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第二話

「はあ……結局、怒られてしまったなぁ」


 あの後、全力疾走したが家の前で俺のスマホを持って母さんが立っていた。すごい笑顔だった。怖かった……あんな笑顔なのに、恐怖を覚えるなんてさすがは母さんだ。

 おかげで、ご飯が山盛りだったし。 

 でも、普通に食べれた。それは、夕飯前に動いたからだろうか? みやなに教える時にラケットを振り、家に帰る時には全力疾走。


「久しぶりに、山盛りのご飯を食べたかもしれない。やっぱり、運動をすると腹が空くものなんだな」


 ベッドに寝転がりながら俺は思い出していた。

 久しぶりのラケットを握った感触を。ボールを打った時の感触を。一度打つ度に、心が弾んでいた。ボールが弾むように……。


「そうだ」


 この弾んだ気持ちを忘れないようにとベッドから起き上がり、リモコンを手に取る。テレビを点けて、ハードディスクに保存されているある映像を再生。

 ディスプレイに映し出されたのは、マジックテニスの大会映像だ。ボールに炎が纏い、ラケットに風が纏い、足に雷が纏い、激しい戦いが繰り広げられている。普通の試合とは違い、コートの周りには障壁が張られており、安全面も万全。

 ラケットもシューズも身につけているもの全てに魔法による対策がされているんだ。


 マジックテニスをやるようになってからは、研究のためにこういう映像もなるべく全部保存している。俺が今観ているのは、二年前の中学生大会の決勝の映像だ。

 当然のことだが、マジックスポーツにも大会はあり、毎年大いに盛り上がっている。今年で、四十五回目になるんだが、やっぱり大会に出場するだけあって選手の動きのキレがすごいな。

 観ているだけで、わくわくしてくる。世界大会の映像もあるんだが……俺は、こいつの試合する姿をまた観ておきたかった。


『決まったぁ! ラインギリギリを狙った強烈なスライスショット!! 峰中識選手! 優勝です!!』


 まるで、美少女のような容姿をしている選手。青い髪の毛は肩まで伸び、さわやかな笑顔は本当に美少女に見える。

 しかしながら、女じゃないんだ。

 峰中識は、男。所謂男の娘というカテゴリーに入る。声も本当に女子のようで、話す姿も誰も教えなければ女子だと間違えてしまうほど。


「相変わらずえぐいぐらいのスライスだったな。さすが、幼馴染」


 そう、識は俺の幼馴染。

 小学校まで一緒だったが、親の転勤で離れ離れになってしまった。連絡先はちゃんと取っているんだけど、俺がマジックテニス止めてからは、なんだか恥ずかしくてこっちから連絡を拒否している。あいつも俺のことを気遣って、連絡を一切してこない

 代わりに……こうやって、大会で華々しく栄光を勝ち取ってくれている。去年の分は撮っていないけど、優勝したって話は母さんから聞いている。


「そういえば、識も初めはすごいめちゃくちゃな打ち方をしていたっけなぁ……」


 今でこそ、誰もが認めるマジックテニスプレイヤーだけど。始めた当時は、ラケットもまともに触れなくて、すぐ体力を尽きて俺がよく担いだっけ。


「でも、識と違ってみやなはラケットをしっかりと触れていたし、体力も十分にあった。……小学生、か」


 俺は映像を消し、スマホで最近の小学生プレイヤーを調べた。みやながマジックテニスをやりたいと思わせたプレイをできそうな小学生。


「この子、かな?」


 今、小学生プレイヤーの中でも特に注目されている選手を見詰めた。名前は、浅間やえ。炎のような赤い髪の毛はポニーテールに束ねられており、顔写真を見た感じだと不思議な雰囲気のある子だと俺は思った。

 どうやら、実家は居合い術を教える道場があるらしく、彼女はそこで習った居合い術をテニスにも生かしているらしい。その証拠映像があるので、俺は再生してみた。


「すげぇ……」


 相手からボールが返ってきた。やえは、そのボールを真正面からラケットを振る素振りが見えないほどの速さで振る。

 そして、気づいた時には相手コートに叩き込まれていた。

 彼女が通っている学校には、もちろんマジックテニス部が存在している。彼女は、そこで五年生ながらもエースを任されているらしい。

 五年生ってことは、みやなと同じか。


「でも、違うかもしれないしなぁ。実際、みやなに聞いてみないことには判断できない」


 俺は、スマホから手を離し、ベッドに仰向けに倒れた。


(明日も、あそこに行けば会えるのかな……)




・・・・★




「いってきまーす」


 雲一つない晴天。俺は、大きな欠伸を噛み殺しながら家から出て行く。昔だったらラケットなどを持って一体たため荷物が多かったが……今は、通勤用のバックだけ。

 中にはノートや教科書、後弁当とか。学校で必要なものばかりしか入っていない。

 その他にも、早朝からランニングをしたり、素振りをしたり、今ではやっていないことが多い。毎日が、平凡で、だらけた生活を続けている。


「おはよー」

「うん、おはよう。今日もいい天気だねぇ」


 当然、登校しているのは俺だけじゃない。小学生も、中学生も、高校生も。大人だって会社へと行くために自転車に乗っていたり、歩いていたり。

 今俺の目の前を通っていたのは、この近くの魔法科の小学生だろう。普通科と魔法科を分けるのは、胸のエンブレムだ。

 普通科には何もついていないが、魔法科だと魔方陣がエンブレムとして刻まれている。俺も昔は、魔法科だったが……今は、普通科になっている。


「今日は、一時限目から社会か……めんどくさいなぁ」


 横断歩道で信号が青になるのを待っている中、俺は一時限目からの授業にため息を漏らす。誰でも苦手な教科はあるはずだ。

 俺だったら、社会とか現代文とか。数学とかは理科などは得意だけど。もちろん体育も得意だな。


「あっ!!」

「ん?」


 すると、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。まさか……と振り返ると。


「やっぱり集だ!! おはよー!!」

「み、みやな?」


 制服に身を包んだみやなだった。真っ白な制服で、胸にあるエンブレムから普通科だということがわかる。あの魔力で普通科なのか? どうやら、一人のようだが……。

 うーむ、周りの視線が集まっているな。別に疚しいことをしているわけじゃないし堂々としていよう、うん。


「おはよう。だけど、呼び捨てはないだろ。一応、年上だぞ?」

「えー? いいじゃん! 集で。そっちのほうが仲良しって感じがするし!」

「いや、昨日会ったばかりなんだけど……」


 それなのに、みやなの距離感が近い。俺は、ただ彼女に会って名前を知って、テニスの基礎などを教えただけ。

 時間にすれば一時間も経っていない。


「それでさ集!! あたし、あれから練習すっごいしたんだ! そしたら、十八時過ぎてたんだよー」

「おいおい……」

「でも、最初よりはうまくなった感じがしたんだ! ねえ、集。今日も教えて! あたし、初めてなことばかりだから、まだまだ知りたいんだ!!」


 すごい勢いだ。目もきらきらと輝いていて、圧倒されてしまう。あ、信号も青になった。


「わ、わかった。わかったから。とりあえず、青になったぞ。また変わる前に進もう。な?」

「はーい」


 その後は、何時に集まるかなどを色々と約束をして、互いの学校へと向かっていった。

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