ヒーローになりたいなあ
僕は大昔、ヒーローに憧れていた。
だが大昔と言っても今から十年ほど前、つまり僕が七歳の時、小学二年生の時だ。
別におかしいことは無いだろう? そんなまだ自分でおつかいすら行けないような年頃の餓鬼が夢見る職業と言ったら宇宙飛行士かヒーローかのもんだ。まあヒーローが職業なのかという問いに対しては僕は耳を塞ぎ、暗やみに閉じ籠ることにしよう。
ともかく自分の命と体を張り、町の平和と人々の安寧を守る英雄。すなわちヒーローに僕は憧れていた。カッコよく、時に気高く、そんな存在に僕はなりたかった。華やかな舞台でスポットライトを浴びるアーティスト。国の名を背負い世界と戦うスポーツ選手。
皆かっこいい。全員かっこいい。憧れる。
その人たちは立派なヒーローだろう。例え街の平和を守っていなくとも、悪の怪物と戦っていなくとも、その人たちは立派にヒーローしている。
いや、違うな。その人たちだけじゃあない。家族の為に、子、妻の為に必死に働くサラリーマン。彼らだってヒーローだ。家庭の平和を守る正義の味方だ。
じゃあ逆に悪とはなんだろうか?
……そんな事は考えなくてもわかっている事だろう。
自分が一番よく理解している事じゃあないか。
「はあっ……! はあっ……!」
それは傍から見ればどのような光景に見えるだろうか。
そのような思考を僕は押し殺した。ひたすら仕方ない、仕方ない、とまるで暗示をかける様に同じ言葉を呟きながら。
「…………」
乱れた。
目の輝きを失い、訪れる感覚に身を任せる少女の制服を不要になったカレンダーのようにビリビリと破く僕。いや任せてはいないか。ただ止められないだけだ。
僕が縛って動けなくしているから。
「あ……やばい……」
限界を迎える。
少女は一瞬水を瞳から零したが僕は気に留めない。だって、もう遅いんだもん。