第六話
「……そして、俺は魔力を失った。魔力を失ったことで、マジックテニスもできなくなり、部活を自主退部。魔法科から普通科に転校して、今に至るってことだ」
「……」
「ニュース通り、なんですね」
久しぶりに自分の過去を思い出し、語った。さすがのみやなも、どう言ったらいいのかわからないようで、黙りこくっている。
はあ……やっぱり変な空気になったか。
ただ、魔力を失ったのは俺だけじゃないんだ。あの渦に巻き込まれた数十名が魔力を失っている。回復の余地があった者達は数名居たのだが。
俺のように完全に魔力を失い、元に戻らなかった者達も少なくはない。そもそも、こういった例が今までなかったために、対処法がまだわからないんだ。
もしかしたら。もう少し時代は進めば魔力を復活させる術が確立するかもしれないって言っていたけど……あの渦に巻き込まれた影響なのか。
他人からの魔力供給を受け付けない体になってしまったのだ。ただ【魔力核】と呼ばれる魔力を溜める心臓のようなもの。この魔力核がなければ魔力は生まれず、体にも魔力が巡らない。
俺には、まだ魔力核がある。
あるのに、魔力がない。
俺達を見た医者達は、本当に前代未聞だと苦悩していた顔を今でも思い出せる。
「普通のテニスをしようと思ったけど。全然続かなかったんだ……」
「……集」
「ん? なんだ、みやな」
すると、今まで黙っていたみやなが口を開く。
俺の過去話を聞いて、最初の言葉はなんだろうな。
「ありがとう」
「……」
まさか、お礼を言われるとはな。
「あたしにテニスを教えてくれてありがとう! それと、ごめんね。集にそんな過去があったなんて知らなかった……だから」
まだ出会って数日しか経っていないが、彼女がいつも天真爛漫なのは理解できている。だから、目の前でしゅんっとされるとなんだか調子が狂うな。
でも、みやなは俺に気を使っているという証拠だ。
「気にするな。確かに、俺はマジックテニスからも普通のテニスからも身を引いていたけど……みやな。お前のおかげで、少しずつだけど戻ってきているんだ。最初、始めた当時。つまり、純粋に楽しんでいたあの頃に」
最初は、ただ楽しいからという理由でマジックテニスを始めた。だけど、どんどん強くなっていって。どんどん周りから期待をされていくに連れて、俺はただただ強くなることだけに執着していたんだ。
「あ、あたしのおかげ?」
「ああ、お前のおかげだ」
そして、同時にみやながどこまで強くなれるのか。それを見たくなっていた。俺は、もうマジックテニスをできないけど。
これから未来ある後輩達が、どんなプレイをしていくのか。みやなの可能性ってやつを、直接この目で……。
「だから、お礼は俺が言いたいぐらいなんだ。俺に、またラケットを握ってボールを打つ楽しさを思い出させてくれて、ありがとう」
「……えへへ。なんだか、変な気分だなぁ。お礼を言い合うのって」
「そうだな。……さて、話が逸れちゃったけど。どうする? みやな」
と、俺はやえを見詰める。
そう。本来、ここには俺の過去を聞くためにやえを連れてきたのではない。やえに、試合の申し込みをするために連れてきたのだ。
「そ、そうだった! やえ!!」
「なんでしょうか?」
気持ちを切り替え、みやなはやえに向き合う。
「あたしと……試合して!!」
さて、言ったはいいが。そう簡単に受け入れてくれるか? それにマジックテニスの試合は、普通のテニスと違って色々と準備がいる。
まず一つは、コート内を囲む結界。これは、マジックスポーツ全体で必要不可欠なものだ。魔法が観客達に当たらないようにするための大事なものだ。
その次に必要なのは、魔法に耐えれるラケットにシューズ。そして、プレイヤーを護るマジックアーマーと呼ばれるもの。これは、コートに使われる結界のプレイヤーバージョンってところだな。
公式では、大体が結界魔法に長けた者に依頼してコートに結界を張ってもらっている。そして、学校などにある一般的なコートには、簡易な結界が張られている。
簡易結界は、専用の機械から発生しており、出力を上げれば長時間は無理だが、公式のコートに張られている並みの結界になる。
「試合、ですか。ちなみにみやなさん、でしたね」
「うん!」
「みやなさんは、マジックテニス歴は?」
「まだ数日だよ!」
「……なるほど」
その後、やえは俺のことを見る。もしやえが承諾してくれたとしても、マジックアーマーを張ってくれる人をどうするか。
ラケットやシューズはあるから問題ない。俺が張ってやれればよかったのだが。俺には魔力がないから無理なんだ。それに知識のない一般人のものでは、きついだろう。
相手はやえ。小学生プレイヤーの中でも、トップレベル。生半可なマジックアーマーでは、簡単に破られしまう。
「……わかりました」
「え?」
「その試合、やりましょう」
「いいのか?」
まさか、承諾してくれるとは。だけど、この次が問題だ。
「はい。とはいえ、私もそこまで時間があるわけではないので。来週の土曜日。今日と同じ時間帯にここに集合ということでよろしいでしょうか? 結界や審判については、私がどうにかしますので」
「どうにかできるのか!?」
「はい」
即答だった。やはり、トッププレイヤーともなれば、その辺の用意はできてしまうのか?
「憧れの集さんの一番弟子であるあなたとの試合。楽しみにしています」
憧れか。去り際に言った言葉に、俺は照れくさくなりながらも、驚いているみやなを見る。
「おお! あたしって、集の一番弟子だったの!?」
「俺も初めて知ったよ」
だが、なんだかやる気が出てきたな。初心者対小学生トッププレイヤーの試合。来週の土曜日まで、みやなをできるだけマジックテニスプレイヤーとして成長させないといけない。
これから毎日、忙しくなるぞ!




