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第五話

 それは、みやなが不敵な笑みを浮かべた次の日のことだ。

 土曜日ということで、みやなも一日中練習をやる! と張り切っていた。俺も他の誰かと約束があるわけじゃなかったので、付き合うことにしたのだが。


「連れてきた!!」

「……え?」


 早朝七時頃。俺は、一人で準備運動をして、ランニングをして、素振りから壁打ちをしていた時のことだ。ちょうど八時になろうとしていたところで、みやなが姿を現した。

 しかし、一人じゃない。

 見知らぬ子と一緒だった。……違う。実際には会ったことはないが、写真や映像では見たことがある。炎のように赤い髪の毛はポニーテールで束ねられており、黒いスパッツに真っ白なシャツを身に纏っている。

 この子ってまさか。


「初めまして。浅間やえです。本日は、みやなさん? に急用があるとランニング途中に呼ばれた。というか、連行された感じです」

(やっぱりかー!!)


 予想通りというか、嫌な予感はしていたんだ。あの意味深な笑みは、絶対何かをする気だったと。だが、まさか本人を直接呼んでくる。というか、連行してくるとは。

 やえもやえで、連れてこられたのに冷静だな。


「普通、本人を連れてくるか?」

「だって、約束するなら直接本人に言ったほうがいいじゃん! いつも、ランニングをしているって聞いていたからそこを見つけて捕まえたの!!」

「捕まえたって……」


 この子の行動力に苦笑しながらも、じっとこっちを見詰めているやえに俺は謝罪をする。


「ごめんな? ランニング途中にこんな真似して」

「いえ。別に気にしていません。それに……」

「ん?」


 なんだろう。俺のことをまだじっと見ている。まさか、俺の目が気になっているのか? それとも。


「箱島集さん、ですよね?」

「あ、ああそうだけど」

「……あ、握手いいですか?」

「え? まあいいけど」


 なんだろう。さっきまで、無表情だったのに。どこか興奮した様子に変わった。俺は、拒絶することなく差し出されたやえの小さな手を握る。


「なんで、緊張しているの?」


 と、何もわかっていない様子でみやなが首を傾げる。俺は……なんとなくだが予想できた。


「なんでって。この人は、あの箱島集さんですよ? あなたもマジックテニスをやっているなら、知っているはずです」

「有名人なの?」


 説明しても、反応が変わらないみやなを見てやえは目を丸くしていた。そこで、俺はやえにみやなのことについて説明すると納得するように頷く。


「ねーねー! 集ってどんな人なの?」

「集さんは」

「待ってくれ。俺から説明する」


 やえが説明しようとしたが、自分のことは自分で説明しなくちゃならないと俺は止める。本当は、あのことは思い出したくないんだけど。

 俺が……自分でマジックテニスの世界に戻ってきたんだ。それに、教え子には知ってもらわなくちゃな。


「俺は、元マジックテニスプレイヤーの箱島集。自分で言うと自慢みたいだけど。周りから期待されていた才能あるプレイヤーだったんだ」

「そうだったの!? わー! あたし、そんなすごい人から習ってたんだー! あれ? でも、だったってことは……」


 さすがに察しがついたようだな。


「そうだ。ある事件をきっかけに俺は……魔力を失って、マジックテニスから遠退いたんだ」




・・・・★




 俺は、同年代と比べて魔力量が非常に高く、魔法のコントロールも優秀。マジックテニスをやり始めて、どんどん実力を上げていき、このまま世界を狙えるんじゃないのか? と期待されていた。

 俺自身も、このままだったら世界にいける! と自信に溢れていたが、慢心することなく毎日欠かさず練習し、強くなろうとしていた。


「集くん!!」

「おう、識。今日はごめんな。付き合ってくれて」

「ううん。別に気にしてないよ。だって、集くんとは離れ離れになっちゃったから。こうして、会うのがすごく嬉しいんだ!」


 ある休日。俺は、離れ離れとなった幼馴染の識と久しぶりに出会っていた。電話だけならば、毎日のように取り合っていたのだが、直接会うのは久しぶりなのだ。

 たまたま識も新しいシューズを買おうと思っていたらしく、わざわざ遠い場所から来てくれた。久しぶりに会ったが、やはり女の子と間違ってしまう。


「相変わらず、お前は可愛い奴だな!」


 と、思わず肩を組んで頭同士をくっつけてしまう。


「え、えへへ。本当のことを言っただけだよ、僕は」


 久しぶりに会ったことで、テンションが上がった俺達はそのままスポーツ用具店へと向かっていく。普通のスポーツ用具店ではなく、マジックスポーツ用具店だ。

 普通のスポーツ用具では、魔法に耐えられない。

 魔法に耐えられる素材を使ったものを使うことが必要なのだ。なので、少し値段は高めだが、必要経費だとプレイヤー達は、マジックスポーツを楽しむために挙って買っている。


「そういえば、今年は残念だったな」


 識が通っている中学校は、レギュラー決めの学校主催のトーナメントがある。だが、識は体調を崩してしまい、出ることができなかった。そのせいで、レギュラー入りを逃してしまったのだ。

