第三話
「……うーん」
俺は、悩んでいた。何を悩んでいるって? それは、この後のことだ。学校が終わって、帰宅して、それから約束通りみやなにマジックテニスのことを教える。
だが、それは俺がやるべきことなのか? 確かに、テニス基礎などは教えた。しかし、今の俺は……。
「なあ? 見たか! 月間マジックテニス!」
「ああ! 見た! 今回も、表紙は峰中識ちゃんだったよな!!」
「ばっかお前! 識ちゃんじゃなくて、識くんだろうが!」
「いやぁ、俺はどう考えてもちゃんづけのほうがいいと思っている。あんな可愛い子が、男の子なわけがない!!」
俺が必死に悩んでいる中。クラスの男子達が、識の話題で盛り上がっていた。ちなみに、月間マジックテニスとは、その名の通りマジックテニス専門の月刊誌のことだ。
様々なマジックテニスの情報を掲載しており、注目選手のインタビューなども人気だ。その中でも、やはり識が一番の人気だろう。
あの容姿で、あの強さだもんな。それに、男だとわかっていても女の子だと思い込んでしまう奴らも居るわけで……。
女性プレイヤーよりも人気があるとか聞いたことがあったけな。あいつはあいつで、普通にしているだけなんだろうけど、なんだか男って感じがしないんだよな。
「そうだ! なあ、箱島!」
「え?」
机に突っ伏していると、識の話題で盛り上がっていた男子の一人が俺に話しかけてきた。
「お前ってさ、昔峰中と家隣同士だったんだろ?」
「マジかよ!?」
「ああ。俺、保育園の時こいつと一緒だったからわかるんだ。よく、二人仲良く帰っていたんだよ」
えーっと、確か田中だったか? そういえば、こいつ保育園の時は一緒だったな。保育園の時は、バスで帰っていた。
識とは家が隣同士だったから、当然降りるところも同じだった。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「峰中とは今でも連絡取ってるんだろ? なあ、あいつって普段どんなことしているんだ?」
……やっぱり、そのことか。予想はしていたけど。
「いや、あいつとは半年ぐらい連絡を取ってないんだ。理由は……」
「あっ、そうだったな……すまん」
田中は、俺の反応気づいてくれた。すぐ頭を下げて、男子達と一緒に俺から離れていく。
そうだ。
俺が魔法科から普通科になったことは、有名な話だ。しかも、中二の終わりからだからな……教室に行った時は、視線が痛かったなぁ。
「そういえば、あいつって」
「ああ。だから、この話は」
半年が経って、少しは慣れてきたけど。やっぱり、俺のことは未だに噂となっている。
「こらー、ホームルームの時間だぞー」
そういえば、みやなは俺のことを知っていなかった素振りだったな。まあ、マジックスポーツにすら興味ないって言っていたからな。
当然俺のことなんて知らないか……。
・・・・★
「え?」
「やっほー」
学校が終わり、いつものように家に帰ろうとした時だった。校門のところが、なにやら少し騒がしいと思ったら……なぜかみやなが居た。
満面な笑顔で、こっちに手を振っている。
「なあ、あの制服って夕南じゃないか?」
「ああ。俺の弟も通ってる学校だ。どうしたんだろう? 誰かの迎えかな」
うん、まだ俺だとは思われていない。
ここは、みやなが俺の名前を呼ぶ前に。
「あれ?」
すたすたと俺は何事もないかのように、素通りしていく。手を振って声までかけたのに、無視されたみやなはしばらくその場で俺のことを見詰めた後、追いかけてくる。
「集! なんで無視したの!?」
「……あのなぁ。なんで、ここに居るんだ?」
学校から離れた俺は、不機嫌そうに頬を膨らますみやなに対してため息交じりに問いかける。
すると、みやなは。
「だって、今日も教えてくれるって約束だったじゃん!」
「約束は、学校が終わったらあの場所に集合だったろ?」
「いやぁ、もっとうまくなれるかもって思ったら体が自然と動いてたんだよねぇ」
やっぱり、子供だ……。他の生徒から気づかれていなかったからまだよかったが。今後は、よく言い聞かせないとな。
変な噂になったら、大変だからな。ただでさえ、噂になっているっていうのに。そこに重ねるように小学生と学校で待ち合わせをしていた! なんて……普通にやばいだろ。
家族だったら大丈夫だろうけど、違うからな。
「よく俺の学校がわかったな。俺の通っている王葉中は、どこにでもありそうな制服なのに」
「調べた!」
「調べた? ネットとかでか?」
「違うよ。えっと、探索魔法? とかそういうので。ほら、頭の中で会いたい人のことを浮かべればそこまでの道を示すって魔法あったでしょ! 一度も使ったことなかったけど、うまくいったんだー」
探索魔法。それは文字の如く、何かを探索するために使用される魔法だ。主に、なくしたものを探したり、迷子になった時に使ったり。
魔法科では、基礎となる魔法の一つとして小学生から習う。だが、みやなは普通科だ。全然魔法のことについては習っていないはずなのに……いや、それより。
「なあ、ずっと聞きたかったんだけど」
「なに?」
「なんでみやなは魔法科じゃないんだ? あの魔力量だと、普通に魔法科に行けるレベルなんだが」
最初にみやなの魔力を見た時は、思わず息を呑んだ。小学生であれほどの大きな魔力を持っているのは、多くないだろう。
魔力は、成長すればするほど保持する量が増えていく。しかし、生まれてからとんでもない魔力を保持している者達も居るのだ。
そういった子供達は、強制的に魔法科へと通うことになっているんだが。
「あー、それねー。だって、魔法科なんかに通ったら、めんどくさい勉強をいっぱいしなくちゃならないんでしょ?」
「まあそうだな。そうじゃなくちゃ、魔法を扱えないし
魔法科は普通科と違い、かなりの勉強量だ。普通の教科に加えて魔法についての知識もあるため、毎日が勉強で大変だったなぁ。
それでも、魔法が使えた時のわくわくが忘れられなくて、厳しい勉強も堪えれたんだ。もっともっと、魔法が使えるようになりたいって。
「だから、あたしは偉い人達に通わないって言ってやったの!」
「いや、さすがに言うだけじゃ」
「大丈夫! ちゃんと条件をクリアしたから!」
条件? と俺は首を傾げる。
「うん。ちゃんと自分の力で魔力をコントロールできるか。それは偉い人達の前でやってみせたんだ。そうしたら、めちゃくちゃ驚いた顔でオッケーを出してくれたんだよ!」
「てことは、みやなは魔力を完全にコントロールできているのか?」
「そだよー。すごく簡単だった!」
マジかよ……小学校に入る前で、いきなりあの魔力をコントロールできていたってことか? それは、お偉いさん方も驚くだろうな。
てことは、この子がマジックスポーツをしたら。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
すごい選手になるかもしれないな。




