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エピローグ

「それはもう見切りましたっ」

「くっ!?」


 雷速で動くみやなのショットはやえにもう見切られており、鋭いリターンが襲う。しかし、今のみやなは通常の何倍もの反応速度を誇っている。


「やっぱり、やえちゃんすごい。今のみやなちゃんについていっているなんて」


 やえは、その鍛えた体と尋常じゃない反応速度で、みやなに対抗している。おそらく、やえにはみやなのような身体能力向上の魔技はないのだろう。

 持っているのは、攻撃の魔技だけ。

 これも鍛錬のためなのか? それとも単純に作り出せないだけ? 


「こうなったら!」


 みやなの魔力の波長が変わった? 練習を一緒に今までしてきたが、この波長は始めてだ。まさか……この試合で新しい魔技を作り出したというのか。

 魔力の波長が変わったと同時に、みやなの体に纏っていた電気がラケットに集束する。


「《雷ショット》!!」


 シンプルな名前は、みやならしいと思った。しかし、名前だけでは今までの電気を纏ったただのストレートボールだ。

 だが、そんなはずがなかった。


「ジグザグに!?」


 不規則に動き、相手コートへ向かっていくボール。電気のおまけつきだ。これはまだ見切られていないから、簡単には。


「すう……はっ!!」

「返した!?」


 本当、最近の小学生は末恐ろしいな……。初めて見る魔技なのに、簡単に捕らえてしまった。


「うりゃあああ!!」


 やえのリターンを予想していたのか。みやなが、ネット前まで近づいていた。


「まだきますかっ」


 強烈なショットが来ると思い込んだ、やえは迎え撃とうと距離を取り、居合いの構えを取る。

 やばい。

 いくら今のみやなでも、あの距離で《居合い術―刹魔―》を打たれたら。


「よっと」

「え?」


 大きくかぶったラケットをそっとネット際に落とすように軽いボレーを決める。


「……」

「えへへ。勝ちー!」


 静寂に包まれる中、みやなは本当に嬉しそうに笑顔をやえに向けていた。正利さんは、苦笑いをしつつも手を挙げ、大きな声で宣言した。


「ゲーム! みやな!! ……やえ」


 審判台から下りた正利さんは、ラケットを構えたまま硬直しているやえに近づき、肩に手を置く。

 ハッと我に帰ったやえは、その場で深呼吸をしてみやなに近づいていく。


「次は負けません」

「はっはっはっは!! やえ。いつもみたいに試合ありがとうございましたじゃないのか?」

「あっ、えっと……こほん」


 どうやら、本当に悔しかったようだ。いつも言っていることを、言わずに歳相応にムキになって……。これには、父親である正利さんも笑ってしまっている。


「試合、ありがとうございました。あの、確認しますが。あなたは、本当に始めて一週間なのですよね?」

「そうだよ!」

「……そうですか。みやなさんは、マジックテニスの才能があると思います。それなのに、どうして普通科に?」

「最初はね。勉強が嫌で通わなかったの。でも、やえちゃんのかっこいい姿を見て、マジックテニスに興味が出たんだ!」

「わ、私にですか? ……じゃあ、私と試合をしたかった理由って」

「そうだよ! 言ってなかったけ?」 


 そういえば、理由を言っていなかったな。みやなが、どうして、マジックテニスを始めたかって理由も。


「聞いてません」

「そうだったかー。ごめんね?」

「いえ。ですが、そうですか。私の憧れて……それは、素直に嬉しいですね」

「ねー! やえちゃん! また試合、やろうね! その時まで、もっと強くなってるから!!」


 慢心せず、もっと強くなると近いみやなはやえに手を差し出す。

 やえは、小さく笑いすぐにみやなの手を握った。


「はい。私も、強くなります。次こそは、負けません」


 こうして、短いようで長い1セットマッチの試合が終わった。また、次の試合をする約束をして。




・・・・★




「……なあ」

「なーに?」

「もっと強くなりたいってお前のお願いで、まだ付き合ってるけどさ」

「うん」

「……なんで、やえも居るんだ?」


 あの試合から数日。

 みやなをもっと立派なマジックテニスプレイヤーに育てるために、俺の今までの経験を糧に教えていた。

 しかし、いつもと違うことがあった。

 それは、学校のコートで練習しているはずのやえがなぜか一緒になって練習をしていることだ。更に、しのも今まで通り参加しており、俺は三人のコーチになってしまっている。


「やはり、憧れる集さんに教えて頂きたく」

「が、学校のほうは大丈夫なのか?」

「大丈夫です。監督のほうには許可を得ています。監督も私のことを信用してくれていますから」


 それならまあ、心配はいらないんだろうけど。


「それに、毎日ではありません。なので……ご教授のほどよろしくお願い致します」


 まさか、小学生トッププレイヤーのコーチになる日が来るとは。

 俺が頬を掻いていると、みやなが服の裾をくいくい引っ張る。


「細かいことはいいじゃん! 早く練習始めようよ!」

「よ、よろしくお願いします!」

「みやなさん。しのさん。共に高め合いましょう」


 おー! と三人の少女がラケットを重ね合い、青空へと突き上げる。まあでも、彼女達の成長は俺にとっても気になることだし。

 自分でできない分、彼女達にマジックテニスの頂点を取ってもらうのもありかもな。


(……教え子が、成長する姿を想像するだけでわくわくする。これが、教える立場としての気持ちなのか?)

「集!! なにやってるの! 早く! 早く!!」

「ああ。今、行く」


 さて、これから彼女達は、どんな成長をするのか。どんな物語を生み出していくのか……楽しみだ。

完結です! いつも以上に短いですが、そういう予定でした。


で、次の新作ですが。今日中か……明日には、投稿する予定です。

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