 彼の実力ならば、確実にレギュラーを取れていたと信じてしたので、俺は自分のように表情を曇らせる。


「うん……あの日は、風邪を引いちゃって。でも、体調管理もプレイヤーとして必要なことだからって。でも、集はすごいよ! 一年生からずっと、レギュラーなんだから!」

「だけど、大会では優勝はできなかった。やっぱり、才能があってもあまくはないな。マジックテニスの世界は。だけど、俺は確実に強くなってる! 次の大会では、絶対優勝してみせる! てことで、そのために」

「そうだね。相棒達を、万全にさせないと」


 駅から移動すること十数分。マジックスポーツ用具店に到着した。さっそく中に入り、シューズのコーナーへと行く。


「うわぁ、やっぱりこっちも品揃えがいいなぁ」

「だけど、そっちのほうがこっちよりはいいんじゃないのか?」


 識が転校したところは、俺達が住んでいるところよりも都会。マジックスポーツもかなり盛んなところなんだ。

 だから、こっちよりも品揃えはいいと思うんだが。


「どうだろう? こっちも負けていないと思うよ。あっ! このシューズ、ずっと気になってたんだぁ」

「どれだ?」


 それから、俺達は楽しい買い物をして、目的のシューズを購入することができた。意外と早めに買い物が済んだので、空いた時間は遊ぶことに費やそうと店を出た刹那。


「きゃあ!!」

「に、逃げろー!!」


 突然の悲鳴。なんだ!? と視線を向けると。そこには、青白いエネルギーの渦が。そして、その近くにはまるで狂っているように笑っている男が一人。


「ひゃっはっはっは!! 魔法なんて、滅んじまえばいいんだぁ! ひゃっはっはっは!!」

「な、なに? あの人」


 まさか、今噂になっているアンチ魔法集団か? 魔法が誕生したことで、こういう集団も増えてきている。魔力が少ない、またはない者達が集まり、魔法を使って現代を楽しく生きている者達を殲滅せんと活動をしている集団だ。

 噂では、何かの兵器を使っているって……あの渦がそうなのか?


「逃げるぞ! 識!!」

「う、うん!」


 あの渦に巻き込まれたら、どうなるかわからない。ここは早めに安全なところに移動して。


「あっ!」

「識?」


 いったいどうしたんだ? と振り返ると、識は逃げ遅れた小さな女の子を助けようと渦の近くまで近寄っていた。

 あの馬鹿……! だけど、それが識なんだと俺も、近寄っていく。


「大丈夫? 立てる?」

「う、うん」

「識! 早くここから逃げるぞ! もう渦が」


 まだ距離はある。ここから一気に加速魔法で逃げれば余裕だ。


「魔法使いは」

「なっ!?」

「根絶やしだぁ!!」


 しまった。奴らは集団。一人じゃないんだ。裏路地から突然現れた二人の男は、俺達のことを見るなり機械な球体を地面に叩きつける。

 すると。


「くっ!?」

「うわぁ!? す、吸い込まれる……!?」


 渦が増えて、俺達のことを吸い込もうとする。このままじゃ、三人とも! 早やく加速魔法を……あ、あれ? 


(魔力が吸い込まれてる!? 力が……!)


 あの渦は、魔力を奪い取る力があったらしい。それを知らず、ずっと渦の近くに居たため、随分と魔力が奪い取られてしまっていた。

 それに加え、二つも渦が増えた。もう加速魔法を使えるほどの魔力が……。


「し、識! せめて、お前だけでも!!」

「しゅ、集くん? なにを―――うわっ!?」


 残った魔力で筋力を増強させ、俺は識と助けた女の子を同時に乱暴にだが、遠くに投げた。


「これで」

「集くーん!!!」


 その結果。俺は、三つの渦に吸い込まれ、意識を失ってしまう。

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