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第十五話

「サーブ。いくよ!」

「いつでも」


 そう宣言したみやなだったが、すぐにはサーブをすることはなかった。ラケットを構えているやえをじっと見詰めて、何かを考えている。


「み、みやなちゃん。なんだかすごく考え込んでるような」

「ああ。それだけ、みやなも本気だってことだろ」


 考えるのは、確かに重要だ。

 だが、みやな。まずは、行動だ。お前は、あまり考え過ぎる逆に力が出せない。そのことを伝えたはずなのだが……それでも、マジックテニスを始めるきっかけとなった相手と試合するというのは、どうしても緊張してしまうのだろう。


 しかし、俺の視線に気づき思いっきり顔をぶんぶんと振って、笑いかける。

 よし、大丈夫みたいだな。

 そうだ。みやな。考えるのもいいが、今は思いっきり楽しめ。


「ふう……」


 呼吸を整え、ボールを天高く上げる。

 そして。


「やっ!!」


 強烈なサーブを打ち込む。パコン! というショット音が響き渡り、やえのコートへと着弾。今まで、一番いいサーブだ。

 さあ、やえはどうでる? 


「はっ!」


 まるで、獲物を捕らえた獣の眼光。

 ボールを完全に捕らえたやえは、試合前の雰囲気から一変。戦闘モードに切り替わったかのような気迫を感じられる。


「せい!!」


 強烈なリターンだったが、みやなも負けていない。すぐに、やえの逆サイドへと鋭いボールを打ち込んだ。


「はっ!」


 速い。まるで、予測していたなんじゃないかと思うほどの素早い移動で、ボールに追いつき再度強烈なリターンボールがくる。


「す、すごいです。あのやえちゃんと!」


 しのも興奮してきたのか。拳を作り上げ、二人の試合を見詰めていた。俺も、自然と拳を握っていたようだ。

 それもそのはずだな。今目の前で行われている試合は、滅多に見られない試合かもしれないんだから。マジックテニス初めて一週間と小学生トッププレイヤーの試合。

 誰から見ても、やえのほうが勝つと思われるだろう。でも……みやなの成長をこの目で見てきた俺は。


「そこです!」


 しばらくのラリーが続き、先に仕掛けてきたのはやえだった。強烈なストレートボールだと思いきや、大きな弧を描き、コートの端っこに食い込むかのようにボールが曲がった。


「な、なにあれ? 魔技?」


 と、母さんが驚くがあれは違う。


「違う。あれは、ただのカーブボールだ。だけど、小学生であれほどのカーブボールを使えるプレイヤーが居るなんて」


 居合い術との混合魔技だけではなく。普通のテニスの技術もやえは、かなりのものとわかる。ネット際に、ドロップボールで誘い込まれたみやなは、反応するのが遅れた。


「取られちゃう!?」

「いや」


 これで、諦めるみやなじゃない。俺としのは、ネット際のみやなを見詰める。すると、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 楽しんでいる。そして、まだ諦めていない。

 バチバチと体中に火花が散り始める。


「らりゃ!!」


 そして、ボールが空中にある時に捉え、スマッシュを打ち込んだ。これは、やえも予想外だったのか。反応が遅れた。

 それでも、何とか打ち返そうとラケットを振るう。


「くっ!」

「いっけー!!」


 ただのスマッシュ。それでも、みやなのスマッシュは女の子にしては、かなりのパワーがある。俺でも、押されたほどだ。

 しかも、そこに空中から叩き込んだ力が加われば。


「……」


 何とか打ち返したやえだったが、キュルキュルとネットにぶつかり回転していた。着地したみやなは、それを見て目を輝かせる。


「フィフティーンラブ。みやな、先取だ」

「やったー!」

「よっし!!」

「や、やりました! やえちゃんから先制点です!」


 まずは、先制点。まだ一点だが、それでもみやなや俺達にとっては貴重な先制点。今後の試合の空気を、みやなが掴んだ。


「一週間で、ここまで仕上げてくるとは。さすがは、集さんの指導。いえ、みやなさんの才能と言うべきですか?」


 悔しそうだが、それでいて嬉しそうに笑うやえ。

 先制点を取られたが、まだまだ一点。

 やえにとって、逆に燃えてきたという展開のようだ。


「集のおかげだよ! あたしが、ここまで強くなれたのは集の。ううん、しのちゃんも! とにかく! あたしのために手伝ってくれた人達全員のおかげ!!」

「いい人達に巡り会えたんですね」

「うん! でも、一番の出会いは、やえちゃんだよ! やえちゃんのマジックテニスを見なければ、集ともしのちゃんとも会えなかったかもしれないからね!」 だから、そのお礼として、全力で戦うから!!」


 そう言って、ラケットを天に向けて突き上げる。

 その言葉を聞いたやえは、そうですかと頷き背中を向ける。


「次は、もっと強烈なのいくよ!!」

「ならば、見事にまたリターンを決めて見せましょう」


 先ほどの一点、二人の闘志に更なる火が灯った。みやなは、数回ボールを弾ませ止める。


「いっけー!!」


 気合いの掛け声と共に、一球目よりも明らかに強烈なサーブだ。


(あれは、フラットサーブか?)

「くっ……!」


 やえもなんとかリターンを決めたが、明らかにさっきのサーブの伸び……。フラットサーブは教えていないはずなのに。

 まさか、知っていた? いや、違う。おそらく、無意識の内にフラットサーブを打ったんだ。だが、それがいい方向へと進んだ。

 やえがリターンしたボールの威力が、明らかにさっきよりも弱い。これを見逃すみやなではない。


「そこだ!」


 チャンスと思い、体が跳ねるほどの勢いで打ち込んだ。

 これは、二点目を貰った! そう思った刹那。


「ふう……」


 やえは、ボールの目の前に立ち塞がり、ラケットを……斜めに構えた。


「あれは!?」


 そして、魔力が高まり目つきが鋭く、姿勢が低くなる。


「魔技」

「あっ」


 みやなもあれが来ると察したようだが。


「《居合い術―刹魔―》」


 それよりも早く、やえの魔技は発動した。音もなく、ラケットが静かに空へと向けられていた。

 ボールは!? と、みやなのコートへと視線を向ける。


「フィフティーンオール」


 俺達が、ボールに気づいたと同時に正利さんがポイントの宣言をした。映像では、知っていたが。こうやって実物を見ると、全然違う。

 本当にインパクト音も聞こえず、ラケットが振られた時には、もうボールは相手コートに叩き込まれ、静かにコートを転がっている。

 これが、やえの本気の魔技。

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