔達である。使い魔とは言え、バフォメットが生み出した者なのでユカより遥かに高レベルである。
「や、まって、まだ落ち着いてなぁぁぁっははははははははははははは!!」
5人が一斉にユカの体に群がる。10本の手が、50本の指が、ユカの脇や首やお腹や太ももや足を撫で回し、引っ掻き回し、揉みしだき、小刻みに動かして責め立てる。
「あひゃははははははははははは!!はひひひひひひひひひひひ!!」
先程と違い拘束されてない為、ユカは体を捩らせて抵抗する。だが、先程まで傍観していたバフォメットがユカの上に馬乗りになる。
「あははははははははははは!?」
バフォメットは馬乗りになったまま、ユカの顔に近づいていく。頭に角が生えていて幼い見た目をしているとはいえ、十分美少女と呼べる彼女に密着され、少し顔を赤らめるユカ。くすぐられて赤くなってるだけかもしれないが。
そして次の瞬間ユカの唇を奪う。
「ん!?んんんんんんんっ!?」
少ししてユカから離れるバフォメット。そしてユカに異変が起きる。
「ふぁぁぁっはははははははは!!」
ユカはファミリア達にくすぐられながらバフォメットに抱き付く。
これが彼女の固有能力、洗脳である。誘惑の完全上位互換である洗脳は命令をしなくても彼女の望む行動を自ら行うようになり、抵抗も逃避も不可能となる。
「あはははははははははははははは!!もっと、くすぐってくださいいぃぃぃぃ!!」
抱き付いたままくすぐられおねだりするユカ。光景だけみればかなり危ないものである。バフォメットはそんなユカの首筋に指を這わせ、可愛がるようにくすぐり始める。
「ははははひあひひひひひ!!くひひひひっひゃひゃひゃひゃ!」
そしてファミリア達はついに服の中に幼い手を潜り込ませ、直接素肌をくすぐり始める。
「あぁっはははははははははははははははは!!きゃっはははははははははははははは!!はははははははははははははひひひひひひひひひひ!!ふひひひひひひひひひひひひ!!ひぁっはははははははははははははは!!」
相手が止めない限りくすぐりから逃れる術がないのが洗脳の恐ろしい所である。ユカは既に街中でなければ最大HPの何十倍も減らされるほどくすぐられていた。流石にこれ以上はマズイと思ったリリィは術を解除し、バフォメット達を帰還させる。
「は……はひっ……ひっ……」
その場で倒れこんだユカは上の空になりながら息を整えていた。その後、ユカが復帰するまで20分の時を要した。
ようやく復帰したユカはリリィから素材一式を受け取り、無事に装備を新調する。ギルド戦まで後二日。