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第十六話

 やえの魔技が発動し、一瞬にして同点になってしまった。

 みやなは、なんとか動揺することなく戦ったが、それでもやえの《居合い術―刹魔―》に対応できなく、追加点を許してしまう。


「せい!!」

「はっ!」


 フィフティーンサーティンとなり、今はラリーが続いている。だが、明らかに流れはやえに傾いている。みやなもなんとか食いついているが。


「み、みやなちゃん。なんだか、疲れた顔してる」

「あれは、肉体的な疲労じゃないだろう。多分、精神的な疲労だ」


 先制点を取ったのはいいが、その後楽々と二点も連続で取られてしまった。それも、気をつけなくてはならないと話していた魔技により。

 しかも、二回も出ているのに、全然対応できていない。

 残りは二点。

 また《居合い術―刹魔―》により追加点が取られてしまうんじゃないか? 全然対応できていないのに、またきたら……。


「みやなは、無駄に考え過ぎている。そのせいで、試合に集中できていない」

「え? 逆に、集中しているんじゃないの?」


 母さんは、俺の言葉に疑問を抱くも、俺は首を横に振る。


「違う。みやなは、やえの魔技を意識し過ぎている。その証拠に、顔に余裕がない」

「た、確かに。さっきまで、楽しそうな顔をしていたけど。何かに集中しているみたいね……」

「あっ! チャンスボールを!?」


 いつも通りならば、リターンできていたボールだ。しかし、無駄に魔技を意識し過ぎて、やえにチャンスボールを与えてしまった。

 天高く上がったボールを捉え、やえは跳ぶ。


「やばっ!?」


 強烈なスマッシュがみやなのコートに叩き込まれる。高くバウンドするのではなく、鋭く低くバウンドする。

 やえは、みやなのあの最初の動きをちゃんとわかっている。だが、それを表には出さず、冷静に考え判断し、試合を進めている。

 やはり、経験値の差がここで出たか……。


「こっのっ……!!」


 だが、それでもみやなは喰らいついた。みやなが編み出した《雷迅》で。雷の如く、鋭く、素早く、ボールには追いついた。

 ラケットを振るい、ちゃんとガットにボールが食い込む。


「まだまだぁ!!」

「まだ、喰いついて来ますか……ですが」

「え?」


 あれは……捉えたはずのボールが突然強烈なスピンがかかる。そして、そのままガットを滑るように真下に落ちた。

 静寂に包まれる中、着地したやえは静かに呟く。


「魔技……《魔球落とし》」

「な、何が起こったの?」

「ぼ、ボールがガットに当たった瞬間、急に」


 やはり、映像にない魔技もあったか。しかし、それがあんな魔技を持っているとは。どういう原理なんだ? 最初は、ただのスマッシュだったが、それがガットに当たって突然スピンを起こし、急に滑るように落下。

 詳しくは、まだわからないが。時間差で発動する魔技か? 確かに、そういう魔技を使う選手は居る。だが、小学生でそんな芸当ができるなんて。

 やっぱり、彼女は尋常じゃない強さだ。


「フィフティーンフォーティン」

「やばい。追い込まれた……」

「み、みやなちゃん!」


 だめだ。さっきの魔技で、更に頭で考えてしまう。

 ここは。


「みやな!!」

「しゅ、集?」


 まだ体力は、有り余っているはずだ。今の疲労は、無駄に考え、意識し、精神的な疲労で呼吸が乱れているんだろう。

 俺が心配しているのがわかったのか。首をぶんぶんと横に振り、笑顔を作る。


「だ、大丈夫だよ! ここから、大逆転しちゃうから!!」


 わかりやすい奴だな、本当。無理に笑ってる。ボールを手に持ち、次のサーブをしようと移動しているみやなに、俺は叫ぶ。


「みやな! もう何も考えるな!!」

「え? で、でも」

「楽しめ! そして、俺達の練習の日々を思い出せ! お前は、考えて戦うよりも、感覚で戦ったほうがいい。がむしゃらに……純粋にマジックテニスを楽しめ!!」

「……楽しむ」


 言うことを言い切った俺は、いけ! とばかりに拳を突きつける。それを見たみやなは、ボールをじっと見詰め、しばらく固まる。


「―――よし!」

「みやなちゃんの顔が!」

「ふふ。さすが、集ね」


 明らかに、さっきの苦しそうな表情から一変。いつも通りのみやなの楽しむ表情になった、やえも、その変化に気づき、ラケットを握る手に力が入っている。


「いっくぞー!!」


 弾む声と共にボールを高く上げ。


「でりゃああ!!」


 鋭い。しかも、二打目のサーブよりも伸びがある。しかも、高圧な電力が纏っており、やえも咄嗟に魔力を利き手である左手に纏わせ、リターンをしようとする。


「くっ!」


 返した。次は何がくる? と切り替える。


「え?」

「み、みやなちゃん!?」

「あらあら」


 これには、やえだけではなくしのや母さんも驚いている。それもそのはずだ。だって、みやなはすでにコート前まで近づいていたのだから。

 楽しそうに笑い、ラケットを構えた。


「どかーん!!」


 ボレーではなく、低空スマッシュかのように驚いて硬直していたやえの逆サイドにリターンを決めた。


「サーティンフォーティン!」

「おっとと……えへへ。どうだ! 一点返したよ!!」


 バランスを若干崩しながらも、何とか立ち止まり、やえに笑いかける。


「……やりますね」

「言ったじゃん! ここから大逆転しちゃうって!! どんどん攻めていくからね!!」


 それでいいみやな。この試合を楽しめ。そして、成長するんだ。やっと、マジックテニスを始めるきっかけとなったやえと試合ができたんだ。

 彼女を超えるぐらいの勢いで挑んでいけ。


「次も、攻める!!」

「させません!」


 まただ。さっきよりも、明らかにサーブの伸びが違う。やえも何とかリターンを決めるが、苦痛の表情が見える。

 さっきの経験を生かし、みやなの動きを見てちゃんとリターンを決めた。


「おりゃあ!」


 それでも、突っ込んでいくみやな。

 再度、低空スマッシュの要領でリターン。


「魔技」


 やえも負けじと、ラケットを構える。


「くる!!」


 居合いとは、所謂目に見えない速度で振り抜くこと。やえの魔技は、魔法と組み合わせているため普通の居合いとは桁違いの速度だ。

 バドミントンと違い、テニスボールをダイレクトに返すと腕にかかる負担が大きくなるが……やえの魔技はそれを感じさせない。


「これで!」


 魔力を目に? まさか、動体視力を向上させているのか? 確かに、魔力で多少だが動体視力は向上させられるが。

 それも限界がある。他のプレイヤーがやえとの試合で、それをやったがそれでも反応しきれなかった。みやなも、映像で見ていたからわかっているはず。


「そこ!!」


 更に、体中に電気を纏わせ、反発するようにそこから離れる。


「と……ったぁ!!」

「おお!!」


 まさか、見えていたのか? いや、完全に見えていたわけじゃないだろう。ただ、少し見えただけで。後は。


「直感、だろうな」


 俺達には見えていなかったボールを、みやなは捕らえた。まあ、魔力を相当消費したようだが。


「いっちゃえええ!!」


 威力を高めるためか。両手でラケットのグリップを握り、電気を纏わせ……相手コートに叩き込んだ。

 魔技の反動なのか。

 すぐに反応できなかったやえは、その場に棒立ちしたまま、ボールを見送った。

いよいよ完結まで、一話か二話! 

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