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第八話

 一週間の間に、祝日が一度あって助かった。土曜日と日曜は徹底的にテニスの基礎を叩き込んだ。みやなの吸収力もあって二日で、かなりの上達ぶりだ。

 誰から見ても、そう言えるだろう。

 そして、月曜日になり俺は。


「お邪魔しまーす!!」

「はいはい。上がってくださいね」


 みやなを自宅に連れてきていた。

 ……別にやましいことを考えているわけじゃない。試合を捨てたわけでもない。むしろ試合のために、やることをやるためみやなを呼んだのだ。


「あら? 集。その子が?」


 帰宅すると、すぐ母さんがリビングから姿を現す。その表情は、とてもにこやかだ。当然だが、みやなのことは家族に知らせてある。

 そうじゃないと、俺が突然小学生を家に連れてきた、みたいな感じになるからな。


「初めまして! みやなだよ!!」

「はい、初めまして。集の母親の春奈って言います。あなたが、みやなちゃんなのね。……うん。とっても可愛い子ねぇ」

「えへへ」

「母さん。俺達、二階で集中したいから」

「うん、わかっているわ。ココアとか用意するから、取りに来なさいね」


 わかったと伝え、俺達は二階へと向かっていく。階段を上がり、右手にあるドアを開ける。ここが、俺の部屋だ。

 特に何があるでもない普通の部屋。ベッドに机、漫画や小説などが収納されている本棚。それに、テレビなどなど。今では、みやなと一緒にテニスをやっているので、押入れにしまっていたラケットなどがあるけど。


「ここが、集の部屋かー。普通だね!」

「普通が良いんだよ。それよりも、ココアを取ってくるか。適当に座っててくれ。……漁るなよ?」

「……はーい」


 間があったのが、気になるが俺は部屋を後にして、母さんが用意しているはずのココアを取りにリビングへと向かった。

 すでに用意ができていて、リビングに入った瞬間、ココアのいい匂いが漂ってきた。


「まったく。あんな可愛い子と最近よろしくやってたなんて。我が息子ならがら、やるじゃない!」

「よろしくって……別に変なことはしてないって。ただマジックテニスを教えているだけだよ」


 テーブルの上にある二つのコップを手に取り、俺はため息を漏らす。


「わかってるわよ。でも、あなたがまたラケットを握って。マジックテニスをやっているって聞いて。母さんとしては、本当に嬉しいのよ」

「……まあ、俺はもう魔力がないから。教えるだけしかできないんだけどな」

「それでも、よ。前の堕落していたあなたよりは、今のあなたのほうが輝いてるんだから。その調子で、どんどんみやなちゃんとエンジョイしちゃいなさい!」


 ぐっと、親指を立ててくるので、俺ははいはいと軽く返事をしてリビングを出て行く。だが、母さんの気持ち、言葉はちゃんとこの身に染みている。

 母さんはずっと俺のことを心配していてくれたからな。父さんも、仕事をしながら俺のために学費を稼いでくれている。

 今の俺のほうが輝いている、か。そうかもしれないな。自分でも、ラケットを振っているほうが輝いている気がする。


「お待たせ。……なにやってるんだ」

「あっ」


 自室に戻ると、今まさにみやなが俺のベッドの下に手を伸ばそうとしていた瞬間を見てしまう。こちらに尻を向けている状態なので、下着が見えそうで……うん、ぎりぎり見えない。

 俺が入ってきたことで、静かに立ち上がり、ベッドの上に座る。


「ココアだぁ!」

「誤魔化せてないからな?」

「えへへ……」


 まあ、ベッドの下には何もないから別にいいんだけど。……本当にないからな? うん。マジで。俺は、マジックテニス以外にはほとんど興味がなかったからな。

 辞めてからは小遣いをほとんど漫画や小説などに使っていた。

 それに、中学生の俺がそういうものを買えるはずがない。道端にも落ちていることなんて全然ないしな。


「まあいいけど。それじゃあ、さっそくだが。こいつを観るぞ」


 そう言って取り出したのは、ディスクだ。

 ココアを床に置き、クッションを置く。みやなをそこに座らせ、DVDプレイヤーにディスクを入れる。


「何の映像?」

「……やえの試合映像だ」

「おお!」


 そう。今日は、土曜日に試合するやえを研究するためにみやなを呼んだのだ。


「午前ははやえの動きや魔技などを研究する。そして、午後からはその対策兼魔技の練習だ」


 魔技の練習ということで、いつものコートでは無理だ。なので、ちゃんとしたコートを予約してある。俺がまだマジックテニスをやっていた頃に、よく自主練のために使わせてもらっていたコートだ。

 そこの管理者とは、マジックテニスのことで仲良くなり、久しぶりに予約の電話をした時は、すごく喜んでいたのを今でも覚えている。


「一番良質なコートだから、思いっきり練習できるぞ」

「そうなの?」

「ああ。お前の魔力で使う魔技は生半可なコートじゃ少し物足りないだろうからな。さあ、映るぞ」


 ディスプレイに映し出されたのは、やえとその対戦相手。

 あの時とは違い、まるで戦場に居るかのような顔つきと雰囲気だ。その姿は、まるで武士。

 パコン! 

 相手から強烈なボールが返ってくる。相手の選手は、パワー型で、ラケットを吹き飛ばすほどのパワーがある。やえのあの細腕では、少しきついだろう。

 しかし、やえは焦ることなくボールを正面から。


「構えた?」


 まるで、刀を構えるかのようにラケットを構える。

 そして。


「わっ!? ぼ、ボールはいつの間にか相手コートに……!?」


 気づいた時には、ボールを返球していた。相手選手は、何が起こったのかわけがわからないと混乱しているが、観客達はでたー! とばかりに大盛り上がりだ。

 俺が一度、巻き戻しをして一時停止をする。


「さっきのが。やえのもっとも得意としている魔技。実家で習っている居合い術と魔法の混合技。《居合い術―刹魔―》だ」

「すごくかっこよかった! あたしもやりたい!!」


 うん、素直な感想ありがとう。まあ、俺から見てもかっこいいと思ったよ。でも、すぐ冷静になり研究していく内に、とんでもない魔技だとわかったのだ。


「この魔技は、構えからの発動までの予備動作がかなり短い。しかも、ボールを打った音が送れて響くほどの速さ。そのため、ボールが相手コートに着弾したのも気づかないことがあるそうだ」

「さっきの人みたいに?」

「その通り。あの魔技は、熟練のマジックテニスプレイヤーでも返球するのが困難なんだそうだ」


 あくまで、ネットの噂だがな。実際の映像がなかったから、本当かどうかはわからない。だけど、こうしてその魔技を目にすれば、そうかもしれないと思ってしまう。


「あんな凄い魔技を持ってたんだぁ……」


 と、黙りこくってしまうみやな。


「怖くなったか?」


 俺が問いかけると。みやなは、自信満々に笑顔を作り。


「全然! むしろ、わくわくしてきちゃった!! ねえねえ、集」

「ん?」

「あたしを強くしてね! あたし、頑張るから!!」

「ああ、当然だ。さあ、研究を再開するぞ」

「おー!!」


 それからというもの。俺達は午前中を有意義に使いやえの研究に熱中した。

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