第七話
「ほっ! ほっ! ほっ!」
「後一周だ。その後は、素振り三十回だ」
「百回でもいけるよ! あたし!!」
「だめだ。いきなりハードだと、体を壊しかねない。俺が、コーチをするからにはそういう方面は守ってもらうぞ」
「はーい」
やえとの試合の約束をした次の日。つまり日曜日に、俺達は試合に向けて特訓をしている。一週間という特訓期間の間、どこまでみやなを育てられるか。
ただみやなを強くするだけじゃない。
マジックテニスのいろはをできるだけ教えなくては。
「よし! 素振りだー!」
「いくぞ。一! 二!!」
「三! 四!!」
素振りと言っても、ただラケットを振るだけじゃない。ちゃんと、試合を想定した素振りもする。相手コートからボールが飛んできたという想定で、動きラケットを振る。
イメージトレーニングというやつだ。
ただの素振りも大事だが、やはりその素振りが試合に生かされないと意味がない。そのため、動いては振り。動いては振るというのを繰り返している。
「三十!! よし! 次は何?」
みやなのやる気は十分。まだ、動いての素振りはぎこちないが順調にこなしている。みやなのことだ。明日になれば、形になっているだろう。
「次は、サーブの練習だ」
「サーブ……試合の最初にやるやつだよね!」
「そうだ。テニスの試合において、サーブは試合開始のゴングと同じようなものだ」
「でも、審判の人が試合開始の合図をするよね?」
「まあ、そうだな。た、例えだよ! 例え!! とりあえず、俺のサーブを横から見ていてくれ」
俺は、コートの端に立ち、ボールを数回弾ませる。
テニスコートは、シングルの場合とダブルスの場合でアウトゾーンの幅が違う。シングルだと、八メートルぐらいの幅。つまり、コートの端にある縦幅にボールが入った場合はアウトとなる。
ダブルスだとその縦幅も含まれるのだ。つまり、アウトになるのは完全にコート外だけとなる。ただ、どの試合でも言えるが、少しでもラインにボールが触れていれば、セーフなのだ。
これが、テニスの難しいところ。
コートにも種類があり、特にハードやグラスのコートだと判定が難しい。クレーと呼ばれる土のコートだとボールの後もつくので、他のコートよりはアウトの判定がしやすい。
とはいえ、俺達がやるのはマジックテニス。
普通のテニスと違い。魔法を使うため、使った魔法によってはどのコートでも判定が難しくもなるし、簡単にもなる。
「いくぞ。はっ!!」
話が逸れたが、サーブで放ったボールは、ネット近くのライン。ネットから六メートル半ぐらいの長方形の中に入ればオーケーになる。
ただ長方形は、二つあり、ボールを叩き込むのは、サーブをする位置から斜め方向にある長方形だ。
「おお! 結構早い!!」
俺が放ったボールは、ギリギリラインの端に入った。スピードもまあまあ、か。だけど、やっぱり衰えているな……。
「まあ、こんな感じだ。いいか? サーブは、ネットに当たるかあそこに入らなければ、フォルトにある」
「フォルト?」
「もう一度ってことだ。そして、フォルトを二回取ってしまうとアウトになる。だから、サーブは慎重に、確実に打ち込まなくちゃならない」
「なるほど!」
次は、みやなの番だ。俺と同じ場所に立ち、数回ボールを弾ませる。そして、真剣にコートを見詰め、一呼吸置き、ボールを天高く上げる。
うん、綺麗なフォームだ。やっぱり、吸収力がすごいな。
「おりゃ!!」
パコン!!
コートにボールとラケットがぶつかるインパクト音が鳴り響き、真っ直ぐ相手コートへとボールは放たれる。
威力は十分だ。
だが……。
「フォルトだ」
ラインから大分離れたところにボールは着弾する。
「むー。いい感じだと思ったのになぁ」
悔しそうに眉を顰めながらも、どこが悪かったのかとその場で素振りを始めるみやな。
「フォームは悪くなった。だけど、ボールを打つ時、少し力み過ぎたな。そのせいで、遠くに着弾したんんだ」
「でも、力を入れないと相手から簡単に返されちゃうよ?」
みやなはの言っていることは理解できる。サーブを確実に決めて、こちらの流れにしたい。俺もそう思う時はある。
「もちろん、相手から簡単に打ち返されないのは重要だ。だけど、ボールがちゃんと入らないと意味がないからな。今は、コントロールを身につけるところから始めよう」
「……うん、わかった!」
それからは、サーブを只管打ってはフォームの確認をしたり、ラケットの位置などを修正したりして、徐々にだがコントロールがよくなってきた。
元々コントロールはよかったほうなので、時間はそこまでかからなかった。
「そりゃあ!!」
「おお! 威力もコントロールもいい感じになってきたじゃないか!」
「いえーい!! サーブを習得したぞー!!」
まるで、ゲームで技を習得した時のように音楽が鳴る。
……みやなが自分で言っているだけなんだけど。
「いい調子だ。次はロブとボレーの練習だな」
「やってやるぞー!!」
やはり、みやなの吸収力は半端じゃない。少し教えただけで、どんどん自分のものにしていく様は、まさに圧巻。
教えているこっちとしても、覚えが早くて助かるのだが。こんな才能があるのに、どうして今までスポーツをやらなかったのか。
本人は、興味がなかったと言っていたけど……。
「おーい、集? どうしたのー?」
「うおっ!?」
考え事をしていたから気づかなかった。いつの間にか、みやなが俺の傍に寄ってきており、上目遣いで俺のことを見詰めていた。
「ん?」
「……おほん。ロブは完璧になったのか?」
「完璧だよ! ほら! 言われた通り、魔力球をロブで倒したよ!」
魔力球とは、魔力でできた塊だ。それを空中に浮かせて、ロブで壊す。空中を見れば、確かに魔力球が全て消えていた。
ちなみに、魔力球は言わずともわかるだろうがみやな自身が作ったんだ。
「うん。それじゃあ、次はボレーだ。俺と一緒にやろうか」
「はーい!!」
「だけど、その前に」
「その前に?」
俺は、ラケットから手を離し、クーラーボックスから缶ジュースを取り出しみやなに渡す。
「一旦休憩だ。根を詰めすぎても、無駄に体を痛めるだけだ。休憩しながら、確実に身につけていくぞ」
みやなは、缶ジュースを受け取り、プルタブを押し込む。
「コーチに従う!」
「うんうん。コーチに従うのだ、教え子よ」
「ははー!!」
小さな演劇をして、互いに笑いながらもベンチに腰を下ろし、冷えた缶ジュースで喉を潤しながら、世間話で花を咲かせた。




